地球環境
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SB第16回会合 最終速報
2002年6月5日〜14日 ドイツ、ボン


 マラケシュにて京都議定書の運用上の詳細に関する作業が完了したことで、今後は「交渉」よりも「実施」に重点をおいて議論を進めることになるという議長の言葉で開会されたSB16だったが、議論は利害関係の微妙な調整に終始費やされた。京都議定書については、一番最近批准した日本を含め74カ国が批准した(附属書I国の総排出量は90年レベルの35.8%)ことが新しく事務局長に就任したJoke Waller-Hunter氏から発表され、発効の鍵を握るロシアも今年中に京都議定書の国内検討を完了させられるようにしたいと述べたが、本当に発効するかは未だ不明である。また、途上国の中でも中国、ブラジル、インドといった、近い将来GHG排出量が顕著に増加するであろう大国が第2次約束期間にコミットメントを負わされることを危惧していることや、産油国であるサウジアラビアが温暖化防止対策で経済的な打撃を受けることから、本会合でも対策がより迅速に行われ、また厳しくなることに対し激しく抵抗しており、今後の交渉も難航すると思われる。

・SBSTA16 (2002年6月5〜14日)
IPCC第3次評価報告書について
 TARに関する意見交換、ワークショップなどをもとに、SBSTAにおけるTARの活用方法についてコンタクト・グループで大議論が行われ、TARを今後挙げられる議題の参考資料として利用することや、毎回SBSTAにて研究と観測、気候変動の影響と適応、また脆弱性、緩和について検討していくことが決定された。また、TARを検討することによって更に研究が必要な問題が提示される可能性があるということが留意された。事務局は、SBSTA17 にてIPCCや他の研究機構の代表を召集し、意見交換が出来る場を提供することと、Q&Aイベントを開催することを要請された。各国は、まず2002年8月20日までに研究の優先順位などに対する意見を提出しSBSTA17 にて議論を深め、更に2003年1月31日までに更に結論案に対する意見などを提出し、COP9での採択を見込んだドラフト決議案を作成するためにSBSTA18にて議論をすることとした。
 本会合におけるTARの主な論点としては、まず中国やブラジルが2012年以降コミットメントを負いたくないという思いにより、「緩和」という言葉が結論案や決議案入ることに非常に敏感になり、G77+Chinaという立場から、その言葉を入れる場合には「影響」に関する更なる研究や「適応」の重要性などを文書の中で協調することを主張したことが挙げられる。またロシアは、前々から議題に挙げている気候変動システムに影響を与えうるGHG濃度についての更なる研究の必要性について文書に記載することを主張した。更にサウジアラビアは、交渉の進め方が不公平であることに言及し、文書の原則自体に反対した。協議は総会の最終日までもつれ込んだが、結局ほとんどの国の意見を取り入れ内容が薄まった妥協案で合意された。

手法的事項(Methodological Issues)
(a)附属書I国によるGHGインベントリの報告・レビューガイドラインについて
試験期間中に得られた報告・レビューガイドライン、及びIPCCグッドプラクティスガイダンスの利用経験や新しい報告・レビューガイドライン(含むCRF: Common Reporting Format)のドラフトをベースにコンタクト・グループで議論された。結果、結論案と2つのドラフト決議案(附属書I国の国別報告書・パートI:UNFCCC年間インベントリの報告ガイドラインと、GHGインベントリの技術的レビューガイドラインの改訂。COP8での採択を目指す。)が作成され、SBSTAは総会にてこれら文書を採択した。国家インベントリのレビューは2003年以降、更に多くの専門家を必要とすることが認識され、また、事務局はデータベース作成における効率性などを改善するためにソフトウェアやウェブサイトの作成作業を進めるように指示された。専門家育成や極秘データの扱い方に関してはSBSTA17で話し合われる。

(b) 議定書5条、7条、8条の下でのガイドライン
 他の決議と首尾一貫性を保つためにCOP7では5・7・8のガイドラインの一部が完成されなかったため、SBSTA16にて残された部分について検討することになった。
 コンタクト・グループは期間中3回の会合を開催し、6月12日にすべての作業を終了、13日のSBSTAの総会で決定文書が採択された。このほか、SB開始前の6月2日3日の2日間、登録簿についてのワークショップが開催された。

(i) グッドプラクティスガイダンスと議定書5.2条における「調整」について
 ワークショップでの結果をもとにコンタクト・グループで協議をした結果、方法論に関する「技術ガイダンス草案」をさらに検討し、「調整」の計算シミュレーションのケーススタディーをすすめた結果を2003年4月に開催されるワークショップで協議することに合意した。方法論に関する「技術ガイダンス草案」についてはSBSTA18で決定し、COP9で検討するという従来の決定を再確認した。

(ii)議定書7条で求められている情報の準備、及び8条で求められているレビューのガイドラインについて
 COP7の決定において保留になっていた7条1項および7条2項に基づく補足情報の報告、8条に基づく各ユニットおよび登録簿に関するレビューおよびメカニズム使用資格の回復手続方法のガイドラインについて検討した。
 メカニズムを利用する資格の回復に関するレビュー方法に対し、EUは、通常のレビュープロセスと報告方法、また遵守手続きと一致させなければならないとコメントした。この議題に対してより議論を深め、結論案とCOP8の決議となりうる案を作成するために(i)と同じコンタクト・グループの下で検討され、最終的にはレビュー期間の延長を求める途上国の提案もありタイミングの問題にいくつかのオプションに括弧がついたままの附属書を含む決議草案が12日のコンタクト・グループで合意され、SBSTA17およびCOP8で協議されることになった。また、ブラジルからCOP9で決定されるCDMシンクの定義など考慮するという文章を挿入すべきという提案に対して、日本、豪州、カナダ、NZが懸念を表明し、最終的に「CDMシンクの定義に関する作業に留意し、COP9で決定される予定の内容がCOP8で決定される予定の7条8条ガイドラインに影響がある場合は考慮することに合意した」というパラグラフを挿入することで妥協した。締約国は2002年8月1日までにガイドラインの保留箇所について意見を提出しSBSTA17でさらに協議が続けられる。

(iii) 議定書7.4条における登録簿の規格に関して
 ニュージーランドのMurray Ward氏が6/2-3に行われたコンサルテーションについて、現状では多くの国の登録簿はまだ作成し始めたばかりであるが、データ交換がスムーズに出来るような登録簿を2005年までに作成することや、登録簿の規格をデータ交換に関連する分野に適用させるべきであることなどを報告した。今回のワークショップでは、登録簿に関するテクニカルペーパーが配布され、各国の登録簿作成状況に関する情報交換が実施された。今後はシステムの専門家などを交えた協議が行われることが予想される。登録簿規格についてのドラフト・ペーパーはSB17までに作成される。この議題に関してMurray Ward氏が再び非公式折衝をすることとなった。
 6月13日のSBSTA総会においてMurray Ward氏は、最終的にはワークショップの結果に留意し、この文書に対する関係者の意見を集約した文書を、SBSTA17での、規格に関するさらなる協議のために事務局が用意することで合意したことを報告した。

実証可能な進展の報告に関して
 議定書において先進国に求められている2005年までの「実証可能な進展」についての報告については、途上国は「実証可能な進展」の報告・評価の方法を厳格にするように求める一方、先進国側は議定書3条2項に記載されている内容で十分であるとして、このために特別の報告様式やレビュー手続を設けることはするべきではないと主張した。
 最終的には、この報告は条約の国別報告のガイドラインおよび7条ガイドラインに従って実施され、COP7での政策と措置に関する決定文書13/CP.7に即したあらゆる妥当な貢献を含めること、報告は第4回国別報告に矛盾がないものであること、提出された報告は事務局によって編集され2006年の最初のSBIで検討されることに最終的に合意した。この文書は決定草案としてCOP8で協議される。

(c)AIJにおける統一された報告形式について
 URF(Uniform Reporting Format)の改訂版についてのワークショップなどをベースにURF改訂版についてコンタクト・グループで検討、及び議論を行った結果、改訂されたURFを含む決議案(COP8での採択を目指す)がSBSTAにて承認された。

(d)LULUCFのグッドプラクティスガイダンス等の作成について
LULUCF関連の定義、及び人為的影響の識別についてIPCCが報告書を作成していることから、その進捗状況が報告され、COP9までにGPGを完成させることの重要性が注目された。また、FAO、IPCC、林業関係機構などは、国際的に統一された定義が使用されるように専門家会合を開催されたことに対し、その協力を歓迎し、IPCCと引き続き協力しながら森林の土地劣化と植生消失の定義を作成することが薦められた。

(e)LULUCFについて:議定書12条の下における植林と森林再生活動の定義と様式
 第1約束期間におけるCDMの植林・森林再生プロジェクトの定義と様式を、非永続性、追加性、リーケージ、不確実性、生物多様性やエコシステムなど社会経済・環境への影響なども考慮して作成するようCOP7にて要請され、SBSTA16ではその委任事項とアジェンダを完成させることになっていた。コンタクト・グループによる協議の結果、委任事項とアジェンダが作成され、SBSTAにて合意された。第1約束期間における植林と再植林活動の定義について、G77+Chinaは、Dec11/CP7の附属書で採択された定義と同じにし、「追加性」「リーケージ」「不確実性」などの定義は、必要に応じて改訂すること、「非永続性」などUNFCCCで正式に決定されていない言葉に関しては、第1約束期間の植林・再植林用に定義付けるようにする案を提出した。それに対し、カナダは「植林」と「森林」の定義に関してはCMP1(LULUCF)のドラフト決議の附属書として採択された定義と同じにし、「再植林」に関しては、1989年以降に森林でない土地に制限するのではなく、1999年12月31日以降にすること、また森林の最小土地面積などは非付属書I国が決定するという案が提出し、日本はカナダに賛成したがG77+Chinaとの間で合意が得られず、結局結論案には、「SBSTAはCDMの第1約束期間に含める植林と再植林の定義と方法に関して議論を始めた。同事項に関しては、SBSTA17にて引き続き議論を続ける。」と記載されそのまま採択された。定義に関する議論は、SBSTA17で行われる。

その他
よりクリーンでGHG排出の少ないエネルギーの提案
 既にカナダにてワークショップが行われたにも関わらず、カナダが新しい提案をしているという点から、「よりクリーンでGHG排出が少ないエネルギーに関する事項」と議題名が変更された。その議題のもとでカナダ提案(第1約束期間において、低GHGエネルギーをアメリカに輸出することによりクレジットを得るという提案。クレジットの上限は年間7000万CO2換算トンまで。)が説明され、G77+ChinaやEUなど多くの国に反対された。しかし、USや日本などは、今回はこの議題の内容について議論すべきではないとカナダ案を延命させる立場をとり、ロシアはカナダ案に興味を示した。結局SBSTA17(COP8)で引き続きこの議題に関して議論することが決定された。

議定書2.3条の実施に関する事項
 サウジアラビアは、議定書2.3条に記載されている、特に国際貿易に関する政策措置の悪影響を考慮することの重要性を強調した。結論案には、SBSTA17にて今後のワークショップ開催の可能性について協議することが記載され総会にて採択された。

国連機関との協力について
 国際輸送(航空機と船)のために販売されている燃料から排出されるGHGの報告方法に関して、もともとSBSTA17で協議されると結論案のドラフトに記載されていたが、アメリカの希望によりSBSTA18にて協議されることとなった。またG77+Chinaは結論案に、「非附属書I国はGHG削減目標を負っていない」ということを記載するよう提案したが、その意見は取り入れられなかった。

SBIについて
国別報告書やフィナンシャル・メカニズムの見直し、条約4.8条と4.9条の実施について、WSSDとCOP8の準備状況などが協議された。各議題の結論案は、ほぼドラフト通りに採択されたが、内容は、SBI18などに検討されるべき事項や各国意見の提出日などの指定が多く、特に新しい事柄が決定されたわけではない。

スペシャル・イベントについて
 今回の会合ではUNFCCC主催のイベントに加え、IETA(International Emission Trading Association)が京都メカニズムに関するイベントを何件か開催していた。ただし「Financial Accounting of GHG Emissions」というテーマのイベントが「企業向けでありあまり人が集まらない」との予想からキャンセルされていることからも伺えるように、イベントはあくまでも交渉担当者へのアピールを念頭においている。全体的に、時間の関係もあり総じて概論的部分のみの紹介となっており、やや具体性にかけた一般論的な印象をうけた。イベントの概要はhttp://unfccc.int/sessions/sb16/sesch120602.pdfを参照。

以 上 

(文責:高橋・伊藤・蛭田)