1997年8号

「企業のグローバル化と国家・社会のあり方を考える」 研究委員会報告書完成

 「企業のグローバル化と国家・社会のあり方を考える」研究委員会は96年12月に第12回委員会をもって終了した。委員の発表13、外部講師の発表7、計20題の講演とそれに基づく活発な討論があった。この度、その結果 が取りまとめられ、A4版238ページの報告書として刊行された。以下ににその概要を紹介する。委員長はじめ、執筆者各位 に深く感謝したい。

はじめに

 ニューヨークタイムスのトーマス・フリードマンはこう言っている。"グローバリゼーションは次の重要な外交政策論争となろう。」しかしその論争が広がれば広がるほど、混乱はより深くなる。グローバリゼーションは大半のエコノミストや多くの政策集団が信じているように経済成長や繁栄の源であろうか。それとも労働団体や環境主義者達が奇妙な連合を組んで主張するように社会の安定や自然環境への脅威であろうか。グローバリゼーションは国家の経済運営能力を無力化するほど進展してしまっているのか。

 それともグローバリゼーションは単なる流行り言葉で、そのインパクトは過度に誇張されているに過ぎないのか。(Dani Rodrik. "Sense and Nonsense in the Globalization Debate" Foreign Policy Summer 1997)

 いまや日本でもグローバリゼーションの論争は花盛りで止まるところをしらない。あらゆる現代の事象をグローバリゼーションと結び付け、説明が試みられている。しかしグローバリゼーションという言葉が定義されず、深い理解も無いまま独り歩きし、それがまた混乱した議論の拡大生産を招いているともいえる。

 今こそ佃委員長が本報告書2ページで述べられているように「さまざまの出来事の経過をただ叙述するだけでは、たとえそれらの出来事が世界的規模のものであっても、それによって今日の世界を動かす諸力の理解が深まることにはならない。諸々の出来事の根底にある構造変化を認識することが不可欠であり、そのために何より求められるのは、認識の新しい枠組みなのだ。」というJ.バラグラフの『現代史序説』の冒頭部分を思い起こすべき時なのかも知れない。本報告書はグローバリゼーションの持つ数々の側面 を各界の有識者がその専門的立場から述べたものである。関係各位のいわゆる"グローバリゼーション」理解にひとつの指針を与えてくれるレベル、内容をもつものであると信ずる。

1)本報告書の構成

  1. (まとめにかえて)グローバル経済下の企業と国家
    佃 近雄

  2. グローバリゼーションの理論的展開

    • グローバリゼーションをめぐる法律的諸問題
      石黒 一憲

    • 多国籍企業と国際関係の統合理論
      鈴木 典比古

    • グローバリゼーション・統合・開発の戦略
      斎藤 優

  3. グローバル化への歩み、事例研究

    • 自動車産業における技術移転と問題点
      小枝 至

    • 金融業界のグローバル化の現状と問題点
      亀高 鉄雄

    • 国際石油企業のグローバル化と国家の役割
      牛島 俊明

    • ソニーの国際化と国家の関わり
      山本 晋

    • 化学産業におけるグローバル化とその阻害要因
      古賀 一

    • 中国進出企業の現状(ヤオハンの例)
      秋山 彰夫

  4. グローバリゼーションのあるべき姿と国家の役割

    • グローバル化と国家の役割
      小島 明

    • 「グローバリゼーション」アメリカと日本の違い
      グレン・S・フクシマ

    • 技術移転における第三世界と日本の役割
      後藤 俊夫 

    • 対日参入、韓国のグローバル化を阻むもの
      リースーチョル

  5. グローバリゼーション、新しいパラダイム

    • グローバル企業の倫理的課題
      土屋 武夫

    • グローバル経済の進展と日本経済・社会の構造調整
      藤岡 文七 

    • 国際メガメディア資本と情報スーパーハイウェイ
      奥村 皓一

    • グローバリゼーションの陰翳
      奥村 有敬

    • 日本企業のアジアネットワーキング
      伊丹 敬之

2)委員会委員名簿

座長  佃 近雄                   (国際貿易投資研究所理事長)
委員  石黒 一憲                (東京大学法学部教授)
           鈴木 典比古             (国際基督教大学教授国際関係学科長)
           斉藤 優                   (中央大学経済学部教授)
           小枝 至                   (日産自動車株式会社取締役企画室長)
           牛島 俊明                (名古屋市立大学経済学部教授)
           古賀 一                   (三菱商事株式会社参与汎用化学品第二本部長)
           小島 明                   (日本経済新聞社論説副主幹)
           グレン・S・フクシマ      (在日米国商工会議所副会頭)
           後藤 俊夫                (日本電気株式会社技術センター主幹)
           土屋 武夫                (麗澤大学国際経済学部教授)
           伊丹 敬之                (一橋大学商学部教授)
           藤岡 文七                (通商産業省産業政策局国際企業課長)
           小川 洋                   (通商産業省大臣官房企画室長)

(敬称略、タイトルは1996年12月現在のものです)

3)国際シンポジウムについて

 本研究委員会、報告書を発展させ、GISPRIシンポジウム1997、"世界とアジアのグローバリゼーション、日本はどうなる」を開催する。参加申込については別 途ご案内する予定である。

GISPRIシンポジウム1997、
"世界とアジアのグローバリゼーション、日本はどうなる」開催要旨

 1997年、アジアはこれまでの経済成長の伸び率に陰りが見られ、政治面 でも香港返還、インドネシア、韓国の大統領選挙など、正に変革のときに当たっています。一方、日本は構造改革、規制緩和の進展の図られぬ 中にあっても、景気回復の確かな手応えを感じています。グローバル経済のなかにあって日本の実力は本物か、日米欧、そしてアジアからの有識者が集って、世界と日本のグルーバル化のあるべき方向を探ります。

日 時:1997年11月21日(金) 9:30-17:00 
会 場:経団連会館国際会議場
主 催:地球研、(後援:日本経済新聞社、通産省(手続中))
題 目:「アジアと世界のグローバリゼーション、日本はどうなる」

    セッション1「グローバリゼーションの本質」

      グローバリゼーションの光と陰(欧州)/グローバル企業と国家(米)
      グローバル化と国家の役割(日本)

    セッション2「グローバル、企業が国を選ぶ時代、日本の進路」

      アジアンネットワーキング(日)/
                アジアの政治とグローバリゼーション(日)
      エマージングエコノミー(アジア)

パネリスト:

アルベール ブレッソン プロメテ専務理事
エドワード グラハム IIE(ワシントン)上級研究員
アブドゥル ラザク バギンダ マレーシア戦略研究センター専務理事
S. L. ウォング 香港大学教授 アジア研究所長
佃近雄 国際貿易投資研究所理事長
伊丹 敬之 一橋大学商学部教授
小島 明 日本経済新聞社取締役論説主幹
飯島 健 さくら総合研究所副社長
白石 隆 京都大学東南アジア研究センター教授

4)その他

 本報告書は会員企業、関係各位にはすでに送付されていますが、残部が少々あります。ご入用の方は地球研、中西宛にお申し込み下さい。

(事務局 中西 英樹)

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