2011年2号

大震災からの復興と市民社会の役割

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 2011年3月11日の大震災は、大津波とともに、1995年の阪神・淡路大震災大震災をはるかに上回り、関東大震災以来の甚大な被害を東北および関東地方にもたらした。また、それに誘発された原発事故は、周辺地域だけでなく、日本全体に長期にわたり深刻な悪影響を与えることが懸念されている。

 16年前の阪神・淡路大震災を思い起こすと、震災直後からのべ100万人のボランティアが被災地に馳せ参じ、草の根ボランティア団体やNPOが、被災者救援や都市復興に目覚ましい活躍をした。東京駅の大阪方面行き夜行バスの乗り場には、ボランティアの長い列ができ、震災のあった1995年は「ボランティア元年」とも言われた。

 それから16年を経た今回の震災の救援・復興プロセスに、市民社会はどのように関わることができるだろうか。

 阪神大震災と比較して、今回の震災では、被災地がきわめて広範囲に及ぶこと、大津波の被害が大きく、がれきの量が膨大であること、原発事故の影響があり、事実上立ち入りできない地域があることなどが指摘される。この結果、阪神の時は、震災直後に電車のアクセスが確保された西宮北口にボランティア活動の拠点事務所を開設し、全国から殺到するボランティアに出番を与えることが可能となったが、今回は遠方からのボランティアが被災地に入ること自体が容易ではない。

 市民社会の側も大きく変わった。まず、一般市民のNPOやボランティア、あるいは市民社会に対する見方が変わってきた。阪神大震災当時は、ボランティア活動はまだまだ奇異な目で見られがちで、NPOに至ってはその意味すら一般には知られていなかった。しかし、震災から3年後にはNPO法が施行され、今では全国で4万を超えるNPO法人が様々な分野の社会サービスの担い手として活動しており、一般市民の間での認知も飛躍的に高まった。

 ボランティアについても、阪神大震災の経験に学び、ボランティア希望者とニーズをつなぎ、誰にどこでいつ何をしてもらうか、刻々と変わる需要と供給を調整するコーディネーションの重要性が認識され、知識と経験を持ったボランティア・コーディネーターも増えてきた。

 寄付の流れにも変化がある。阪神大震災では、1800億円に達する災害義援金が寄せられた。それらは見舞金として被災者に直接配分されるものであり、被災者支援や震災からの復興のために活動するNPOやボランティア団体の活動資金には十分な寄付が集まらなかった。今回の震災でも、地震発生後2週間余りで数百億円の義援金が、NHK、日本赤十字社、共同募金会などに寄せられており、これは阪神大震災後の同時期をはるかにしのぐ金額になっている。しかし、同時にNPOやボランティア団体の活動をサポートする活動支援金も様々なルートで積極的に集められている。たとえば、中央共同募金会では、義援金とは別に、「災害ボランティア・NPO活動支援のための募金」という名称で活動支援金を募集している。この活動支援金は、指定寄付金として指定され、寄付控除の対象になっている。中央共同募金会のホームページによれば、震災後2週間を経過した3月25日現在で、義援金が90億円余り集まっているのに対し、活動支援金は5億円あまりと10分の1以下にすぎない。それでも被災者への見舞金だけでなく、被災地支援や復興のために活動するNPOやボランティア団体を資金面でサポートする必要が認識されただけでも、阪神大震災当時よりも理解が進んでいるといえる。

 阪神大震災当時は、こうしたNPO・ボランティア団体の多くが法人格を持たず、任意団体として活動していたが、現在では小規模な団体でも法人格を持つことがはるかに容易になり、実際に法人格を持っている団体が多い。しかし、多くの団体の経営力がぜい弱で、寄付などの資金獲得力が乏しいという点はあまり改善されていない。

 NPO法人を対象とした内閣府の最近の調査(平成21年度市民活動団体基本調査)でも、年間財政規模1000万円未満の零細なNPO法人が圧倒的に多い。また、収入源の構成をみても、寄付は全体の4%、会費と寄付をあわせても10%に過ぎない。これに対して、行政からの補助金・助成金は全体の12%、受託事業収入の18%と合わせると、NPO法人の収入のざっと3割は行政からの収入という姿である。NPOの経営基盤の強化は、引き続き日本の市民社会の大きな課題であるといえる。

 以上にみたように、1995年の阪神大震災と16年後の東北大震災では、災害のタイプや被災規模など様々な違いはあるものの、NPOや寄付・ボランティアといった市民社会が積極的な役割を果たすことが期待されているという点では共通している。これからの長い復興プロセスの各ステージにおいて、市民社会がリーダーシップを発揮し、官と民がうまく連携して被災地の復興に成果をあげられるよう期待したい。

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