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2000年12月号

EVENT
COP6スペシャルイベント(GISPRI/エネ研共催)
排出権取引/実験による検証

(Emissions Trading and Experimental Evidence)



 今回COP6の場において、地球研として初めて海外でのイベントを実施しました。 これは、通 常COP期間中に国際交渉と平行して会場内で実施されているスペシャルイベントの1つとして日本エネルギー経済研究所と共催で実施したものです。本イベントは、11月22日(水)午後6時から、COP6会場となったNetherlands Conference Centerから徒歩5分ほどのClimate Tech 2000 pavilionにおいて実施しました。このセミナーの内容について、ご報告いたします。なお、発表内容は事務局でまとめたものであり、記載の内容については事務局の責によるものであることをお断りしておきます。


1.報告内容

 今回のスペシャルイベントは、排出権取引を主たるテーマとして、特に排出権取引を実験という手法を用いて研究を行っている3人の専門家を招聘して、それぞれが実施した実験結果 から得られる提言を紹介していただき、温暖化問題の交渉担当者、研究者の集う場で排出権取引についての議論を深めていくことを目的として実施したものです。  排出権取引実験というとなじみのない方も多いと思いますが、排出権取引に関する理論的な研究から得られた結果 について、被験者を用いたシミュレーションを実施することでその内容を検証するもの、としてお考えいただければと思います。経済学という学問領域にも実験という手法が存在することは、きわめて興味深いことと思います。

(1)国際排出権取引へ低所得国を引きつけるためのコスト効果 的なアプローチ

ストックホルム大学経済学部教授 ピーター・ボーム氏
 ボーム教授は、国際排出権取引がコスト効果的であるためにはすべての国が参加することが必要であり、また、国際排出権取引は高い取引コストやベースラインの設定といったCDMに関連する問題を回避するという意味でCDMに代わるものであるという主張をされました。その上でボーム教授は、経済学博士号を持つ被験者を使ったロールプレイ実験による結果 から、途上国を排出権取引に取り込む方策として、過剰な排出量を割り当てるやり方は排出権の価格変動リスクをきらう途上国にとって望ましいものではなく、割当を適切に行った上で金銭的な移転を別 途行う方策を取ることが望ましいことを提言し、この方策は、ホットエアーのような割当方法のリスクを回避し、その結果 補完性を求める議論を減らすことになり排出権取引の持つコスト効率性を担保できることになる、と述べられました。


(2)GHG排出権取引実験−取引方法、不遵守、削減の非可逆性

大阪大学社会経済研究所教授 西條辰義氏
 西條教授は、昨年日本国内で行った被験者を用いた12回に及ぶ実験結果 から排出権取引について注目すべき2つのケースについてご報告されました。ケース1は、初期の取引価格が高く、そのため実験の早い段階で国内削減行動が進み、排出権がだぶついた結果 最終的に排出権価格が低下したシナリオであり、ケース2は、最初の取引価格が低く、それゆえ供給国の国内削減が進まずに排出権の供給が少なく、実験の早い段階から需要国の国内削減が進んでしまったシナリオです。西條教授はこの実験の結果 から、早期に国内削減を進めることは排出権取引のコスト効率性を損ねる結果 になることを指摘されました。また、ケース1の価格低下に対しては、バンキング制度を導入することで克服が可能であるという見解も示されました。


(3)国際排出権取引−リアルタイムシミュレーションからの考察

国際エネルギー機関(IEA)リチャード・バロン氏
 バロン氏は、排出権取引実験の仕様の中に責任や国別報告の報告義務等の京都議定書上のルールを取り入れ、かつ政府関係者の実験への参加を得ることできわめて現実に近い排出権取引のシミュレーションを実施し、その結果 について報告されました。シミュレーション結果は、取引を行わないシナリオと比較して、排出削減コストが60%減少することを示し、排出権取引の有効性について強調されました。
 実験結果から、バロン氏は現在UNFCCCで行われている国際交渉上の論点について、以下の提言をされました。 ・法的主体(legal entity)の参加は、効率性を高める結果になる。
・市場の設計は実行可能なものとするべきであること。
・国際取引のレジストリー制度は市場の透明性のために重要である。
・責任の問題は、売り手責任に、約束期間のリザーブを加えた制度が望ましい。




2.スペシャルイベントを終えて

 当日(11月22日)はあいにく閣僚級交渉が始まっており聴衆の関心がそちらに向いていたこと、イベント会場がメイン会場から徒歩5分程度の場所に割り当てられたこと、また同時間帯に有名研究機関(RFF、IEA、IETA)のイベントが行われていたこと等、悪条件が重なりましたが、40人程度の参加者を迎えることができました。    

 COPでのスペシャルイベントは、主催者の宣伝を目的としたものと、主催者の主張を明確に伝えるものの2つに大別 されるように思います。今回の地球研・エネ研共催のイベントは後者に分類されるものと思っております。排出権取引について実験という手法を用いた結果 からのメッセージをCOP交渉担当者・研究者に伝えることを目的にしたという点で、質の高い内容のイベントであったと考えております。

 次回の会合(来年5月または6月、ボンで開催予定)でも、現在実施している国際排出権取引制度研究員会での実験結果 を基に、排出権取引に関するスペシャルイベントを実施したいと考えております。  最後に、COP6では地球研・エネ研のイベントを含め、国連機関や各国研究機関が温暖化問題について様々な切り口から120のスペシャルイベントが実施されました。

 地球研ではこの中から、排出権取引・CDM・シンクのテーマを中心に約40ほどのイベントを傍聴いたしました。機会があれば、その内容につきましてもご紹介したいと思います。         
(文責 事務局 児島直樹)