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1995年5月号

地球温暖化問題の最近の視点


金星と火星と地球の謎

 気候の専門家が地球温暖化に取り組み始めた頃、天文学者は夜空に温室効果 の力を現実に見せているものが二つあるのを発見した。一つは金星であり、もう一つは火星である。この二つの惑星ができたのはおよそ45億年前で、地球とほぼ同じである。存在する元素も地球とだいたい同じであり、その軌道の太陽からの距離も、太陽系全体で考えれば地球とさほど変わらない。大きさも金星は地球とほぼ同じで、火星は幾分小さい。 

 しかし、この三つの惑星は条件がさほど変わらないのに、そのたどった道は全く違う。金星の表面 はオーブンのように熱く、一年中、昼も夜も約450 度Cである。一方火星は一年中、両極から赤道まで地球の南極よりも寒い。水が存在しても、永遠にその表面 下に封じこまれたままであろう。こうした極端な温度の差は太陽からの距離では説明できない。確かに距離だけから言えば、金星が一番熱くて、地球は温かく、火星が一番寒い。しかし、距離が温度に及ぼす影響は正確に計算でき、それは金星を温室にし火星を氷室にするほど強くない。何故三つの惑星はこれほど違うのか。

 重要なのは、この三つの惑星における炭素の存在である。炭素の量 は三つの惑星ともほぼ同じであるが、地球上の炭素は大半が堆積物や岩石の中に封じ込まれている。地中にあるため温室効果 はもたらさない。ところが、金星では炭素の大半が放出されてしまい、金星の大気には地球の35万倍の炭素が含まれている。これだけの炭素の重量 だけでも、生物が住むことはできない。CO2 が地球の大気の100 倍の圧力を金星の表面に加えている。このためソ連の技術者は金星探査機を潜水艦並に頑丈に造らなければならなかった。金星に着陸するには、地球の800M以上の深海に潜るのと同じ圧力がかかるからだ。

 金星は厚い雲に覆われているため、地表まで届く日光は僅かである。この条件で計算すると表面 の温度は氷点下になる。ところが、金星には大量のCO2 があるため、表面の温度は鉛を溶かすほど熱い。金星はヴィーナスと呼ばれ、肉眼では冷たく美しく輝いて見える。しかし、近づいて見ると焦熱地獄なのである。

 一方火星は金星とは全く反対で、その空気は地球より100 倍薄く、金星より一万倍薄い。炭素は殆ど地中に閉じ込められている。強い温室効果 がないので、火星の表面は固く凍結している。火星はかつてはもっと活動的で、火山活動があったことが探査機により確認されている。この火山が活動していた頃には、地球と同程度のCO2 が存在し温室効果があったと考えられる。しかし今の火星は、非常に冷たく夏でも赤道付近の氷結した表面 が溶けることはない。まして冬は厳しく大気の一部まで凍結してしまう。

 金星と火星は親類にとっての教訓となる実例だと宇宙科学者はいう。金星は地球の400 倍もの温室効果を持つオーブン、火星は地球の半分の温室効果の冷凍庫だという。地球という家庭をきちんと維持していくためには、炭素の家計簿を監視しなければならないと、科学者はいう。大昔から人類は夜空に宵の明星を見つけると願いをかけてきた。その人類が今や地球を金星化しつつあるのだ。

島効果

 1960年代に、E.O.ウイルソンとロバートマッカーサーという二人の生態学者が、数学の才能を駆使して、ある島でどのぐらいの種が生き残れるかを、その島の大きさと本土からの距離に基づいて予測する公式を作った。彼らの島理論は生態学に大きな変革をもたらすものだった。また、この理論は非常に普遍性があり、実際の島、比喩の島を問わず、どんな島にも適用できた。珊瑚礁 は海の中の島であり、そこに生息する生物は島から離れて生きてはいけない。山頂は空の中の島であり、湖は魚にとっては島である。この公式が全ての島に適用できるというのは、生物圏の一部が孤絶したときには、必ず同じ事が起こるからである。島では隣接する地域はなく、移入してくる生物も殆どいないため、絶滅率が交代率を上回ってしまうのである。島が小さければ小さい程、また本土から離れる程、絶滅率と交代率の開きが大きくなる。その結果 種の数が減る。これを島効果という。

 これからの100 年の生物圏の運命は、温室効果の変化と同じように島効果しだいなのだということが明らかになってきた。そして島効果 を測定するための壮大な実験が、熱帯雨林の宝庫アマゾンで始まった。「ラヴジョイ・プロジェクト」と呼ばれるこの実験場所は、アマゾンの都市マナウスのちょうど北に位 置する。最近までここは原生林であったが、現在空から眺めると、農民が家畜の放牧のため何千エーカーもの森林を伐採し焼き払った後が広がっている。その中に正方形や長方形の森がある。これが「ラヴジョイの島」である。この群島は1 ヘクタールから100 ヘクタールの島まで10の島から成り立っている。この実験は始まったばかりで、島効果 の影響が歴然と現れるまで何百年単位の時間を要すると考えられていた。ところが、小さな実験場では一年間周囲から孤立しただけで、木立は鳥のさえずりを失い、樹木からは生き物が逃げ出してしまった。

 この実験を始めたラヴジョイは、大小を問わず全ての島がじわじわ失われていき、大きな島でもその劣化のスピードは変わらないだろうと予見している。彼はこれを「生態系の崩壊」と呼んでいる。そしてこの島を作り出したような出来事は、世界中の熱帯雨林で現在進行している。そこから導き出された答えは、生物を維持するためのノアの方舟はとてつもなく大規模なものが必要ということである。アメリカの西部には野生動物を保護するため14の国立公園という島が残されているが、代表的なヨセミテ国立公園でもすでに哺乳動物の四分の一の種が姿を消してしまったという。地球上の生命の連鎖は、人間が考えたよりも遥かに広い地域におよんでいる。

 温室効果と島効果 が結びつくと、どちらかの効果が単独で現れるよりずっと強力な影響を生物圏にあたえる。CO2 の増加は光合成でCO2を最も効率的に利用できる種が優位 になる。そうした植物の多くは雑草と呼ばれている種である。動物の生息地もそこにある植物により限定され、CO2 の増大は温室効果がないとしても、植物の競争条件を変えることで生態系全般 に大きな変化をもたらす。狭くなっていく島に閉じ込められた植物相や動物相の未来は、特定の植物が現在のまま変わらないとの前提の上に成り立っていると考えた時、温室効果 と島効果の相乗り効果は人類にとっても恐るべき脅威となる。

 この内容はジョナサン・ワイラーの著作「THE NEXT 100 YEARS」の一部を紹介したものである。上記の所だけ読むとかなりショッキングであるが、全体としては温室効果 の原理から最近の動向まで分かりやすく書かれており、地球温暖化問題を理解するにはいい本だと思う。