1994年3号

低迷する経済の下で

 景気が低迷するようになると環境問題を取り上げる余裕がなくなってきた。環境問題は恵まれた時期の戯言であったのであろうか。

 片や地球規模の何百年にもわたる長期の問題であるのに対し、景気の動向はせいぜい2~3年の短い期間の問題である。時として矛盾が出るとしても長期にわたる経済発展のためには、環境問題を大切にするほうが重要であるといった結論で取りまとめることは容易である。

 しかし現実の経済情勢はそれほど生易しいものではない。今回の不況は従来よりはるかに長く、しかも落ち込み幅は大きい。

 景気の下降が1年半も続けば底打ち現象が現れるのが従来からの経験であった。しかも、いったん底を打てば急速に回復するのが日本経済の特色であった。

 今回の場合は底を打った後、円高や異常気象による長雨と冷夏によって景気が落ち込み、さらに建設汚職の発生が景気回復の重しになっている。将来にわたって日本経済の成長力がなくなってしまったのではないかとすら考えられる昨今である。

 好況のときと比べて余りにも惨めになってしまった。事実、現在の経済水準は数年前と比べて大きく落ち込んでいる。しかし、この段階ですら異常なほど押し上げられている経済状態であると考えられる。

構造的な経済停滞の可能性

 押し上げ要因の第一はアメリカによる我が国からの莫大な輸入である。アメリカは膨大な貿易の赤字を続けている。我々はそれが当然であり将来も続くと考えがちである。しかし、そのようなことが長く続くはずがない。

 赤字が出るのは収入よりも余分に使うからである。それが続けば、赤字分だけ手持ちの資金がなくなっていく。

 アメリカは1980年末、史上最大の対外純資産を積み上げていた。その金額は4千億ドルに近く、世界中で飛び抜けた金持ち国であった。そのアメリカは1992年末、5千億ドルをはるかに超える巨額な対外純借金国へと転落している。

 毎年、貿易の赤字を続けた結果 である。このような事態が続けばアメリカは破産に追い込まれるであろう。

 アメリカが大幅に貿易の赤字を圧縮すれば、世界の各国は従来どおりアメリカへ輸出することができなくなる。その結果 、世界の景気は下降することになる。

 その影響をもっとも大きく受けるのは我が国であり、輸出が減少し、景気は大きく下落するものと考えられる。いや、正常化するといったほうが正しい。

 我が国は長年にわたり財政を赤字にしてきている。赤字の分だけ政府が余分に支出を行ってきた。その分が余計に売れて経済水準が押し上げられてきている。

 それが18年間も続いているため我々はこれが正常だと思いがちである。しかし長年にわたり赤字財政を続けてきた結果 、政府の借金は莫大な金額になり、その金利支払ができなくなってきている。

生活水準の低下を覚悟して

 もはや従来どおり赤字財政を続けることはできなくなってしまった。普通 の状態に戻さなければならない。

 それは政府の支出を大幅に削減すると同時に大幅な増税が必要であることを意味している。増税によって我々の生活水準が下がるはずである。その結果 、我々が物を買わなければ売れなくなり、経済水準は大きく下がるであろう。いや、正常化することになる。

 我が国の経済水準が今、異常に押し上げられているのであり、早晩、正常化に向かわなければならず、その時には水準が低下するはずである。

 それを当然のこととして我々が十分認識しておく必要がある。それが、もはや避けられない段階にまできているからである。

 経済が低迷すると資源の浪費が減少し、環境破壊が少なくなることは間違いない。産業や生活に伴う廃棄物が減少し環境の汚染が少なくなる。しかし一方において環境保全や資源保護のために新たに資金を捻り出すことができなくなっていく。

 そのような事態になった場合でも、我々は毎日の生活水準をより圧縮し、必要な資金を捻出しなければならない。それができなければ本当の意味での環境対策を推進するとは言えない。

 きれいごとでは進まない。本腰を入れて環境問題に対処しようということが何を意味するかを真剣に考えるべき時である。

 

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