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1994年7月号

開発と環境に関する中国国際協力委員会
環境科学研究、技術開発および教育の作業部会

The China Council for International Cooperation on Environment
and Davelopment (CCICED)
WG on China' a Environmental Scientific and Technological Rasearch,
Development and Training (Science WG)


横山長之 資源環境技術総合研究所


1.はじめに

 CCICEDは1992年にカナダ政府の呼びかけで日本、フランス、英国、米国などが参加して創設された委員会である。中国における環境政策についての勧告を行うことが目的である。参加委員は13か国に及んでいる。また、CCICEDの事務局はカナダ、バンクーバーにあるサイモンフレーザー大学内に置かれている。

 第1回総会で5つの作業グループ(1: Energy Strategy and Technology, 2: Monitoring, Data Analysis and Pollution Controll, 3: Science, 4: Resource Accounting, Environment Economics and Priclng Policy, 5:Protection of Biodiversity)を設けることが決定され、1993年から活動している。

2.サイエンス、WGの活動

 このWGの正式の名称は表題に書かれた通 りであるが、環境に関する科学研究、技術開発、ならびに教育についての検討を行い、中国の現状に最適な勧告の基礎資料をまとめあげる。第1回WG会合は1993年3月2〜4日に北京で開催した。WGのメンバーは付録に示すように中国側は孫鴻烈議長など7 〜8 名が参加、外国側は筆者(共同議長)、オランダ、英国、カナダ、日本から事務担当を含む7名が参加した。

 第1回会議ではこの分野に関する中国の現状の報告とそれに基づく提案と今後のWGの課題について議論した。以下に概要を報告する。

2.1 第1回WG報告の概要

(1) 中国の環境と開発の現状

 1990年の人工は11.6億人で2030年には15億人になると予測され、環境、雇用、高齢化など条件が厳しい。一人当たりの資源は世界平均の1/2〜1/3と少ない。一方で国民所得の増加、資源消費の増加により土壌破壊、砂漠化、森林消失、過放牧化など生態系破壊が進んでいる。環境汚染では1990年の二酸化硫黄の排出が1495万トン、都市を流れる河川の94地点中65か所で汚染がかなり進んでいた。廃棄物の増加も著しい。また、産業振興で都市から農村地帯への環境汚染の広がりがある。

(2) 中国の環境科学

 中国の環境科学は1970年代から始まった。研究システムは環境科学技術センター、中国科学院を始めとして国レベルから地方レベルまで整っており、1990年には環境科学に携わっている人は20万人に及んでいる。1978年から1988年の間に研究に投資された額は5700万元で、科学研究全投資額の0.7%である。問題点として、総合的な計画が無く、各分野間の協力体制に欠け、重複や無駄 の多いこと、研究と技術開発の関連が無く、基礎重視過大であり、応用研究を軽視すること、資金不足で研究機器の老朽化、研究者の地位 が低くかつ不安定である。環境産業では先進国に比べて基礎が全般的に弱い。今後、低品質製品の改善、必要品種の確保、産業間の統一的マネジメントの確立を早急にする必要がある。

(3) 環境教育と訓練の現状

 現在79の大学に環境化学、生物学、生態学、工学等15種類の環境関係の専攻課程があり、107の学部で21の分野に修士課程、38の学部に14の博士課程がある。過去20年間に2万人の卒業者を送り出した。40の専門学校と140の職業学校で環境保護の中級スタッフを養成している。実務者への教育としては環境保護局の指導による大学等に短期の研修コースの他、省や都市の主催する研修もある。

 一般 に対してはマスコミや出版物の利用、講習、小中学校での教育を図っている。

(4) 結営と提案

(科学研究)

1) 中国が現在の目ざましい経済発展を持続可能にし、先進国と同じ轍を踏まない為には、GDPに対する環境投資の割合を現在以上に増やして、研究開発の基盤を整え、新しい工業や農業を育てなければならない。
2) 単に資金の額のみでなく、研究開発の長期的戦略(25年)が必要。
3) 科学研究と産業との連携強化が必要。その為には、R&Dシステムの改造、産業内部での自主的研究、産業の要求と大学の研究テーマとの整合が必要である。
4) 科学研究が若者にとって魅力あるものにするために、科学者の地位向上、給与システムや報償制度の改善、研究設備の改善、海外留学生の帰国を促すことが必要である。
5) 環境科学は国際協力が必要なため、中国の研究者に海外派遣、海外からの留学生や専門家の招聘、国際共同プログラムへの参加等を促進する必要がある。
(技術開発)
1) 各種機関の総合化を図るための組織を強化する。
2) 都市域での水・大気汚染、農村地帯の土壌劣化・水汚染を防止する技術の開発を優先させる。特に、石炭燃焼のクリーン化、エネルギーの効率化を図る必要がある。
3) 安価な汚染防止技術が海外に存在する場合は導入を促進する。
4) 少廃棄物、大気や水の汚染物資の低排出、資源やエネルギー効率の向上等の開発と導入を通 じて、飛躍する絶好の機会を利用する。
5) 汚染の後処理よりも事前の防止を優先する。
6) 中小の企業に合った効率のよい低コストの技術に特に注目する。
7) 廃棄物や環境基準の設定、汚染防止機器の評価基準の設定、技術普及センターの設置等を通 じて開発・導入を促進する。

(訓練と教育)

1) 環境は経済・社会発展の基盤であること、きれいで健康な環境は市民の権利と責任であるという考えを普及させる。
2) 理論と実戦を通じ、環境と健康と経済との関係を学ばせる。
3) 教育の重点を持続可能な開発に置く。
4) 教師、講師の再教育が第一歩である。
5) 最新の科学技術成果、学際的な課題にも注目する。
6) 将来必要な専門家の数についても良く検討する。
7) 学生、教師の国際交流を図る。
8) 専門家、経営者、地方の指導的な人に対する短期の研修を推進する。
9) 情報システムを充実する。
10) 女性の役割を特に重視する。
11) マスコミ、地方の学校の活用を図る。

(5) WGの今後の課題

1) クリーン技術に関する他国の経験の評価。
2) 中国における気候温暖化防止に関する科学・技術の検討。
3) 自然資源の管理に関する科学・技術の検討。
を図ることが必要である。

3.1993年CCICED総会への報告と第2回WG

 第1回WGの提言をとりまとめて1993年5月に抗州で開催された総会に報告した。総会ではサイエンスWGの報告は些か総括的すぎるのではないか等の意見があり、第3回の総会にはもう少し的を絞った提言ができるようにWGで検討することとした。

 1993年7月に中国側議長の孫鴻烈教授がGISPRI、資源環境技術総合研究所を訪問された際、第1回WGで今後の課題としていたクリーン技術に的を絞った提案をまとめることにした。そして、1994年4月19〜20日に中国科学院上海本部で開催した第2回WG会議でこれからまとめる報告書の項目を決めた。写 真は科学院本部玄関前で撮った参加メンバーである。報告書は現在委員が分担して作成中である。それを持ち寄り、7月に筑波で開催予定の第3回WGで報告書に仕上げて、9月に開催予定の第8回CCICED総会で報告する予定である。

 なお、第2回WGの後、21〜22日には上海浦東地区にある石油コンビナートの廃水処理施設、上海の北東90kmにある蘇州の2か所の郷鎮企業における水処理施設を見学した。

4.感想

 中国はいま凄い速度で開発が進行中である。昨年行った上海はこんなんじゃ無かったと思うぐらいの早さである。それは経済発展だけではなく、貧富の差の拡大、乞食の増加、車の増加と渋滞の深刻化、犯罪の急増、モラルの低下、等々である。会議でQian Yi女史がいみじくも使った中国人の形容Dribbling Peopleがまさに正しく思える状態である。また、環境施設は見学した場所はまあまあで有ったが、そこへ行くまでの間に黒煙を排出している煙突を沢山見た。大気汚染、水質汚濁もひどい状態らしい。CCICEDが中国を些かでもクリーンになる方向への手助けになればと願うばかりである。

【CCICED/環境科学研究・技術研究および教育WGの参加者】
孫鴻烈(Sun Honglie)議長、中国科学院教授、全人代常務委員・環境保護委員会委員
銭 易(Qian Yi) 清華大学環境工程系教授
劉鴻亮(Liu Hongliang) 中国環境科学研究院院長
符綜斌(Fu Congbin)中国科学院大気物理研究所教授
王 毅(Wang Yi) 中国科学院生態環境センター
横山長之 共同議長、工技院資源環境技術総合研究所(NIRE)所長
Jan Willem Maurits la Riviere,Infrastracture Hydraulics Environment,Netherland
David Norse,Overseas Development Institute,Regent's College, UK
Anne Whyte, International Development Research Centre
,カナダ
田森行男 工技院資源環境技術総合研究所(NIRE)
清木克男 (財)地球産業文化研究所
石田康彦 (財)地球産業文化研究所