1999年8号

IPCC排出シナリオ特別 報告(SRES)会合について


 96年9月のIPCCメキシコ総会によってスタートした「温室効果 ガス排出シナリオ特別報告」の作業が、大詰めを迎えつつある。6月27日から30日までの間、ウィーンで行われたSRES会合の概要について報告する。


会議の概要

 96年9月のメキシコ総会で、2100年までの温室効果 ガスの排出量を新たな知見を加えて推計するため、IS92に代わる新しいIPCC排出シナリオの作成が決定されたが、その作業も2年半を超え、既に報告書案が執筆者によってまとめられて専門家レビューの段階を迎えた。

 報告書案は300頁を超える大部のものであるが、これに対し専門家からも100頁に及ぶ多くのコメントが寄せられた。今回、6月27日から30日までウィーンのIIASAで行われた会合では、これらのコメントについて4つの分科会で一つ一つ、重要なコメントはさらに全体会合で検討した。そして、採用するものについては必要な報告書の修文を行い、不採用のコメントについてはその理由を回答することとした。なお、修正に時間のかかるものについては8月8日までに行い、その後政府レビューのために新しい報告書案を配布することとなった。

 今回の会合には、ナキセノビッチ統括代表執筆者を始め、約20名の代表執筆者・執筆者が集まり、また、4名のレビュー・エディターも今回から参加した。

 今年11月中旬、ニューヨークで、政府レビューを受けてのSRES会合をもう一度開き、再度必要な報告書案の修正を行って、来年春のIPCC総会に最終案を提出する予定である。

「排出シナリオ特別報告書案」の概要

 温室効果ガスの2100年の排出量 を推計するものとして、これまで広く使われてきたIPCCのIS92排出シナリオについては、1990年の実績データが採用されていない、90年代の旧社会主義国の経済停滞が反映されていない等の批判があり、このため新たな研究成果 も取り入れて、新しいIPCC排出シナリオを作成することになった。

 新排出シナリオを作成するために任命された40名余の執筆チームは、まず416件の世界中の排出シナリオ文献を分析、次に、いろいろなシナリオの特徴やシナリオを決定づける主要要素(人口、経済開発、エネルギー消費、技術進歩等)について分析した。その上で、執筆チームは、これからの世界が進んで行くと考えられる方向を、経済重視か環境重視か、世界化の進展か地域主義の強化かを基本的なメルクマールとして、4つに大別 し、4つのシナリオとして言葉で描写(ストーリー・ライン)。そして、世界を代表する6つのモデルチームによって、それぞれのシナリオに相応しい数字を主要な要素に与えながら排出シナリオの数量 化を行った。

 今回の排出シナリオの大きな特色は、従来のIS92シナリオにおいては標準的シナリオとしてIS92Aだけが用いられたことへの反省から、それぞれ個性的な内容を持った4つのシナリオを提示し、セットとして用いるよう求めていること、そして、全体としてIS92シナリオより低めのCO2排出量 を提示していることにある。

主なコメントと個人的印象

 専門家のコメントは多岐にわたったが、私の印象を含めて言えば、「(標準的なシナリオを示さない)4つのシナリオ」に対するコメント、従来のIS92に比較しCO2排出量 が低めになったことへのコメント、SOX排出量予測が大幅に減じたことへのコメント、更なる分析やデータ・主要前提条件の公開などを求めるコメント等がポイントであった。 今回の会合においては、これらのコメントについて極めて誠実に対応したが、今回の排出シナリオの根幹に関わるものなど、いくつかのコメントは不採用となった。これらを含め、今後の政府レビュー、IPCC総会の過程でさらに種々のコメントが出されるものと予想され、新排出シナリオが発表されるまで、まだ産みの苦しみが続きそうである。

(石海 行雄)

 

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