2010年1号

平成21年度 排出クレジットに関する会計・税務論点調査研究委員会 平成21年度 財団法人JKA補助事業

1.委員会設立趣旨
 我が国における気候変動に対する取組に関し、2009年9月の国連総会において、鳩山首相より、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提として、「2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減する」という中期目標が掲げられた。
 その後の2009年12月に開催されたCOP15では、京都議定書の第一約束期間に続く次期枠組を合意するまでには至らなかったが、留意(take note)することとなった「コペンハーゲン合意」においては、世界全体の気温上昇が2℃を超えないようにすべきとの科学的見解を認識して長期の協力的行動を強化し、世界全体及び国毎の排出をできるだけ早期にピークさせるよう協力することとされており、引き続き、排出削減の重要性が認識されている。
 我が国で推進されている温室効果ガス排出削減のうち、国内の排出削減活動を促すスキームとしては、既に2008年度より国内クレジット制度が開始され、大企業等の支援を受けて中小企業等の排出削減活動を促進する取組が拡大しつつある。さらに、同じく2008年度よりスタートした「試行排出量取引スキーム」においては、2008年度の排出目標/実績に基づく「排出枠」を、スキーム参加事業者が入手するフェーズが、2009年度に初めて発生する見込みである。
 一方、域内の排出量取引の第2フェーズにあるEUにおいては、これに対応する国際会計基準の検討が始まるとともに、気候情報に関する開示基準審議会おいては、開示のためのフレームワークの検討が進められており、これらの動きが日本国内へ影響することも考えられる。
 本委員会においては、これまでに蓄積してきた京都クレジットの取扱いに関する知見をベースに、国内産のクレジットに関する取扱いについて先駆的に議論を重ね、論点を抽出してきた。今年度、これらのクレジットの実際の契約や会計面などの処理が発生し始めていることを踏まえ、実際の事例に近い視点に基づいて議論を行い、国際的な動向も視野に入れながら考え方を整理することで、事業者における排出クレジットの会計・税務、法務に関する不安を払拭し、自らの事業、およびそれに起因する排出の削減に注力することを可能とさせることで、我が国の機械工業振興に寄与することが本委員会の趣旨である。

2.調査研究概要
■国内クレジット等に関する会計・税務、法務面の取扱いの研究
 2008年秋にスタートした国内クレジット制度においては、売り手(中小企業等)と国内クレジットの買い手(大企業等)とが存在している。ここで、買い手側においては、京都クレジットの購入を通じ、その取扱いに関してある程度の経験が蓄積されているものの、売り手側においては、限られたマンパワーの範囲で、排出削減事業の推進に注意を払いつつ、これまでに前例の無かった排出クレジットの処理も行なうことが求められる。
 国内クレジット等の会計面の取扱いについては、2009年6月にASBJから実務対応報告第15号として「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」が示された。これを念頭に置き、今年度の委員会においては、できるだけ具体的な事例に即した形で検討を行い、今後の参考となるような取扱い方法(考え方)について議論する。

■排出量取引制度に係る会計上の国際動向の研究
 国際会計基準審議会(IASB)では、排出量取引制度に対する会計上のガイドラインの検討を進めており、2010年第2四半期に公開草案に付され、2011年上半期に国際財務報告基準(IFRS)として策定される見込みである。また、排出量取引制度に係る会計処理との直接的な関係は無いものの、気候情報に関する開示基準審議会(CDSB)では、企業活動における気候変動情報を開示するためのフレームワーク策定・提唱の動きがあるため、このような国際動向に関し、当委員会にて情報収集、議論を進める。

3.検討委員会メンバー(敬称略、50音順)

委員長: 黒川 行治  慶應義塾大学 商学部教授
委 員: 伊藤 眞 慶應義塾大学 商学部教授
  大串 卓矢 株式会社日本スマートエナジー 代表取締役
  木村 拙二 愛知産業株式会社 監査役
  高城 慎一 八重洲監査法人 公認会計士
  武川 丈士 森・濱田松本法律事務所 弁護士
  村井 秀樹 日本大学 商学部教授
以 上

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