1995年7号

国際化の中での企業と環境

 現在日本は、国際化という大変動に直面 している。日本における従来の考え方や常識が国際化という大変動の中で崩壊しつつある。

 例えば、昨年来「価格破壊」という言葉をよく耳にするが、これは「価格破壊」でも何でもなく、もともと非常に特異な日本の物価が国際価格へ移行しつつあるということにすぎない。また、株式の50円額面 という概念も、外国にはない日本独特のものである。日本では、50円額面 に対して3割も配当すればこれはもうたいへんな配当だと思ってしまうが、これは錯覚であり国際的には通 用しない概念である。従来は、日本の経済成長やそれに伴う企業成長というものを織り込んで株価が形成されていたが、低成長の時代になれば、これは今までと全く違った価値観、価値概念になってくる。株価が下がっているのは当り前の話で、何も不思議な事ではない。土地についても同じことが言える。現在、日本の全住宅地は100万ヘクタールといわれているが、それと同じだけの休閑農地があると日経連のレポートに書かれている。それに加えて、全国で工場用地として造成した土地が、使用されることなくいっぱい余っている。今までは、日本は土地が少ないから土地は高いという既成概念が形成されていたが、これも現状を冷静に見ると崩れつつある。

 しかし一方では、いろいろな物がそう下がっては経済運営や金融市場に影響が出るということで、人為的に既成概念を維持しようとする。しかし、国際化という大きな流れで見れば、この方向は止められない。そして、バブル時代の残滓がこれだけ残っている状況で、それでもなおかつ日本経済は3%以上の成長をするんだという考え方自体が矛盾である。そして、3年も4年もこの様な考え方で政府見通 しを作っているわけで、この辺に非常に大きな問題が絡んでいるようにも思う。今まで述べたことは全て、国際化の中で起きている現象だと考えるべきである。

 このような状況の中で企業について考えると、従来の企業に対する価値基準は、企業規模、成長力、利益率などであった。しかし、今後企業としてそれだけでいいのかという事が現在問われているように思う。国際的な視点でみれば、成熟化社会における企業の在り方という先例が他の先進国にはあり、今までの日本ではまさにその辺が欠如していたように思う。

 これから、日本の企業や国が何をすべきかということを考えると、今まで日本は国として戦争はしないという姿勢を堅持してきた。また、経済的な国際貢献は随分してきた。しかし、もう一つの大きな方針として、環境立国であるということを考えるべきである。21世紀は南北問題の時代であり、その一つのキーワードは環境である。現在、中国を始めとするアジア各国の経済発展が著しい中で、環境問題が今後非常に大きな課題になる。それに対して、日本にはかつての経済成長のなかで環境を克服してきた技術もあり、今日本が国際的に貢献でき得る最大のものは環境問題への貢献である。

 企業も今までは、成長という考えを中心に置いてきたが、これからはもう一方で、企業の社会的な貢献という意味で環境を捉える必要がある。そして企業の内部での環境だけでなく外部にある環境問題に対しても、色々な意味で貢献をすべきだと思う。このためには、日本の税制を根本的に考え直す必要がある。何もかもお上がするという思想は、江戸時代の思想、あるいは低開発国の思想であり、先進国になれば民間が自ら進んでやるというシステムに変えていくべきである。企業自体の行動も、それに向けて転換していかなければならない時期にきている。

 企業で環境を考える場合、企業と消費者との接点を探すことも大切である。例えば、ジャスコではショッピングセンターをつくると、まず開店前にその地域の方々に参加を呼びかけ植樹祭をしている。郊外では駐車場が必要で、その敷地を利用して2~3万本の苗木を植える事にしている。3,000人が参加すると一人10本で植樹はすぐ終わってしまうが、木を植えた人達は自分達の植えた木に愛着を持ち、子供を伴って来店してくれる様になる。そこで、子供の成長と子供と共に植えた木の成長とを、絶えず見比べてくれる。私は、この方達は当店のファンであると言っている。安売りのチラシをまいてワァーと来る人、これはアメリカではバーゲンハンターと呼ばれているが、ほかの店が安ければそちらへ行ってしまう。これからは、本当のファンを作って行かなければだめで、その企業の姿勢なり、企業の行動に共感を覚えてもらうような生活者の方を、その地域で何人つくっていけるかということだと思う。

 これからは、みんなが協力して考え、物事を進めて行く時代である。アジアの国々と一緒に協力してやっていくという事も必要であり、また、企業に於いてもメーカーと流通 の協力といった従来の垣根を越えた関係が必要である。国のレベルでも企業と同様であり、日本だけがいいという事は許されない。

 日本が直面している国際化という流れも、それが引き起こす困難な状況は否定しえないが、前向きに考えれば、従来のもろもろの既成概念から脱却して、新しい価値観を創る機会を与えられたということだと思う。

 

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