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1998年1月号

COMMITTEE FOR

「ロシアのハイテク産業と日ロ関係」
ロシア研究委員会より


 平成9年9月よりスタートした本研究委員会の現状を簡単に報告する。


 本委員会の目的は、(当所ニューズレター11月号参照)ソ連邦崩壊後、新たな市場経済への転換に基づいてロシア・東欧の経済改革がどういうふうに進展し、その過程で日本あるいは日本企業が新たな日ロ関係構築のためになにをすべきかを提言することにある。また過去、エマージングマーケットとして、中国、インド、また企業のグロバリゼーション等のテーマを研究してきたので、その文脈のなかでロシアの位 置付け、将来の産業経済を展望することは非常に意義深いと思っている。外交的にも、冷戦終結後の世界の枠組みが変化している現在、日・米・中・ロの新たなパートナーシップの中で、日・ロ関係の将来は、21世紀にむけた新秩序形成に大きな意味を持つと確信する。また、地域的政治経済ブロック(例えばNATO、EU、APEC、ASEAN等)の存在意義が増すなか、新たな日ロ関係の構築がグローバルに結びついている他地域の政治・経済・安全保障等の面 で重要な役割を果たすことが期待されている。

 1997年11月の日ロ首脳会議では、北方四島返還問題もふくめ日ロ平和条約締結にむけて努力することが確認された。同時にエネルギー関連事業投資を中心とする経済協力も積極的に推進することも合意された。橋本プラン(ロシア貿易・産業支援)のさらなる推進も確認された。このような外交的な変化に関連して本研究を行うことは時宜を得たものであり、特に、日本企業の対ロ投資を検討する上での参考になればと考えている。G8の仲間入りをしたロシアと、日本および日本企業のパートナーシップの強化が他地域の政治・経済に良い影響力をもたらすことが大いに期待されている。特にエネルギー以外の分野では、欧米・韓国企業に比べ、横並び意識の強い日本企業は対ロ投資に関して積極的ではなく、相変わらず、慎重な姿勢を取り続けている。今はリスクを考慮しながらビジネス機会をとらえる段階であり、対ロ投資を具体化する必要がある。最近の対ロシア投資は欧米諸国がその中心であり、日本はそのベストテンにも入ってない。日本はアジアの一般 的な景気低迷のなか、ロシアを新しいビジネス機会を模索する上での重要な国の一つとして位 置付け、その現状の把握、問題点の抽出、および今後の戦略構築が重要である。

 韓国企業との比較をしても、日本企業の対ロビジネスに対する消極性が目立つ。エマージング市場に対する取り組み姿勢に大きな差を感じる。多くの日本企業は、同業他社の様子を見ながら、他社が進出すれば自社も行くという考え方が支配的である。中国、アジア、最近のインドがその例である。日本企業の戦略を根本的に変化させないと、地域経済戦略だけでなく、新規事業分野に関しても、創造力を発揮した国際的にも競争力のある製品やサービスシステムは、提供できないという不安が残る。ベンチャー企業を例にとると、やはり米国がその中心であり、日本企業との較差は年々広がっているような気がする。

 今回、ロシア経済、エネルギー、科学技術、経済復興の道のり、原子力産業、産業構造等についての報告があったので、その概要を報告する。

ロシア経済とエネルギー問題
 ロシア経済は過去数年間のマイナス成長に歯止めがかかり、最近はほぼ前年並みに落ち着いている。心配されていたインフレも金融引き締め政策の効果 により沈静化しつつあるが、その影響で投資活動が冷え込んでいる。鉱工業生産は若干プラスにはなっている。国債の利回りは30%から20%弱に低下しているが、まだ高い水準にある。所得水準が安定していると思われるが、税制上の問題がある。特に事業所得の税金未払いが多い。重要な問題は企業経営が非常に悪化し、赤字企業の比率は50%くらいになっていることである。これは金融引き締めの影響で生産部門の伸びが鈍いためであるが、逆に優良企業の株価は高く、ある意味では二極分化が進んでいる。

 工業部門の落ち込みについては、周辺産業を含む加工産業のほうが採取産業より大きく、採取部門依存型の経済構造になっている。ロシア経済の中心的戦略である軍民転換の進捗状況については予想より悪く、件数は多いものの、武器輸出以外はその生産高が落ち込んでいる。実際は軍民転換より軍産複合体による活性化を図っている。

 投資については、毎年金額が減少しており、特に、住宅、社会資本投資の落ち込みが大きく、生産部門への投資の減少幅は少ない。しかし、生産部門は大幅な改善を果 たしたというのではない。工業部門のうちエネルギー部門への投資の比率は年々上昇しており、投資額が大きい採取開発部門より、精製関連部門の比率が徐々に大きくなっている。

 ロシアの石油生産は1987年より減産を続けており、生産はチュメニ、バクー等大型油田から西シベリアに移行している。構造的には採鉱から販売までの垂直統合型の会社が中心であるが、技術的問題から西側諸国との合弁事業の推進も増加しており、その部分の産油量 は順調に伸びている。石油産業の問題は設備の老朽化とそれにともなう環境への悪影響であり、抜本的な対策はまだ取られていない。天然ガスの生産については、石油ほどではないが、落ち込んでいる。一部地域における埋蔵量 の減少の影響が大きく、あらたな地域の天然ガス開発は重要であるが、資金的問題のため、あまり進んでいない。ロシアのエネルギー輸出は輸出全体の50%を占めており、石油、天然ガスが中心になっている。また、最近の傾向としてCIS諸国の比率が減少し、西側向けのシェアが増加している。

 経済統計に関しては、従来のMPS方式からSNA基準に移行しており、徐々にその精度も高まっている。生産額からいうと、機械、自動車、鉄鋼、ラジオ・電子部品等の比率が高く、今後もエネルギーと同様にロシアの産業構造の根幹をなすものである。連邦と地方の経済較差が大きく、両者の調整を図る必要がある。

ロシアの科学技術
 ロシアの科学技術の中心は、材料、物性、理論物理学である。ロシアの科学技術の研究開発体制は旧ソ連時代から確立しており、モスクワの科学アカデミーが頂点となる。そこを中心にモスクワ、サンクトペテルブルグ等の主要都市に有力な研究所が存在する。ロシアの科学技術の特徴は冶金、セラミック等の材料技術に優れていて、重厚長大型の分野の基盤は強力である。また、宇宙、航空、核融合、超電導等の巨大技術にも強く、最先端をいっていた。いわゆる情報通 信関連技術は未発達であり、半導体等の電子部品、メカトロ等の開発技術は非常に遅れている。

 ロシアの科学技術の現状は軍事費が削減されたことにより、その研究開発費も削減されている。この費用の削減は基礎研究所の運営が困難になり、施設・設備の維持%管理も苦しく、給与水準も低い状況である。当然、研究者の欧米企業への流出、若手研究者の転職が進んでいる。欧米企業との共同研究、軍民転換の推進努力をしているが、まだ充分な成果 が出ていない。1994年にISTC(International Science & Technology Center)をロシア・日・米・欧が中心となって設立した。CIS諸国の大量破壊兵器研究者の軍民転換推進と国際社会への参入支援である設備の提供はロシア、資金は日%米・欧の担当となっている。今後の課題として研究開発の方法、言葉(ロシア語)、情報通 信事情、知的財産権、資金不足、腐敗問題等があげられている。

 ロシアの原子力発電は、加圧水型炉13基を中心に合計29基、2120万kWが稼動中であり、1995年の発電量 は994億kWhで総発電電力量の11.5%を占める。将来的には安全性の確保を推進し、2010年頃にはその発電規模3000万kWを目指すもの推察される。原子力産業は原子力省が担当しているが、実質的な研究・開発はクルチャトフ研究所等数カ所が行っている。今年9月の日本原子力産業会議の訪問では使用済燃料の再処理、高速増殖炉、高温ガス炉の開発が両国の協力テーマとなった。

ロシア経済復興への課題
 ロシアの投資はまだ多くの問題を抱えているが、現状は自動車、家電、その他食品、紙パルプ、フィルム等の産業への外国企業の投資が活発化している。欧州系企業が中心になっているが、韓国勢の積極性も目立つ。投資環境の整備については、特に、民法、会社法等の法体系、税制の見直し、会計制度の国際会計制度への転換、証券取引法等の整備が着々と進められている。地方によっては投資誘致の税軽減策を打ち出している。

 ロシアの金融機関にとって重要なのは、政治家との太いパイプ、つまり、内部情報である。

 現在の主な業務は、政府関連資産の運用であり、国債の引き受け、ロシア企業株式への投資が中心である。一般 的にいわれる産業部門向けの投融資等は行っていない。一部を除いて、それをやるだけの知識、能力にかけており、将来変えようという意欲も希薄である。したがって、ロシアの金融機関の基盤は弱いが、ロシアへの投資を考える場合は情報をうまく活用するという面 で有力な手段である。

 当面の施策として、企業収益拡大、関税収入の確保、国債発行コストの引き下げ、国税の徴収が必要だが、長期的には社会政策費用の圧縮、製造業の投資奨励、企業資金の円滑な調達等が重要な課題となる。

 今後はさらにロシアの科学と技術というテーマで将来の日ロ協力支援活動に関する具体的な提言や、現在の日ロの政治的関係をベースに新たな日ロ関係についてグローバルな角度から討論をし、提言に結びつけたい。

(河野 康好)