2000年10号

タイの新しい長期発展の 方向について(寄稿)

10_1_11

 タイ経済は、1997年7月に金融・経済危機に直面したが、マクロ経済安定化策や社会的な問題解決等の対策の実施もあり、1999年のGDP成長率はプラスに転じ4.2%、2000年には5.0%となる見込みである。当面 の課題は経済の回復持続であるが、中長期的にはバランスのとれた持続可能な発展の軌道に間違いなく乗せることが重要である。

 タイの中長期的な発展の方向は、持続可能でバランスのとれた質の高い開発のための基盤づくりに焦点を当てている。これは過去の発展方向にNESDBが厳しい評価を与えたからであり、第9次国家経済社会発展計画の策定過程におけるタイ国民の声を反映した結果 である。

 同時に人々は、将来の発展への指針的理念として「充足経済」(Sufficient Economy)を採択することに同意した。「充足経済」は、中道優先の原則を強調する哲学である。グローバリゼーションの力に歩調を合わせると同時に、そこから不可避的に生じるショックや行き過ぎからは守る形でのバランスのとれた発展戦略に重点を置くものである。充足経済を達成するには、知識を賢明に応用して、グローバリゼーションによる社会経済、環境、文化面 での大きく急速な変革から生じる危機的な挑戦に対応しなければならない。このため、第9次計画の目標は、人材開発、家族、コミュニテイー、社会の発展を通 して、変革する世界に対する社会の対応能力を高めることにある。また、グローバル化した新しい経済という環境での競争力を高めるために、経済システムの構造改革も試みる。さらに、同計画は全てのレベルでの良き統治に重点を置いている。以下、第9次計画の7つの発展戦略を紹介する。

(1)人材育成と社会保障の質向上
 優秀かつ責任感・競争力のある人材育成や、良い文化を育むために、全ての人に全ての人のための教育をという新教育法(1999年制定)の原則を教育改革の基礎とする。社会保障の質向上政策として、健康保険へのセイフテイーネットの構築や、平等な医療サービスなど公的な医療システムの充実を目指す。

(2)農村開発での構造改革と持続可能な発展のための都市
 農村開発では、社会の対立を最小にするためのコミュニテイーの強化と開発プロセスへの人々の参加に力点を置く。都市開発では、持続可能かつ生産的で良い統治がなされる「生活可能都市」(Livable City)という概念を導入する。

(3)自然資源と環境管理
 自然資源と環境の管理の改善は、持続可能な発展のために必須である。土壌や水、森林、沿岸地帯、海洋の保全を優先事項とし、特に資源管理プロセスへの現地コミュニテイー参画の拡大を目指す。

(4)安定したマクロ経済管理

 適度なインフレと金利水準管理により経済の安定を図りつつ、金融システムと資本市場の安全性の維持を目指す。財政政策はバランスのとれた成長経路を促進するよう運営する。

(5)競争性の発展
 世界経済での競争性を高めることと、全員に職を確保し、公平な所得の配分を目指す。このため、農業、工業、サービス業の構造改革が課題となる。製品やサービスの質の国際基準への向上、国内資源の利用拡大、中小企業の強化に力点が置かれる。また、公的企業の民営化や行政サービスの外注化等により、インフラ・サービスの質と効率の向上を目指す。この戦略には、ASEANやGMS(大メコン河開発構想)、IMT-GT(インドネシア・マレーシア・タイ―グレータートライアングル)といった隣国組織の協力も含む。

(6)科学技術発展の強化
 科学技術の基本要素の開発に力を入れ、科学技術発展への投資インセンテイブ促進策や、人材開発、公共・民間両部門での研究開発活動強化を図る。

(7)良い統治に向けた国の管理方法の調整
 1997年の新憲法は、政治改革分野、公共部門改革プログラム、良い企業統治、市民社会の拡大など、全国の社会改革を進める原動力となっている。グッドガバナンスの実践は、経済をサポートし、持続を可能にする組織の枠組み構築につながる。これらには、適切な規制や法的枠組、所得のより公平かつ平等な配分ルールなどが含まれる。

 以上により、タイは、社会の全ての利害関係者が望みを満たしつつ適切な生活の質を享受し、また相互に助け合う環境の下、バランスのとれた持続可能な成長に向けて発展するものと私は信じる。

(本稿は、英文による寄稿を当研究所の責任に於いて抄訳したものであり、原文と和訳全文は、以下のPDFファイルを参照されたい)

・「和訳全文」PDF   ・「原文」PDF

▲先頭へ