ニュースレター
メニューに戻る


2004年 4号

Conference
第20回補助機関会合 出席報告
2004年6月16−25日 ドイツ・ボン

全体会合風景(スクリーン:Benrageb SBSTA議長  
 2004年6月16〜25日までドイツのボンで開催された第20回補助機関会合(SB20)は、参加者こそ去年に匹敵するものの、京都議定書が未だ発効していないからか、または京都メカニズムに関する主なルール策定がCOP9でほぼ終了してしまったからか、はたまた去年ヨーロッパ全土を襲った熱波が今年はすっかり影をひそめてしまったからか、非常に静かな印象を残した会合となった。

 しかし、実際の検討事項は盛り沢山であり、科学的及び技術的な助言のための補助機関(SBSTA)だけでも、小規模な吸収源CDMのルール策定をはじめとする土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)に関連する事項の取り決め、「気候変動の影響とそれに対する脆弱性及び適応措置」(適応措置)及び「気候変動に対する緩和措置」(緩和措置)に関する科学的、技術的、社会経済的な側面における情報交換等、様々な議論が行われた。本会議の他にも、SBSTA事務局によって開催されたブラジル提案やIPCC第3次評価報告書を受けて実施された研究内容、適応措置及び緩和措置に関する2つのワークショップ、各国政府・NGO等によって主催されるサイドイベント等が開催された。会合における検討内容の詳細は、弊所ホームページに掲載されている中間速報・後半速報、及び近々掲載予定の参加報告書に譲ることとし、ここでは今回の会合における全体的な印象について主に紹介する。また、サイドイベントについても後半に簡単にまとめる。(SB20に関する情報は、http://www.gispri.or.jp/kankyo/unfccc/copinfo.htmlをご参照ください。)


【本会合】

(1)交渉上のポイント
気候変動の「環境」への影響だけでなく「社会」や「経済」への影響の評価に力を入れ、経済と環境のバランスを取っていこうとする動きが活発になった。
各国−特に経済成長や貧困撲滅を国家の最優先事項と掲げている途上国−の持続的開発戦略に温暖化対策を盛り込む重要性が繰り返し述べられた。



環境問題の一つである気候変動とはいえ、経済成長を無視してそれを防止すればよいというものではなく、むしろ人為的な気候変動の一因を作っていると思われる産業界の意向を考慮しつつ、その活動をうまく誘導していくことこそ、現代社会における解決策だと思われる。
気候変動の影響は沿岸地域等一部の地域に集中して現れることから、各地域の影響を、モデルを開発してより詳しく分析し、技術移転やキャパシティビルディングを優先的に行うとすることに多くの締約国が同意した。
締約国間における情報交換・共有(技術開発等における情報のみでなく、政策や措置に関しての各国の最新動向を含む。)が重要であるという認識が前にも増して高まった。
IPCCや生物多様性条約といった他国際機関との協調を促進し作業の重複を防ぐこと等があらゆる場面で言及された。
以上に挙げた項目は、以前から各国の認識の中にあったものだが、今回の議論の中では途上国がそれを主張するまでもなく結論案等を作成していく段階で一貫して考慮されていたと思われる。これらはもちろん、全締約国にとってプラスの内容であるが、特に途上国に対する支援活動に皆が一丸となって取り組もうとしている印象を近年の会合より強く受けた。

(2) 主要決定事項

1. 小規模吸収源CDM(吸収源SSC)
SBSTA19で採択された吸収源CDMのルールに引き続き、低所得コミュニティによる小規模な新規植林・再植林プロジェクトのルールについて交渉開始。COP10での合意を目指す。
交渉テキスト(FCCC/SBSTA/2004/L.9 Annex)に合意。SBSTA21ではそれをベースに協議を進める。また、吸収源SSCを促進するための措置についてもSBSTA21で合意する予定。
SBSTA20では、PDD、ベースライン・モニタリング方法論(リーケージ)、バンドリングについて議論。一部合意。

2. 適応措置・緩和措置
適応策と緩和策について初めて別々に議論し、それぞれのアジェンダにおけるより早い進展が期待されたが、採択された結論(アジェンダ7:FCCC/SBSTA/2004/L.13、アジェンダ8:FCCC/SBSTA/2004/L.14)はほぼ同じ内容。
適応策・緩和策両方について、SBSTA21ではSBSTA20と同じく情報交換を主としたワークショップが開催される予定。検討内容は以下の通り:



適応措置



気候変動の影響とそれ対する脆弱性及び適応策を評価する方法及びツールについて(含む地域モデル)



持続可能な開発と適応策のリンケージ



緩和措置



緩和技術の革新・採用・普及(含む障壁の特定と除去)



持続可能な開発に貢献する緩和措置の導入機会と解決法
以上の内容及びワークショップについて、各国は8月31日までに意見を提出。

3. LULUCF関連
GHG目録の中でLULUCF関連活動を報告するためのCommon Reporting Formatを推敲したが、「JIにおけるLULUCF活動をどのように示すか」及び「森林管理」に関する議論は引き続きSBSTA21で行う。
木材製品に固定されているCO2について:SBSTA21までにワークショップを行う予定。

4. その他
登録簿:independent transaction logは2005年中旬に立ち上がる予定。
国際航空輸送および海上輸送用燃料からの排出:SBSTA21ではアジェンダに載せない予定だったが、アルゼンチン等による強い要請から引き続きSB21でも議論する予定。

(3) 所感
適応措置・緩和措置をはじめ、多くの検討事項でワークショップや専門家会合の実施要請が採択された。これは、気候変動問題に対処する「枠組み」がほぼ確立し、実際の「対処」が始まっていることの現れと思われる。特に締約国間の情報共有が重要視されている。
会期中に開催された適応措置・緩和措置の2つのワークショップは、先進国・途上国両方から各国における活動の最新情報を得られる興味深い場であった。会期中に開催されたことで幅広い参加者が集まったというメリットがあった反面、政府団が小さい途上国にとっては交渉とバッティングして出席できないというデメリットもあったが、全体的には「ニュートラルな情報の共有」が実現し有益であった。

【サイドイベント】

1. 実施状況

(1)


総数 46件(公式44件、他2件※把握分)
全体の中で日本の主催案件は1件

(2)
 
主な内訳

・市場メカニズム関連(京都メカニズム・EU排出権取引等) :22件

・緩和措置(Mitigation)・適応措置(Adaptation)関連 :9件

・将来へ向けた取り組み関連 :9件               等

(3)
 
特徴

市場メカニズム関連が約半数を占めた。この分野を中心に傍聴した(計18件)。

COP9と同様IETA[1]が積極的に関与した。今回はEC主催案件も目立った。

(4)
 
特徴の背景



京都メカニズム関係



主なルール策定がCOP9でほぼ終了して具体的な取組段階に入っているためプロジェクト実施やクレジットの扱いなど実務に関連する情報に関心が集まっていること



初のCER発行が今年度中に見込まれるなどCDMが1つの節目を迎えること



EU排出量取引関係



来年1月からの取引開始に向けNAP(国家割当計画)提出等動きが加速していること



4月にリンク指令が欧州議会で承認されCDM/JIとのリンクが可能になったこと


2. 内容概括(主に市場メカニズム関連)

(1)


京都メカニズム関係



CDMは手順の複雑さや処理速度の遅さが批判の的となっている。CDM理事会は方法論の統合等に着手し、バリデーターやプロジェクト実施者からも期待されている。(6/16,6/24)



国家登録簿、CDM登録簿とトランザクションログの構築が進んでいる。EU排出量取引でもリンクを意識し同様の仕組みが用いられる見通しである(6/22)。



JIについてもCDMで得た経験の共有をベースに、MOU(相互理解確認書)の締結など、次第に実施に向けた動きが関係国の間で進みつつある(6/18)。



IETAからCERの売買契約雛形が提示され、プロジェクト実施者とクレジットの買手の契約行為の一定型として関係者に歓迎された。また、IFRIC(国際会計基準解釈委員会)は排出枠(Allowance)に関する会計指針として、排出枠は無形資産で公正価値で評価する一方、負債は事業者が排出を行った際に生じるとする。法務・会計等ビジネス実務に関する方面も対応が加速している(6/22,6/23)。

(2)
 
EU排出量取引関係



リンク指令の戦略的意味や参加者のメリット、参加条件等がECやIETA、関係国等から紹介された。市場拡大によるコスト削減の効果は見込めるが、リンクには結局EUと同等のかなり厳格な仕組み作りが要求されることがわかった(6/21,6/22,6/23)。



排出量取引やリンクを含むEU独自の気候変動プログラムが紹介された。市場メカニズムの活用だけでなく、運輸部門のバイオ燃料や、農林業関係、再生エネルギー等10数分野にわたるワーキンググループでの実施・検討を通じ、各国単独では達成が困難と見通される京都目標必達への施策として実施されている(6/22)。 

(3)
 
投資枠組関連

世界銀行のバイオ炭素基金(BioCF)、地域発展炭素基金(CDCF)の取組の紹介のほかオランダ政府が8年間JIのパイロットとして行ってきたAIJ(Activities Implemented Jointly)の総括などが行われ、相互の信頼関係の醸成の重要性等が強調された(6/19、6/21)。

(4)
 
GHG算定ガイドライン関係

GHGプロトコル事業者排出量算定基準(Corporate Standard: WBCSDとWRIが多くの関係者の意見を参考に策定)の改訂版が、日本を含む多くのユーザーの企業インベントリ作成を支援していることが紹介された。また、国家インベントリ作成に関してはIPCCより2006年にシンク等も含めた新たなガイドラインを策定していることが紹介された(6/17,6/23)。


3. 所感


ビジネスサイドから見ると目立った議題のなかったSBに比べ市場メカニズムに関する多様な最新動向を提供するサイドイベントこそが会合の裏の主役であり、NGO参加の最大の旨味であったといえる。

逆にいうと、京都メカニズムは政府間交渉の局面を離れ、多様なステイクホルダーの中で着実に生きたメカニズムとして離陸したといえる。

CDMの進展もあるが、その追い風となっているのが排出量取引とリンク指令を中心としたEUの動きであるのは確かであり、その意味でEUの存在感が一際大きく示された会合であることを感じた。


 (文責:篠田健一,蛭田伊吹)

[1] IETA:International Emissions Trading Association(国際排出取引協会)