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1999年10月号

REVIEW

IPCCの概要と最近の動向(下)


 前号でも述べたように、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)では、現在2001年完成を目指し、第三次評価報告書の作成を開始している。その最新動向について、以下に述べる。


1.クロスカッテイングイシューについて

 1995発表の第二次評価報告書では、3つの作業部会を設定し、その分野毎に評価行ったが、各作業部会に共通 する課題が調整されておらず、用語等が統一されていなかった。この反省から第三次評価報告書では、各作業部会の共通 の課題となる部分を、Cross-Cutting Issuesと称して、共通の枠組みで統一的に扱うことが決められている。これらの課題は以下のとおり。

(1) Perspective on development, sustainability and equity
(2) Costing methods
(3) Frameworks for decision making, including cost-benefit analysis
(4) Uncertainties
(5) Integrated assessment
(6) Scenarios
(7) Biogeochemical/Ecological feedbacks
(8) Sinks

 上記の(1)〜(4)については、執筆者へのガイダンスとなるガイダンスペーパーを作成し、考え方、用語の統一などを諮っていくこととなっている。((5)〜(8)については、特別 報告書などでカバーしていく。)ガイダンスペーパー代表執筆者により、ドラフトができ、今後各作業部会の執筆者が使いやすいように改訂していく。さらに、このうち特に重要な(1)と(2)については、ガイダンスペーパーの作成と、執筆者間の相互理解を深めるため、IPCC Expert Meetingが開催された。その内「(2)Costing methods」に関しては、6月29日〜7月1日、東京(ホテルニューオータニ)においてIPCC関係者約60人を招聘し、GISPRIが会議運営全般 を担当し、実施した。

2.統合報告書

 第三次評価報告書では、各作業部会の評価報告書に加え、各作業部会の結果 等をまとめた「統合報告書」(Synthesis Report)が作成されることになっている。この「統合報告書」は各作業部会の「政策決定者向け要約」(Summary for Policy maker)と、気候変動枠組条約締約国会議等から質問のあった「政策に関連する科学的、技術的、社会経済的課題」(Policy Relevant Scientific, technical and socio-economic Questions)に答える部分で構成されることになる。

 このうち、この「政策に関連する科学的、技術的、社会経済的課題」の質問部分については、第15回IPCC全体会合で採択された。(以下のホームページでも内容を公開している。http://www.ipcc.ch/activity/tarquestion.html

 今後においては、この質問へ回答するため、各作業部会の報告書の作成と、この統合報告書自身の執筆(執筆者・査読者の選出、執筆スケジュール)が焦点になってくると思われる。

 この「政策に関連する科学的、技術的、社会経済的課題」は全部で10問あるが、その抜粋と解説を以下に述べる。

問5 第三次評価報告書で用いられているシナリオ(気候変動政策による干渉がなかったとしての予測)に基づいた温室効果 ガス排出の増加幅に関して、次の25年、50年、100年での地域的・地球規模の気候環境上の影響、社会経済的影響としては、どういうことが分かっているのか?

(解説)第三次評価報告書で新たに検討されたシナリオにおいて、いわゆる京都議定書レベルの制約、およびそれに続く制約等が行われなかった場合、つまり自然体では、大気濃度、海面 水準の変化、さらに適応オプションのコスト評価についての質問である。

問6 過去および現在の排出を考えた場合、一連の排出削減活動を導入する規模とタイミングは、気候変動の程度、規模、および結果 に、どう影響してくるのか、また地球規模、地域レベルの経済にどういう影響を与えるのか?

(解説)本質問も、問5と同様、前述のシナリオにおいて、排出削減活動を実施するタイミングと規模での影響についての質問である。

問7 温室効果ガスの大気濃度を(二酸化炭素当量で)現在の水準濃度からその2倍以上の濃度までの範囲で安定化した場合、エアロゾルの効果 をできるだけ取り入れたとして、地域および地球規模で、どういう気象上、環境上、社会経済上の影響がおきるか?

(解説)本質問は、当初、具体的な濃度設定(450〜750ppmv)となっていたが、絶対値での数量 表記を避け、現在濃度の約2倍という表現をとることとなった。また、冷却効果 があるとされているエアロゾル(硫黄酸化物など)の効果を取り入れたシナリオで検討し、濃度安定化までの道筋が異なるものについて、その影響等についての質問である。

問8 予測される人為的な気候変動と他の環境問題、例えば、都市の大気汚染、地域的な酸性雨の発生、生物の多様性喪失、成層圏のオゾン層破壊、砂漠化、土壌の荒廃との間におきる相互の干渉関係で分かっているものには、どういうものがあるか?

(解説)本質問は、特に途上国からの要求により、地球規模の環境問題と地域規模の環境問題の関係、つまり、温暖化と他の環境問題との関連を表す質問を新たに追加することになった。

問9 温室効果ガス排出削減の可能性、コストと便益、そして時間的枠組みについて、気候変動問題に関する地域的・地球規模での政策および対策オプションおよび京都議定書のメカニズムの、経済的および社会的コストと便益、そして平等性への影響にはどういうものがあるか?(抜粋)

(解説)温室効果 ガス排出削減のオプションの中で特に注目されている「京都メカニズム(共同実施、クリーン開発メカニズム、排出量 取引)」についての質問である。

3.温室効果 ガスインベントリープログラムについて

 温室効果ガス排出量 等を算定する方法等を取り決めている「温室効果ガス・インベントリー・プログラム」について、従来よりOECD,IEAとWG1の共同事業として、OECDが事務局となって運営していたが、財政事情の悪化に伴い、IPCC議長より各国政府に対して、新たにタスクフォースを設置し進める案が提案され、各国に議長および技術支援ユニット(Technical Support Unit : TSU)の維持運営の可能性について打診された。(ワトソン議長より故清木専務(当時IPCC副議長)へ内々に日本での受諾を打診された。)

 日本(環境庁)は、(1)TSUの日本国内設置((財)地球環境戦略研究機関(IGES)内に設置を予定)及び事務局運営に係る資金提供、(2)インベントリー・プログラムのタスクフォース共同議長の受け入れを申し出、1998年IPCC第14回全体会合にて了承された。

 また、その後日本は共同議長の一人として、平石尹彦氏(現在:IGES上級コンサルタント)を選出した。TSUについては、IGES内に10月設置され本格稼働する。