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1995年10月号

第2回「地球環境問題と安全保障」研究委員会から


 第2回「地球環境問題と安全保障」研究委員会では、米本昌平委員が「地球環境問題への国際的対応の現状と課題」について発表した。以下は、その趣旨を事務局にて要約したものである。


 地球環境問題においては、科学の分野から出された地球観が国際政治の討議の外枠をつくってしまう。冷戦の終焉過程と国際政治における地球環境の主題化とが連動しており、1988年のトロント会議の総括文書では地球大気の変化が国際安全保障にとっての脅威であるとうたわれ、1992年には、国連気候変動枠組条約が署名された。このフレームワークは科学史で説明できるものではなく、国際政治の構造変動の噴出物なのである。

 目下、先行的な動きは、ヨーロッパにおけるEUの環境政策である。1979年に長距離越境大気汚染条約が国連ヨーロッパ経済委員会の主導で署名されるなど、ヨーロッパ地域における大気汚染の国際交渉のフレームワーク、さらに国家を越えた環境保全機構が動きだしている。その中では、従来、環境汚染の甚だしかった東欧の旧社会主義諸国をヨーロッパの基準に取り込んでいることが注目される。

 以上の他、核汚染の問題がある。冷戦解体にともなう核兵器解体後の核物質の処理をどうするか。

 また、市場の統一化と環境基準との関係。市場の統一化にともない、労働条件と同様、環境基準も一元化しなければならない、という点が明らかになった。

 再生可能な自然資源の希少化と政権の不安定化という問題もある。有限な地下埋蔵物と違い、漁業、森林、食料、大気、淡水などに対する管理意識が従来はなかったところに、今日の自然資源の問題が出てきている。

 一般的な南北問題としての地球環境問題。経済成長を立ち上げたばかりの国では環境保全に投資が向けられないので、年GDP1人当たり5000ドルぐらいの国の環境悪化が目立つ。そこで、先進国の資金・技術・人材を、途上国の環境保全に投資する、といったことが考えられる。普通 、汚染問題はPPP(汚染者負担原則)だが、資金を出して相手国の脱硫装置に投資することを考える必要があるだろう。ヨーロッパの環境保全機構は、安全保障をめぐるパワーポリティックスの副産物として生まれ、これによって科学インフラが確立され、モニタリングを行い、そのデータを踏まえたシミュレーションを行った。日本の場合、アジアでの環境モニタリング観測シミュレーションシステムを作ることが、国際フレームワークへの布石になるのではなかろうか。

 次に、冷戦の維持・解体のためのコストという問題がある。たとえば、アメリカでは、軍事システムを地球環境対応問題のシステムに変えてゆくという提案がなされた。アメリカの科学政策は、冷戦が終わった後の軍産複合体を地球環境問題に転用しようとしている。もう一つは軍事施設をめぐる環境問題がある。ただし、軍事技術の民生転換は実際問題としてはむずかしく、こうした動きは短期的な技術政策であろう。

 さて、ヨーロッパで発達した国際環境保全機構が、日本のまわりには何もない。今年行われた酸性雨国際会議でも、次は東アジアだという声があった。しかし、先進国間の環境外交が成り立ったヨーロッパと異なり、日本がアジアの国々に対し、国内投資を成長より環境に向けろ、ということはむずかしい。条約よりも、たとえばアジア環境憲章のようなものをAPEC等の場で打ち上げるといったことが望ましいのではないか。

 また、対中国の場合、社会主義国の環境政策に西側が資金を出すということのむずかしさもある。日本の資金で中国に環境投資を行うにも相当な外交交渉を要するだろう。日本は楽観的すぎるのではなかろうか。5年後の酸性雨の会議の前に布石を打つ必要がある。

 そのさい重要なことは、いろいろな国の科学者を日本のお金によって、エンバイロンメンタル・セキュリティーの動きに向けて巻き込んでゆくことだと思う。


 以上が米本委員の発表の概要であるが、これを踏まえ、以下のような意見・質問が出され、討議が行われた。

  • 冷戦の終焉の捉え方については、軍事安全保障の立場からは、武装解除ではなく、戦力の削減と見ている。

  • 旧ワルシャワ条約機構の軍民転換の問題、欧州連合への加入と欧州共通 の環境基準への東欧の取り込みとはやはり相当関係しているのではないか。

  • 冷戦の崩壊にともなって、科学と政治の結合が起こったという見方ができる。また、ヨーロッパを先駆とするリージョナリズムであるが、国際政治の主体、国家主権というものをどう捉えるか、あるいは国際機関との関係で地域主義が可能なのか、という問題がある。

  • 中国の場合、中央政府が環境問題を認識しても、地方が動かないと、中央政府だけでは解決しない。

  • ODAの資金で環境保全の投資をするにせよ、中国全土を対象にするわけにはいかない。環境はいわば上級財だから、ある程度開発が進んだところへ日本の資源を向けないと効率が悪いのではないか。

  • 日本の場合、意図せざる軍民転換によって、いってみれば〔商産複合体〕を作った。これが、冷戦後の軍民転換の教訓になるだろう。

  • 途上国の政策決定者の意識をどう変えてゆくか、相当の工夫が必要だろう。

  • PPP原則に対する被害者負担原則の実例はある。被害者負担でなければ、アジアの場合はむずかしい。ただし、その負担に対する日本の国内の合意が必要だ。