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GISPRIシンポジウム2007
若年者の雇用と教育訓練対策
-若者のキャリア教育と良好な雇用機会の提供のために-


日 時 : 2007年11月21日(水)
会 場 : 全社協・灘尾ホール(千代田区霞が関)
後 援 : 経済産業省,厚生労働省,日本経済団体連合会,東京商工会議所,
日本労働組合総連合会,日本キャリアデザイン学会,
日本キャリア教育学会,日本インターンシップ学会 (順不同)


プログラム
(御登壇者敬称略,五十音順)

10:10 - 10:30 基調講演「若年者の雇用と教育訓練対策」
       講演:高梨昌・信州大学名誉教授
10:30 - 12:10 セッション1「学校段階におけるキャリア教育」
 パネリスト: 鹿嶋研之助・千葉商科大学教授
小島貴子・立教大学大学院准教授
寺田盛紀・名古屋大学大学院教授
渡邊辰郎・東京大学大学院産学官連携研究員
 モデレータ: 八幡成美・法政大学教授
13:20 - 15:00 セッション2「産業界におけるこれからの人材育成」
 パネリスト: 逢見直人・連合副事務局長
坂田甲一・凸版印刷人事部長兼人財開発部長
長崎憲一・伊勢丹執行役員人事部長
原邦生・メリーチョコレートカムパニー代表取締役社長
 モデレータ: 井戸和男・天理大学教授
15:20 - 17:00 セッション3「学校から社会への移行における課題と対応」
 パネリスト: 工藤啓・「育て上げ」ネット理事長
降幡勇一・渋谷公共職業安定所統括職業指導官
堀有喜衣・労働政策研究・研修機構研究員
 モデレータ: 小杉礼子・労働政策研究・研修機構統括研究員



基調講演
高梨委員長: 私が委員長を務め、平成18年度より続けて参りました若者の雇用と教育訓練に関する研究会「若年層の人材開発と雇用創出を考える研究委員会」での問題意識とその対策案をまずご披露したいと思います。
 若年者の雇用・失業問題として次の点が注目されます。まず、若者の高い失業率。そして俗に「7:5:3現象」と言われる高い離職率。さらにフリーターの急増やニートの増加、などです。こうした現象がもたらされた背景には、入職前の学校での職業や労働に関する教育が非常に手薄なことがあるからではないかと考えます。
 以前は学校を卒業すれば比較的円滑に産業界に入職できました。が、その学校紹介という移行のシステムが機能不全に陥っているようです。また、若者は簡単に離職して仕事の経験を積めず、能力を磨く機会を逸しており、これは日本社会にとって大きな損失であり、深刻な事態です。
 「就社」より「就職」へと若者たちの職業選択行動の基準が変わったことにより、この移行過程でのミスマッチが拡大したのではないか、私は大変気にしております。
 今の社会の仕組み、サラリーマン社会では、若者が仕事の意味と価値を知り、その面白さとつらさを経験する機会がありません。ですからこの社会の仕組みに合うような学校教育システムをつくり直すという視点が重要だと思います。
 90年代後半の不況過程で、中高年層が大量に退職に追い込まれ、或はサービス産業を中心とする労働の細分化・マニュアル化など「労働力の使い捨て経営」や、成果主義の導入などが進められました。これを身近に見てきた若者たちの産業界に対する信頼は急速に薄れてきたのではないでしょうか。
 若者の雇用問題は国の経済システム、社会システム全体の在り方にかかわります。雇用対策のみの対応に止まることなく社会経済システム全体の変革が必要であり、経済政策、産業政策、教育政策等、総動員し、総合的な経済社会政策として対策を組み立てねばなりません。
 重要な施策として3点掲げたいと思います。
(1) 若者たちに仕事に関する教科目、職業準備教育を義務教育段階から実施する。
(2) 若者や子どもたちが、仕事や職業に「希望と誇り」がもてる経済・社会システムを構築する。
(3) 雇用が不安定かつ低賃金であるところのパート、派遣、日雇等非正規雇用労働の活用抑制と正規採用の促進・待遇改善を図る。

 以上で、私の基調講演を終わらせていただきます。



セッション1「学校段階におけるキャリア教育」
八幡座長: グローバル化や急速な技術革新など企業の盛衰は急激に変化し、その影響で働く環境は急速に変化しています。そのため、同じ仕事を一生続けられる人は少なくなり、仕事を頻繁に変えざるをえない人が増えます。さらに、職業の変更を予測できなくなる一方で、自分のキャリアに自己責任も問われる時代です。期待されるキャリア教育とは、若者たちに対し、勤労者及び学習者としての自らのキャリアを構築できるような諸能力を身につけさせることといえましょう。

 キャリア教育は(1)仕事体験から学ぶ、(2)仕事そのものについて学ぶ、(3)仕事をするためのスキルを学ぶ、の三つの柱からなり、その目指すところは、@自ら学び、考え、行動できる自律的な人間を育てる。A起こり得る問題を予測し、特定化し、解決していく能力を持った人材に育てる。B積極的に行動を起こし、その行動に責任を持ち、それに対する批判は冷静に受け止め、プラスに転化していく能力を持った人材をつくり出す。ということになります。
 
 このセッションでは、学校段階でキャリア教育をどう展開するのか、次の3つの課題を問題提起として設けました。
  1.生き方研究を含めたキャリア教育
  2.企業や社会とのつながりを意識したキャリア教育カリキュラムの開発
  3.職業教育・訓練の統合
 それでは、4人のパネルの方々のお考えを伺いたいと思います。

鹿嶋(以下御発言者敬称略): 学校段階でのキャリア教育の必要性認識は従来皆無に近かったと思います。体験的学習活動・カリキュラムを国から各学校に任せるという画期的なカリキュラム改革の提案がありましたが、普通科高校では「総合的な学習の時間は不必要な教育だ」と拒絶され、普通高校におけるキャリア教育はほとんど成果が出ていません。
 ドイツのデュアルシステムやイギリスの職業資格制度と職業教育制度は学校から社会への移行の仕組みとして機能しておりますが日本にはそうした仕組みがないのです。例えば工業高校からの移行には、企業は採用の際に物作りの成果を正当に評価すべきなのです。工業高校生のインターンシップシステムや日本版デュアルシステムの取り組みを支援促進することがこの職業教育訓練統合の最大の課題です。学校と社会、学校と企業の間で移行の仕組みを構築することが求められていると思います。

小島: 小島でございます。立教大学でのキャリア教育についてご紹介したいと思います。
 立教大学でのキャリア教育の概念は学生一人一人の発達の促進を促す「コオペレティブエデュケーション」、協働教育です。職業意識や実務意識を養うためだけでなく、学生と社会を繋ぎ学生の自立を促すことを目指しています。建学の精神は専門性に立つリベラルアーツ教育との協働、社会の動きを教育の場に持ち込むというものです。
 私の調査では現代の若者は年齢の違い、大人との関係が苦手です。その弱点を補うために現行のカリキュラムでは、メンターを置いたり、学年分けをせずに議論させます。テーマは学生自身が自発的に関わり、感情を持ちながら考えを深められるものを設定します。学生は議論を通じてコミュニケーションだけでは解決できぬ問題があることを体験・理解します。
 例えば情報と事実が違うことに気づく、情報が自身にとって如何なる意味を持つのか考える、自身を理解する。こうしたことから、それぞれの学生にとってのいい人生、そのための判断力・選択力を磨いてゆくことができないか、ということを立教のコオプ教育、キャリア教育はめざしている訳です。

寺田: 名古屋大学の寺田でございます。高校生の職業観に関する私どもの調査、「高校生・大学生のキャリア発達の現況」の結果から、彼らの職業観の側面にスポットを当てて紹介致します。
 高校生に、人生で最も大切なことが何なのかを尋ねますと「職業」は4位、5位という状況です。職業より、家族の幸せ、あるいは、よい人間関係を築く、という比較的個人的な面に生きがいを感じています。ただ、学校の進路指導をはじめ、さまざまな機会に自らの進路や職業を考えているようです。彼らの職業意識と職業観構成要素を抽出すると5グループに大別されます。「役割・使命」、「生活の安定」、「将来の地位」、「理想的な社会を築く」、「自分自身の能力を発揮」などですが、社会の中で自分が活動しようとするモチベーションの不足を指摘できるようです。
 生徒・学生のキャリア発達の課題ですが、しっかりとした職業能力と職業意識の形成が今、若者に求められ、これらを統合して根拠のある自信、根拠のある有能感を形成させることが大変重要ではないかと考えます。
 学校教育におけるキャリア教育の課題は、若者が具体的な体験、能力形成と結び付いた、あるいは職業へのモチベーションをかき立てるような実像、リアルな職業のイメージを持って職業意識を発達させることです。

渡邉: 東京大学の渡邉でございます。私、昔、工学部の機械工学科で学生たちを指導しておりました。しかし、ものを知らない学生が年々増えてきました。色々な形の授業を試行し、理由を探りました。結局、義務教育に問題があるという気がしています。
 今、中央教育審議会で理数教育の発展、科学技術立国推進が議論されています。「科学技術・理科大好きプラン」が実際に小中校生向けに動いております。が、それはあくまでも「理数教育」であり、「技術教育」に関することは一つもありません。
 科学技術基本法でも直近の第3次計画で漸く「ものづくり」が取り上げられたところです。「科学」が進歩しても、それに応えられる「技術」がなければ、具体的なモノにはならないのです。技術の重要性、ものづくりの大切さがもっと認識されてよいのではないでしょうか。
 今の子は職業意識が薄弱であるとか職業を選択する力が不足していると指摘されますが、結局それは経験がないからです。彼らに手足を動かす機会を与えることが大切です。以前は年間で350時間もあった技術教育は現在、中学3年間でたった43時間です。教科書も100頁程度の薄っぺらなものです。
 科学、サイエンスさえうまく教えられれば、技術はそれに付いてくるのだ、という意見もありますが本当でしょうか。技術を理解させる教育が絶対に必要だと思います。
 で、文部科学省の「理科大好きプラン」に倣いまして、私は「技術大好きプラン」を試案しました。しかしながらこのプラン、文科省、厚労省、経産省、国交省などがそれぞれ絡んで参りまして、文科省単独で作成された「理科大好きプラン」のようなすっきりとした統一性がありません。残念ながら実施の効果は疑わしい、といわざるをえません。

八幡座長: 各先生から言い残された部分を補足して頂きます。

鹿嶋: では、学校教育におけるキャリア教育が今どう進められているのかを補足します。平成11年12月の中教審答申以来、キャリア教育の推進事業が取り組まれています。中学校における職場体験学習は全国で94%実施され、一定の効果を上げております。
 一方、高等学校を対象にしたインターンシップ事業にも膨大な予算がついておりますが、実施率は64%、体験者は10%台にとどまり、極めて参加率が低い、という実態です。キャリア教育がどの程度中学や高校で受け入れられ、どのように取り組まれているか、ある程度判断する材料としては見ることができると思います。

小島: 座長の問題提起の中の論点1「生き方の研究を含めたキャリア教育」について、発達促進教育は、社会的な発達、人間的な発達、学問的な発達のそれぞれをどう促進するのかが課題ではないかと私は考えます。立教学内では、教職員が学部を超えて協働する、それぞれの教員の課題も共有しつつ解決する、そのような体制を築きたいと思っています。
 さまざまな高校で講演したあとの生徒達のアンケート回答をみると、職業高校や偏差値の低い高校の生徒は、自分は何かをしなければいけないのではないかということを書いてきます。生き方をどう示すかより、今の在り方をもう一回問い直すというキャリア教育が高校段階で必要だと思います。それなしで進学し、大学が彼らにもう一度キャリア教育を施すのは、少し勿体ないと思います。

寺田: キャリア教育をキャリア発達、職業的な発達の面から考えるならば、学校教育の枠の中だけ、あるいは、学校教育が主導するインターンシップを含む産学連携の活動という範囲で考え、解決する話だけではなく、家庭生活、社会生活全体をトータルに結びキャリア形成を図るという視点の中に位置づけられるべきだと思います。
その中でキャリア教育の中核は、やはり体験的な学習と、職業の世界、産業の世界に関する理解、あるいはスキルということになります。実際の社会人、職業人との出会いの機会となるインターンシップは具体的に職業を考える上でのモデルになりますから、非常に重要だといいたいのです。ですから高等学校の職業教育、大学の専門教育はインターンシップを含むべきだと考えます。日本の学校教育は、能力形成という点で移行の架け橋が欠如しており、そのことが自覚されてこなかったのです。
 進路指導が進学指導に傾斜して、いま、職業指導がありません。私は今のキャリア教育の課題の一つは新たな職業指導だと思います。アカデミックな、あるいは普通教科の中でのキャリアの学習ということを考えていくべき時期ではないかと考えます。以上でございます。

渡邉: 一言だけ。キャリア教育で様々な教育が考えられておりますが、結局、土台がないとどうしようもない。その土台をきちんとつくらないといけないのではないか。これが私の問題意識です。

八幡座長: どうもありがとうございました。ここでひとつポイントを絞り、インターンシップ、リアルな体験の実効性について皆様からお考えを伺いたいと思います。

鹿嶋: 中学校における職場体験学習や高等学校におけるインターンシップは、長く実施されその成果も認知されています。兵庫県のトライ・ヤル・ウィーク、富山県の「14歳の挑戦授業」などの事例もあります。教育は学校だけでなく、地域、家庭、事業所が一体になって取り組むものだという認識が生まれ、教育全体への変化がもたらされました。非常に大きな成果を上げてきたといえます。
 単にキャリア教育だとか職業観、勤労観を養うだとか、職業に関する知識・技術を身に付けるとかだけでは不十分で、実際的な体験活動、生き方の教育、まさにその視点が重要です。

小島: 企業と立教大学が採用活動と直結しないインターンシップを協働し、学生に事前、事中、事後報告を求めるシステムを続けてきましたが、企業の公募型インターンシップ枠が拡がり、協定型参加者が減ったことがあります。教育的に練って作られたインターンシップシステムが学生と企業から一時的に拒絶された訳ですが、その後協働型への参加者数は回復しました。
 教育的要素の重視が学生に再評価されたのだと思います。教育要素に欠けるインターンシップ制度は超早期採用ツールに墮することになるのではないかと懸念致します。

寺田: 日本のインターンシップは3日間、5日間、1週間程度です。これだけでは実はインターンシップになりません。ドイツでも2週間程度のプログラムがありますが、 Schnupperpraktikum(臭い嗅ぎ実習)と呼ばれています。企業社会、職業社会の入り口を体得してくるという位置付けですね。
 ドイツではこのほかに、より本格的な体験プログラムが用意されております。さらに望むなら、専門教育機関で専門職業の中身を体験することもできる。
 日本でも教育的・啓発的なインターンシップ、実体験型インターンシップ、そして専門教育型インターンシップといった段階化が必要ではないでしょうか。

渡邉: 大学の工学系、特に機械系では、長い間「産業実習」というインターンシップに類似したプログラムを実施していました。その成果は公表されていなかったのですが、会社での職業体験です。 
 学生たちにとっては、半分就職活動でもありました。「あの会社に行ってみたが、あそこは駄目だったから別の会社へ、志望を変えよう」という人もおりました。製造業に行く工学系の人間はそういう経験を通して会社選びをしていた訳です。
 いま、当時の「産業実習」のシステムを再評価してみたいと思っております。

八幡座長: どうもありがとうございました。
 リアルな体験を学生、若者にどう身に付けさせるかが学校段階でのキャリア教育の大きな課題ではないかと思われます。
 また、高校レベルでの進路指導のプログラム、現在はまだモデルがないので学校ごとの工夫が求められておりますが、そのブログラムをつくる先生、専門家を養成することも学校段階でキャリア教育を浸透させるために必要ではないかと思った次第です。

 時間も参ったようです。パネルの先生方から貴重なお話をご提供頂きました。
 このあたりでこのセッションを終わらせて頂きたいと思います。ご清聴ありがとうございました。



セッション2「産業界における人材育成」
井戸座長: 「失われた十余年」の間、産業界、企業経営から人間尊重の視点と長期的な視点が抜け落ちたように思われます。産業界における若者の人材育成は、いま一度この二つの視点、人間尊重の視点と長期的な視点に立ち戻り、今後を考えていく必要があるのではないでしょうか。
 このセッションでは、こうした問題意識のもとで、産業界、労働界の御専門家にお集り頂き、議論して頂こうと思います。

原(以下御発言者敬称略): メリーチョコレートでは「7・5・3経営」と称し、長期7年、中期5年、短期3年という将来ビジョンを掲げ、その実現を目指しております。これを社長の私自らが全従業員に直接語りかけまして、彼らを我が子のように育てております。
 従業員1,000人足らずの会社ですが、うち7割が女性です。「企業は人なり」というように、人材を最も重要なものと位置づけ、処遇・待遇には男女差はありません。再雇用制度を希望すると65歳まで働くことができる終身雇用制です。
 利益はまず従業員に還元する、という方針ですから、例えば30代社員の場合、年間で200万から300万という高額の賞与を手にしております。物心両面でこのように満たされていますから、従業員は会社の方針をよく理解してくれています。
 人材を育てる上で大切なことは家庭教育、学校教育、そして社会に出てからの社会人教育といえましょう。

長崎: 私のミッションは伊勢丹の創業以来125年間の企業理念、企業の考え方を遂行しうる人を採用し、人材を育成することであります。サービスに支障を来さない陣容を確保し、生産性を上げる専門性、自立性のある人材に育てようとしております。
 百貨店先行5社に200年後発の伊勢丹が伍して生きていくため、企業スローガンを「毎日が、新しいファッションの伊勢丹」としました。当時、ファッションリーダーであった芸妓さんに的を絞ってデザインで勝負をする、マイカーブーム到来の前に500台程度を収容できるパーキングビルを建設したり、当時は郊外だった新宿に店舗を移すといった新しいトレンドを先取りすることに力を入れます。
 ですから伊勢丹は進取の気性に富んだ人を採用したいと考えております。
 社内教育ですが、OJTはマネジメントの前段階で商品販売と買い付けの体験をしてもらいます。その後2,3年マネジャーの権限を持たせ仮代行を務めさせます。
 先輩を敬う年功序列の良さを評価すべきであると思いますし, 賃金とポストとは連動しないと考えますから、単純な能力主義導入には違和感があります。但し、成果主義導入の流れは将来とも変わらないでしょうから、年功と役割成果主義処遇の整合性をとることが今後の日本企業の課題であろうとも思っております。

坂田: バブル期、当社を含めまして印刷会社は3K職場とされ、求人、従業員定着で大変な困難に直面致しました。その反省を踏まえ人財確保に向けて、凸版ファーストキャリアプランを策定しました。これは、従来からあった3ケ月程度の入職教育、9ケ月の仮配属、そののち正式配属、という1年間で完結する育成計画を労働組合とも相談しながら、改めたものです。
 「新入社員育成期間を3年間とし、入社3年後の『あるべき姿』これを目標にして、その達成のために意図的、計画的、継続的な育成をOJT、OFFJT、自己啓発を通じて実施する」ことと致しました。『あるべき姿』とは自ら学ぶ姿勢を身に付け、担当業務において自立し、かつ自律した行動に一歩踏み出した状態であります。 
 併せて「ブラザー・シスター制」をも改めました。実務に精通した入社5年〜8年の社員に兄姉のような気持ちで若手の面倒を3年間見させるという制度としました。そのブラザー・シスターに対してもコーチングほか研修を施し、彼ら自身の成長も図っております。終身雇用を基本に、じっくり長期的に見ながら人材を育てましょうという考え方であります。こうした育成の姿勢のもとで、現在の従業員定着率は90%であります。
 労組との情報共有が制度の改定とそれを職場に浸透させる原動力になったと考えています。

逢見: 日本全体を見ますと、バブル崩壊後、人を大事にする、あるいは、長期的視点から人材を育成しようとする姿勢が薄らいでいます。
 一つには日本政府が規制緩和、構造改革を進めたことが理由です。外部労働市場を拡大するための制度改革によって、企業の人材政策も自前での育成からアウトソースにシフト、直接雇用を削減して派遣のような間接雇用への切り替えを進めました。
 その陰で大量の低賃金労働者が増え、格差がもたらされました。正社員には非常にストレスのかかるコア業務が与えられ、かつ長時間労働が強いられる。株主への配当は増やすけれども人件費は増やさない。総額人件費抑制政策の中で果たして人材は育成されるのでしょうか。経営戦略における人材育成のプライオリティーが著しく低下しています。
 企業は人事政策を今一度見直し、人材立国、企業は人なりの視点にたちかえるべきだと思います。
 その視点として五つほどあげることができます。
 (1)成長と公平のバランスの取れた政策運営を行う、(2)人的資本の充実を経済政策の主たる目的とする、(3)キャリア教育を充実する、(4)ワーク・ライフ・バランスのとれた社会の実現を図る、(5) 若者、シングルマザー、年長フリーターに対するセーフティーネット、底上げを図る。税金を使ってでも能力アップ、スキルアップをはかり、より高いレベルの仕事についてもらう。これらを進めるべきだと考えます。

井戸座長: ありがとうございました。次にそれぞれの方から各論につきまして御発言下さい。

原: 当社には筆記による入社試験はありません。一般社員が面接官を務める一次から役員面接の五次まで、全てが面接試験です。入社すると新入社員1人に対しお姉さん、お兄さんとして入社3年目程度の社員を1人つけ、交換日記をします。私のところに回ってきたらコメントを書き込む。地味な取り組みですがこれで社員が育つのです。人間、一過性の研修会、教育で育つわけがありませんから、新入社員にはフォロー研修を行います。3カ月、6カ月、1年。そして、2年、3年まで続けます。日常では、その部署のリーダーが今までの業務を通じて得た自分の経験を語ることで教育をしています。
 経営者自らがすべてをオープンにすることで社員との情報共有ができます。従業員25歳から5歳きざみで60歳までのモデル年収額を全部公開しています。月次決算内容も全て社員に公開致します。
 労働組合はありません。従業員の希望にどう対応するかをその都度決めています。関係者を集めて意見を聞くという合議制です。
 最近、アメリカでも、成果主義は間違いだという声が出ています。当社は年功序列、「年」齢給と「功」績給を合わせた賃金制度を採用しています。

長崎: 当社のステークホルダーは社員が一番目です。若年従業員には絶対に離職をさせません。若い間は何としても当社の中で一人前に育て、自律性と専門性を持たせます。バブル崩壊時も、大手百貨店で唯一リストラをしませんでした。ただし50歳以降の転職は認めます。社内で育成し、他社で現行賃金よりもよい、あるいは自分のやりたいことができるのであれば、転職を否定しません。
 採用に先立って学生には夏休みに3週間インターンシップを行います。営業と広報部門を10日間ずつ見てもらう。伊勢丹についてかなりの理解を持つことができます。入社後は5年間が教育期間です。
 大学は就職に対して無関心すぎるのではないかと思います。大学の履歴欄に職業履歴欄のある書式を見ました。大学は学生に対して的確な進路指導をしてほしいと思います。
 能力主義については、人件費の流動性、利益に対する流動性の点から企業として取り入れざるを得ないでしょう。ただし、終身雇用の中の能力主義として、一つは、個人の意思・希望を反映させること、ふたつには定量的な成果の評価と合わせてプロセスを評価することを考えるべきだと思います。

坂田: 採用面接のときに「あなた凸版印刷が第一希望ですか」と尋ねると、「第一志望『群』です」と答える学生が見られます。内定を複数取っても学生自身で最終選択することができない、整理できないという困った状況でもあります。彼らの職業観をどう育てるのか、民間企業では対応しきれない難しい問題です。
 そうした学生に対して個別に相談に乗るほか、ジョブカフェに倣って「凸版カフェ」を設けまして、当社志望の学生に限らず卒業を控えた学生達の相談にも乗っています。「仕事」への理解を助けながら、最近の若者のトレンドを掴むという当社にとってのメリットもあります。

逢見: 労働相談、個別労働紛争とも増加傾向にあります。紛争の中身は解雇、そして労働条件の引き下げ、退職勧奨などです。労組のある企業では労働協約で紛争の解決ルールが整っていますが、ないところでは紛争に発展してしまう。解雇トラブルの解決とその本質的原因の改善、或はその除去といった面で労組の存在・役割は大変重要です。また、企業が存続の危機に直面しても、労組が「やろう」と言えば、従業員はついてくる。担い手は従業員ですが、労組の牽引力で、再生を果たした企業も多いのです。そういう点からも「企業は人なり」の「人」を引っ張る力を労組が持っていることを申し上げたい。

井戸座長: 残り時間が少なくなってきました。最後に皆さんからひとことずつお願いします。

原: 当社の入社応募の履歴書には、学校・学部等の学歴記入欄がありません。人物重視の採用です。また、社員の誕生会、納涼大会、社員旅行、永年勤続旅行などの機会に情報交換をして風通しの良い環境を維持しています。

長崎: 業務はディジタル化が進む一方ですが、人事管理には相手の顔を見て情報を取るというアナログ的要素が欠かせません。これを部下達に言っております。

坂田: 少子化の進む中で多様性を容認するということと、仕事と生活の調和した社会をこれから目指すことが重要だと思います。もちろん生産性の向上が前提ですが。勤勉、良い意味での集団主義を維持しつつ、ダイバーシティなりワーク・ライフ・バランスの社会に挑戦していくことが必要ではないでしょうか。そのときベースになるのは多様性の容認、つまり相互理解、コミュニケーションです。人材育成の場面においても、キーワードはコミュニケーションではないかと思いますし、その仕組みを整えてゆく必要があると思っております。

逢見: 人の心を知らない、人事を知らない会社がこのまま増え続けたら、日本の企業社会は大変なことになってしまうと懸念しています。

井戸座長: ありがとうございました。やはり「企業は人なり」、を改めて実感しました。企業がいかに従業員の「やる気を引き出すのか」、「やる力を伸ばすのか」、そして従業員が「夢を持って働ける職場づくり」が、企業の業績に反映してゆくのではなかろうか、と心から思った次第です。御出席の3社の今後ますますのご発展を期待致します。また、労働界からお一人で参加賜りました逢見さんからはパンチの効いたお話を伺うことができ、心から感謝申し上げ、このセッションを終わらせて頂きます。



セッション 3「学校から社会への移行における課題と対応」
小杉座長: 小杉でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 このセッションでは、学校から職業への移行における問題、学校でキャリア教育を受け、企業に入ってよい訓練を受けられるという道筋に乗り損なった人々に対し、どのような対応が必要かを考えたいと思います。
 92年から02年までの10年間にフルタイム・長期雇用の人たちが減り、有期限雇用の人たち、あるいは失業者、求職活動をやめた無業の若者たちが増えました。この若者たちは中途退学者も含め総じて学歴が低く、それを反映して失業率が高い。これは国際的に共通する傾向です。
 今、日本には、正社員経験のない者を育成する仕組み、キャリア形成のノウハウを持つ企業がありません。日本の社会、企業が彼らにどういうチャンスを提供するか、これからの課題です。
 団塊ジュニア世代を代表とする30代前半層、年長フリーター層に関する「世代問題」と、家計の制約で早い段階で学校教育から離脱し、低学歴・低賃金の使い捨て労働者となる、いわば「格差問題」を中心に、セッションを進めたいと思います。では堀さんからどうぞ。

堀(以下御発言者敬称略): 労働政策研究・研修機構の堀有喜衣です。年長フリーターの滞留現象についてお話を致します。
 1990年後半から非典型雇用の割合は急激に上昇しました。とくに派遣が急増しています。2002年から2006年の間では25歳〜34歳男性の臨時・日雇い派遣の割合の増加が目立ちます。
 ところが日雇い、派遣労働者の正社員を希望する割合は20代後半男性で53.6%、30代前半では58.0%です。20代後半層、年長フリーターにあたる人たちの割合は、特に高卒者で増加し、フリーターから正社員に移行するキャリアパターンが減っております。
 なぜ移行が進まないのか。正社員の長時間労働化が進行し、これがフリーターの正社員志向意欲を削いでいると思われます。関わる社会が極めて狭く、相談相手がいないので、移行意欲が刺激される機会がないことも理由として考えられます。
 正社員も含め、働き方を見直し、就業支援だけに止まらず、ソーシャルネットワークの働きかけなど、彼らに対する包括的な支援が必要ではないかと考えます。

降幡: ハローワーク渋谷、職業相談第3部門統括職業指導官の降幡です。
 ヤングハローワークは、フリーター対策を強化するために平成13年に全国5か所に設置され現在に至っておりますが、年長フリーター等で希望職種が明確でない、就職活動を上手く進められないなどの若年者対策を強化するために、今年度各施設がヤングワークプラザとしてリニューアルしております。
 本日は、ヤングハローワークの平成18年度の実績データを基に現状を説明致します。
 平成18年度来場者数は約10万4,000人で、うち登録者は約1万3,500人です。このうち25歳以上の方々が約60%近くを占めます。年齢別では25〜29歳の男性の登録者が20〜24歳を凌ぎ、約3,700人ほどです。最終学歴は短大、大学、大学院等卒業者が半分以上です。大学院等を卒業した後に各種専門学校、専修学校に行くという、普通では考えられないケースもあります。好きなことをやりたくて、そのような道を選ぶ人もいますが、学校で解決できなかったことを卒業後も引きずっている方も多いようです。
 中途退学者の学歴では大学中退が圧倒的に多く、自分の生き方に迷っている様子が見て取れます。
 登録時における在職状況を確認すると、非正規雇用が68%で、正規雇用が32%となっており、正規雇用と回答している方の中には4月に新卒で入社したものの、自分の考えていた部分との食い違いから納得ゆかず辞めてこられた方も見受けられました。非正規雇用の方達は給与の差や賞与が支給されないなどから正社員(正規雇用)への転職の希望を持つ方が多いようです。
 短大、大学、大学院卒業が登録者の半分以上いるにもかかわらず、約46%の方は仕事探しに来たときに、どんな職業に就いたらいいか分からないという悩みをお持ちで、キャリア教育の遅れがこのような状況をもたらしたのではないかと考えられます。
 希望職種の明確な方たちの状況を見ますと、事務的職業が24%次いで専門的・技術的職業が16%となっています。
 登録から初めて就職するのに要した期間を見ますと、3か月で就職された方が最も多く、中には1年以上かかって就職する方も見られます。
 就職した方々の職種別の状況を見ますと、事務的職業が38%、専門的・技術的職業が23%、販売が20%となっています。
 フリーター経験が長い若年者は、正社員での就労経験が少ないことから、未経験者でも応募が可能な、新人教育をきちんと行っていただける求人募集が多くなることが必要です。
 JIL-PTの企業調査で「人材育成・キャリア開発に関して重視する項目」の回答からもわかるように、企業全体が人材育成を必要と感じて来ているようです。
 就業形態別の教育訓練の実態からは、正社員には十分な訓練が施されているが、派遣などの非正規雇用の方たちにはそうした機会が極めて少ないことが見て取れます。

 9月にリニューアルした「ヤングワークプラザしぶや」は、職業適性診断など適職や、就職活動の進め方などについてのカウンセリング、応募書類の作成方法や面接の受け方になどに関するアドバイスなど就職活動が上手く進められない若年者の支援を中心に実施しています。
 10月より、就職クラブ方式での年長フリーターに対する支援をスタートしました。3カ月間で委託業者による9回のセミナーと、スタッフによる6回の経験交流会、就業トレーニング、職場見学などを交え、グループ力を活かしながら全体的な親交を図っています。同世代・同類境遇の仲間と自分の経験を話し合って共感を持ち、だんだん前向きに就職活動できるようになることで、これまでに3名の就職が決まっています。

工藤: 普段はフリーター、無業者などを対象に、年間延べ5万人ほどの就業支援を行っています。
 最近、行政、企業との協働による高校のキャリア教育に関わっています。19年度は1万2,000人、60校の高校生に、社会とか労働の側からのキャリア教育を進めています。
 私自身も講師になり企業の社員のお手伝いを頂きながら、いろいろな題材で彼らに考えてもらいます。出向く先は定時制、偏差値が高くないところ、離島や社会資源がない地方の高校が結果的に多くなっています。
 彼らの一部は片親家庭や低所得家庭の子で、中学校1年頃から「大学、専門学校への進学はない」と言われ、新卒採用ルートに乗れないことを知っています。
 彼らにワーク・ライフ・バランスの話しをすると容易に理解します。「だって、うちのお父さんほとんど死んでる」とか、「お母さん、帰ってこない」とか。親の多くが正社員でなく、非正規故に、朝から晩までどころか、朝から朝まで働いて、自分を高校に行かせてくれている。そうした親の働き方を間近で見ているからでしょう。
 キャリア教育も大事ですが、はじめからチャンスを与えられない子供たちをどうするのか。家庭の状況は学校生活に影響し、勉強できる状況にはありません。個人の努力とか奨学金云々では片付かないのです。社会としてどうするのか、が必要ではないかと思います。天才発掘プロジェクトなど能力ある子を支援する企業、夢物語を真剣に応援する多くの大人たちがいる米国社会とその文化を羨ましく思っています。日本も恵まれぬ子達に少し門戸を拡げ、チャンスを与えられないでしょうか。

小杉座長: ありがとうございました。工藤さん自身は、そういう高校で、300人相手に何を教えていますか。

工藤: いくつかプログラムがありますが、金銭教育を例にとりますと、生活費にいくらかかるのか、額面と手取りはどう違うか、等です。またフリーターの権利はどれほど危ういかなども教えています。 
 また携帯電話のように皆が関心を持つ話題を選んでその成り立ちから職業教育に繋げています。
 採用に受かるための支援というより、辞めないため、働き続けるために必要な知識を伝えるようにしています。人間関係をどうつくり、自分の力をどう向上させるか、それと、自分を守るための法律的問題などです。
 高校生が面白がってくれるのが、マイレージとかポイントの話です。例えばTSUTAYAとBOOK-OFFがなぜ組むのか説明し、考えさせます。社会の仕組みが分かると、20万円しか給料がなくても、22〜23万円の生活ができる。自分を守る手段と社会の広がりを伝えるようにしています。

小杉座長: なるほど。まさに彼らの視点からの面白さを取り入れ、社会と接点をつくっている訳ですね。さて、低学歴層のお話に絞って意見交換をお願いします。降幡さんハローワークに来られる高校中退レベルの方たち、いかがですか。

降幡: そういう方も「ヤングワークプラザしぶや」にお越しになりますが、自分の希望に合うかどうか自身で主体的に吟味されます。自分に必要な施設なら使い、合わないと思えばその1回限りです。相談窓口に座って頂ければ支援を進められますが、着席を決断するまでが難しいようですね。インターネット、適性診断などのツールを無料で使うために来ている方が殆どですが、適性診断をしても、その結果について説明を聞かずに帰ってしまう。自分自身の履歴の整理がつかないことから相談する勇気を持てないことが原因かもしれません。

堀: 例えばフリーターを対象にインタビュー、ヒアリングを募った際、高校中退の応募者と会う場所を約束しても当日連絡なしにキャンセルされる。社会のルールを知らないので、雇い主には受け入れられにくい、との印象があります。

小杉座長: 社会的関係が少ないということと関係するのでしょうか。

堀: 低学歴層は公的な機関を利用しません。情報などの社会的資源を使うノウハウを学ぶ機会がなく、そのまま高校まできてしまったからかも知れません。

小杉座長: 工藤さんは社会的資源をうまく使う方法を一生懸命教えようとされています。彼らが公共サービスをうまく利用すればもっと就業に繋がると思うのですが・・・。

工藤: 支援する人間は、保護者やご家族の身近な存在と連帯するという形が一番いいと思います。自分の友達や知り合いから回ってきた情報なら少し暖かみが感じられて「取りあえず彼が言うなら行ってみようか」という風に進みやすい。そうしたアナログ的な「情」を含められると彼らを引きつける度合いがかなり高まると思います。

小杉座長: ニート問題でも、工藤さんは保護者経由で情報発信をやっていますよね。

工藤: 彼らの所在は保護者しか分からないのです。大学生などにしても影響力はかなり強く、特に就職段階になるとお父さんが勝手に調べて「あの会社は良くない」と言って、折角決まった内定先を取り下げさせる。周辺のソーシャルネットワークの人たちに対し、自分たちが判断力のあることを訴えかけないといけないと思います。

小杉座長: 若者への直接の接触より、ネットワークをどう使うかが大事ですね。高校中退という問題では中退するまでは学校がネットワークの起点で、中退したあとは親が中心になる。日本では中退問題について、学校以外の機関がかかわることがないのですが、例えば、アメリカのように学校の中に相談の機会をつくっていくことが必要と思います。
 統計だけで見ると、中卒の就職者も含めて高校卒の学歴を持たないで労働市場に出てきている人が若者の中の10分の1を占める。この人たちをどう一人前にするのか、社会としてとても大事なことです。そのために、特に学校ネットワークの果たす役割は大きいのではないでしょうか。

 低学歴層の話に続いて年長フリーター問題に移ります。ヤングワークプラザしぶやでは、年長フリーターを想定してジョブクラブという新しい方式を導入されましたね。

降幡: 「ヤングワークプラザしぶや」に会員登録された方を相談窓口(担当制)で個別支援します。就職のためのプランをご相談し、集団で就職活動の準備をした方がより効果的と考えられる方に、ジョブクラブをお勧めしています。自信を失っている方や、フリーター経験しかなく正社員での就職活動を希望される方などに参加いただいていますが、ジョブクラブに参加いただいた状況を見ますと、親からの話はなかなか聞けない方であっても同世代の方からの話なら客観的に聞けるという方が多いようです。
 なお、中学生や高校生の就職支援等については、ハローワークの中に学校関係を担当する部署があります。就職担当の先生から中退しそうな子の話があると、先生とのネットワークをつないで、ご相談して踏みとどまらせる、就職してしまうと実際どうなるかという話しをします。
 このほか若年者ジョブサポーターが、職業意識啓発のため学校を回って職業講話や相談を行っています。

小杉座長: 工藤さんは年長フリーターの集団的な支援をされていますが、集団で支援するメリットはどのようなところですか。

工藤: 彼らはソーシャルネットワークが少なく、まずソーシャルネットワークをつくれることがメリットの一つです。離職した人たちの多くは企業内外いずれにも相談する人がいません。集団支援で、大体皆さん就職され、会社ではそれなりに頑張ります。就業していった人間の9割5分ぐらいは離職していません。離職しない理由は集団支援の頃の仲間と土日に遊ぶためのお金が必要で、そのため会社を辞めるわけにはいかない。ソーシャルネットワークが離職の防止作用を果たしている、集団での支援は有効だと思います。

小杉座長: 同世代のソーシャルネットワークを形成した後、それがうまく就業に一歩踏み出せる場合とその場で一種滞留してしまう場合がありますが、何が違うのでしょう。

降幡: フリーターで働いていた時の様々な経験により、社会の中で酷く痛んでしまった場合、元の状態に戻るために長時間を必要とする方もおりますが、個人差があっても自分の状態が戻ってくれば一歩踏み出せるようです。

工藤: 一歩踏み出せた人は、多分どこかで考えること、迷うことをやめた人でしょう。会社に入ったら自分はできるとかできないとか考えることをやめられた人が一歩を踏み出せる。

小杉座長: 考えないように、誰か後押しをするのですね。

工藤: うちでは就社でも就職でもなく、「就人」と書きます。人につくことをメインにしています。うちに来ている子を受け入れてくれるところが中小企業を中心にたくさんあります。その会社内で、この人とだったらずっと一緒についていきたいという人を見つけた人はそこに行きます。誘われたときも「行きま〜す」と、決断も早い。「じゃ、あの人に取りあえずついて行ってみたら」と後押しもしやすい。会社を選ぶときも彼らは人で選んでいるような気がします。

小杉座長: 今日は、「アナログ」とか「人」の話が再三出ていますが、やはりそこにかかってくるんですね。今まで、若干、私が強引に進めてきました。皆さん言いたかったことがあると思います。一人2分ずつで、順番にご発言をお願いいたします。

工藤: 企業を辞めてしまった人、病気になってしまった人は、別に能力がないわけではないと思います。また、脱落しそうな人がはじかれていく、そういう人たちが救済される仕組みがあればと思います。それには、失敗をした人を受け入れる意識が必要だと思います。「そんなことは失敗してから言え」という言葉で励まされた経験もあります。失敗とか、駄目だったことが、意外に経験としてプラスになるような仕組み、意識が、全体で共有できたらいい社会になると思います。

降幡: ハローワークの若者者支援施設におりますと、世の中の動きが労働の部分に色濃く反映されていることが分かります。基調講演のお話にもありましたように、若者の就労環境がいい方向に整備されることで、学校教育で足りないところが補われ、社会人になって労働者の方々が安心して働ける社会になってゆくのではないかと思います。それらが施策として実施され、望ましい状況がもたらされるよう、若者者支援施設で頑張っていきたいと思います。

堀: 今、景気が良くなり、高校の現場では非常に就職がいいようです。ある工業高校の先生が、「内定について心配する必要はない。が、3年以内にこの子たちの半分以上が離職するだろう。その辞め方を教えなきゃいけない。」とおっしゃった。労働者としてどう生きていくのかを少なくとも高校で、本来なら義務教育段階で教えるということが非常に重要だと思います。
 やりたいことを見つけるだけではなく、労働者としての権利、人としてこの社会の中でどう生きて、どう社会とかかわっていくか。そういうことを伝えていくことがキャリア教育では重要で、早い段階で学校を離れてしまう若者が増えぬように教育してゆくことが大切だと感じます。

小杉座長: 若者が自立して生きていくため、学校にいるうちに基本的なものを身に付ける。八幡先生がおっしゃられたように、職業観という言葉に縛られず、その背景にある能力を形成するプロセス、スキルなどとセットで人としての生き方を学ぶ。あるいは、労働市場に入り、人として生きていくために、自分を守るための法律も知っておく。自立して社会で一人前になって生きていくということのための準備のための教育がキャリア教育ではないかと思います。
 「自立」という言葉がこれからの日本の若者のキーワードになってくるでしょう。そのための教育です。
 もう一つのキーワードは、「やり直し」です。長期安定雇用で途中からは入れないという話は基本的に大企業の中のことで、中小零細企業では本当にたくさんの人が育てられてきました。その事実をきちんと見てほしいと思います。工藤さんがお願いしに行くと、試用機会を与えてくれる企業。そういう温かい目で人を見てくれる小さい企業が実は地元にある。そういう企業の教育力をどう的確に評価していくかが次の課題ではないかと思います。どうもありがとうございました。