ニュースレター
メニューに戻る


2002年 6号

Seminar
GISPRI COP8
サイドイベント 実施報告


日時 2002年10月25日(金)18:30〜20:00
テーマ
1. Evaluating Commitment Period Reserve in Emissions Trading: An Experimental Approach
2. Accounting for GHG Allowances under Japanese accounting standards
発表者
1. 大阪大学 西條 辰義 教授、草川 孝夫 氏
2. 慶応義塾大学 田口 聡志 助手
聴衆 40名程度

 気候変動枠組条約第8回締約国会議(COP8)と並行して行われるサイドイベントにおいて、GISPRIは二つのテーマでプレゼンテーションを実施した。今回の発表はCOP6、COP7に引き続き、GISPRIとしては3回目の発表となる。以下、その概要を報告する。


報告内容1:Evaluating Commitment Period Reserve in Emissions Trading
(大阪大学 西條 辰義 教授、草川 孝夫 氏)
 今回の発表テーマの一つは「Evaluating Commitment Period Reserve in Emissions Trading: An Experimental Approach(約束期間リザーブの評価)」、これはCOP6およびCOP7で発表した実験経済学に基づく排出量取引制度設計の評価研究をさらに発展させたものである。COP6・COP7では、排出量取引の制度設計における3つの要素(「責任制度」「取引情報の開示・非開示」「取引方法」)に着目し、これらの要素の組み合わせを変えて実験を実施、その結果から、どの要因が市場の効率性に影響を与えるかについて観測・分析を行った。

  加えて今回着目したのは「Commitment Period Reserve」すなわち約束期間リザーブと呼ばれるもので、マラケシュアコードで「附属書I締約国各国は、その国別登録簿の中に…(中略)…締約国割当量の90%を下回らない量、あるいは直近にレビューを受けた目録値の5倍の100%、このうちどちらか低い方の約束期間リザーブを保有すべきである」とされているものである。これはそもそも、京都メカニズムを利用する際のサプリメンタリティ(補完性)にかかわる議論から生まれたものであり、排出量取引時の売却量を制限するために設定された手段である。今回は、このような制度(売りすぎ防止のための制限措置)が、取引市場の効率性にどのような影響を与えるのか、という視点から新たに実験を設計・実施し、その結果を発表した。

  実験の結果からは、約束期間リザーブという制度はほとんど効果がない、すなわち約束期間リザーブがない場合の市場と比べて取引に対する影響力(制限力)をほとんど持たないということがわかった。結論としては、(1)排出量取引に慣れれば、約束期間リザーブ非導入時のほうがより多くの排出削減を(ほぼ同じコストで)達成できること、さらに(2)約束期間リザーブが各国の利益を最大化するような排出権売却を制限するケースはほとんどないこと、以上の2点が導き出された。したがって今回の実験からは、制度をより煩雑にしコストを増大させる約束期間リザーブをあえて導入する意味はない、と結論付けることができよう。

報告内容2:Accounting for GHG Allowances under Japanese accounting standards
(慶応義塾大学 田口 聡志 助手)
 今回のスペシャルイベントのもう一つのテーマは「Accounting for GHG Allowances under Japanese accounting standards」、すなわち日本の会計基準における排出枠の取り扱いに関する報告である。GISPRIではこのテーマに関して2000年度より「排出削減における会計及び認定問題研究委員会」を設置して検討を行っているが、世界的にも排出枠の会計上の取り扱いが注目されていることから、このたび日本における検討結果を発表することになった。

  本検討委員会は日本公認会計士協会の協力を得て行っており、このテーマについて日本で最も早く取り組んだ委員会の一つである。排出枠の会計上の取り扱いについては、既に取引制度が導入されている英国、2005年より導入予定のEU、また議定書未批准ではありながら米国・カナダなど世界的にも盛んに検討が行われるようになっており、この10月にはこれらの国々が参加するワークショップも開催された。

  日本の考え方は欧米と異なり、排出枠の使用価値が企業ごとに異なるという点に着目し、排出枠を金融資産ではなく事業資産(非金融資産)とみなし、さらに有形資産でないことから無形資産に分類されると考える。(既存の無形資産の中では漁業権などが類似例として挙げられる。)会計上の取り扱いとしては、無形資産は現行の会計基準で取得原価により評価されることから、期末においては排出枠の取得原価が帳簿価額となる。また排出枠は無償で取得する場合と有償の場合があるが、両者共、使われ方により異なる価値・利潤を生むという共通の特徴をもち、また無償の排出枠については会計上贈与の論点と類似性があると解釈できることから、ここでは無償取得の排出枠についても有償取得のそれと同様に扱うことを提案している。

  さらに本報告では、排出枠の派生商品についてもこれがどのように扱われるべきかを検討・報告しており、排出枠の派生商品はコモディティタイプのデリバティブであり、差金決済性を満たす場合以外は金融商品の定義を満たさないものとして、ケースごとにその取扱法を定めている。

当日の概況

  イベントは、締約国会議3日目の10月25日金曜日、18:30〜より行われた。場所が本会場より若干離れていること、またスケジュールモニターの故障により本イベントが表示されない等いくつかの悪条件が重なったが、約40名の参加を得ることができた。また2つのテーマともかなり専門的な内容であるにもかかわらず、聴衆からは質問および更なる資料の要望があがるなど、皆熱心に参加していたようである。

  質疑では、排出枠の会計上「無償取得の排出枠についても有償取得のそれと同様に扱う」という見解に対して、「グランドファザリングなど無償取得の排出枠はそもそも価格がないが、どのように(いくらで)貸借対照表に計上するのか」という質問があり、これに対しては「当該排出枠取得に要したコストおよび類似する排出枠があればその市場価格等を参考にして算定する」旨の返答を行った。またアメリカの交渉担当者からは「日米の企業でこのような会計についてはどの程度研究・実施されているのか」との問いがあり、この分野には未精通ながらも強い関心を持っている様子がうかがえた。

  今回のサイドイベント全体の傾向を見ると、排出量取引に係るテーマは少なく、一方CDM/JI関連のテーマが非常に目立っていた。また、内容的には研究発表という形式のものは少なく、現状報告、論点整理・提示およびそれに基づくディスカッションという色合いが濃いものが多かったが、そうした中で弊所のサイドイベントは研究色の濃いものであったと言えるだろう。

  今後もサイドイベントの実施により、各国研究者・交渉担当者に継続的な情報発信をしていきたいと考える。
(文責:伊藤麻紀子)