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2000年6月号

RESEARCH REPORT
「環境保全と成長の両立を考える」
研究委員会報告書完成


平成10年度から始めた「環境保全と成長の両立を考える」研究委員会(委員長:奥野正寛東京大学教授)は、この3月に2年間の委員会活動を終了した。このたび報告 書をまとめたので、その内容を簡単に報告する。



 本報告書は、経済学、工学等の幅広い分野における専門家にそれぞれの立場から、地球温暖化問題を切り口に論文を書いていただいたものである。以下、誠に簡単ではあるが、各報告書のポイントをご紹介したい。

序 章 京都会議をめぐる課題

 弊所専務理事安本皓信が、「京都議定書をめぐる課題」と題して京都議定書に関連した諸議論の重要な論点として、温暖化ガス削減のための国内・国際制度設計の重要性について述べている。


第一章 京都議定書で決められたこと

 「エネルギー問題から見た京都議定書」というテーマで、十市勉氏(財団法人日本エネルギー経済研究所理事・総合研究部長)が、京都議定書の目標を達成するにあたり、エネルギー分野での日本の取りうる対策オプションが欧米に比べて限られていること、日本のエネルギー政策について市場機能を活用した柔軟性のあるものにすること、を提言している。


第二章 京都メカニズムを巡る論点
(国際交渉で残された課題)

 「京都メカニズムの論点」というテーマで山口光恒氏(慶應義塾大学経済学教授)が京都メカニズムを巡る最近の国際交渉で論点としてあがっているさまざまな論点、たとえば補完性の問題、責任の問題、ベースラインの問題等について明快にしている。
 このうちの補完性の問題はホットなイシューであり、排出権取引の上限を定めたEUの提案が話題になっているが、これを西條辰義氏(大阪大学社会経済研究所教授)が「京都メカニズムにおけるEUによる数量 制約提案の経済的帰結」の中で、EU提案の趣旨について“各国の国内削減を促し、ホットエアーを抑制するもの”と経済理論的に分析をしている。
 また、清野一治氏(早稲田大学政治経済学部教授)は、「地球温暖化と国際協調」の中で、国際排出権市場の創設の与える国際貿易や産業構造に与える影響について、経済理論的に分析している。


第三章 地球温暖化問題に対応する制度設計上の課題  

鈴村興太郎氏(一橋大学経済研究所教授)と蓼沼宏一氏(一橋大学経済学部教授)は、「地球温暖化の厚生経済学」の中で、地球温暖化問題を、超長期にわたる異なる世代間および各世代間の福祉の分配の問題として捉えて、やや哲学的ではあるが、“責任と補償の原理”として論じている。
 また、金本良嗣氏(東京大学大学院経済学研究科教授)は、「地球環境と交通 政策」の中で、地球温暖化対策交通政策のあり方について、炭素税の実現可能性について取りあげている。
 黒田昌裕氏(慶應義塾大学商学部教授)は、「環境保全のコストと政策の在り方:日本経済の多部門一般 均衡モデルによる環境保全政策のシミュレーション」の中で、一般均衡モデルを使ったシミュレーション分析から、国内制度として炭素税や排出権取引の導入した制度設計上の問題点について提起している。
 新保一成氏(慶應義塾大学商学部助教授)は、「汽力発電プラントの経済運用モデル」で、経済データと工学情報の統合を行ったモデルの構築を試みている。


第四章 技術開発の方向性

 山地憲治氏(東京大学大学院工学研究科教授)は、「世界エネルギーモデルによる地球温暖化対策技術の評価」の中で、DEN21モデルの結果 から地球温暖化対策技術の評価を行い、温暖化対策技術の専門家の立場から、“長期的かつグローバルな視座に立ち、省エネから各種自然エネルギー、原子力、そしてCO2回収処分技術を含め、複数の対策を組み合わせていく必要がある”と提言している。
 吉岡完治氏(慶應義塾大学産業研究所教授)は、「超未来技術のCO2負荷低減効果 」の中で、宇宙太陽光発電衛星について論じている。


終 章 地球温暖化問題とどう取り組んでいくか

 本委員会の委員長である、奥野正寛氏(東京大学経済学部教授)は、最終章で経済学者の立場から、「地球温暖化問題とどう取り組んでいくか」について論じている。
 奥野氏は、地球温暖化問題を不確実性の問題や南北問題、また政治経済学的な問題としてとらえ、最後に“地球環境問題といわれる問題が、単なる外部性や公共財の問題とは異なって、経済学の本質を問う問題である”として論文を締めくくっている。

 本報告書が地球温暖化問題を研究されている方々のお役に立つことを願っている

(事務局 児島直樹)