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2004年 3号

Report

「WTO加盟後の中国が
我が国に与える影響と我が国の対応」
研究委員会報告書


本 編 ・ 要 旨

平成15年度日本自転車振興会補助事業


第T章  ビジネスチャンスとしての中国をどうみるか

1.中国の台頭の恩恵を受ける日本
関 志雄

 中国の追い上げを受けて、日本において、産業空洞化の問題や、競争力を考えるときに中国の存在がクローズアップされている。低賃金を武器に「世界の工場」として台頭してきた中国だが、その実力を客観的に分析してみると、両国の経済発展段階においては、まだ大きな格差が存在しており、日中両国の関係は競合的というよりは補完的である。日本企業が対中ビジネスを展開する際、中国の強みを活かし、その弱点を補うことが成功のカギとなろう。日本と中国間の潜在的補完性を発揮するためには、両国がFTA構築などを通じて貿易を妨げている規制を撤廃しなければならない。日中経済の一体化は、中国の一層の経済発展を促すだけでなく、日本経済の復活に向けた起爆剤ともなろう。

 現に、中国の強い需要に牽引されて、日本の対中輸出がブームを迎えている。これを背景に、日本では、ついこの間までマスコミを賑わせていた中国脅威論が、いつの間にか中国牽引論に取って代わられた。日本企業は、対中輸出を伸ばしているだけでなく、中国からの輸入がますます安くなり、逆に中国への輸出が高くなることを通じて、中国発デフレとインフレの同時新進行の恩恵を受けている。


2.日本の製造業の対中投資の変化と最適化への模索
後藤康浩

 日本の製造業の対中進出は90年代以降、急速に進んだが、同時に内容面においても大きな変化を遂げた。当初の日本への「持ち帰り型」輸出拠点から中国国内市場での販売を主目的とする「内販型」へのシフトである。2001年の中国のWTO加盟をにらみ、2000年ころに大きな転換の節目があった。背景には日本の生産拠点がジャストインタイムによる在庫削減、セル生産による多品種少量変動生産、ライン請負などによる雇用の柔軟化によって競争力を回復していることがある。

 中国進出の意味は単なる低コストの生産拠点から市場としての中国の取り込み、中でもグローバル戦略の中での中国市場戦略に移りつつある。トヨタ、ホンダなど自動車メーカーや新日本製鐵、王子製紙など素材産業の中国への大型投資はそうした流れを象徴している。中国への「内販型進出」の成功には開発、販売という上流、下流を同時に整備することが不可欠である。中国市場向けの製品開発、顧客の信頼を得られる販売体制を築けた企業が中国での勝ち組になれるのである。一方、中国をグローバル市場向けの生産拠点として活用し、成功する企業は製品、サービスでもともと強い競争力を持った企業であり、中国への生産拠点進出はそのままではグローバル市場での成功の保証にはならないとの認識も重要である。企業にとって中国は「世界の工場であり、市場だが、ソリューションではない」のである。


3.対中ビジネスにおける経営の現地化とガバナンスの仕組み
金 堅敏

 外資企業にとってグローバルな生産拠点として利用されてきた中国が販売先としての市場に急変身した。日系企業は、隣に顕在化された中国市場開拓を急いでいる。日系企業の中では、現地市場を開拓するために、優秀な営業担当者や経営者の派遣や現地人材の活用等の「現地化」対策に力を入れ始めている。経営活動に対するモニタリング強化等のガバナンス体制が伴わなければ、日本企業の懸念である技術の流出や違法性問題等は現実になる。代表的な企業に対するヒアリング調査の結果、欧米企業では、本社サイドにおいて、権限の移譲、測定可能な事業評価制度やモニタリング体制の確立をあわせた現地事業へのガバナンス体制が取られているのに対して、「ヒト」の信頼に委ね、モニタリング体制や事後評価の制度化が大変遅れている日系企業の実態が判明された。日系企業は、経営目標のコミットメント、評価制度の透明化・定量化、モニタリング体制強化という「制度」によるガバナンスが求められている。


4.WTO加盟後2年間の動向と日中経済関係
服部健治

 中国がWTOに加盟して以来、すでに2年が過ぎた。この間、日中経済関係はどのような変化があったのか。この変化にはWTO加盟のインパクトがどの程度影響しているのか。このような問題意識をもってWTO加盟以降の動向を簡単にまとめた。

 まず数年前に起こった「中国脅威論」と最近はやっている「中国特需論」の背景を解明し、脅威論の誤謬と特需論に何が欠落しているか述べた。次に最近の大きな変化を10年前に起こった中国ブームとの比較で貿易と投資の分野から、その特徴を概観した。日本企業間のすみわけが起こっていることを指摘した。三番目に貿易、投資の拡大は新しい中国ブームであるが、それをもう少し中長期の観点と企業活動の立場から「中国はチャンス」であると論じ、その根拠を指摘した。最後にWTO加盟以降の開放過程を貿易権と流通権を軸にまとめ、関心の高い国内販売問題を整理した。


5.北東アジアの国際貿易パターンとFTA締結の意義
木村福成

 本章では、日中韓3国の間の貿易パターンを分析し、自由貿易協定(FTA)締結の含意を考察する。まず初めに、日中韓の貿易パターンを概観し、貿易収支が3つどもえの構造となっていること、伝統的な比較優位理論によって説明可能な産業間貿易のみならず機械類のように双方から貿易し合う品目も登場してきたことが述べられる。次に、3国間の産業間・産業内貿易について分析が加えられる。そこでは、伝統的な比較優位理論に基づく産業間貿易だけでなく、しかしEU内で見られるような水平的産業内貿易でもない、垂直的な産業内貿易が盛んに行われていることが示される。これは、日中韓3国が東アジア全体に展開する国際的生産・流通ネットワークの中心的プレーヤーであることをも意味する。さらに、特に中国、韓国に立地する産業について、日本発の部品・中間財がどのくらい重要であるのかを見るために、国際産業連関表のデータを分析する。それらを踏まえ、3国に残存する貿易障壁がどの程度のものであるのかを見るため、WTO譲許関税率(従価関税のみ)を概観する。最後に、FTA締結の含意について簡潔に議論をまとめる。


第U章  中国リスクへの対応

 1.CHINA RISKとその対応について
古屋 明

 中国は単に発展のスピードが速い、というより「世界一変化率が大きい国」と言ったほうが表現として適切であろう。あるいは中国は、「現状変更勢力」と言い換えてもいいくらい、日々刻々と変化し世界の国と企業を震撼させている。中国は、「世界の工場」から「世紀の市場」に向け変貌、変質していく中で、ますますその魅力を高め、今後も引き続き外資の中国攻勢に拍車がかかっていくことは間違いないところであろう。

 中国はWTO加盟後、約2年半経過したが、政府中枢は現状に対しこれまで以上に自信を深め、将来に対しても確信を抱いているように見受けられる。

 一方では中国は、人治から法治へ、独裁から民主へ、また市場経済の初期段階からもう一段ステップアップした段階へと大きく舵を切ろうとしている。まさに過渡期、移行期にある。いくたの混乱とリスクに遭遇する危険性が高まっている。沸騰する東部沿岸地区の陰で発展の遅れた西部農村地区、国有企業や金融システム改革の遅れ、官吏の腐敗汚職問題など、発展を制約しかねない課題と矛盾が山積している。

 これらの諸問題をどうクリアし、ソフトランディングの方向をはたして見つけることができるのか、予断を許さない。

 こうした中国とどう付き合っていくのか、国も企業も片手間で考える存在ではもはやない。その前提として、中国への理解を深めることがより一層急務であろう。歴史や文化、伝統や商習慣など中国の現在に影響を与えている背景や文脈に言及し、その実態を把握していくことが何よりも優先課題にならねばならない。


2.中国ビジネスのリスク事例 〜 特に売掛金回収、知的財産権侵害について
薮内正樹

 中国ビジネスのリスクは、未整備な経済法制度による制度的要因と、文化や国民性が異なっているのに「日本と中国は共通点が多い」と思い込むことによる文化的要因がある。中国ビジネスで頻発する深刻なトラブル事例として、売掛金回収難と、知的財産権侵害がある。しかし、何れのトラブルも、多くの進出日系企業の経験により、それぞれ対応策があり、相当な効果を上げることが分かっている。売掛金回収については、@資質のある営業担当者を置き、業績評価は売上げより入金額の比重を大きくする、A顧客管理会議を実施し、支払いに問題があれば直ぐに対処する、などの対策がある。

 情報収集、警告、取り締まり申請などの模倣品対策は、侵害を根絶できなくても、効果はある。逆に放置した場合、市場の利益を失うばかりでなく、消費者からのクレームを招き、ブランドイメージを大きく損なう危険がある。知的財産を守るには、@全社的な知財戦略と体制作り、A調査会社の利用、B同業他社や業界団体などとの連携などの方法があるが、業種によって、商品によって、あるいは相手の出方によって、実際の対応策は千差万別である。


 3.WTO加盟後の日本企業の動向
嶋原信治

 中国にとって、WTO加盟の意味は、大きく捉えれば中国のこの一世紀に亘る近代化への挑戦と相克の帰結であり、これが又新たな世紀への挑戦となってゆく要素を持った出来事である。
 然しながら、WTO加盟の日系企業の動向に就いては、期待と懸念が混ざっており、特に透明度が高まったというより、足元に不透明感が増して来ている。

 中国は、確かに大きな発展途上国であり、大きな変化の過渡期である故、こうした混乱も当然という心構えも必要であるが、WTO加盟の期待と現実のギャップがあまりにも大きくなるという事態は避ける必要があり、中国側のカウンターパートである中日投資促進委員会と協力してこのギャップを小さくしてゆく役割の重要性を認識している。

 特に、昨年度から本年度にかけて、中国の経済発展は目覚しく、日系各企業の中国依存度は益々高まるものと予測され、正に日本経済にとって今や中国は"中国脅威論"から中国特需による"中国牽引論"に変ってきている。

 このような状況は、日本の景気回復には中国経済による下支えが不可欠な状況となりつつあり、裏を返せば中国の経済が悪くなれば日本企業にも悪い影響を与えかねないことにもなり、今後の展開については、しっかりと中国ビジネスのリスクという考えを持って当らねばならない。

 中国ビジネスでのトラブル原因の多くは、日本企業自身の姿勢の問題もあり、しっかりとした中国認識を始めとした人材の育成が急務である。