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1999年5月号

OPINION

日本の知的国際貢献と教育の国際化

早稲田大学社会科学部教授

浦田秀次郎


  20世紀末の世界経済における一つの特徴は、経済活動の急速なグローバル化である。通 信・運輸技術の目覚ましい発達や経済活動の急速な自由化によって、ヒト、モノ、カネ、が迅速かつ大規模に世界大に移動するようになった。グローバル化は、世界経済に大きな利益をもたらしたが、被害も発生させた。消費者は商品やサービスを世界各地から低価格で購入できるようになったことで利益を得た。生産者への影響は複雑である。グローバル化によって事業機会を拡大することができた生産者は利益を得たが、海外からの競争激化によって被害を受けた生産者もいる。 

     グローバル化によって引き起こされた近年における最も深刻な問題はアジア金融・経済危機に代表される国際金融危機であろう。アジア経済は多国籍企業のグローバル化によって投資と輸出を伸ばすことで高い経済成長率を達成することができた。しかし、1997年には投機的活動のグローバル化による投機資金の流入と流出により金融・経済危機に陥った。その影響はロシアや南米へと伝染し、国際金融危機にまで発展した。

    経済のグローバル化は順調に進めば、経済の活性化を通じて世界経済の成長に寄与する。ただし、グローバル化による被害の発生を回避するような予防システムの構築と被害が生じた場合に被害を最小にとどめるような措置が必要である。経済活動のより一層の自由化を目指して、来年から、世界貿易機関(WTO)による新ラウンドが予定されている。自由化によるグローバル化の進展が予測される中で、グローバル化から生じる様々な問題を回避し、順調な経済成長を可能にする国際金融・経済システムの再構築が緊急な課題である。 

     日本の国際貢献は政府開発援助(ODA)を中心とした資金供与という形をとってきた。実際、90年代においては、日本は世界最大のODA供与国であり、アジア危機に際しても積極的に資金供与を行った。しかし、他の先進諸国と比べると、国際経済システムの構築や人的資源の育成といった知的貢献は遅れている。 

     国際経済社会への日本による知的貢献が遅れている理由は少なくても二つ考えられる。一つは国際経済社会との関係が限られていることであり、いま一つは、それとも関係するが、国際語である英語を駆使できる人材が少ないことである。これらの問題の根底には、日本の教育における国際化の遅れがあると思われる。 

     近年、海外へ出国する日本人は急速に増えているが、出国者の8割近くは観光目的であることから、生活体験などを通 じての本格的な国際経済社会との繋がりを深化させるヒトの動きは限られている。知的国際貢献を行うには、国際社会との接触を深めることで世界各国の経済や社会に関する理解を高めなければならない。国際社会を体験するには、できるだけ若い時期がよい。例えば、近くに住む外国人を小中学校に招いて話を聴いたりすることで、小中学生に国際社会への興味を抱かせたり、高校や大学では、外国の学生との交流による体験を通 じて、国際社会に対する理解を深めることができる。 

     国際社会で貢献するには、国際語である英語を使ってのコミュニケーションが不可欠である。英語の実践能力の判断に「外国語としての英語の能力試験(TOEFL)」の結果 が用いられることが多いが、日本人の平均点は他のアジア諸国の人々の点数よりもかなり低い。語学教育は低年齢から始めることが効果 的である。日本でも、小学校低学年からコミュニケーションを重視した英語教育を始めるべきであろう。もちろん、日本語の教育もきちんと行わなければならない。世界には複数の言語を使いこなす人々は多い。日本人の英語学習能力が劣っているのではなく、適切な学習環境が与えられていないことが問題なのである。若い人たちに、英語を用いて世界各国の人々とコミュニケーションすることが楽しく、素晴らしいということを実感させることが重要であろう。 

     将来、日本では高齢化による貯蓄率低下が予測されることから、資金供与による国際貢献を現在のような規模で続けることは難しくなるであろう。そのような資金事情からだけでなく、よりより国際経済社会の構築にあたっては、知的貢献が重要である。日本の知的国際貢献を拡大するには、教育の国際化を急速に進めなければならない。