2009年2号

平成20年度 排出クレジットに関する会計・税務論点調査研究委員会

1.委員会設立趣旨
 2008年より京都議定書の第一約束期間が始まり、日本では2008年から2012年までの5年間で温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減することを目標として、様々な取り組みが行われている。これに対し、2006年度の温室効果ガス排出量は基準年を6.2%上回っており、排出が増大基調にある民生部門や、部門全体としての排出は削減されている産業部門にあっても、削減ポテンシャルを有していると考えられる中小規模の事業者への打ち手が求められている。
 このような状況のもと、2008年6月の福田ビジョンにおいて排出量取引に関する日本国内の統合市場を2008年秋から試行することが政府より提示され、排出削減取り組みの参加層の拡大や、排出削減量の深耕を図るべく、国内のクレジットの取り扱いがスタートした。また、東京都においては、独自に排出量取引制度を打ち出しており、オフィスビル等の民生部門を対象とするものとして、注目されている。
 当委員会においては、これまでに京都メカニズムクレジットを主な対象として、その会計・税務、法的性格に関する検討を行ってきた。これまでに蓄積した知見を活用し、国内クレジットの取り扱いに際して生じると思われる課題を先駆的に抽出して議論を重ねて論点を整理しておくことで、事業者、特に排出削減ポテンシャルを有し、かつ日本の機械工業の中核をなす中小製造業の負担を軽減させ、ひいては我が国の機械工業振興に寄与することが本委員会の趣旨である。


2.調査研究概要
■排出量取引の国内統合市場の試行的実施を対象とした制度研究
 2008年10月よりスタートした国内統合市場には、参加者が自主的に目標を設定して排出削減に取り組む「試行排出量取引スキーム」と、そのスキームの中で使用可能であり、自主行動計画の目標達成にも利用可能であるクレジットを創出する「国内クレジット制度」とが含まれている。これらの制度について、参加する事業者の立場から制度の枠組やプロセスを把握し、各局面で検討が必要となると思われる項目を先駆的に抽出し、議論を行う。
 ここで、いわゆる排出枠については、排出量取引として先行するEU-ETSの事例があるものの、今回の国内統合市場の取り組みにおいては、温室効果ガス排出削減のために実効性のある「日本オリジナル」の制度を探求すべく、幅広いオプションが設けられていることや、京都議定書の第一約束期間に対応した自主的な取り組みであることなどを考慮する必要があると考えられる。
 また、排出クレジットについては、京都メカニズムクレジットが既に取り扱われており、国内クレジットについても、京都メカニズムクレジットと整合性のある会計・税務、法的な取扱いが必要と思われるが、「クレジットが国内で発生する」という点において両者は異なるため、これに起因する京都メカニズムクレジットとの違いをどのように整理・対応するかがポイントになると考えられる。

■地方自治体における取組の研究
 東京都では、2002年度より既に制度を開始している「地球温暖化対策計画書制度(環境確保条例)」を改正し、2010年度より大規模事業所に対する温室効果ガスの排出総量削減を義務付けるとともに、その目標達成のための手段として、自らの排出削減だけでなく、他者の排出削減をも利用可能とする排出量取引を導入する予定である。
 本制度の特徴としては、対象となる事業所にテナントビルも含む民生業務部門が含まれていることや、削減義務の履行にあたり「5年間」という比較的長い期間での取り組みを認めている点などが挙げられ、これらを考慮した排出枠・クレジットの会計・税務、法的性格について検討を行う。


3.検討委員会メンバー(敬称略、50音順)
委員長: 黒川 行治 慶應義塾大学 商学部教授
委 員: 伊藤 眞 慶應義塾大学 商学部教授
  大串 卓矢 株式会社日本スマートエナジー 代表取締役
  木村 拙二 愛知産業株式会社 監査役
  高城 慎一 八重洲監査法人 公認会計士
  武川 丈士 森・濱田松本法律事務所 弁護士
  村井 秀樹 日本大学 商学部教授
以 上

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