2000年6号

IPCC第16回全体会合出席報告


 今年5月1-8日、カナダ・モントリオールにおいて、上記会合が開催された。ここでは二酸化炭素吸収源に関する特別 報告書の政策決定者向け要約の採択が主要審議項目であった。その紹介と会議全体の概要を報告する。



 本会議はIPCCの総会として開催され、主に土地利用・土地利用変化及び林業に関する特別 報告書(SRLULUCF:Special Report on Land Use, Land-Use Change, and Forestry)の政策者向け要約(SPM:Summary for Policy Makers)の検討と承認、さらに報告書そのものの受諾が目的であった。
 日本からは環境庁柳本環境総括政務次官、浜中環境庁地球環境部長、近藤気象庁気象研究所部長、谷口IPCC副議長、平石インベントリータスクフォース共同議長ほか、環境庁、農林水産省、通 商産業省より担当者で、総勢18名が出席し、GISPRIからは二名参加した。
 また、全体会合の合間に3日かけてビューロー会合が開催された。検討内容は重なっていることもあるため、ここではまとめて報告する。


SRLULUCFの背景と概要

 京都議定書は、土地利用変化と林業活動に起因する温室効果ガス発生源による排出及び吸収源による吸収についての変化は、削減目標達成のための選択肢になりうることを認めている。これを適用するには、各種用語の定義、アカウンティングやモニタリング等の方法論、追加的活動、12条に適合する活動、インベントリガイドライン及び持続可能な開発に関する課題の扱い方等について決めなければならない。
 このため締約国に基礎となる科学的・客観的知見を提供することを目的として、このSPMは関連する情報を3部に分けて述べている。第1部では、地球規模の炭素循環の作用、また、現在と将来における新規植林、再植林及び森林減少(ARD)と追加的人為的活動の機会について述べている。第2部では、定義やアカウンティング規則に関連する事項について取り上げている。第3部では、各国政府がこれらの決定を行うに際に有益な情報を提供している(モデル評価、モニタリング技術、プロジェクトによる活動など)。
 本報告書でとりまとめられた科学的知見を踏まえ、京都議定書の実施上重要な課題である吸収源の取扱いに関する気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)における決定に向けた検討が進められることとなる。このため、審議には各国とも積極的に参加し、議論が紛糾することも少なくなかった。


SRLULUCFのSPM審議において

 審議は、パラグラフごとに議論が進められた。各国から事前に文書によって提出されたコメントを基に、執筆者及び事務局から変更案が出されたものについて検討した。
 前方の大きなスクリーンにリアルタイムに随時変更内容が投影されるものであった(初の試み)。
 人間活動による森林や土壌の温室効果ガス吸収量増減値は、森林の定義、伐採や植林の定義、活動の定義、計算の仕方などにより大きく異なる。これらの定義や計算方法にはどんな種類があり、それぞれどのような特徴があるかを解説することが本報告書の主な内容である。客観的事実のみを示し、政治的決定に予見を与えることは書かない、というのがIPCCとしての原則だが、表現の仕方によって読者の受け取り方が異なることも多いので、文章の細かな点まで多くの議論があった。
 吸収量の潜在的可能性を示した部分は、書き方によっては、京都議定書による世界の総削減義務量 が、吸収量増加だけで十分まかなえることを示しているようにも受け取れる。これに対しては議論が長引き、各数値の不確実性が大きいなどの理由により、表には敢えて合計を書かないなどの措置がとられた。
 京都議定書には、吸収を排出削減と認めるためには、吸収量の測定が検証可能でなければならない、と書かれている。本報告書では、検証可能性の表現も議論になった。
 日本は検証方法が存在すると記述することを提案したが、楽観的過ぎるという欧州勢からの反対もあって記述されなかった。
 本報告書はどのオプションを選ぶべきかといったことは明らかにしておらず、また、追加的活動について、主要な活動の種類毎の吸収可能性を大まかに示したものである。
 また、ARDによる吸収量は幅で示されている。ARD活動に伴う炭素蓄積量の変化の推計として、IPCCシナリオでは、附属書I国が第一約束期間に新規植林・再植林を行った場合、7~46Mt/yrの吸収が見込まれる一方、森林減少による90Mt/yrの排出が見込まれ、これらから炭素蓄積量 の純変化は、83~44Mt/yrの排出と見込まれる。
 一方、追加的活動については、吸収量のポテンシャルをおおまかに把握するため、吸収源活動を推進するための大胆な政策が採られるとの仮定をおいて、森林管理、耕地管理といった大枠で規定する活動の種類毎に吸収量 を見積もっている。その結果、たとえば、附属書I国の追加的活動に伴う吸収量 は、2010年の時点で、森林管理で100Mt/yr、耕作地管理で75Mt/yrと試算されている。なお、実際に活動が行われることとなる土地の割合は、3条4項に基づく勘定方法の内容や、土地所有者の行動などに大きく依存しているため、過大評価になるおそれがあることが付記されている。このように様々な仮定をおいたうえで推計され、附属書I国全体としての値として示されているため、吸収源活動が我が国の削減目標量 に及ぼす影響は、本報告書から直ちに明らかになるものではない。
 具体的な定義や追加的活動の内容はIPCC特別報告書を踏まえ、今後の国際交渉で決定され、吸収可能量 は、COP6での吸収源取扱いの決定によって定まるものである。


他の総会審議項目

    1)第15回コスタリカ全体会合の議事録の承認

    2)技術移転特別報告書(SRTT)及び排出シナリオ特別報告書(SRES)の受諾

    3)各作業部会の進捗状況の報告

    4)クリーン開発メカニズム(CDM)と共同実施(JI)のベースラインガイドライン作成標記件について、UNFCCCからIPCCに依頼がくる可能性があることが紹介された。11月か12月のビューローでCOP6の結果 (どうFCCCがIPCCに要請するか)を反映しスコーピングレポートの形でまとめ、その後プレナリーに提出するということになった。
     内容がより政治的に重要な意味をもつため、依頼受諾や作成に関する決定の権限、
    実施主体など、透明性を保ちつつ、IPCCの手続きとの整合性をとりつつ、慎重に進め
    ることで同意が得られた。

    5)インベントリータスクフォース(TFI)関連
     TFI(温暖化ガス排出の目録作成のための機関)の平石、Nienzi共同議長から報告書(排出量 計算のための指針書)の内容発表があり、受諾された。
     事務局より、TFIの今後の組織のあり方について、3つのオプションが提案された。現状維持、新たに管理委員会を設置、第4作業部会への格上げといったものであったが、議論の末結論はでなかった。現在の執筆者の選定とレビューのプロセスには問題があり、ステアリンググループを設置すべきであると強調した意見もあったが組織の大幅な変更に対し反対意見も出ていた。
     また、TFIの委任事項(作業プログラム)について議論がなされた。すべての国の必要性を勘案すること、TFIの役割については、各国が第17回IPCC総会までに意見を提出し、これらを踏まえて、地域バランスにも配慮しつツ、IPCC第19回において見直すことが明記された。

    6)コミュニケーション戦略
     パチョーリ副議長より、Websiteについての報告があった。共通のデザイン(三作業部会とTFI及びIPCC全体)が完成し、月に25万件以上のアクセスがあった。WG3の要請で、途上国でSRES、SRTTの発表を行う会合を開催したいとのことであった。
     また、副事務局長よりWEB上でニュースレターの公開を準備していることが報告された。また、ケンブリッジ大学出版局との交渉で、報告書類はすべて、出版してから6ヶ月後にWEBで公開可能ということになった(IPCCの報告書の重要性等考えると、この6ヶ月の期間は長すぎるとの声もある)。

    7)GEFプロジェクト
     10~15人の途上国各地域(南米、アフリカ、アジア、小島嶼国から)の専門家(全部で45-50人)により地域的気候変動問題、影響と適応の研究モデル開発、データ解析を行うものである。IPCCでは、準備プロジェクトを行うとして35万ドルの資金提供を要請している(cf.GEF全体の予算は1,000万ドル)。この結果 は第四次評価報告書に反映させることができる。

    8)今後の予定
     次回IPCC総会は、来年4月にケニアのナイロビで開催されることとなった。

(石田靖彦、田中加奈子)

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