1999年10号

第8回アジア・太平洋環境会議(エコ・アジア’99)


 アジア各国の環境担当大臣らが、環境に優しい社会の実現や気候変動問題などについての意見交換や協力の道を探る、アジア・太平洋環境会議(エコ・アジア’99)が、環境庁、北海道及び札幌市の主催により9月4日~5日に札幌市で開催された。1991年以来92年を除き、毎年日本国内で開催され、本年で8回目を迎える同会議には、8名の環境担当大臣を含むアジア太平洋地域17カ国の代表、11の国際機関の12名を含む111名が参加した。初日に開かれた「21世紀のアジア太平洋地域~持続可能な社会の構築に向けて~」と題する公開セッションに参加したので、以下の通 り報告する。


1.基調講演(松下和夫地球環境戦略研究機関(IGES)副所長代行)

1.1 アジアの環境の現状と動向

 アジア太平洋地域における多様な自然環境の中、多岐にわたる環境問題が発生しており、急速な人口増加と工業化により多様な環境問題が同時並行的に発生している。また、エネルギー消費の増加がSOxとCO2排出量 の増加につながり、土地利用の変化が森林・生物多様性の減少や自然災害の危険増大等につながるおそれがある。具体的な最近の重大な環境問題としては、中国・長江の洪水、インドネシアのヘイズ(煙害)、インド・デリーでの都市大気汚染が挙げられる。

 一方、アジアの環境管理に向けた新たな動きとしては、中国・国家環境保護局(NEPA)の国家環境保護総局(SEPA)への改組(格上げ)と、インドネシアにおける生物多様性の保全と持続可能な利用の推進などを行う生物多様性財団の設立がある。また、地域における酸性雨のモニタリング、データの集約・分析等を行う東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)が、新潟県の酸性雨研究センターにて試行稼働している。

 1997年に起こった東アジアの金融危機は、全体としてこれまでの「経済成長の成果 を環境対策に振り向ける」という方向が阻害され、環境が軽視されるおそれがある一方で、経済回復プログラムの策定・実施過程は、よりクリーン、グリーンで健康的な経済発展を実現するよい機会となるであろう。

1.2 政策方向

 多くの途上国では、都市大気汚染、自然資源の枯渇などの地域環境問題の方が、地球環境問題より深刻。先進国では、エネルギー効率向上がSOx、Nox等の大気汚染を改善し、CO2排出量 削減にも有効。京都議定書による温室効果ガス削減の国際的な努力と途上国の国内汚染削減努力との連携と促進のための資金的・技術的メカニズムの充実が必要である。

 効果的な環境政策転換を促進する方策として、適切なインセンティブ付与、法的枠組、情報公開、民間セクターとの協力等を提言する。今後、酸性雨対策、海洋環境保全、地球温暖化対策、都市環境対策、森林保全等の環境問題に対応するため地域間環境協力の構築と強化を通 じて、アジア太平洋地域の安定と平和の醸成につながりうる。

1.3 リオ+10に向けて

 国連によるアジェンダ21の包括的レビュー会合(リオ+10会合)が2002年に予定。

 エコ・アジアとしては、リオ+10会合をターゲットに、アジア太平洋地域を焦点とした持続可能な発展のための政策パッケージを行うべき。具体的には、地球環境問題に関する各国の政策対話の促進、地域内の環境と開発に関する課題についての認識の共有化と有効な対策手法に関する情報交流、国際協力手法の検討である。このような検討を通 じて、域内の環境分野での技術協力や資金協力のさらなる進展が望まれる。

2.パネルディスカッション

 近藤次郎中央環境審議会会長が、公開セッションのコーディネーター役を務め、4人の大臣による各国の環境問題の現状や取り組み、国際協力に対する期待などについてのプレゼンテーションと、21世紀におけるアジア太平洋地域の持続可能な開発の達成可能性についてパネルディスカッションが行われた。

2.1 各国プレゼンテーション(主要ポイント)

(1) 日本(真鍋環境庁長官)
  気候変動に関して本年施行された2つの法律、地球温暖化対策推進法及び改正省エネルギー法を含めて、日本における直近の環境問題への取組を述べた。また、環境ホルモンなど化学物質問題については、グローバル化の進展によって周辺国にも波及しかねない問題となり、政府の責任も重くなってきているとの認識であり、国全体の排出量 を政府が把握し、削減につなげていく取り組みを開始したこと等を報告。

(2) カンボジア(マレ環境大臣)
 1993年に環境省設置。UNFCCC等の5つの環境関連国際条約への署名、さらに3つの条約への加入を計画していることなど、環境問題への取組が強化されている。現在の最重要課題は、トンレ・サップ湖周辺の森林劣化及び環境保全である。

(3) 韓国(キム環境部長官)
 1960年代から90年代までの高度経済成長に関連して、化石燃料燃焼による大気汚染、森林被覆の減少、自然資源への破壊行為等の環境問題に直面 し、21世紀の環境に優しい社会を実現するため、水資源、大気、資源の再利用、自然環境保護及び国際協力の5つの分野において政策の再構築を行っている。また、低公害技術などクリーンテクノロジーを先進国が途上国に供与していけるように、環境技術の公有化を提案した。

(4) ネパール(バラヤー人口・環境大臣)
 1995年に人口・環境省設置。主要な環境問題は土壌劣化、森林喪失及び環境汚染である。貧困が環境管理及び持続可能な開発の焦点であること、環境問題への対応のため更なる技術及び資金が必要である、無知が環境問題の大きな要因であることから、人材教育、啓蒙活動が必要である。

2.2 討議

 続いて行われた討議では多くの重要な指摘がなされた。

  • リオ+10は、21世紀における持続可能な開発にとって重要な地域であるアジア太平洋地域で開催されるべきである。
  • エコ・アジアは、議員又は議員グループ、特に地球環境議員連盟(GLOBE)及び環境と開発に関するアジア太平洋議員連盟(APCED)との協力の強化が必要。
  • バイオマスエネルギーを推進するためにより多くの努力が必要であり、一般 的な原則として、環境問題の解決のためにウィン・ウィン・アプローチを追求すべきである。
  • 成功例だけではなく失敗例についての情報の共有が重要であり、インターネットはこのための重要な手段である。
  • 特にアジア太平洋地域においては、化学物質や化石燃料の使用及び地球温暖化による影響等の環境問題によるヒトの健康への影響を示す努力が払われれば、地方レベルでより多くの支持が得られる可能性がある。
  • 環境税については、現在の日本のように経済状況が厳しい時には新税の導入は困難ではあるが、環境保全を図る上で重要な手法である。

(文責:伊藤裕之)

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