1997年6号

環境保全目的の貿易措置と途上国における 「環境保全に関する調査」研究委員会から

  本年1月に始まった標記委員会は、計5回の委員会を開催し終了した。ご多忙中にもかかわらず、有益かつ熱のこもった議論を展開して下さった委員長ならびに委員各位 に、あらためてお礼を申し上げたい。本稿ではその一部をご紹介する。

  世界の貿易量は第二次大戦後著しく拡大し、先進国・途上国を問わず各国経済は世界経済に大きく依存している。特に我が国の経済活動は、世界市場から切り離して考えることはできない。さらに冷戦終結後は、GATT/WTO体制の下に自由経済のルールが世界市場を支配しつつあり、経済のグローバリゼーションが進展している。

 環境分野においても、地球温暖化、生物多様性の減少等の地球環境問題にみられるように、世界各国・各地域は相互に依存していることが明らかになってきている。1980年代には、このような地球規模の環境問題が国際社会でクローズアップされるようになり、国際的な協力の必要性が主張された。

 一方、途上国においては、人口増加とそれに伴う貧困が森林伐採・土地の過剰利用等をもたらし、環境悪化の原因となっている。貧困からの脱出のためには開発が必要である。しかし途上国が環境保全の配慮なしに開発を進めることは、公害等の深刻な汚染発生の危険性を伴う。途上国には環境保全のための技術・資金・人材等が乏しく、ここに途上国に対する先進国の協力が求められるのである。

 これまで自由貿易と環境保全は、両立しないもののように取り扱われることがあったが、両者がともに不可欠であることが認識されるにつれて、環境と開発という対立的な理念が1992年の地球サミットにおいて「持続可能な開発」と謳われたように、自由貿易と環境保全の関係は対立的なものではなく、相互支持的なものと理解されるようになりはじめた。

 地球サミットで採択された「アジェンダ21」では、貿易を通じて持続可能な開発を促進するために、途上国が輸出によって持続可能な開発のための投資資金を調達できるよう開放的かつ公正な市場に改善することを提案し、途上国の市場アクセスを妨げる先進国の障壁を削減することを求めている。さらにGATTやUNCTAD等を通 じて、環境と貿易政策を相互支持的なものとすることを提案し、環境規制が不当な差別 や偽装された貿易制限とならないようにすることを求めている。またアジェンダ21を受けて、WTOもその設立協定で、達成すべき目標の一つとして環境保全を掲げ、貿易と環境に関する委員会を発足した。

 アジェンダ21は、環境保全と自由貿易とが対立する関係であってはならず、相互支持的でなければならないとしている。しかしながら「持続可能な開発」の理念と同じく、どのように両者を調和させるのか、その具体的な方策を見出すことは容易なことではない。例えば、環境条件や環境保全技術・資金は国により異なるので、環境規制の基準・方法は国により異なっても構わない、とアジェンダ21はしている。しかし、他よりも厳しい規制が貿易上不当な差別 とならないのはどのような場合なのだろうか。また、貿易と環境に関する紛争処理機関の設立を望む意見もあるが、環境保全と自由貿易の理念の両方に沿うような解決基準をこの機関が持ちうるのかも疑問である。

 自由貿易が環境保全に役立つとすれば、市場にあらかじめ環境コストが組み込まれている必要がある。環境に対する負荷が大きい製品やサービスに、それに応じた環境コストが価格として内部化されていれば、その製品やサービスは過剰に取り引きされることなく、環境に対する付加の少ない他の製品やサービスが、より多く取り引きされるようになる。環境と貿易を相互支持的なものとするためには、環境コストが内部化されていない現在の市場構造を抜本的に変革する必要がある。

 世界市場を環境コストが内部化されるように誘導するためには、どのような方策・政策が採られるべきなのであろうか。各国が徴収する環境税もその一つの策であろうが、国際的に足並みが揃わないときはどうすればよいのであろうか。そこで、国際的に徴収可能な課徴金の創設も考えられるのかもしれない。しかし実際には困難であろう。

 環境保全と自由貿易を対立する関係にしないために、環境と貿易の新しい枠組みの構築と、それを支える具体的かつ有効な方策の検討と実行が早急になされることが必要であろう。

(文責 事務局)


 

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