2001年5号

IPCC統合報告書執筆者会合出席報告

 米国メリーランド州都、アナポリスにおいて6月18日から23日、第三次評価報告書統合報告書執筆者会合が開かれた。4月より配布されていた第一次原稿への各国政府、専門家からのコメントにどう対応・回答するかを検討し、次の第二次原稿作成を行った。

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統合報告書は、1999年4月コスタリカ全体会合にて承認された9問のPRSQ(Policy Relevant Scientific Questions)に、IPCCのTAR及びそれ以前の報告書をもとに回答するものである。本報告書は政策決定者向けの要約(SPM)を持つ。各質問の概要は以下のとおりである。 
Q1: 「気候システムにおける危険な人為的干渉」とは何かというUNFCCC第2条の最終的目標に関するもので、持続可能な発展という概念の中で気候変化問題の位置付けのフレームワークを提供するもの。
Q2: 産業革命以前からの気候と生態系の観測された変化についての評価するもの。
Q3.4: 緩和策を施さない場合の、将来のGHG及びエアロゾル排出の気候への影響(突発的な事象、生態的、社会経済的システム含む)を評価するもの。
Q5: 気候、生態的、社会経済的システムにおける慣性と、緩和・適応策への含意について議論するもの。
Q6: 気候、生態的、社会経済的システムに関して、大気中GHG濃度安定化が示唆する短期・長期的意味を評価するもの。
Q7: GHG排出を緩和するための短期・長期的な行動についての技術、政策、コストを評価するもの。
Q8: 気候変化と他の環境問題、開発問題との相互関係を明確にするもの。
Q9: ロバストな結果(robust findings)と、重要な不確実性(key uncertainties)をまとめるもの。
 これまで、2回の執筆者会合(昨年11月アムステルダム、本年3月ジュネーブ)、3回の作業部会毎の執筆者会合(各作業部会全体会合に続いて開催:本年1月上海、2月ジュネーブ、3月ガーナ)を経て、第一次原稿が作成された。4月より1ヶ月間、政府・専門家による査読が行われ本会合に至った。その後7月中旬から8月下旬の最終原稿の査読(政府のみ)を経て、9月中下旬の全体会合で承認される予定である。

各作業部会の執筆者、ビューローメンバー、技術支援ユニットから構成された。全体で50名程度であり、そのうち30名近くが執筆、20名あまりが査読編集者(RE)として参加した。REはビューローメンバーであり、役割は、寄せられたコメントが適切に対応されているか、新ドラフトへの反映は適切か、拒否される場合も十分議論され適当な理由があっ たのかどうか、といったことを監視するものである。
執筆に関しては、集積した知見(これまでのIPCC報告書の内容)を適切に反映することとSPMの各パラグラフは力強いヘッドラインを載せることが重要な点であった。SPMについては、バランスの取れた表現、いかに凝縮するか(何を削除するのか)といった点で苦労が絶えなかった。私が参加した質問1の議論チームでは、連日深夜まで作業が続いたが、その大半は表現方法についての議論であった。例えば、informationという単語について、他のUN言語(ロシア語、中国語)に通常訳される言葉では、英語での意味と異なるとのことからevidence, findingsなど他の言葉にするべきといった主張があり相当の時間を費やした。一見、些細な表層の議論のようにも見受けられるが、IPCC全体会合での承認プロセスでは一転、大変な問題となりうることから粘り強い議論が続いた。日本語でも同様のもどかしさを感じることがあるため興味深かった。
今回、通常IPCC総会などで各国代表として参加しているビューローメンバーをREとして組み入れた。これは妙案であった。実際に総会で異論を唱える代表が執筆プロセスに加わり既に議論を行っておくことで、総会の進行がスムーズになるであろう。また、SPMに何が必要か、政策決定者に近い彼らの意見が有益であった。
執筆チームには各国から集まっているが、実際に各質問を執筆したのは、ほぼ英米豪加など英語圏からのメンバーであった(これは第二泄]価報告書統合報告書作成時と同様の状況である)。執筆という一番の苦労を背負う一方で、伝えたいことを一番盛り込める立場である。今後は、統合報告書の「実質の」執M者に日本、その他の国から積極的に名乗り出ることも重要であろう。

(田中加奈子)

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