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2008年 1号
Opinion
グローバル・ガバナンスへの不安

(財)地球産業文化研究所

顧問 福川 伸次


 最近、グローバル・ガバナンスに不安な影が漂っている。

 先ず、政治面を見よう。第一に、米国の指導力にかげりが見えている。イラク戦争を正当化するブッシュ政権に対して米国民の過半が反対しており、イランの核抑止への戦略が停滞し、核拡散防止もなかなか実効があがらない。テロとの戦いは、欧州や日本の支持を得ているにもかかわらず、事態はむしろ深刻になっている。中南米諸国では、米国に反発する国々が増加している。

 第二に、世界のパワー構造が大きく変化し、世界秩序維持のシステムに不安が生じている。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の台頭は、すでに世界の注目を集め、中国は、2020年には日本の経済規模を追い越し、2040年頃には、一時米国を抜いて世界第一位になるという予想がある。インドも、2030年前後には、日本の経済規模を上回るだろう。ロシアは、その資源力を背景に外交上の発言力を高めている。

 イスラム世界は、人口増大と石油資源の賦存で大きな存在となる可能性がある。

 これまでの国際秩序は、米国、EU、日本などがその運営に当たってきたが、世界は今や多極化の様相を呈しており、現在のシステムは揺らいでいる。

 第三に、主要国の政治が内政重視に傾いている。昨年は、フランス、イギリスで政権が交代し、今年は、米国、ロシア、台湾などで大統領選挙がある。日本でも衆議院選挙があるかもしれない。これらの国々は、いずれも国内の成長の停滞、格差問題、福祉政策への不満を抱え、グローバリズムへの意欲が停滞している。

 第四に、資源ナショナリズムが高まっている。石油の一バーレル当たり百ドル時代の到来は、石油消費国も産油国もナショナリズムへの傾向に向わせるおそれがある。中国やインドが中近東ばかりか、中央アジア、アフリカ、中南米へと積極的な資源確保外交を展開しているし、ロシアのみならず、アラブ産油国は、強気な姿勢に出ている。

 石油ばかりではない。鉄鉱石、原料炭さらには、希少金属の確保競争は烈しさを増し、さらに食料についても一部に輸出抑制の動きがささやかれている。

 次に、経済面に目を移そう。

 先ず、基軸通貨であるドルの信認が揺らぎ始めている。ドルはユーロに対してここ七年間に約40%下落し、円を除く他の主要通貨に対しても減価している。外貨準備をドルからユーロに切り換える国も増えている。米国の低貯蓄、外資依存体質が限界に来たのであろう。

 2007年5月に始った米国のサブプライムローン問題が予想以上に深刻で、米国連銀がFFレートを大幅に引き下げ、主要関連金融機関が救済基金を設立するなどの対策が講じられているにもかかわらず、一向に解決の兆しが見えない。

 今後、信用収縮の連鎖が起ころうものなら、世界は低成長と株価下落に見舞われることになる。

 第二に、金融優位の経済が不確実性を高めている。今日の世界経済には、過剰な国際流動性の弊害が現われつつある。米国の双子の赤字でドルが世界中にばらまかれ、オイルダラーがそれに拍車をかけている。中国などの新興国が膨大な国際収支黒字で蓄積した外貨準備を国際金融市場で運用するようになっている。

 このような金融優位の経済が投機性を加速している。その資金が時として、住宅、為替、株式、石油、金、穀物などの市場に投機利益を求めて動き回っている。

 第三に、地球環境がますます悪化している。熱波、かんばつ、洪水、長雨などの異常気象がそれを象徴している。成長と便益を求めて技術を開発し、産業を発展させてきた人類の行動は、今や地球の循環機能の限界を踏み越えてしまったのである。

 ポスト京都議定書にどのような国際枠組みを合意するのか人類の英知が試されている。

 今年は、日本が洞爺湖で先進国首脳会議を主催する。地球環境に関心が集まっているが、議題はそれだけではない。グローバル・ガバナンスの新しいあり方を再構築しなければならない。地球上のシステム・リスクは、今や放置できない段階に入りつつある。