2008年1号

H19年度「排出クレジットに関する会計・税務論点調査研究委員会」報告書 H19年度 日本自転車振興会※ 補助事業


※平成20年4月より「財団法人JKA」に名称を変更




 排出クレジットに関する会計・税務論点調査研究委員会は、黒川行治委員長(慶應義塾大学教授)の下で5回開催された。京都メカニズムクレジット類の会計処理や法的性格の検討については、弊所でこれまでにも数年間にわたり行ってきたが、H19年末には、国際取引ログ(ITL)への接続も完了し、現物のクレジットを入手することとなったことから、日本企業の会計・税務処理への関心はさらに高まっている。
 そこで、本委員会においては、これまでに積み上げた検討内容を整理するとともに、新たに生じた具体的な論点に対して、先駆的に一定の解釈指針を示すことを目指して議論を重ねた。

■排出クレジットの会計・税務処理に関する事業者のアンケート調査
 排出クレジットの取得、購入に先進的に取り組まれている事業者に、現在想定されている会計・税務処理についてアンケート調査を実施し、その結果に基づき委員会で検討した。

 <アンケート回答と考察>
①排出クレジット選択:価格重視の傾向に加え、デリバリーを確実するためのプロジェクトの特定や、国やプロジェクトの分散などの手法が取り入れられている。
②クレジットの評価方法
  • 前渡金支出時:当委員会推奨の「無形固定資産」に比べ、「投資その他資産」とした回答が多いものの、その中には「取得後に無形固定資産に振替」との声も聞かれた。
  • 償却時の評価方法:当委員会推奨の「平均法」に加え、「個別法」との回答もあったが、未回答も多く、償却時期がまだ先であることから、今後検討が進むものと考える。
  • 償却時の勘定科目:「製造原価」処理も可能と考えられたが、回答は全て「販売費および一般管理費」であった。

③転売目的の場合の評価方法:決算政策における恣意性排除の観点では「平均法」が推奨されるが、「個別法」との回答が多かった。
④ファンド出資の際の評価方法:「出資金処理」と「長期前渡金処理」との回答がほぼ同数であった。排出クレジットを投資の成果として捉え、その時価評価および排出クレジットの流通性を想定したと考えられる回答もあり、今後注目を要する。
⑤他社から購入する際の間接費用:「仲介手数料、銀行保証料、保険料」などは取得原価とした回答が多く、「人件費」は期間費用処理との回答がほとんどであった。ただし、カントリーリスクなどに関する保険料については、期間費用処理が妥当である可能性がある。

■カーボン・オフセットに関する会計・税務上の論点について
 カーボン・オフセットの特徴として、用いられるクレジットの種類や、オフセットのタイプが複数するなどが挙げられるが、基本的には企業会計基準委員会実務対応報告第15号を援用しての処理が可能であると考えられ、以下のような論点で議論を行った。
①クレジット償却費の処理:「クレジット購入時」、「製品製造時」、「製品売上時」の3パターンにおけるケーススタディを実施。
②売り上げ時の処理:カーボン・オフセットにより発生する追加的な費用を「全額売上計上」とするか、「預かり金計上」とするか。
③CERとVERの違い:国連が認めたCERに対し、民間企業同士の約束であるVERによるオフセットを、CO2削減に対する対価とするか、単なる寄付行為とするのか。
④税務上の問題:カーボン・オフセットをしたときに、その販売費および一般管理費を損金として認識できるか。

■グリーン電力証書に関する会計・税務上の論点について
 グリーン電力証書は、自然エネルギーによる電気から、「環境付加価値」分を切り離して「証書」として売買することを可能としたものである。グリーン電力証書の普及拡大にむけた課題として、その環境価値が明確に認知されておらず、企業における自主投資の一つとしてみなされるため、(一般には)経費扱いが認められていない点があげられる。再生可能エネルギーシステムへの移行を目指すにあたり、より多くの企業の参入を促すためには、このような会計に係るインフラが早急に整備されることが望まれる。


■委員会メンバー(敬称略・50音順、H20年3月時点)
  委員長:  黒川 行治 慶應義塾大学 商学部教授
  委 員:  伊藤 眞 慶応義塾大学 商学部教授
    大串 卓矢 株式会社日本スマートエナジー 代表取締役
    小林 繁明 税理士法人トーマツ パートナー
    高城 慎一 八重洲監査法人
    村井 秀樹 日本大学 商学部教授
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