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2001年 4号

REPORT
平成12年度研究委員会報告書



1.グローバル・ガバナンス研究委員会

1.序論
 貧困解消のための公的政策の実効性担保には、(1)政策の論理整合性、(2)政治的コミットメント、(3)実施機関の能力、(4)受け皿による政策実施に向けた継続的参加、(5)政策環境の5要素の組み合わせが必要となる。
 貧困の起こるレベルは、家族・個人、コミュニティ、地域、国家レベルと多岐にわたり、その要因及び対策はレベル毎に異なる。従来、政策の実効性を評価するパラダイムは、上からの統治の論理及び横からの市場の論理でみることであった。しかし、政策が実効性を持つためには、政策の受け皿の積極的且つ継続的な実施過程への参加が不可欠である。

2.貧困問題への新たな視点
 日欧米では現在、国内的に貧困対策に焦点を当てる基盤は弱く、二国間援助と多国間援助の亀裂も起こり、グローバル・ガバナンスの基盤は弱くなっているようにみえる。途上国政府、二国間と多国間ドナー、各種NGOが中心となり、パートナーシップが組まれている。しかし、これはあくまでもgovernanceでありgovernmentでないところに限界がある。
 人口問題と貧困問題は密接に関係し、21世紀の世界総人口は地球のキャパシティを越えるレベルになるのではないかと懸念される。今後の人口問題を考える上で重要な点は「人口増加地域と地域間格差」、「エイズ問題」、「高齢化」、「移民、難民問題」の4点である。
 国毎に考察すると、インド農村では社会的機会の平等を阻害するのは、「在地権力」という土地を基盤とする権力者層である。これに対抗するために、地域経済の振興で労働需要を発生させ労働の質を高める必要がある。   この際、貧困解決策を農業以外に求めるべきであり、実業教育の果たす役割や公共投資の持つ公正的要素は重要となる。

3.貧困問題の事例研究
 アフリカの貧困問題の特徴は、歴史的には、7割以上が植民地行政の区画を国境線として独立し、行政が自国内の住民をどう把握するかが今もって大きな課題であること。アフリカ貧困問題解決にはローカル・ガバナンスの強化が肝要である。
 インドでは、貧困層及び指定部族の高い割合からマディアプラデシュ州は、代表的な貧困州である。現地調査では第二次、三次産業の貢献が期待された。この発展のためには、人材育成、社会インフラ整備が必須条件であることが判明した。
 2000年は中国の「八七国家救貧攻略計画」最終年であり、基本的に農村貧困人口の衣食問題は解決されたが貧困撲滅は未達状況である。21世紀は、貧困層の生存から発展問題への転換、地域貧困層から農村貧困層全体への転換、国定貧困県・地区から全貧困村・貧困戸への転換、インフラ・自然条件改善から貧困層の生活全般の質的向上へと救貧資金の投入転換が重視されなければならない。

4.貧困問題への新たな取り組み
 貧困の現状、その特殊性と普遍性を様々な角度から分析し、その相互関係を十分把握する必要がある。その上で貧困削減を図るためには、「貧困の類別認識」、「貧困原因解明と複数原因の軽重・相互関係分析」、「貧困削減上必要な政策・活動とその優先順位決定」、「貧困削減活動から期待される成果、達成目標の設定」等が必要である。
 バングラデシュでは、NGOが非効率で汚職が多い政府に代わって公的サービスを農村貧困層に提供してきた。一方、一部NGOへ資金が集中する傾向があり、地方で地道な活動を行うNGOは資金難に陥っている。また、受益者の「囲い込み」、貧困層のNGOに対する恒常的依存関係も生まれている。NGOには、貧困層の主体的・継続的な生活向上・社会変革への営みを支援する活動が求められる。
 マイクロクレジットは、「グループレンディング」を基本に貧困層への少額融資の浸透(outreach)と金融機関としての独立性(sustainability)を両立できた。マレーシアのマイクロクレジット機関AIMをoutreachとsustainabilityから評価すると、会員数や活動拠点の全国的展開からoutreachは良好。また、返済率はほぼ100%、貸し手の増加等sustainabilityも満足できるレベルにあると判断される。但し、市場ベースが売り物のマイクロクレジットの成否は市場メカニズムだけでは解決できない部分に決定的に依存しているという状況にもある。
(文責 委員会事務局 増渕友則)


2.「ASEAN統合と新規加盟国問題」研究委員会

 
 1990年代に、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、ラオス(CVML)4ケ国を相次いで加盟させたASEANに対して、当初から新規加盟国と先発加盟諸国の間の埋め難い格差が指摘され、地域共同体統合の流れを阻害するとも懸念された。1997年のアジア通貨危機以降、それまで新規加盟国支援を表明していた先発加盟国自身は政治的不安定と経済的回復の足踏みを来たし、支援の余裕を失うとともに統合そのものへの熱意さえ冷ましつつあるかにみえる。

 急速な経済グローバル化への対応の一環として域内の経済発展への期待もはらみつつ自由貿易協定AFTAは、2002年から段階的発効が予定されている。所期の経済発展シナリオに乗ることなくグローバル経済の荒波に曝される新規加盟国にとって、厳しい状況が待ち受ける。こうした経緯の中で旧加盟国と新規加盟国との間には先発・後発の時間軸に基づく格差だけでなく、疎外感を伴う、いわば溝とも呼べる格差が新たに生まれようとしている。

 この様な深刻な域内格差、所謂「ASEANディバイド」の定着は1967年の結成以来営々と築き上げてきた弱小な国々の地域的共同体ASEANの理念と実績を無為にしかねない危険な状況といえる。

 ASEAN統合の進展が加盟諸国の発展を促すだけでなく、日本や中国を含む広域東アジアの秩序形成にも寄与するという前提に立つ時、この「ASEANディバイド」の解消とそれによって再加速される統合深化に向けて、新規加盟国、先発加盟国、そして日本がそれぞれどのような課題を抱え、今後如何なる施策によってその克服を図るべきか。本報告書所収の論文はこれらの問題意識に対する多くの示唆を与える。

目 次  
序 章  「ASEAN統合と新規加盟国問題」への一つの接近法(山影進委員長)
第1部  東アジアの中のASEAN新規加盟国
 第1章  ASEAN統合と新規加盟国問題(山影進委員長)
 第2章 工藤敦夫、安本皓信(電発取締役)
 第3章 インドシナ諸国への中国の接近(小倉貞男委員)
 第4章 インドシナ圏協力をめぐるベトナムのイニシアティブとASEAN・日本協力(白石昌也委員)
 第5章 ASEAN新規加盟国支援と今後の課題
  (間宮淑夫講師)
 第6章 新規加盟国に対するJICA事業の概要(事務局)

第2部  新規加盟国の抱える問題の諸相
 第1章  ベトナム経済の課題とASEAN統合
  (平岩有史専門委員)
 第2章 ラオスの国家開発戦略とASEAN加盟
  (杉本真一郎専門委員)
 第3章 ASEAN加盟とラオスの重荷(鈴木基義講師)
 第4章 カンボジア社会の復旧復興と日本−社会の発展と「参加の民主主義」−(高橋宏明講師)
 第5章 カンボジアの課題−政党政治の定着−
  (天川直子講師)
 第6章 カンボジアにおける人的資源の開発−文化遺産中堅幹部養成プロジェクト事例研究から−
  (石澤良昭委員)
 第7章 ミャンマー民主化問題における外部介入
  (熊田徹講師)
 第8章 ビルマ軍政とアウンサンスーチーとの対話
<その背景と今後の諸問題>(根本敬講師)
 第9章 最近のミャンマー経済−市場経済から統制経済へ−(高橋昭雄講師)

第3部 関連資料編
 1.ASEAN関連年表
 2.人口・社会関係主要指標
 3.主要経済指標
 4.CVML4ケ国への直接投資推移・動向
 5.ASEAN支援に関する共同声明
(文責 委員会事務局 竹林忠夫)
 

3.平成12年度「アジアの総合的展望」研究委員会

 平成11年度に引き続き、青山学院大学国際政治経済学部の天児慧教授を委員長に迎え、「アジアの総合的展望」研究委員会を開催した。アジア各国の国内政治体制と民主化の動き、中国及び台湾によるWTO加盟への動き、朝鮮半島情勢、急速な発展を続けているIT産業の動向などについて検討し、2010〜2025年頃までを展望した。研究報告書の概要は以下のとおり。


第1章 中国政治の将来展望(天児委員長)
 <党・軍・国家>の関係を基本構造とする中国の一党統治体制は、経済発展が持続し、国際協調路線が守られているという条件が満たされれば、2010年においても変わらないであろう。今後発生しうる安定と不安定の要素をバランスさせ、綱引きをしながら、中国を国際社会の協調システムの中にランディングさせていくことが、一段と重要になっていくであろう。

第2章 中国経済の中長期展望(神戸大学 加藤弘之委員)

 過去50年間、中国では外来制度(計画経済システムや市場経済システム)が中国の「基層社会」と適合的なものに作り替えられることにより、中国は構造変化に成功した。中国経済の中長期発展を展望する際にも、基層社会に適合的な市場経済システムを模索していくことが重要である。その意味において、「アングロ・サクソン型」も「東アジア型」も将来の経済システムのモデルにはなり得ない。

第3章 朝鮮半島情勢の構造と展望(立教大学 李鍾元委員)


第4章 東アジアの台湾ファクター〜2010年の台湾をめぐる国際関係(東京外国語大学 井尻秀憲委員)

 今後台湾は、国際的地位を少しずつ上昇させつつ中国大陸との経済的交流をさらに深化させることになろう。しかし、それは中台の平和的統一への流れを加速させるものではない。中国の政治・経済体制が台湾人にも受け入れられるものに変容しない限り、台湾はますますその自立性を強めざるを得ない。

第5章 アジア太平洋の地域制度と地域秩序

              (青山学院大学 菊池努委員)
 アジア太平洋の地域制度の「弱さ」が指摘されることが多いが、その「弱さ」を、グローバル・地域・二国間・国内などさまざまなレベルにおける緩やかな各制度が、相互に連関することによって補強していることが、アジア太平洋の地域構造の特質である。

第6章 南アジアの現状と展望(大東文化大学 広瀬崇子委員)

 今後の南アジアの方向を左右する鍵は独立以来最大の危機に直面しているパキスタンが握っている。この地域の平和と繁栄のためにはパキスタン情勢が悪化しないことが不可欠であり、そのためには同国経済の建て直しが急務である。

第7章 中国のWTO加盟のインパクト

              (静岡県立大学 菱田雅晴委員)

第8章 情報技術革命と東アジア経済の将来展望

              (拓殖大学 北村かよ子委員)
 東アジア諸国がIT関連分野で高成長を持続させて行くためには、(1)IT関連産業の高度化・多様化と併せて対米依存度を引き下げること、(2)世界的な人材獲得競争に打ち勝つこと、(3)IT社会を実現するための法整備・機構改革を進めることが必要である。

第9章 東南アジアの政治経済とASEAN自立化・展望

              (拓殖大学 岩崎育夫委員)
 ASEAN7カ国の10年後の政治体制の姿と課題はそれぞれに異なっており、大半の国が権威主義体制の下で開発を目標に掲げていた70〜80年代と好対照をなしている。一方で、地域機構がアジア大に拡大していき、アジア諸国の間で協調意識が共有されていくと考えられる。

第10章 アジア太平洋地域の経済的構図

              (専修大学 大橋英夫委員)
 21世紀第1四半期には、NIEsは経済的ピークを迎えることになろう。アジア太平洋地域にとって最大の最終需要受け入れ先が米国市場であることに変化はないが、域内に最終需要を持つ貿易の比率が上昇することが見込まれる。また、アジア諸国・地域間の直接投資獲得競争がさらに激化していくだろう。

第11章 日米関係と東アジアの政治的争点

              (同志社大学 村田晃嗣委員)
 日米関係を強化することは米中関係の安定にとっても重要であり、アメリカの対外・対アジア政策の振幅に対するセーフティネットとなる。加えて、日本が米韓同盟や米豪同盟など既存の二国間同盟との公式・非公式の協力関係を強化することは、そのさらなるセーフティネットとなろう。

第12章 アジア太平洋の安全保障秩序−現状と展望

              (防衛大学校 神谷万丈委員)
(文責 委員会事務局 佐々木 亨)