1995年2号

EMセラミックスの可能性

 18世紀の産業革命から始まった近代産業社会の発展は、我々に豊かさをもたらした一方で、資源の際限のない消費、自然環境の破壊等により地球規模での問題を引き起こしつつある。近代科学の進歩によって我々が歩んできた道は、本当に正しかったのであろうか。たしかに、工業生産等の飛躍的向上が、マルサスの人口論の呪縛から人類を解き放ってきたのは事実であるが、その一方で現在の技術の延長線で考えられる未来は、必ずしも明るいものではない。マルサスの人口論は地球環境問題にその姿を変え、我々の前に立ちはだかっているようにも見える。また、学問の世界もどんどん細分化し狭い領域に深化して、その有用性を証明するのも困難な程、我々から遠い存在になってしまった。科学技術は本来自然環境と敵対するものなのであろうか。どこかで我々は道を間違え枝道に迷い込んでしまったのではないか、そんな思いを抱いていた時、ある本の中でEMセラミックスという言葉が私の目に入った。EMとは英語のEffective Micro-organismsの略語で、日本語では「有用微生物群」と訳されている。最近ゴミ処理のなかでEM菌という言葉を聞いた人もいると思う。微生物の力を借りて、環境浄化を進めようとする方法と考えてもらえばいいと思う。そこでEMという自然界の微生物と片や工業製品であるセラミックスの組み合せ、この取り合わせの妙というか、その組み合わせに興味を抱き、EMセラミックス及び蘇生波動セラミックスを製造・販売している名古屋のベンチャー企業ASTを訪れた。私の訪問に対し、ASTの社長である内藤氏自ら対応してくれた。まずは、EMセラミックス開発の経緯を、内藤社長に説明してもらった。

●EMセラミックス開発の経緯

 「私は、祖父、父と窯業関係の仕事に携わる家に生まれ、場所も愛知県瀬戸市というセトモノに縁の深い土地柄であったせいか、幼少の頃から鉱山や山を歩き、石や粘土、あるいは土等と親しんで育ちました。そんな中、時代の流れと共に窯業技術も日進月歩で進み、製品も茶碗、湯呑、お皿といったものから、電子、自動車、工業部品などの工業用ファインセラミックス製品の量 産という時代へ進んで行きました。ちょうどその頃から、世の中も大量消費、物の使い捨ての時代に入り、その結果 が引き起こす環境汚染・自然破壊といった状況も発生し、従来の化学の有用性に対して不信感を持つようになりました。そんな中で、自然界の物質やエネルギーを有用利用することで、何とか環境浄化を図る方法はないかと考え始めたのです。そして私も父の仕事を手伝うようになり、日本中の鉱山や採石場等の山を見て歩くようになりました。そんなある日、不思議な石を拾ったのです。その石を手に握っていると、体中が熱くなり汗が出てくる程でした。また、水の中にその石を入れ、その水を飲むと水道水よりはるかにおいしく、その石の入れた水の中に野菜や果 物を漬けておくと10日経っても全然腐らないのです。今まで気付かなかったのですが、ある特定の石には素晴らしい力が秘められている事を、この時知らされました。このような無機物が持つエネルギーをもう一度再確認して、これを何とか環境浄化に役立てられないかと考えたのです。」

 「鉱石や鉱物の研究を進めるうちに、組み合わせや焼結方法・処理方法によって、セラミックスから放出される様々なエネルギー(例えば、電磁波や磁力線、遠赤外線等)が水や人、動植物にとって有益な作用があることが分かってきました。ここから、まず水質改良を目的としたセラミックスの開発に取り組みました。加工技術・焼結技術を見直し、試行錯誤を繰り返し製品を作ってみました。そして、実際の現場に持込みテストしたのです。ところがその結果 は、水の状態によっては素晴らしい効果が出るのですが、汚染がひどい場合には必ずしも期待した効果 は出ませんでした。薬品や化学物質と組み合わせてみましたが、薬の効果 は出ますが、二次公害、三次公害の心配もあり、全体的に再現性が低く、安心して使用できるという状況には至らず、方法の再検討が必要となりました。そんな折、海外(ヨーロッパ)に発酵技術の勉強に行っていた弟から、微生物の話を聞いたのです。古くから人間は、健康や食品の保存等のため、有用な微生物を自然の知恵で利用してきました。私はその様な微生物を含め、自然界の底知れぬ 力に大変興味を持ち始めました。無機と有機という学問の境を越えた自然界には、自然の生物の進化及び環境浄化作用の流れの中で、この2つが大きく作用し、お互いに相乗し合っているという事を深く認識したのです。微生物がより活動し、有用な作用を促すには、無機物から放射されるエネルギーが大きく関与していることが判明してきました。さらに多くの微生物資材を入手し、セラミックスと微生物との研究に入りました。その過程で、有用微生物群EMに出会い、色々な角度から研究・実験・応用を進め、その結果 今までの概念から外れた無機物と有機物を組み合わせるといった、新技術が確立していったのです。

 そして、もともと母体として存在した製造会社から、世の中の多くの人に延べ伝え、環境浄化を通 して人々の幸せに役立つ製品を送り出す役割を果たすべく、AST(アスト)という名称を得て、新会社を設立するに至りました。ASTの意味は、ラテン語のA(アクア=水)、S(ソーレ=火)、T(テラ=土)の頭文字からとり、地球上の生命と物質の源であり、我々に最も必要な三大元素である水と火と土のエネルギーを蘇生型の方向につなぎ、環境を浄化していきたいとの思い込めています。我々は、企業の責任として一部の浮ついた成功事例や希望的観測に踊らされる事なく、安全性・再現性・経済性を柱として、自信を持って製品を作り多くの方に理解を得て、着実に前進して行きたいと考えています。」

●EMセラミックスの理論

 EMという「有用微生物群」とセラミックスとの関係で一番疑問であったのは、セラミックスという焼結体の中で、果 して微生物が生きられるのかという点であった。セラミックスに焼結する場合、高温で焼結する。したがって、その温度で微生物が本当に生き残れるのかという点である。たしかに、微生物の中には高温で生きられる種もある。例えば、海底火山の周辺の熱水塊には高温状況下で活動している微生物が確認されている。また、人類が登場する以前、まだバクテリアだけの太古の時代、当時環境は現在よりもかなり過酷なものであったと考えられている。

 この質問を内藤社長に向けると、簡単に否定されてしまった。彼によれば、まずEMセラミックスについて世の中で多くの誤解された部分があり、その説明から始めてくれた。EMの持つ意味とは、そのままの意として有用微生物であり、蘇生のエネルギー(波動)の基で活性するものを指し、俗に言うEM菌のみに固執するものではない。したがってASTでは、用途目的に独自に培養した微生物をそれに合致したセラミックスに波動情報を転写 する。これがEMセラミックスである。したがって、セラミックスに微生物を組み合わせれば、これができるというのは誤った理解であり、その背景には波動情報という理論が必要である。実際、焼結体の材料の中に存在する微生物は、低温で殆ど姿・形を消してしまう。素材の持つ特性に、微生物の波動情報を転写 することがASTが持つ技術である。したがってEMセラミックスの場合、セラミックス内に固定された微生物という概念ではなく、そこから出る蘇生エネルギーが、自然界に存在する有用微生物に対して活性を促すという考え方である。

 ここで波動について少し説明したいと思う。これは一般 的に「波動理論」とか「場の理論」と言われている。物には全て波動がある。波動の意味は、プラス・マイナスの弱い電気の場と考えてもらえばよい。動物も植物も同じで、また鉱物のような無機物でも同じである。そしてこの波動は2つの方向がある。一つは蘇生型の波動(プラス方向)であり、もう一つが崩壊型の波動(マイナス方向)である。そして、この2つの波動の作用により我々の世界はバランスが保たれている。

 人間で考えてみると、人間の細胞は脳のニューロンの様に同一の細胞を一生使って行くものもあるが、多くの細胞は破壊、再生を繰り返し置き変わっていく。ハロルド・サンクストン・バーは彼の著書「生命場の科学」のなかで次のように述べている。「半年ぶりに会った友人は、一見、何の変わりもないように見えるであろう。だが、彼の顔面 を構成している分子は、半年前とは全然別なものになっているはずである。それでも顔面 パターンが友人のものだと支障なく識別できるのは、場の作用により古い分子と同じ位 置に新しい分子を配列してくれるおかげなのである。」この言葉には二つの意味がある。第一は人間といえども場に支配されているということ。第二は、そこからより深く考えて、場というものが全ての物質に存在するならば、場を通 して人間と周囲の物質とは相互に干渉しているということである。したがって、人間の心の変化も場の変化として表れ、それが周囲に影響を与える。また、一方では、周囲の物質の場からも影響を受けることになる。

 EMセラミックスは、基本的には「場の理論」の延長にあり、それが持つ蘇生の波動が働くのである。EM菌は当初その菌の効果 は疑問視されていた。なぜなら、一握りの土のなかには何十万というバクテリアが生きており、EM菌の量 などそれに比べれば僅かである。しかし、農業分野では驚くべき成果が出ている。ここから、EMは単に不純物を処理する菌ということだけでなく、いままで仕事をさぼっていた周囲の多くのバクテリア達を、蘇生の方向に働かせる作用を持つと、最近では考えられるようになった。前に述べたように、世の中では、今一番この点が誤解されている。EMセラミックスも蘇生型微生物から受け継いだ蘇生の波動を、周囲に及ぼし、今まで中立的なバクテリアを蘇生の方向に働かせる、これがEMセラミックスの役割である。

●EMセラミックスの実用例

 いくつかの実用例をここで紹介したい。EMセラミックスを使用する場合、セラミックス単独で使用する場合と、発酵液を併用する場合と両方ある。第一は、愛知県小牧にある公共施設の浄化槽である。3,000人対応の大きなもので、EMセラミックス投入後3か月で、汚水ピット及び放流口において、BO(生物化学的酸素要求量 )、SS(懸濁物質)とも大幅に改善された。第二は、愛知県宇和島の養魚場で真鯛を養殖している。ここでの問題は、養殖魚のフンによる海水の汚染と、それが引き起こす魚の病害であった。ここでは、EMセラミックスと発酵液を併用してテストした。実施後5か月間で従来の養魚区と比較すると、平均値でテスト区の方が餌をよく食べ発育が早いということが確認された。5か月で一匹当り90グラムの差が出た。環境に対する投入コストを考えても、このケースでは採算が合うことが確認された。第三は、沖縄の農業試験場の話で、ここではパパイヤの発根を行っている。パパイヤには雄株、雌株、中性の株の三種類があり、実をつけるのは雌株だけである。また、株分けのための押し木での発根率は通 常20%と極めて低く、発根しないと株の種を判別できないという特徴がある。ここで発根するための土壌改良を目的として、EMセラミックスが培養土に混ぜられた。30日後の発根結果 は、80%と驚異的な値で残りの20%も基部の腐敗は認められなかった。一方使用したものは同一条件下で、20%~40%といった具合いで明らかに差異が認められた。ここにあげた例だけでなく製造業も含めた所で、現在色々なトライアルが進められている。

●EMセラミックスの可能性

 EMセラミックスの背景にある「波動理論」および「場の理論」は、全く新しい理論ではない。過去において世界で優れた研究成果 も発表されたが、当時はそれを証明する道具がなかったため、近代科学の中では片隅に追いやられてしまった。しかし現在、微少な電気の場を測る測定装置が格段に進歩したおかげで、この領域に再度光が当てられようとしている。その試みは始まったばかりで、今後の解明を待たなければならない部分も多い。一方、世の中は性急で、微生物だけに焦点をあてたEM万能論や名前だけ使った類似品が出回り、かなり混乱している面 が見受けられる。ここで言えることは、性急な成果を求めるあまり、人類の未来に対して波動が持つ可能性を、再度葬り去ってはならないということである。

 また、人間も場を通 じて自然界とつながっていると考えるとき、この技術の可能性の延長線上には、人間の「心」というものが問われる事になるのかもしれない。生命の共生の中で人類はどうあるべきか、従来の「生き方」、「考え方」の延長に人間の未来はあるのか、ということを我々は知らされるのかもしれない。そして、それをどう判断するかは我々の選択の問題になるであろう。

 最後に、紙面の関係および無用の混乱を避けるため、実用例についてはASTの内藤氏と相談して省いた部分がある。これについてはより実証が進んだ段階で、再度掲載の機会を持ちたいと思う。

 

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