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1999年6月号

CONFERENCE

IPCC第1・第3合同作業部会および第15回全体会合

―コスタリカ―


 中米コスタリカ共和国首都サンホセのコロビシメリアホテルにおいて1999年4月12日から14日にIPCC第一・第三合同作業部会により航空と大気環境に関する特別 報告書の審議が行なわれた。また次いで15日から18日までIPCC第15回全体会合が開催された。ここでは両会議の報告をする。


I 第1・第3合同作業部会
「航空と大気環境に関する特別報告書」

 1997年9月第13回会合においてIPCC第二次評価報告書(SAR)に追加する内容として特別 報告書「地域別影響」が承認された。今回は「航空と大気環境」に関する特別 報告書の受諾と承認が目的であり、気候変動の科学的知見を主に扱う第1作業部会と、社会的影響・緩和策を扱う第3作業部会との合同部会において審議された。尚、現在作成中の特別 報告書は他に「排出シナリオ」「技術移転」「吸収源」がある。出席者はIPCC関係者を含め約70カ国180名で、日本側参加者9名であった。

1.本報告書の意義

 本特別報告書は航空機から排出される温室効果 ガスがオゾン層や気候変動に対する影響、および対応策についての科学的、技術的、社会―経済的知見を集大成することを目的としており、特に対流圏上層部と成層圏下部に直接排出される航空機からの排出ガスの潜在的影響評価と将来の予測を行ったものである。国際民間航空機関(ICAO)からの要請によりオゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書の科学評価パネルとの協力によって作成された。
 今回の報告書で1992年時点では航空機の影響は放射強制力(Radiative Forcing)で0.05W/m2であり、人為的な活動全てによる総放射強制力の3.5%を占めていたことが報告された。シナリオの幅を考えると2050年には0.13-0.56 W/m2に増大し、1992年の2.6-11倍になると予測されている。

2.議事内容

 報告書はSPM:Summary for Policy Makers(政策決定者向け要約)と本文(Underlying text/material)からなる。このSPMをLine by Line、Word by Wordで異例の長時間にわたる審議を行い、最終日の午前3時に至ってようやく承認し、続く全体会合で受諾されることになった。

3.討議の概要

(1) 機体とエンジンの技術オプション、燃料オプション、運行オプションなどの技術的なオプションに関しては比較的議論がスムーズに進んだが、規制・経済的事項についてはサウジ、ベネズエラ等の産油国、中国を中心とする途上国が大幅な修正を要求した。特に注目すべき争点は、京都議定書に関連した記述案についてである。議定書が未発効であること、また途上国・先進国関係の問題から、結局、議定書にかかわる記述は削除された。今後同様な状況が技術移転や吸収源の特別 報告書、第3次評価報告書(TAR)(特に第3作業部会関連)の審議・採択時に生じる可能性が高い(実際、後半の全体会合での審議においても同様であった)。また、環境税についての記述については、研究事例の存在とその有効性が示されるに留まった。排出量 取引、市場原理に基づくアプローチについても、航空および航空機産業についてはまだ事例がなく、米国における二酸化硫黄の事例とモントリオール議定書に基づく物質(フロン等)についての事例(可能性)があることを示すに留まった。

(2) SARの要点をボックスで紹介することに対し、削除するべきとの意見があったが、独立した報告書であり(必ずしも読者がSARを見ない)、重要な情報であることから残すこととなった。

(3) 図表については、より情報を加えて読みやすい、わかりやすいように工夫することとなった。例えば航空機から温室効果 ガス排出の将来予測をするためのシナリオでは、単に交通量や燃料消費量だけではなく、人口やGDPの伸びなどを加えることとした。またIS92シナリオとの関係や具体的な値を図表に示すこととなった。

(4) 不確実性が高いこと、地球大気に与える航空機からの温室効果 ガス排出の影響についてさらなる研究が必要であること、技術について評価したことを述べ、今後の問題点、研究課題についてまとめられた。

II 第15回全体会合

 会議は4日間にわたって行なわれた。出席者はIPCC関係者を含め約90ヶ国200名で前日までの合同作業部会よりも大規模であった。当初、難航・遅延が予想された審議(後述のPRSQ(Policy Relevant Scientific, technical and social-economic Questions)や作成手続きに関する事項など)もあったが、ワトソンIPCC議長の采配で迅速に進み、最終日夕刻には閉会を迎えた。会議直後の議長の爽快な笑顔が印象的であった。

1.議事次第・内容

1) 開会式

 ワトソンIPCC議長の開会の辞で始まり、WMO、UNEP、UNFCCC事務局長、そしてコスタリカ共和国第二副大統領環境エネルギー大臣の挨拶が続き、IPCC事務局長サンダララマン氏により閉会の辞があった(写 真)。

2) 第14回全体会合報告書案の承認

3) 2000年〜2002年の作業計画および予算

 歳入不足を踏まえ、1999年予算案の変更および2000年の予算案が提出され承認された。2002年の予算の見通 しについては事務局で早急に作成されることとなった。予算額に対して各国からの拠出額が少なく予算全体額を満たしていないことから、各国政府への増額要請と共に、GEF(Global Environmental Facilities)等の国際機関に対しても拠出要請を行うことが適当であるとの決定案が採択された。

4) 第1・第3合同作業部会会合(4/12〜14日開催:前頁参照)のSPM承認

5) 統合報告書で扱うべき政策に関する科学・技術的および社会・経済的問題(PRSQ)

 TARでは、各作業部会の結果をまとめた「統合報告書」を作成する事になっている。この「統合報告書」は各作業部会のSPMと、事前に用意されたPRSQに答える部分で構成されることになる。今回、この問題自体について議論を行った。ワトソン議長からの原案に基づき議論が進められた。新しいPRSQを前頁に付記した。
 ここでも大きな争点となったのは京都議定書の扱いであった。結局サウジアラビア、中国、ベネズエラを中心とする途上国の反対により京都議定書レベルの議論を削除し、対策を講じない場合の将来予測、そして対策の程度と時期に関し感度解析を追加することとなった(問題5、6)。他にも政策に勧告的な表現が変更された部分がいくつかあった(問題8、9)。その他細かい部分では、まずタイトルで、旧案では科学的質問、とだけであったのを技術的及び社会・経済的質問となった他、「地球規模」に加え「地域規模」、「費用」に加え「便益」についても重視された点、気候変動がもたらす影響の部分で様々な現象が追加された点(問題3)など、全体的により広範囲な問題を扱うこととなった。大気中二酸化炭素の安定化濃度予測については具体的な数量 表記を避け、現在濃度の約2倍もしくはそれ以上という表現をとった(問題7)。また、「不確実性」を「将来の課題」とみなし表記することになり、様々な議論の不確実性を問題の解答の段階で明確にする必要が生じることとなった(問題10)。
 統合報告書の完成までの期間は5.5ヶ月の短期案を望む議長に対し、日本、中国、ケニアを含む各国の大勢は7.5カ月の長期案を支持した。決定は次回の事務局会合に持ち越されたが、議長は長期案の採択を示唆した。

6) 報告書作成手続きに関する事項

 TARおよび各種特別報告書の作成手続きに関する基本的規則が採択された。この中で、政府レビューおよび専門家レビューの期間については原則8週間とするが、IPCC総会で期間短縮を決めることができるとの合意が成立した。本件は7年越しの案件であり、最後は各国とも今回で決着をつけようとの強い意志の下、妥協が測られた。

7) IPCCとFCCCの関連

8) IPCCとモントリオール議定書の関連

 ブエノスアイレス、カイロにおいてモントリオール議定書参加国及びUNFCCC/SABSTAからの要請によりモントリオール議定書のTEAP:Technical and Economic Advisory PanelとIPCCの共同作業についての合意がなされた。第3次評価報告書第3作業部会の技術的オプションに係る章においてHFC排出緩和に関する付録を追加することとなった。執筆者はTEAPとIPCCから共同で指名される。

9) 作業の進捗状況報告

(1) 第1作業部会〜第3作業部会
 それぞれについて第3次評価報告書作成の進捗状況が報告された。

(2) インベントリープログラム インベントリープログラムの成果 物は、作業部会の承認は必要とせず、IPCCで承認することとなった。また、政府レビューおよびエキスパートレビューを同時に8週間行うことが承認された。なお、タスクフォースの詳細については次回のビューロー会合で決定されることとなった。

(3) 特別報告書「土地利用変化および林業」
 吸収源に関する特別報告書作成の進捗状況が報告された。また政府レビューは4週間となった。なお、レビューエディター(査読者)の選出は議論されなかったがワトソン議長から今後数週間ののちに決定されるとの見通 しであるとの情報が得られた。

(4) クロスカッティングイシュー
 各作業部会に横断的に関連する問題点(クロスカッティングイシュー)について谷口、パチョーリ両副議長を中心に指針を取りまとめている。両議長より電子メールコンファレンスが行われたこと、近々に関連するワークショップを2回開催予定(うち1回は我が国で6月に開催。)であることが報告された。また情報の電子化についてパチョーリ副議長よりグループによる検討結果 についての中間報告が行われた。

10) その他事項

11) 次回会合の決定

 次回総会は特別報告書「土地利用変化および林業」、2002年の予算の審議と採択、インベントリータスクフォースの体制・計画について議論されることとなった(平成12年5月に開催予定、場所未定)。また、特別 報告書「技術移転」「排出シナリオ」の審議、承認のため第3作業部会全体会合が平成12年3月8〜15日にジュネーブにて開催予定である。

統合報告書で扱うべき政策に関する科学・技術的および社会・経済的問題(改訂版・抜粋)(PRSQ: Policy Relevant Scientific, technical and social-economic Questions)

問1 科学的、技術的、および社会経済学的解析は、気候変動枠組条約の第2条における「気象システムへの人為的な干渉」を危険な程度にしているものの見極めにどれだけ貢献できるのか?

問2 産業革命前から現在までの間に、地球の気候システムに起きた変化には、どのような証拠があり、その原因と影響はどういったものであるか?

問3 温室効果ガスおよびエアロゾルの大気濃度が上昇することによる影響としてはどういうものがわかっているか、また、地球規模および地域規模での人為的干渉による気候変動について、下記の項目(省略)で予測されているのはどういうものがあるのか?

問4 気象システム、生態系、および社会経済部門の変化と、それぞれの相互の関係が変化することに伴う不活性化とその時間的な長さについて知られていることは何か?

問5 TARで用いられているシナリオ(気候変動政策による干渉がなかったとしての予測)に基づいた温室効果 ガス排出の増加幅に関して、次の25年、50年、100年での地域的・地球規模の気候環境上の影響、社会経済的影響としてはどういうことがわかっているのか?

問6 過去および現在の排出を考えた場合、一連の排出削減活動を導入する規模とタイミングは、気候変動の程度、規模、および結果 にどう影響してくるのか、また地球規模、地域レベルの経済にどういう影響を与えるのか?

問7 温室効果ガスの大気濃度を(二酸化炭素当量 で)現在の水準濃度からその2倍以上の濃度までの範囲で安定化した場合、エアロゾルの効果 をできるだけ取り入れたとして、地域および地球規模でどういう気象上、環境上、社会経済上の影響がおきるか、感度の研究からわかったことは何か?安定化までの道筋が異なるものを含めた各安定化シナリオについて、問5での一連のシナリオと比較し、下記の観点(省略)からコストおよび便益の程度を評価する。

問8 予測される人為的な気候変動と他の環境問題、例えば、都市の大気汚染、地域的な酸性雨の発生、生物の多様性喪失、成層圏のオゾン層破壊、砂漠化、土壌の荒廃との間におきる相互の干渉関係でわかっているものにはどういうものがあるか?また地方、地域、および地球規模で、広範囲に持続可能な発展を実現する戦略に気候変動対応戦略を公平な形で組み込む上で、そういった相互の干渉関係が環境上、社会的、経済的コストと便益、および関係にどういう影響をおよぼすのか?

問9 温室効果ガス排出削減の可能性、コストと便益、そして時間的枠組みについてわかっているものはどういうものがあるか。

問10 下記の点(省略)での気候変動の影響およびモデル研究予測で、最も確かな発見事項は何か、また主要な不確実性にはどういったものがあるか。


III コスタリカ共和国を訪ねて

  コスタリカは四国と九州を合わせた程の大きさの国である。西は太平洋、東はカリブ海に面 し、中央部は火山帯が占める変化に富んだ地形で素晴らしい自然を育んでいる。国土の約24%が国立公園(保護区)であり、地球上の全動物の約5%が生息している。世界で唯一の非武装永世中立国であり国家予算の1/3が教育費で、識字率が97%と非常に高い。国連平和大学および国連環境地球センターがあり、環境に対する関心も高い(と言われている)。たしかに森林・野生動物の保全と観光産業の両立や、節水への配慮などがみられたというものの、サンホセ市街では凄まじい車からの排気ガス、強い冷房などエネルギー消費や大気環境については認識、対策が遅れているように思えた。しかしコスタリカは世界に先駆けて温暖化ガス排出権取引のためのGHG Emission Mitigation Certificateを発効するなど(まだ世界的に正式に認められてはいないが)国・政府レベルでの温暖化に対する意識の高まりは感じた。このようなコスタリカで地球環境に関する大規模な国際会議が開催されたのは非常に興味深いことであった。

(田中 加奈子)