2004年5号

GHG(温室効果ガス)算定ワークショップ 参加報告

GHGプロトコルの策定を進めるWBCSDや、欧州での排出権取引市場整備の構築を先導するIETA等が主催し、世界中で多数設けられているGHG算定のプログラムやルール類についての情報交換を行うワークショップが開催された。簡単に概要を報告する。


開催 平成16年10月6日/7日 パリ・CDC- IXIS銀行
目的 世界各国で数多く構築されつつあるGHG削減プログラムやインベントリ制度の共通点と相違点を認識し、相互理解を深める。 
主催 IETA(国際排出権取引協会)、WBCSD、WEF(World Economic Forum)
参加 Andrei Marcu(IETA)、Laurent Corbier(WBCSD)、Richard Samans(WEF)の各氏等約30名
(他、VROM,WRI,世銀,DNV,Deloitte,WWF,CCAR,ENDESA(スペインの電力),Gaz de France,電発等)
概要 初日はプロジェクトベースでの排出削減算定について、二日目は国や事業者のインベントリについて、各制度間の共通点や相違点、整合性等について情報交換した。
IETAからの問題意識について概説があった後、機軸となる基準としてWBCSDからGHGプロトコルの紹介があり(初日はプロジェクト削減量算定報告基準、二日目は事業者排出量算定報告基準)、それを議論の発射台とした。
1.基礎的比較
  プロジェクト削減量算定
(ベースラインとの比較での削減量算定)
インベントリでの排出量算定
(国・組織単位での排出量算定)
主な
制度・
基準類
京都
枠組
ERUPT/CERUPT
Danish CDM/JI program
Finland CDM/JI program
Austria CDM/JI program
非京都
米国エネルギー政策法1605(b)
双方

京メカクレジット可
CCAR(California Climate Action Registry)
Oregon Climate Trust
CCX(ChicagoClimateExchange)
 
国際
基準
GHGプロトコル(project)
ISO14064(part2):作成中
国際
基準
GHGプロトコル(corporate)
ISO14064(part1):作成中
公開
制度
Australian Greenhouse Challenge
CCAR(California)
Canadian GHG Challenge Registry
米国エネルギー政策法1605(b)
(Voluntary GHG Reporting Program)
取引
制度
CCX(Chicago)
EU Emission Trading Scheme
特定
業種
基準
Cement Sustainability Initiative
International Aluminum Institute
IPIECA(国際石油産業環境保護協会)
作成
メキシコ、ニューハンプシャー州、ウィスコンシン州 等
制度の
整合性
等に関
する主
な論点
カバーすべき対象範囲は?
排出削減量の記録は活動ごとか、
事業者ごとか?
追加性のレベルは?
持続的発展をどう織り込むか?
 
        
カバーすべき対象範囲は?
組織境界や報告のレベルは?
活動境界や直接・間接排出の
算定は?
継続的な把握は
(tracking over time)?
目標の設定は?
 
2.議論でのポイント
 【初日:プロジェクト削減量算定系】

(1)基礎的認識
  プロジェクト削減量算定とインベントリでの排出量算定では、アプローチが基本的に異なることに注意が必要である。
  鍵は、信頼性(credibility)と費用対効果(cost effective)のバランスである。
  京都枠組み及びbeyond 京都枠組みでのポテンシャルを考えた発想・設計が大切である。
(プロジェクトタイプのGHG削減制度では、算定・モニタリング方法論の普遍的な枠組みを構築して各制度間の整合性を図ることが、将来の枠組みの拡大を考えると有効ではないか)
  政府・NGO・産業界などの共同の作業・参画が、実際的な制度構築では不可欠である。

(2)各論議論
  プロジェクト開発者に対する要求事項を明確にする必要がある。各制度でかなり差がある。
  追加性はオフセット(クレジット発生)の場合環境十全性(integrity)面から必要である(他所での削減と同視する以上、通常の活動のレベルを超えて削減できることを示す必要がある)。
  同じエリアの同じようなプロジェクトでも違う制度下では、政策的な理由からクレジットが出たり出なかったりする。追加性判断・削減量算定には政策の意図が介在し、純粋に科学的に一義的な結論が出るわけではない。
  プロジェクトタイプも、地域特性やプロジェクトの内容によりかなり異なるため、単に「植林」プロジェクトといった括りをして標準化するのは無理がある
  British Petroleumでは世界各国にプラントがあり、企業全体での排出量を報告しつつも、各削減プロジェクトでのインパクトは個別の基準を用いて示している(追加性やベースラインの考え方は各設備の所在する地域の制度・政策に従って算定している)。また企業グループ全体としてのリーケッジ(leakage)に留意している(ある国のプラントでの排出削減が他国のプラントでの排出増につながっていないかなど)。
  持続的発展に資するかは、その判断基準を作るのが難しい。これを標準の要件とすると、プロジェクトの基準が過度に複雑化する恐れがある。基準に透明性があればよいという意見もあるが、この問題は政治的なダイナマイトともなりうるので扱いに注意が必要である。
  プロジェクトでの排出削減量算定のトランザクションコストを下げる努力が必要であり、そのためには一定の標準化された手法が有効である。CDM理事会の統合方法論もこの流れを汲んでいることに留意が必要である。
 【二日目:インベントリでの排出量算定系】
(1)基礎的認識
  各論点の制度間の整合性・調和を考える際の優先順位に留意する必要がある。また、どの程度、整合・調和をはかるべきか、またそうするにはどのような手段があるかを意識して検討を進める必要がある。
(2)各論議論
  情報の公開では、投資家・顧客を含めた各ステークホルダーを意識することが重要である。
排出情報の公開(carbon exposure)は、財務諸表と並び重要な事業者活動の情報開示である。
  各制度の整合・調和の確保については、長期視点で考えていく必要がある。
  British Petroleum では、算定・報告対象を資本比率基準に基づいて行っている。また、各設備ごとのデータの集約で作成するため、設備ごとの排出要因等に基づき個別の方法論を用いている。検証(verification)上困難が伴う場合がある(標準手法ではなく全て個別手法のため)。
  目標の設定に関しては、その前提として経年でフォローする仕組み登録制度が重要である。
 原単位目標にするか絶対量目標にするかも、各制度の目的や状況による。ただ、事業者にとり、目標設定のためのガイダンスがあるのは望ましい。
  目標遵守の際オフセットが使え、余剰削減分を売買することができる場合はどう考えるべきか。この場合、プロジェクト削減量算定系の基準(自社余剰オフセットの算定)と、インベントリ系の事業者排出量算定基準の整合の問題が生じる。この点GHGプロトコル(corporate)11章で触れられているように、ダブルカウント(インベントリ経年引き算とプロジェクトベースでの算定)を避けることに注意が必要である。

3.その他(ロシア批准について)
  会議前後にロシア批准意向の報道があった。各国政府関係者やコンサルタントなどは早ければ年内、少なくとも1年以内には批准するだろうとの見解で一致していた。また、欧州諸国としては驚きはないが日本とカナダは過剰反応気味のようだ、といったコメントもあった。
 ロシア批准によりホットエア価格のアップにつながること、排出権ビジネスにおいて不確実性が減りより動きやすい環境になるのは間違いないという声も聞かれた。ただ、京都議定書が発効しても途上国や米国を巻き込んだグローバルネットワークとして排出削減の枠組みが完成するわけではないので、今後は多くの国のより緊密な連携と巻き込みが重要となる、という指摘が主催者側からあった。

4.所感
  日本ではまだプロジェクト排出量削減や事業者インベントリについて制度・算定基準として公式に制定されたものはないが、欧州や米国の州・民間レベルでの制度類の発展は著しい。
GHGの算定制度・基準等の問題は、各国の事情(議定書目標への乖離度、エネルギー需給・自給状況、電力等の市場構成・産業形態、排出削減対策の進展度合い等)やこれらを前提とした各政府の政策意図に大きく関係するものである。従って、決して他国の制度等との整合性が必須という性格のものではない。ただ、世界的な排出権市場の立ち上がりやCDMのような国際的な排出削減活動の枠組みの発展の中に日本が地歩を確保しそのメリットをより活かすには、世界の標準となりつつある制度類とのリンク・整合性の確保も視野に入れる必要があるのも確かである。今後、GHGの算定制度・基準類の策定の際には、国内事情とともに今後の国際動向も反映・意識することが結果として効果的であると思われる。同様に民間企業にとっても国際的な制度・基準類の動向の理解は重要であり、各社の状況・意図・戦略の方向性にあわせ効果的に消化・活用することが今後益々重要になるとの印象を持った。
 
(文責 篠田健一)

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