1999年9号

IPCCの概要と最近の動向(上)


 気候変動問題に関して多種多様な調査・研究が行われているが、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書は、気候変動枠組条約締約国会議の有用な情報として評価・活用されている。以下に、IPCCの概要について述べる。


1.設立

 気候変動問題は、利害関係が大きくしかも複雑なシステムであるため、論拠の一般 的な解釈とか、専門家個人の見解に頼るわけにはいかない。政策担当者にとって必要なことは、気候変動の環境上、社会経済上の影響、そしてそれに対する行動をおこした場合と起こさなかった場合のコストと便益の対比を含めた対応オプションの可能性について、客観的な、科学・技術・社会経済情報を得ることである。

 このことの認識から、世界気象機関(World Meteorological Organization:WMO)と国連環境計画(United Nations Environment Programme:UNEP)は、1988年に気候変動に関する政府間パネル(International panel on Climate Change: IPCC)を設立した。IPCCは、新しく研究を行ったり、気候関連データの監視をしたり、各国政府のとるべき政策を提言したりするわけではなく、気候変動関連の研究成果 で、世界中で入手可能であり、専門家による査読を受けた文献や、ジャーナル、書籍、そして慣行などに記載の情報を、評価することにある。

2.IPCCの成果

 IPCCでは、過去に2つの総合的な評価報告書を作成、発表し、さらに、特別 報告書等を作成している。

(1) 第一次評価報告書

 IPCCの1990年第一次評価報告書(1990 First Assessment Report)は、「来世紀末までに全球平均気温が3℃程度,海面 が約65cm上昇する」という評価結果を発表し、世界にも大きな影響を与えた。この報告書は、気候変動への懸念に科学的な根拠を確認し、各国政府が、気候変動枠組条約交渉会議(INC)を作るきっかけとなった。さらにこの交渉会議において、1992年に気候変動枠組条約(UNFCCC)を採択し、同年6月リオデジャネイロで開かれた「地球サミット」で、気候変動枠組条約の署名を行った。従って本評価報告書は、一連の気候変動に関する世界的な対策の動きの発端となったことで有名である。

(2) 第二次評価報告書 1995年発表の第二次評価報告書においては、種々のシナリオを用いた分析を行っており、「中位 のシナリオを用いれば、100年後には、地球全体平均気温が2℃上昇し、これにより海面 が約50cm上昇する。」という評価結果を発表し、世界に衝撃を与えた。

 第二次評価報告書は、1996年ジュネーブで開催された気候変動枠組条約第2回締約国会議(COP2)用に作成され、翌年京都で開催された第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されることとなる国際交渉に貢献した。

(3) 特別報告書

 IPCCでは、いくつかの主題に関する特別 報告書(Special Reports)を発行している。これら特別報告書は、気候変動枠組条約の締約国会議等から要請に応じて、IPCC自体の決議を経て作成されるものである。現在作成済みおよび作成中の物は以下である。

  • 気候変動の地域影響:脆弱性の評価(The Regional Impacts of Climate Change: An Assess- ment of Vulnerability)〈1997年11月〉
  • 航空機と地球大気(Aviation and the Global Atmosphere)〈1999年4月〉
  • 技術移転の手法上および技術上の側面 (Methodological and Technological Issues in Technology Transfer)〈2000年5月予定〉
  • 排出シナリオ(Emissions Scenario) 〈2000年5月予定〉
  • 土地利用、土地利用の変化および森林(Land Use, Land Use Changes, and Forestry) 〈2000年5月予定〉

(4) 第三次評価報告書

 第三次評価報告書(Third Assessment Report)は、2001年に完成予定である。前の2つの評価報告書と同様、これも、気候変動政策に関連した科学的、技術的、社会経済的側面 を取り扱った総合的で、しかも最新の評価報告書になるはずである。この評価報告書は、第二次評価報告書以降1995年以後に解明された新しい事項を中心とし、地球規模だけでなく、地域的な規模での影響にも着目するものとなる予定で、英語以外の言語で発表された文献も含めることになる。

3.IPCCの構成

 IPCCは政府間の組織であり、国際機関、特に国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change, UNFCCC)の加盟国170余国に、科学的、技術的、社会経済上のアドバイスを行い、UNEPおよびWMOの会員にも開放されている。

 IPCCは第三次評価報告書作成に向け、現在3つの作業部会と、各国国内温室効果 ガス(GHG)目録に関するタスクフォースで構成されており、それぞれ2名の共同議長(1名は先進国から、もう1名は途上国から)とテクニカルサポートユニットがおかれている。

 作業部会Iは、気象システムと気候変動の科学的な側面 を評価する部会である。

 作業部会IIは、人間社会そして自然のシステムが、気候変動の影響(プラスにもマイナスにも)にどれだけ脆弱であるかを探り、それに関する適応オプションを研究する部会である。

 作業部会IIIは、温室効果 ガス排出を制限する、もしくは、気候変動を緩和するオプションを扱う部会で、経済問題も取り扱う。

 また、IPCCではビュロー(議長団)を選出しており、ビュローは議長(ワトソン世界銀行環境部長)、5名の副議長、3つの作業部会の共同議長と副議長で構成されている。ビュローメンバーは、科学的そして技術的な資格をもつ専門家であり、その出身地域も地理的にバランスが取れている。現在、日本からは副議長として谷口東京大学客員教授が就任している。

 次号では、現在作成中の第三次評価報告書などを中心に、その最新動向を述べる。

 

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