2018年1号

2018年の新春を迎えて-日本力を取り戻し、世界を変えようー



 2018年は、「戊戌」(つちのえいぬ)の年である。「戊」は「絶好調」にあることを意味し、「戌」は「草木が枯れる状態」を示すと言われている。これを結び合わせると、2018年は、燃え尽きた豊かさや幸せの灰のなかから新たに芽生えた価値が成長することに繋がるのだという。

 「平成」の時代がいよいよ終わりを告げようとしている。平成の時代には、日本は「バブル経済」に始まり、「失われた20年」と言われた不況に苦しみ、「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」に見舞われ、世界経済が「アジア通貨危機」と「リーマン・ショック」に苦悩した時期である。その間、世界は、主要国の政治が内向きとなって国内利益を優先し、東西冷戦の終結で手に入れたグローバリズムが揺らぎ始め、国内では政権交代が政治機能を停滞させ、国際関係を不安定なものにした。最近に至って世界経済は危機を克服して成長軌道に乗り、日本の政治も規律を取り戻し、経済も成長率はまだ低いが少しずつ明るさが戻ってきた。本年にはこの流れをより確かなものにし、次の時代につなげたいものである。

 最近の国際社会の動きをみると、私は、3つの流れがあると考えている。

 その第一は、グローバリズムへの潮流である。米国トランプ大統領の「米国第一主義」でそれが揺らいでいるようにみえるが、私は、グローバリズムはもはや不可逆的となり、「大河の流れ」のように滔々として進んでいくと確信している。何故ならば、グローバリズムは、19世紀から20世紀にかけてのナショナリズムや保護貿易主義、そして大恐慌や2度にわたる世界大戦、さらに東西冷戦が象徴するイデオロギーの対立を超えて、人類が英知を結集して手に入れた「共存と協調」のメカニズムであるからである。
 その思想は、過去の悲惨な体験への反省から辿りついた多文化共存、相互理解、多国間協調、市場機能重視の理念に根差したものである。世界では北朝鮮の核開発や中東における対立などから脅威と不安が高まっているが、私は、必ずや世界の人々がグローバリズムの価値を認識し、それを高めていくに違いないと思う。

 第二は、イノベーションの展開である。最近の情報通信技術の革新は目覚ましいものがある。「創造的破壊」を説いたヨーゼフ・シュンペータ教授は、「イノベーション」を「労働や設備などの生産要素を今までと異なる方法で新結合すること」と定義していたが、私は、情報通信技術に支えられた最近の「イノベーション」を「知的情報を今までと異なる方法で創造的に新結合すること」と定義したいと考えている。
 「ドッグイヤー」といえば、情報通信技術の急速な進歩を象徴する表現である。人工知能やビックデータは、もはや実用段階に入っている。技術のフロンティアは、自動走行車、FINTECH、高度医療、再生細胞、新エネルギー、二酸化炭素固定化など無限に広がっている。
 今や、イノベーションは、国境を越え、業種を超え、企業を超え、分野を超えて展開されるようになっている。そして、世界経済の成長を促す原動力となる。

 第三は、人間価値の尊重であり、人間能力の発揚への関心の高まりである。20世紀の世界は、物質的な豊かさを求めて大量生産、大量消費、大量廃棄のシステムの高度化に努めてきた。物質的に豊かになった世界の人々は、今や、「人間とは何か」を考え始め、人間の価値に関心を懐き、構想力と創造力を高める傾向にある。
 日本では、伝統的に信頼と調和を重んじて秩序を保ち、知力と創造力によってフロンティアを拓き、美を追求して高次の文化価値を表現してきた。同時に、異文化に対して寛容で、それを自国の文化や技術と融合して新境地を開いてきた。このような価値を国際紛争のなかにある人々が理解すれば、国際協調は必ずや定着するはずであるし、最先端の知見の融合に適用すれば、新しいイノベーションを促すに違いない。私は、最近世界で広がりつつある人間価値を重視する思想は、グローバリズムの再生とイノベーションの加速にもつながると考えている。
 私は、かねてから「日本力」(ジャパナビリティ)の意義を強調してきた。それは、信頼、協調、勤勉、努力、寛容、自然尊重などである。これは、グローバリゼーション、イノベーション、そして人間価値重視の3つの潮流を支えるものである。
 しかしながら、最近の日本人は、このような素晴らしい日本の伝統的な価値を忘れかけている。日本が自らを改革し、「日本力」を高めるよう人々の意欲と努力を促していかなければならない。その上でそれを世界に発信し、新しいグローバリズムの定着とイノベーションの促進に向け、世界を変えていく時期にある。
 今こそ、日本は積極的に自己を磨き、知的創造力を高め、これを世界に発信していけば、日本は、仮に経済規模は縮小していっても、世界から信頼と敬愛を受けることができるであろう。



   

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