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1999年2月号

SYMPOSIUM

GISPRIシンポジウム1998

「21世紀の世界秩序- 市場、国家と国際社会の役割」


 さる1998年12月2日、ダイヤモンドホテルで開催された標記国際シンポジウムのうち、第一セッション「持続可能な発展と国際社会のあり方」の部分を紹介する。


<SESSION1> 持続可能な発展と国際社会のあり方

プレゼンテーション(茅陽一慶応大学教授)

 最初に、サスティナビリティに関する二つの見方を紹介。一つはサステイナブル・ディベロップメントという国連のBrundtland Commissionの1987年の報告書「Our Common Future」で出た考え方で、環境保全と経済の発展は矛盾しないというのが基本の趣旨である。一方、環境と経済発展は相反するという議論も多く、有名なのが1972年に出版されたローマクラブの「成長の限界」報告である。ここではサステイナビリティには、人口と同時に、経済の成長を止めることが必要という提言であった。それぞれそれなりの根拠がある。国連報告の考え方は、両方を共存させなければならないというところにある。ローマクラブの言う文明のサステイナビリティの議論については、いろんな形で文明が地球の自然の容量 を上回った活動をしている所が随所に現れている。温暖化の問題は、その一つであるが、広くこの問題に関連している点で象徴的である。問題なのは、この2つの違った主張をいかにバランスさせた答えを探すかである。

 戦略として、まず、先進国の場合には、方法はともかく、物理的に消費をドラスチックに減らさなければいけない。先進国がそういう努力をしない限り、答えがない。一方、発展途上国には先進国と違うパスをとってもらうことしかない。それにはリープ・フロッギングしかない。この考え方は、発展途上国が先進国の道を後追いするのではなくて、先進国の先端技術に一足飛びに飛んで効率的なエネルギーの使用、効率的な資源の使用を実現することである。これには先進国がいかにうまく協力するかということと、先進国がどういう技術がそれに望ましいかということを提示することが大事である。

 この課題にいくつかの例を示した。発展途上国の場合に、まず一つは、エネルギー利用の中で、できるだけ組み合わせ型の技術をやってもらうのが望ましい。天然ガスにおけるコンバインド・サイクルなどの例を挙げ、同時に現在のこれらの技術の発展途上国への適用の限界と課題に言及した。また、発展途上国の問題では、従来の技術を頭の中に置いてうまく繋ぐことの重要性を挙げた。リープ・フロッギングでも、従来の施設がある場合、ジャンプし切れないことがある。そうした場合には繋ぎの技術が重要である。

 先進国側の課題としては、ドラスチックな消費の削減のため、一つは自然エネルギーを利用すること、また、抜本的にシステムを変えて大幅な変革を試みる考え方の有用性を指摘した。

 留意すべきは、いろんな面で蓄積効果を考えなければいけないことである。大きな技術革新が起こるとしても、ただち効果 はでず、数10年先になる。そういう技術を今から開発すれば、長期的によい方向に進むということである。

コメンテーションおよび討議

(司会:河野光雄財団理事)


森嶌昭夫上智大学教授

 温暖化問題の地球環境問題における連鎖性を挙げ、持続可能な発展という広い分野のひとつの断面 として、ブエノスアイレスでのCOP4の議論を含め、温暖化問題の課題、中でも途上国の参加の重要性を協調した。

 そして、途上国が温暖化防止の体制の中に参加をしてくることの条件として、まず第1に、先進国が明確な削減の政策をとり、ドラスチックなエネルギー消費の削減を実現することを挙げた。

 第2に、途上国への、ニュー・アンド・アディショナルな技術、資金の流れを漸次強化して行かなければいけないこと、そして、その中で先進国と途上国が協力をして一定の技術開発を行う、あるいは技術の改良を行うことの重要性を挙げた。CDMという枠組みの中で、どう貢献できるかを明確に位 置づけていくべきであるとする。同時に、技術を移転するとして、インセンティブがなければならないが、CDMをめぐる国際的な枠組みの中で、貢献をしながら、我が国にとっても意味のあるものに仕組んでいくことの重要性を強調された。


吉岡完治慶応大学教授

 合理的な負担と、達成されるメリットを技術進歩への支援とする、経済上のメカニズムの重要性を挙げ、その中で、基本的な課題として、環境権に関する地球規模のコモンウエルス、制御の仕組みという国際社会の課題をつくることを挙げた。

 その中で、途上国の参加問題の重要性を挙げ、課題の大きさとリーケージ問題が出てくることを問題としている。そして、今基本的に欠けているものとして、途上国の参加の仕方で、参加すると得をし、参加しないと何らかの損をするものが、余り議論に入っていないのではないかとする。第3に、経済発展と環境保全がトレードオフかどうかという議論に関連し、途上国の中には相当車の両輪の部分があり、そのボトムアップと途上国の参加問題を一体にすることを考えるべきだと強調した。

中国および発展途上国問題について

周生RITE主任研究員、大連理工大学教授

 中国の直面している難題について説明した。第1は水不足であり、第2は貧困の問題である。そして、第3の大きな課題が環境問題である。まず大気汚染で、それから水汚染である。渇水という問題が中国の最も深刻な問題であるが、そこからくる水質汚染の問題がある。次は廃棄物の処理問題という新しく直面 している課題、さらに、砂漠化とかいろんな生態系の破壊とかの難問を挙げている。それから、地球温暖化問題である。その温暖化問題に関するシミュレーションをいくつか示された。

 中国は温暖化対策として、1番目に、今は取られていないが経済成長管理、2番目に人口抑制、3番目に抑制技術に関する対策、これはまず、排出の抑制、第1順位 のオプションで、省エネ、高効率化であること、そして、燃料転換、非化石エネルギーの導入と、吸収源の拡大、環境劣化対策としての排ガス処分であるとしている。これらは、もともとはCO2を削減する対策ではなく、他の、例えば経済効果 とか、SOx削減対策とかを改善するために実施したものである。しかし、結果 的には、CO2の削減とつながっていて、これが先進国と途上国の温暖化問題での協力の接点ではないかと主張されている。

 その1つの事例を紹介。大連にある石炭火力発電所で、技術は日本から導入したものである。中国の火力発電所が、もしこの発電所と同じような効率まですべての発電所の効率を向上できれば、中国全体で、9500万トンの石炭を節約でき、CO2の削減では炭素換算で6500万トンになる。課題は、他の火力発電所をどうするか、その資金の調達が問題になる。もう一つは、このような発電所でも、脱硫装置はつけてないことである。

 温暖化問題への途上国に参加問題では、第1に先進国は率先して削減しないといけないこと、能力からして、模範的な役割が必要であるとされている。第2に、CO2の排出抑制ばかりを途上国に要請するが、CO2だけでは魅力はない、相互効果 のある対策への支援が非常に大事だと思うと指摘している。例としては、火力発電と石炭利用技術、原子力技術への協力、そして経済的仕組みについて提案している。合弁事業でも、これからは環境利益も入れて、双方とも経済利益と環境利益を享受できるようなシステムを導入すること、例えば、CDMとか共同実施とか、積極的に実施でき、両方とも受け入れられる体制をつくることが重要で、そうでないと効果 は期待しにくいのではないかと強調された。

茅教授

 日本側から働きかけている事例として、1つ目に、石炭関係の技術で、脱硫装置のコストが大変高いこと、水がないところが多いため、乾式ないし半乾式脱硫、さらに簡易脱硫の開発を挙げ、2つ目に、同じ石炭で、効率面と環境面と両方にきくのがやはり先端技術だとして、コール・クリーニングなどを挙げている。

 また、石炭の重要性は別として、長期的に考えると、天然ガスの導入を考えていくべきであるとする。課題の大きさは考慮しながらも、先進国の協力を含めて、天然ガス転換をするためにどういうステップが要るかという議論が必要だと強調している。そして、中国の政策の課題として、ノー・リグレット型が現状だが、もう少しミニマム・リグレット位 に変わってきてもいいのではないかと強調されている。


森嶌教授

 中国では大気汚染防止法を改正して、発電所については脱硫装置をつけることに法律上はなっているが、実際には地方ではなかなか付かない。さらに、汚染に対するチャージの仕組みもあるが、実際には有効に機能していない。動かすためには、政治的な意思と法律制度をつくる。法律制度はつくっただけではなくて、それを動かす意志が必要であるとした上で、ぜひ我々と議論をしながら検討して貰えればと思っている。これも一つの協力だと思うと強調された。

吉岡教授

 中国側はかれらが有用と考えるものは本気で合弁したいと話が進むが、日本側は非常に怖がる。また持っていかれるのは嫌だというのが実情ではないか、今、中国側はいろんなことに非常に積極的になっていると指摘。中国で必要になるのは、日本から技術移転で持っていったサイズや数では間に合わない。やはり現地生産しかないと、この面 での課題の多さを強調された。