2001年6号

COP7スペシャルイベント報告 ~排出権取引制度に関する発表を中心に~

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 COP7は10月29日から11月10日までの約2週間かけて、モロッコのマラケシュにおいて開催された。その1週目の11月3日(土)、地球研開催のスペシャルイベントとして、大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授と共に、排出権取引の責任制度実験の実験結果を報告した

 


 

報告内容


 温室効果ガス排出権取引における責任制度については、「売手責任+Compliance Period Reserve」が採用されることが決まっている。売手責任制度においては、売買される全ての排出権の価格が等しくなるはずである。しかしながら、やがて始まる現実の排出権取引市場においては、買手責任制度における取引のように、発行した国や相手に渡す時期によって異なる排出権価格が付くであろう。この事態は必ず、劣った責任制度であるという先入観から、ほとんど分析されることなく不採用となった買手責任制度に関する議論を、やがては引き起こす。

 本実験の目的は、京都議定書後の排出権取引市場の設計を見据えて、売手責任制度と共に新たに2種類の買手責任制度(国先買手責任と管理先買手責任)を設計し、どの制度が参加国全体で見て京都ターゲットを最も安い費用で達成することができるのかを明らかにすることである。


実験結果


 売手責任制度の実験においては、実施された6つのセッションを2つのケースに分類することができた。一つが「成功ケース」と呼ばれるケースで、参加国間でほぼ最適な削減分担が実施されたために京都ターゲットを非常に安い費用で達成することができた。そこでは[低い価格]→[価格がほぼあるべき値まで上昇]→[最適削減]といった流れが観察された。もう一つが「失敗ケース」と呼ばれるケースで、一部の国が過剰に削減したために、参加国間で最適な削減分担が実施されず、京都ターゲット達成の費用をあまり抑えることができなかった。そこでは[高い価格]→[過剰な削減]→[最後に価格暴落]といった流れが観察された。

 買手責任制度に関しては2つのルールがある。管理先買手責任と呼ばれる、他国に売却した許可証を手渡す前に、それを自分の遵守に使うことのできる責任制度と、国先買手責任と呼ばれる、許可証を自分の遵守に使う前に、売却した分だけ他国にまず手渡さなければならない責任制度である。国先買手責任制度の実験においては、上記二ケースの他に、「価格高騰ケース」と呼ばれる、[低い価格]→[不十分な削減]→[最後に価格高騰]といった流れが観察された。管理先買手責任制度の実験においては、上記三つのケースに加えて、多くの被験者が計画的にデフォルトを起こそうとした、「計画倒産大量発生ケース」が発生した。

 まず買手責任制度内で国先と管理先を比較すると、国先買手責任の方が管理先買手責任よりも優れていることが分かった。次に売手責任と買手責任代表の国先買手責任とを比較すると、京都ターゲット達成の費用の有意な差は観察されなかったが、売手責任では、大成功するか大失敗するかの両極端な結果が得られる一方、国先買手責任では、大成功も大失敗もなく、ほどほどの結果が得られることが分かった。



報告に対する討論者のコメント


 討論者であるIEAおよびOECDのJonathan Pershing氏は、私たちが、京都ターゲットが過剰達成され、それ故に余計な削減費用がかかったセッションを、経済学的な観点から失敗ケースと呼んでいたことを指摘して、そのようなセッションは実は環境の面からみると成功ケースのはずである、とコメントをした。確かに環境の視点からの実験結果の評価も重要であろう。


その他のサイドイベントでの報告


 私たちの報告の他に、排出権取引実験やシミュレーションの研究報告はいくつかあった。ある報告は、単にソフトを作成して実験をやってみた、というだけのものであったが、IETAによるGETS3と呼ばれる排出権取引シミュレーションは、そのような過去の研究から進歩して、取引方法などの一つの変数のみを変えることによって排出権取引市場のパフォーマンスを比較し、望ましい取引制度を探るといった、私たちの研究でも使われている厳密な分析手法を採用していた。一部の研究グループの研究水準は、私たちのそれにだんだんと近づきつつある。

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