ニュースレター
メニューに戻る


1997年9月号

イギリスの金融制度改革と国営企業の
民営化について


 6月22日から28日の間、「市場経済のグローバル化のための新要素を考える」研究委員会の調査の一環としてロンドン等を訪問し、金融制度改革、民営化等について国際機関、政府関係者等へのインタビューおよび意見交換を行なったので、以下その概略を報告する。

イギリスの金融制度改革

 現在、わが国でも金融制度改革(日本版ビッグ・バン)は、財政構造改革、経済構造改革等6つの最重要課題の一つとして本格的な取り組みがなされつつあるが、元祖イギリスのビッグ・バンは1986年に実施された証券取引所を中心とする大改革であった。

 この改革は、(1) 単一資格制度の廃止、(2) 手数料の自由化、(3) 会員権取得条件の緩和を骨子とし、また、SEAQという新売買制度も導入された。同時に新しい制度の下で規制の見直しも行われ、金融サービス法が施行された。

 このような大改革の行われた背景には、国際化の進展、国内機関投資家の発展、通 信・情報処理における技術革新等により従来の体制では対応できなくなっていたこと。とりわけ1979年の外国為替の自由化以降証券取引の国際化の進展に伴い各国証券市場との競合が強く意識されたことがあった。

 ビッグバンを経て、1987年の暴落以降低迷していた株価は91年より反騰し、イギリスの経済の好調さと相俟って現在まで長期的上昇傾向にある。しかし、イギリスの証券業者のほとんどが預金銀行やマーチャント・バンクないし海外の大手金融グループに買収され、その支配下に置かれるようになった。

 イングランド銀行をはじめ政府関係者は、銀行業の自由参入は海外資本力の導入や金融技術の蓄積などがロンドン市場の競争力を高めているとメリットを強調し、海外資本の支配は何ら問題にしていないとのコメントがあったが、近年イギリスの証券市場は海外市場との競争をますます意識せざるを得なくなっている。

 国際化の流れはEU通貨統合の動きを含めますます強まっており、イギリスの伝統的な慣行の見直しが迫られるようになってている。

金融機関の規制

 イギリスにおける証券規制は、1986年金融サービス法以降基本的な枠組みに大きな変化はなく、大蔵省が監督権限の大部分を民間に委譲し、規制監督は自主規制を基本としている。これは規制嫌い、公権力の介入に抵抗してきたシティの長い自治の伝統から生まれた英国独特の制度である。

 規制体制の中心はSIB(Securities and Investments Board)であり、その委員は大蔵省とイングランド銀行が共同で任命する。SIBは大蔵省の委任により各自主規制機関(SRO)の承認、監督を行うが、あくまでシティの自主規制体制の一機関であり、経費は業者からの手数料等で賄われ国庫支出はない。

 労働党新政権では現在イングランド銀行の持っている銀行業務の監督権もSIBに移行し、監督機関を一つにまとめる案が出されている。これは、一つの企業(あるいはグループ企業)がさまざまな金融業務を行うようになっており、証券業務と銀行業務の境界がはっきりしなくなってきたため、監督を一元化したほうが効率的であるためである。

 また、現在SROは規制する投資業務の範囲によって3つに分かれている。(もともと5SRO体制であったが、重複の無駄 が多く規制コストが多くかかるので1991年に現在の3SRO体制になった。)SIBの担当者の話では、最終的には一つの監督機関に集約されることになるようである。

 ただし、自主規制という制度は、91年のマックスウェル事件(年金資産盗用)の際にの見直しが検討されたように、監督システムとしては限界があることは否めない。

国営企業の民営化

 サッチャー政権以来の保守党政権は、国家は経済活動に参加せず、企業が自由に活動できる環境作りに専念するという方針のもと、電力や水道、ガスなど旧国・公営企業の民営化を推し進めてきたが、旧国鉄(BR)の分割民営化がほぼ完了し、まだ民営化されていない事業分野としては、郵便事業や地下鉄事業などが挙げられるだけとなっている。

 英大蔵省の民営化担当者によれば、労働党新政権においても基本的な路線の変更は無く、民営化できない部門はヘルス部門、防衛部門くらいであるとのことである。ほとんどの政府関係者はイギリスの経済が他の欧州諸国よりも好調なこともあり、民営化のメリットを強調、イギリスの民営化プログラムが他の国の民営化のモデルととしても有効であると、自国の民営化の取り組みに強い自信を持っている印象を受けた。

民営化の目的

  1. 競争原理の導入による経営の効率化やサービスの向上、

  2. 個人株主の拡大、

  3. 株式売却等による財政赤字の削減効果

民営化の成果

  1. 50の主要企業の民営化、96万人の従業員を民営企業へ移行、

  2. 個人投資家が1979年の300万人から1000万人に増加、

  3. 79年から96年までに国営企業の民有化によって600億ポンド(11兆4千億円)の利益

 また、電力、ガス、通信等の公益企業については、民営化後、サービスのチェックのためそれぞれ独立の監視機関を設置、サービスの向上、競争の促進、消費者の苦情処理等を行っている。
 実際、民営化により料金が下がったり、サービスが向上したという消費者の声も聞かれ、政府のねらいは概ね成功していると思われる。
 しかし一方で、水道のように民営化後、料金が上がったのに、経営者の高給、株主への高配当が行われるなどの問題も出てきており、民営化された公益企業に対して、市場寡占により多額の利益をあげているとの批判も強い。
 労働党新政権は民営化企業に一時的課税(ウインドフォール・タックス)を打ち出しているが、特定の企業だけに過去の利益までさかのぼって課税する新税に企業側の反発は強い。
 また、政府は寡占の弊害を防ぐため、電力などで規模の大きな企業の分割を行い、国内での競争を促進するような措置を行っている。
 こうした民営化した公益企業への政府の介入は、株主の立場から見ても望ましくないとの意見もある。
 また、国際的な競争を考えた場合、当該企業の競争力に悪影響を及ぼす可能性がある。

 わが国の経済制度改革、行財政改革を推進するにあたって、確かにイギリスの金融制度改革や国営企業の民営化の経験に学ぶべき点は多い。しかし、雇用制度一つをとっても日本とイギリスでは違うように経済システムは大きな違いがあり、エイジェンシー制度など同じものをそのまま日本に当てはめることは困難であろう。イギリスは保守党政権の下で強引に民営化やエイジェンシー化を進めてきたため、効率的なシステムを実現した一方で、弱者の反発を買った。日本でも民営化などの改革が弱者切り捨てにつながらないような仕組みを考える必要がある。

欧州主要国の経済指標

  1994 1995 1996 1997
イギリス 実質GDP成長率 3.9 2.5 2.1 2.8
消費者物価上昇率 2.5 2.6 2.8 2.3
失業率 9.6 8.8 8.2 6.8
フランス 実質GDP成長率 2.8 2.2 1.3 2.8
消費者物価上昇率 2.1 1.7 1.8 1.6
失業率 12.3 11.6 12.3 12.5
ドイツ 実質GDP成長率 2.9 1.9 1.4 2.3
消費者物価上昇率 2.7 1.9 1.9 1.9
失業率 8.4 8.2 9.0 9.7
EU 実質GDP成長率 2.9 2.4 1.6 2.4
消費者物価上昇率 3.3 3.0 2.7 2.2
失業率 11.3 10.9 11.0 10.6

(資料:欧州委員会「1997年春季経済予測、注:97年は予測値」)