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2005年 1号

Symposium
国際シンポジウム
「2013年以降の気候変動に関する将来の持続可能な国際的枠組みのあり方」
概要報告




1. 開催日時: 2004年11月12日(金)10:00−17:10
2. 開催場所: 六本木アカデミーヒルズ40
3. 開催目的: 先進国・途上国の専門家による講演とパネルディスカッションを通じて、気候変動に関する将来の持続可能な国際的枠組みに向けて、どのような視点が重要とされ、そのためにはどのような行動が必要とされるかについての活発な議論を行う。
4. プログラム  
 
10:00〜10:05 開会挨拶:GISPRI専務理事 木村耕太郎
10:05〜10:30 基調講演:「気候変動に関する将来の持続可能な枠組みについて」
経済産業省 審議官(地球環境問題担当) 深野弘行
10:30〜11:10 講演1:「温室効果の意味するものは?」
Thomas Schelling(米国)
Distinguished University Professor, Emeritus,
University of Maryland and Harvard University
11:10〜11:50 講演2:「2012年以降の気候変動戦略」
Michael Grubb(英国)
Associated Director of Policy, The Carbon Trust
11:50〜13:20 昼食・休憩
13:20〜14:00 講演3:「京都プラス」
Scott Barrett(米国)
Professor, School of Advanced International Studies,
Johns Hopkins University
14:00〜14:40 講演4:「国際気候体制:京都後の考察」
Zou JI(中国)
Professor, Renmin University of China
14:40〜15:20 講演5:「京都プロセスを補完する技術開発のための連携」
杉山 大志(日本)(財)電力中央研究所 主任研究員
15:20〜15:35 コーヒーブレーク
15:35〜17:05 パネルディスカッション
(コーディネーター:慶應義塾大学 経済学部教授 山口光恒)
17:05〜17:10 閉会挨拶:GISPRI 地球環境対策部長 吉田 博

5. シンポジウム概要  
(1) 参加者238名 (講演者・METI・GISPRI関係者を除く)

<参加者内訳>
産業界 政府関係 研究所 シンクタンク マスコミ 大学 学生 外国人
129名 10名 63名 15名 5名 9名 4名 3名

(2) 会場風景

(3) 基調講演(産業構造審議会・環境部会地球環境小委員会・将来枠組み検討専門委員会・中間とりまとめ(案)):深野弘行
<講演要旨>
京都議定書の経験を教訓とし、同議定書をさらに発展・充実させることが重要。
気候変動問題を巡る国際的な動向(米国・EU・ロシア・中国・インド)の概要説明。例えば、米国の2000年以降のCO2排出量の増分は先進国全体の増分の約半分を占める見込み、中国のCO2排出量は2030年頃には米国を超えて世界一となるという試算。
今の京都議定書の削減目標が達成されたとしても、2010年の世界の排出量は、90年比で3割程度増加してしまう。
途上国における排出抑制をもたらす取り組みとして、先進国の技術の円滑・迅速な途上国への移転、抜本的な排出削減をもたらす取り組みとして、革新的技術の開発・普及が必要。
各国は、それぞれの比較優位に応じて、上記の具体的行動にコミットする。
気候変動問題の影響は、地球全体の排出量により決まることから、数値目標についても、具体的取組へのコミットメントによる削減可能量を基に世界全体の排出量で設定すべき。
今後の国際的な議論の進め方としては、主要排出国による議論の先導、エネルギー政策・産業政策の関係者の参画、産業界とNGOの参画が必要。
<主な質疑応答>
Q: 長期対策の必要性を強調されたが、民間からしてみるとあまり長期だと技術開発してももうからない。30〜50年の長期をプロポーズされた背景には、採算性とリスクを考えてちょうどいいという民間団体のサジェスチョンがあったのでしょうか?
A: 民間のサジェスチョンというよりも、この問題の性格から長期の目標を持つべきではないかと考えた。相当思い切ったことをやらないと長期的な排出量を減らせない。そのために、行動指針を持つことが重要。長期だけでは何もしないことのエクスキューズになる恐れがあるので、レビューが非常に大事。

(4) 講演1:Thomas Schelling(米国)
<講演要旨>
2004年大統領選挙はブッシュ大統領再選という結果となったが、環境政策の面では、仮に対立候補のケリー氏が選出されたとしても従来路線からの転換はなかっただろう。
大多数のアメリカの科学者は、気候変動の問題を非常に深刻にとらえている。これは、25年前は存在もしなかった、とても新しい問題であると言える。
気候変動は多くの不確実性を含んでおり、長期的な視点が必要な問題である。
不確実性の一例:アメリカ科学者の委員会が、25年前(1979年)に、CO2が倍増した場合、地表の温度の変化は1.4〜4.5度ぐらいであろうというシナリオを出した。79年以来、たくさんのお金がこのテーマに対して投下されたにもかかわらず、その答えはほとんど変わっていない。
温暖化による気温上昇が起こった場合、主に影響を受けるのは途上国と農業部門だと考えられ、米国の緊急課題として浮上することはない。
気候変動には先進国主導の国際協力が不可欠。
結果の数値目標に対するコミットメントは不可能であり、目標達成に向けた「行動」のコミットメントを重視するべし。−そうした「行動」主義の適用により、京都議定書以後の国際レジームとして活路が見出されるかもしれない。
<主な質疑応答>
Q: モスクワでロシアの緑の党が主催する会議に出席。そこで、アメリカのスピーカーが、地球温暖化に関心を持つ勢力が京都議定書に将来、復帰する案を作っているといっていたが、これは正しい情報か?
A: そのようなことはありえない。

(5) 講演2:Michael Grubb(英国)
<講演要旨>
気候変動は、重要な国際的リスク管理の問題である。
英国での政策を例にとると、多様な手法をミックスさせることで、効率的な対処を模索しており、その興味ある実験の一つがカーボントラストである。
カーボントラストは、低炭素経済にイギリスが移行することを助けることを目的とし、新しい革新技術の開発のためのプログラムの提供、および既存の技術の導入・展開に対するイギリス企業への手助けを行っている。
個人的には、技術こそ解決への答えだと考える。技術はコストの低減をもたらす。ただし、ある程度の時間と政府の財政的な助成が必要。
国内政策のミックスと技術で大幅な削減をすることは可能と考える。
国際枠組では、各国政府の国家目標に柔軟性を組み入れることが最善と考える。短期的なものと長期的なものと組み合わせて、統合化された戦略というものが必要。

(6) 講演3:Scott Barrett(米国)
<講演要旨>
世界は、オゾンホール・地球温暖化等で描かれる世界と、地理的政治的に描かれる世界があり、この二つの世界を調和させる必要がある。
UNFCCC批准国が圧倒的多数であるのは、気候変動が世界の共通認識となっていることを示す。
問題は危険なレベルの定義が難しいことである。例えば、さんご礁、西南極大陸の氷床、北大西洋深層海流の崩壊の閾値(非連続変化の点)が濃度何PPMであるかは不明である。したがって、目標に集中するやり方はあまり役に立たない。
温暖化は長期にわたる問題であるので、技術として何を使うかというを考える必要がある。将来の技術にかかるコストよりも、今やったほうがコストが小さくて済むとか、あるいは、今、研究開発をすることによってコストを削減することができるというような技術でなければならない。
将来枠組では、一つの国の行動が別な国の行動を呼ぶポジティブなフィードバックという戦略的な取組みが必要である。
京都プラスは、行動パターンを変化させる戦略的対処法・戦略目的の研究開発議定書であるべきで、技術でグローバルスタンダードをつくり、商業的な圧力をかけ技術を広めることが重要。
気候変動はどうせ起きるものであり、これに関しては、特に途上国に向けた適応策を盛り込む必要がある。
<主な質疑応答>
Q: 日本で大型の台風があり温暖化の影響との考えが一般に浸透しているが、アメリカではハリケーンで大きな被害がでても温暖化の影響とはとらえていないのか? 京都プラスでも、アメリカが参加しないなど、結局繰り返しにならないか?
A: IPCCの第3次報告書では、気候変動と台風とは関係ないといっている。欧州でも大きな天候現象は気候変動に結び付けられている。しかし、米国ではそういう風に騒がれることは全くない。 京都議定書は、気候変動になんの変化ももたらさない。米国と中国が参加しなければ無意味。アメリカは京都プラスなら参加する可能性あり。すなわち、技術に焦点を移せば異なる見方も出てくる。アメリカは技術好きであり、技術の国際条約なら批准する可能性あり。

(7) 講演4: Zou JI(中国)
<講演要旨>
中国においても気候保護は国際協調が必要な重要な問題と認識されているが、それ以上に貧困撲滅と発展(開発)が人類共通の最重要テーマ。
途上国(特に農村部)にとっては先進国並の生活水準に引き上げることが至上命題。
科学者は、大気中のGHGの濃度をどの程度で安定化させるべきかについて、はっきりとした確実な結論を導き出すことはできていない。まだまだ不確実である。
中国をはじめとする途上国の「持続可能な開発」を可能にするアプローチとしては、京都議定書には弱点があるものの、国際協力の出発点としては評価できる。
先進国には議定書継続のために法的拘束力のある数値目標を課す「トップダウン」、途上国には排出目標を除くガイダンス重視の「ボトムアップ」方式を認め、市場原理と政府支援の双方により国際技術開発および移転を加速できるメカニズムがポスト京都体制に必要となろう。
<主な質疑応答>
Q: 中国では省エネがエネルギー政策の最優先課題になっている。2020年までに、どれだけ省エネするという数字も政府が立てていると聞いている。中国が省エネ等で国際的なコミットメントすることは可能か?
A: 現在、11次5カ年計画を作成中でエネルギー原単位についても数値目標が設定されるはず。当然、この数値は強制力は持たない。SOXに関しては、第10次5か年計画で、2000年を基準年として2005年で10%の削減目標を立てたが、達成できそうにない。この20年間、中国はエネルギー原単位削減に取り組み、その削減実績は満足のいくものであった。しかし、今後は原単位の削減は難しくなる。現時点では、中国が国際的なコミットメントをすることは難しい。アメリカ等の先進国の参加がなければ、なおさらである。2050年までであれば、可能性がある。しかし、いずれにしても、低炭素の経済体制をどう築いていくかが世界の課題である。

(8) 講演5:杉山 大志((財)電力中央研究所 主任研究員)
<講演要旨>
21世紀の最後には、先進国も途上国もエネルギーシステムを完全に変えるもの(CO2を出さないようなもの)にしなければならない。このためには技術開発が必要。
ニッチ市場(新技術に特化した市場)が重要。成功したニッチ市場としては、たとえばオゾン層破壊物質の代替物質市場や、欧州での風力市場育成、日米での自動車排気ガス規制に対応した自動車市場、硫黄酸化物の排煙脱硫設備市場がその例である。
温暖化防止のためには、技術の連携が重要で、欧州で風力、米国・豪州で炭素隔離、日本でエネルギー効率化という技術分担で相互の成功が期待できる。
EUで風力が進んだのは、自然条件が優れていること、人口密度が少ない場所があること、政治的なサポートがあること等の条件が整っていたため。
アメリカやオーストラリアを見ると、石炭の資源量が多く、未来永劫、化石燃料を掘ってエネルギーを生産し続けることは、CO2処分というものがないとできない側面がある。
日本および東アジアの国々では、省エネルギーに関する協力というものが進む可能性がある。東アジアの国々は、エネルギーは輸入に頼っており、省エネルギーに関して共通の利益を持っている。
京都議定書の意義は、政治的重要性や一般認識の向上、政策措置の導入、排出量取引など新しい概念の導入である。問題点は、排出枠の敵対的交渉、脱退や参加拒否、炭素価格が技術開発の努力を促すには低すぎる。
将来枠組みは、技術開発を進めることだというふうにとらえる。そうすると、技術開発というのはどの国も国益だと考えるので、自然と協力も芽生えてくる。
<主な質疑応答>
Q: 数値目標があったから省エネの協力が日本と中国で進まなかったというのは、どうかなと思う。うまくいかなかったのは、ファイナンスの問題、制度的な問題、技術移転そのものが難しいという問題、両国の政治的問題等であり、違うレベルの話ではないか。
A: そういった点はもちろんあるのですが、これからを考えると、京都議定書の続きをやるといったら、先進国と途上国で互いに枠をかぶせあうという構造は基本的に変わりません。それよりは国益に資する格好の省エネに関する話をもっと真剣にやったらどうですかと考えています。

(9) パネルディスカッション(コーディネーター:山口光恒、慶應義塾大学 経済学部教授)
【京都議定書の意義は?】
坂本:経済産業省 地球環境対策室長 > 気候変動問題の関心を高め、さまざまな政策措置が導入され、CDM等新しい国際制度を生み出した等、大変意義のある第1歩だった。
シェリング > 気候問題の認識を世界中に広めたが、ブッシュ政権では、京都は話すこともできないものになっている。これがいつまでも続かないことを希望する。
グラブ > 評価。CDM等の柔軟性が与えられた。
バレット > 多くの国が同時に意思決定を行うのは困難。この長期的な問題の対処の緒についたといえる。
ゾウ > 京都議定書はUNFCCCに合致し、これなしには進むことができないものである。京都議定書は意義があった。目標が低く、効果的とは言えないことから、ポスト京都では、先進国が更なる努力をする必要がある。そうでなければ途上国が参加する動機にならない。
杉山 > 京都議定書は大混乱をもたらしたが、そこから次の考えを出す契機になったことが意義がある。京都議定書がなかりせば、枠組条約はだれも知らないままであっただろう。

【気候変動枠組条約では、人類にとって危険でない濃度に安定化するということが目標とされているが、その安定化目標濃度は何PPM?】
グラブ > 550ppmは一例であり、不確実性は大きい。高すぎる可能性もある。
シェリング > 550ppmは楽観的すぎる(低すぎる)可能性がある。特定の上限を決めるには時期尚早。
杉山 > 濃度で国際合意をすることには反対である。2100年までの濃度を決めたなら排出量が逆算できる。その時に排出枠をめぐる交渉で喧嘩になる。
ゾウ > 濃度は警告とみなすべき。
坂本 > どれくらいの濃度にするかの目安を議論するのは重要だが、特定数値を目指して交渉するのは得策でない。
山口 > IPCCの第4次報告で、世界の学者が集まって議論をすることになっておりますので、そちらの結果を待つ。

【ポスト京都でアメリカと主要途上国を参加させるには?】
シェリング > アメリカも含めた先進国が、まずこの問題に真剣に取り組む必要がある。それから途上国の参加を得る。豊かな国からの資金援助および技術援助が重要である。
グラブ > アメリカでも州や多国籍企業など真剣に行動を考えているところがある。こういったところと共に努力することが戦略ではないか。
山口 > 途上国から見ると、一人当たりの排出量が同じになるべきとの主張があるが、そこまで待っていると地球全体の排出量は安定経路に乗らない。どう調和させるべきか?
ゾウ > 私自身は一人当たりの排出量が等しくなることにはこだわらない。同等の生活レベル、福祉レベルが中国にとっては重要と考える。

【技術全体について?】
グラブ > 技術も技術革新も重要である。さまざまな手法のミックスが必要。そのための新しい協定は良いことだと思う。
バレット > 今の時点で技術について述べるのは、時期尚早。運輸分野の技術革新は有望。焦点は炭素隔離。
杉山 > 技術の場合、各地域、各国の取組みを相互認証してバックアップする枠組が必要ではないか。他の国の技術基準設定に干渉したのでは成功しない。
グラブ > 炭素固定というのは石炭発電所でCO2が発生すると、それを抽出して地層固定することですが、そういったことをしないほうが、当然コストは安く済むわけです。技術的なプロトコルがあったとしても、結局、実施を強制できなければ、うまくいかないということになる。
坂本 > 既存技術の普及を進めるうえで、例えば機器なり、プラントの効率の数字を合意して、その数字にコミットするというのはかなり難しいと思います。ただ、一定の高効率を目指して、各国がいろいろな政策措置を講じていくということについては、合意できるのではないかと思っている。やり方はいろいろあると思いますが、特定の数値を達成することをコミットするわけではなく、その数値を目指していろいろな政策措置を講じていくということを合意する、これをセクター別に当てはめていけば、国際産業競争力に関する懸念といったものもある程度払拭されるのではないかと思う。

【CDMは技術移転に役立つか?】
ゾウ > CDMは技術移転に関して、フィージブルなやり方である。中国政府はCDMを歓迎し、その運営センターを設立する用意がある。ただ、炭素価格が極めて低く、全般的な関心を呼ぶには十分でない。極めて規制や規則が多く、これがCDMの将来を損なう可能性がある。
山口 > CDMの簡略化については、日本ならびに各国政府の方々にお願いしたい。

【コペンハーゲン・コンセンサスについて】
山口 > 今年の5月にデンマークのコペンハーゲンで一つの会議があり、そこでコペンハーゲン・コンセンサスというものが発表された。8人の世界で最も著名な経済学者が集まり、世界の限られたリソースをどこに最も優先的に廻すべきか(今500億ドルあって、5年間に何に使うか)を議論。その中に幸いトーマス・シェリングさんがおられました。そこで、順位が付けられ、1番がエイズ対策、2番が栄養・貧困問題、3番が貿易と補助金の問題、4番がマラリア対策という形で、気候変動はこれらよりも順位が下になっているわけです。この辺りについて、どういう観点でどういう議論がなされたのか、シェリング先生にお話をお伺いしたいと思います。
シェリング > 気候変動対策が低い順位になってしまった理由は、コスト効果で見ようとしたことと、すぐに投資をするという観点からランキングをしようとしたからです。
とりあえず、何よりも先に世界の貧困を根絶しようという話になりました。貿易の自由化というのも、非常に高いランキングということになった。投資によって、効果が上がりやすいからです。経済学者が集まって話をしたわけですので、貿易の自由化が高い順位になるのも当然のことと言えるかもしれません。しかし、気候に関する問題というのは低い順位となりました。なぜかといいますと、気候に関する文献で、その推奨プロジェクトは2250年まで続く遠大なもので、コストは何兆ドルもの膨大なものになると提唱されていたからです。
 気候変動に対する対策というのは緊急のテーマではない、500億ドルをかけて、すぐにそこに差異を生むようなテーマではないと見なされてしまう傾向があると言わざるをえません。気候変動が低かったというのはもっともで、これから数年の間にこれだけのお金を投下することによって費用対効果性が大いに出るとはとても思われなかったからということです。

以  上

(地球環境対策部 吉田 博)