1995年4号

地球環境問題懇談会から -環境管理・環境監査を取り巻く内外の動向-

 平成7年1月30日、虎ノ門パストラルにおいて第19回地球環境問題懇談会が開催された。その中で「環境管理・環境監査を取り巻く内外の動向」について、太田雅彦(通 商産業省環境立地局環境政策課企画班長)に講演していただいた概略をこの紙面 にて報告する。

1.環境規格制定の動き

 環境管理については、海外では、1993年1月にISO(国際標準化機構)において環境管理規格委員会TC207が設置され、1993年6月トロントでの第一回会議から具体的な作業が進められており、早ければ1996年4月頃に発効予定である。さらに、1993年7月にEU規則でEMAS(環境管理・監査要綱)が制定され、本年4月にスタートする事になっている。国内では、1992年2月に工業技術院に環境管理規格審議会を設置し、ISOへの対応体制を整えている。また、昨年12月に制定された環境基本計画にも事業者が自主的に環境管理に務める事が盛り込まれている。

2.なぜ今、環境管理が注目されているか

 なぜ今、環境管理の必要性が問われているかだが、これまでの環境問題の質、範囲、関係する人間が大きく変わって来ている事が背景としてあると考えている。まず、質、範囲の変化として、これまでの環境問題がいわゆる産業公害典型7公害(大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、悪臭、地盤沈下、土壌汚染)であったのが、最近では、さらに省エネ、リサイクル、オゾン層保護、地球温暖化、ゴミ問題等が加わり、トータルな環境保全への取り組みが必要になってきた事。関係する人間として、サイト(工場)と地域住民から企業(製品)と生活者(消費者)へと変化した事。さらに、問題への対応のあり方も、単なる法規制遵守から法規制水準以上をクリアーする努力、法規制にない環境問題への取り組みを自主的かつ積極的に行う必要性が出てきている事がある。

 この自主的、積極的取り組みを進めて行く上でのポイントとしては、環境基本法にもあるとおり、三つのE、すなわち、Energy、Economy、Environmentの三者の両立という事が重要であり、さらに、経済主体の中で大きな中核を占める企業が、その活動の中に環境配慮の観点をビルト・インする事が必要である。環境管理、環境監査はそのための一つの重要な手段として、今、注目されているという事だと考えている。

3.ISO環境管理規格の概要

 ISOにおける環境管理規格の検討は、そもそも、1992年ブラジルでの地球サミット(UNCED)に向けて創設された、世界のビジネスリーダーによるBCSD(Business Council for Sustainable Development)からの要請により始められたという経緯がある。具体的には、図1に示す5つの環境管理規格と共通 的な用語や定義等について作業が進められている。規格の策定における基本原則は、排出基準の設定、排出物の試験・測定方法、環境活動(パフォーマンス)のレベル設定、製品自体の規格作成は行わず、個々の組織の自由とする事であり、管理システムを作る際のガイドライン、手続きといったものの基準すなわち、内部、外部の検証・認証・登録に適用出来る規格を作る事が基本方針となっている。規格の運用すなわち認証や海外との相互承認については、先行している品質管理システムとの連携が検討されている。なお、品質管理規格のISO9000シリーズに対し、環境管理規格はISO14000シリーズになるといわれている。また、今後、労働安全衛生も規格化する事や、将来的には財務、会計監査等まで含めた、ゼネラル・マネージメント・システムとして企業の経営管理の規格を統合したものへ発展させようという議論がある。

図1 ISO/TC207の検討内容

  • SC(Sub-Committee:分科会)/WG(ワーキング・グループ)

  • TC207(環境管理)

    • SC1 環境管理システム(EMS:Environmental Management System)

    • SC2 環境監査(EA:Environmental Audit)

    • SC3 環境ラベル(EL:Environmental Labelling)

    • SC4 環境パフォーマンス評価(EPE:Environmental Performance Evaluation)

    • SC5 ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)

    • SC6 用語及び定義(T&D:Terms and Definition)

    • WG1 製品規格の環境側面 (EAPS:Environmental Aspects in Product Standards)

 環境管理規格の中核となる環境管理システム、環境監査については、早ければ1996年4月頃には、国際規格として発効の予定である。環境管理システムの構成を図2に示す。いわゆるPlan-Do-Check-Actionサイクルの構成となっており、環境方針の設定や体制の整備、実行マニュアルの設定等の手続きについての規格になっている。これは、先行するISO品質管理規格と基本的には同じである。環境監査は、環境管理が有効に機能しているかを点検する手法であるが、具体的には、監査の実施の一般 原則、一つのやり方として外部認証する場合の環境監査人の資格基準等が検討されている。残りの環境ラベリング、環境パフォーマンス、ライフサイクルアセスメント(LCA)については、検討が遅れており、1998年頃まで延びるといわれている。これらは、実行部分を評価する手法であるが、まだ科学的に十分確立出来ていない事が遅れている理由である。例えば、LCAでは、原料調達から廃棄に至る各段階で、CO2がどれくらい出て、それがどの程度人体に悪影響を及ぼすか、あるいは、それがNOxと比べてどう評価すればいいのか等を明確にする事が非常に難しい。各々の国の事情や立場で重みが違って来てしまうという事がある。環境管理、監査においても、パフォーマンスの扱いが議論になった。欧州では、後述するEMASにおいて、規制値や法規の遵守性といったパフォーマンスの評価についても規格化するため、同じように規格化すべきという意見だったが、アメリカでは、訴訟の材料になる事も懸念し、基準は最小限にすべきであり、やり方まで規格化する事はなく、手続きの部分だけを規格化すべきという意見であった。結局、折衷案として、環境パフォーマンスの評価については、運用する場合の参考という位 置付けで、別添資料(アネックス)となった。

4.EU規則「環境管理・監査要綱(EMAS)」

 ISOの環境規格は、通 例よりもかなりスピードアップして策定作業が進められているが、この背景には、先行するEMASの存在がある。EMASは、欧州において国内法を作る必要なく適用される法律であり、基本的には、参加は自由であるが、自主的な参加を前提として、EUに立地する企業(サイト)に適用される。重要な点は、企業が環境管理システムを構築し、環境監査を行った結果 を環境声明書(Environmental Statement)としてまとめ、それを第3者(公認環境検査人)による検証を経て公開するという事である。環境声明書には、排出量 、水質汚染等の改善パフォーマンスについての記述が必要とされている。合格した場合は、環境声明書と工場を登録し、要綱への参加声明と公開を行う。インセンティブとしては、EMASのロゴマークの使用許可やEU官報への掲載等がある。ロゴマークについては、商品宣伝への使用は不可であるが、レターヘッドや名刺等へは付ける事ができ、消費者のイメージアップを図る事ができる。ISO規格との整合性が注目されるが欧州としては、ダブルスタンダードを避けるためISOの議論をリードしたいところだが、前述したように、アメリカとの意見の対立が表面 化している。EMASの環境管理システム、環境監査の要求事項については、EMASの委員会が、欧州の規格協会に規格化を要請中であり、規格協会がISOをとるかEMASをとるかというところで議論されている最中と聞いている。

 日本の企業にとっても、EUに工場をもっている会社はもちろん、EUの工場に部品を輸出している会社等についても影響は大きいと思う。一方、欧州の産業界がどう捕らえているかだが、日本と同様、電機業界が進んでいる(フィリップス等)が、その他の業界は特に、環境声明書の公表を非常に恐れており、競争会社や消費者の動きを見てからEMASへの参加を検討していくようだ。EU規則には罰則がない事もあり、準備体制ができているのは、英国とオランダぐらいで、全国一斉スタートにはならないようだ。

5.我国の対応の考え方

 図3に示すように、環境管理のとらえ方として3つの段階がある。LSO、EMASにおいて、各々の段階でどう対応しているかについては、これまでに概略を述べてきた。では、我国としては、どう対応して行くかだが、第1段階としては、ISOでの議論は、国際的には必須の流れであるという認識の基に、まずは、ISO4000と整合性のとれたJIS規格を作り、ISOの発効と同時に制定する事で検討を進めている。先行するISO9000では、対応が非常に遅れたが、これは、貿易とか取引へ与える影響の認識が不十分だった事と日本の品質管理システムは進んでいるから必要ないといった考えがあった事が原因である。同じ轍を踏まない事が重要である。第2段階として、品質システムに関する民間の自主認証制度、すなわちJABによる認証制度を活用した外部認証制度の構築を考えている。環境管理システムと品質管理システムとの連携は前述したように、国際的にもその流れであり、海外との相互認証にも都合がいい。第3段階が問題だが、公開をどこまでやるかについてはいろいろと議論があると思う。また、EMASを積極的に日本でも取れるようにしたらといった意見もある。

図3 環境管理の3段階と我国の対応の方向

JIS EMAS 我国の対応の方向
第1段階 企業による環境管理システムの確立と内部監査の実施 国際規格の制定(EMS) 環境声明書の作成 ISO規格と整合のとれたJIS規格の制定(環境管理システムおよび環境監査)
第2段階 環境管理システムについての外部監査の実施(外部認証) 国際規格の制定(EA) 環境声明書の第3者検証 品質システムに関する民間の自主認証制度(JABによる認証制度)を活用した外部認証制度の構築
第3段階 環境パフォーマンス改善状況についての外部表明or外部監査 パフォーマンスについての記述は参考情報との位 置付け 環境声明書の第3者検証と公開 企業による自主的な外部表明(ボランタリープランの公表)

 

 EMASは、もともと基準も規制の有無も法規の遵守性もバラバラな欧州において、その第一歩としての統一規格という位 置づけであり、すでに厳しい規制とそれに対応出来る設備を持ち、法規遵守が徹底している日本とは出発点が違うと考えている。日本では、環境声明書に相当するものとして、すでにボランタリープランというものがある。これを、まさに本当の意味でのボランタリープランへブラッシュアップして行く方向がいいと考えている。基準以上のクリアーの努力や法規のないところ環境パフォーマンスについては、実際には検証が非常に難しいと思う。やはり、日本では企業の自主性にまかせ、ボランタリープランに積極的に自分達に出来る環境パフォーマンスを盛り込んで行く方向がいいのではと考えている。

 

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