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2008年  4号

2008年7月

気候変動に関する中長期戦略に対する提言

気候変動に関する中長期戦略国際会議
国内準備委員会 委員長 茅 陽一


1.気候変動を安定化するためには、長期的に温室効果ガスの排出を大幅に削減する必要があり、持続的な取り組みが重要である。

2.気候変動対策の究極目標は、温暖化のリスクと対策の費用とのバランスを考慮し、幅をもたせて柔軟に設定するべきである。
  • 究極目標は、「気候変動のレベルが許容できるものであること」、「先進国と途上国の双方とが合意、達成できるものであること」を兼ね備えていることが求められる。
  • 「温度上昇を2℃以内に抑える」というEUが提案する究極目標を推奨する意見があるが、その実現の困難性や、気候変動の科学にも不確実性があることから、将来の究極目標については、ある幅を持って柔軟に考えるべきであろう。

3.先進国においては、自らの行動に責任を持てる削減シナリオを策定するべきである。
  • 先進国の目標策定に際しては、安易に目標の厳しさを競うことなく、具体的な戦略やシナリオを検討し、科学的な裏付けのある範囲で野心的な目標とするべきである。

4.途上国の参画は気候変動問題の解決にとって不可欠であり、途上国が具体的に対応しやすい目標設定、対策などの新たな枠組みを用意するべきである。
  • 途上国においては、気候変動よりも、貧困の解消や、水や食糧の確保、エネルギーシステムの近代化といった、喫緊の課題への対応が強く求められていることを考慮するべきである。
  • 途上国に対する温室効果ガス排出の総量目標は途上国がそのまま受け入れる可能性は低く、むしろ拙速は避け、個別の事情に応じて、具体的に取り組めるベンチマークを含めた目標設定や対策を用意するべきであり、さらにはこれと整合性を保った技術移転や資金提供のメカニズムの整備などが求められる。

5.今後の気候変動対策の中で、革新的新技術の開発と導入・普及が重要である。また、既存技術の普及が果たす役割も非常に大きく、これらを併せて積極的に推進するべきである。
  • 市場における新技術の普及伝播速度を考慮すると、革新的技術の早期の開発推進のため、投資の増大や、国際間あるいは官民の間での連携の一層の強化をはかるべきである。
  • 炭素への価格付けだけで技術開発ならびに普及が促進されることはなく、政府によるR&D施策も含めた制度面の対応や、障壁の除去などについても考慮するべきである。
6.専門家は科学的知見をもって将来の選択肢と、その根拠を提供し、政策決定者はこれを考慮して政策決定を行うべきである。
  • 専門家は、科学的な知見に基づいて情報と洞察とを提供し、常にステークホルダーや政策決定者との対話の場を設け、将来とるべき選択肢を与える役割を有する。
  • 重要な政策決定は、科学的知見に裏づけされた、専門家による正しい情報に基づいて行われるべきである。

以上


[気候変動に関する中長期戦略国際会議 国内準備委員会 委員]
◎茅 陽一 財団法人地球環境産業技術研究機構 副理事長
地球環境産業技術研究所長
 赤井 誠 独立行政法人産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 主幹研究員
 秋元 圭吾 財団法人地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ グループリーダー 副主席研究員
 甲斐沼 美紀子 国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室長
 谷口 武俊 財団法人電力中央研究所 社会経済研究所長 研究参事
 十市 勉 財団法人日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
 山口 光恒 東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授
 山地 憲治 東京大学大学院 工学系研究科 教授
(五十音順、敬称略)
◎:委員長