2002年4号

「NPO/NGOと政府・企業のコラボレーション」 研究委員会報告書


1. 要約
 これからの社会経済システムにおいて、非営利セクターの役割は従来以上に広範かつ重要になる。これまでの政府・行政セクターと企業セクターの2セクターシステムでは十分対応できない社会的課題に対し非営利セクターの参加が新たな道筋を拓くだろう。
 しかし、日本の非営利セクターは欧米のそれらに比べ、存分に活動しうる状況にはない。
 社会経済システムに非営利組織が実力プレーヤーとして加わり、他の二つのセクターとどのように関わることが新たな価値創造と社会変革をもたらすのかを探るべく、セクター間のコラボレーション(協働)を主題に、現在のさまざまな課題と将来のあるべき姿についてそれぞれの立場から試論が展開された。

[委員長総論]
 社会経済システムにおける価値の多様化、「公共性」の見直し、従来の地理的概念とは別の「我々」意識というコミュニティ概念の多元化、国毎に異なる背景から出発したNPO/NGOという非営利セクターの台頭、等時代変化の下、「コラボレーション」は、三セクター間で誰が社会サービスを提供し、誰がコミュニティの課題に取組むのかという問題に凝縮される。
 こうした時代変化の背景として、企業セクターに対する社会的責任行動や地域或はグローバルなコミュニティへの関わりへの要求の強まり、大きな政府/福祉国家の行き詰まりと国連システムのガバナンスの侵食等政府セクターのシステム限界、また非営利セクターにおける市民活動の普及、組織化、高度専門化、さらにネット技術活用による情報の発信・公開・共有が考えられる。
 NPO/NGOはその行動目的から慈善型、監視・批判型、事業型に分類され、政府・企業の資源活用による支援を受け入れるだけでなく、政府・企業の活動を社会的責任の視点から監視・批判・評価したり、社会的事業を政府・企業と協働、或は競争して取組む等他のセクターとの関わり方と活動様式は多様化している。
 これらの関わり、コラボレーションの実行局面で各セクターは以下の要求事項を持つ。
 NPO/NGOに対しては、既存のセクター領域を超える課題の提示と、社会サービス・財・情報の提供が、政府行政に対しては、NPO/NGO支援の基盤構築及び地域づくりの枠組み、協働の枠組みづくりが、企業サイドに対しては、新しい企業市民の理解・認識、社会貢献活動・事業活動への戦略的取組み、インターミディアリー組織に対しては、セクターを繋ぐ仕組みの構築、主体評価の基準作りとキーパースンデータベースの構築が、大学に対しては、社会経済システム研究、人材教育、技術移転・孵化機能の整備、アカデミック領域を超えて各領域の中枢を結ぶネットワーキング、等々が求められるよう。

[各論]
 世界的な潮流としては、非営利セクター、或いは市民社会組織(CSO)と政府・企業セクター双方が連携をポジティブに捉えようとの意識・行動が広がりつつある。一方、日本では、CSO側には非政府・独立性堅持への強いこだわり、政府・企業セクターには実効性はさておき、社会的理解の得易さに協働の動機づけを求めるという図式が見られる。日本のCSOには最終ゴールを見据えた上での協働への能動的取組みが求められる。
 政府・企業・NGOによる協働実施の受け皿として設立されたジャパンプラットフォーム(JP)は、緊急人道支援活動のサポートを使命とし、アフガニスタン難民支援活動ほか他国NGOに比肩する成果を挙げている。この運営経験によれば、JP本体は一層のガバナンス向上、前線NGOは自身のキャパシティビルディングを課題とし、将来は外務省,経済界,活動NGOのネットワークによるプラットフォームを超えた自律的協働の実現を目指すべきである。
 企業=非営利組織の協働について松下電器では、NPOとの協働に先立ち、市民社会の基盤整備が必要と考えられている。市民の寄付文化涵養のための「サポーターズ☆マッチング基金」を実施、またNPOの啓発・基盤強化のための協働プログラムも企画されている。
 一方、NECでは、NPOと企業双方がWin-Winな関係をもつ為に、適切なNPO選定が重要と考え、NPOの情報開示と説明責任遂行を求めている。総じて脆弱なNPOとの協働では、対等連携プログラムとともに、資源提供・基盤整備支援の平行実施が現実的で、共通ゴールの確認、P-D-C-A管理等事業展開と同様の管理手法が有効である。
 インターミディアリー(仲介組織)の役割は地域のニーズ、それを課題として捉えるNPO、課題解決の手段を提供する企業の三者を如何に有機的に結び付けるか、である。日本フィランソロピー協会とアニモ社との協働はその典型事例である。優れたIT・音声技術保有のアニモ社と福祉ニーズを把握するNPO及び日本フィランソロピー協会が協働、障害者用オンラインショップや音訳サービスを運営・提供、さらにボランティア参加型緊急子育て支援システムを開発中である。
 政府セクターには、NPOに対し「新しい公益サービス」の担い手としての期待があり、現在の脆弱で信頼度の低いNPOの体質改善のために人材交流やパートナーシップの促進、支援税制の整備を進めるべきであると考えている。また、NPOとの協働によるコミュニティビジネス・中小企業の振興と起業支援などが今後重要となると予測され経済産業政策としての対応が必要である。
 ODAを通しての国際協力の観点からもNGOの能力向上・財政的支援、さらにはコラボレーションの積極的展開が政府の重要な役割と認識され、政府=NGO間で定期協議、共同評価作業などで連携をはかるとともにジャパン・プラットフォームの緊急人道支援活動へ財政的支援が実施されている。
 法制面の整備についてはしかし現実的には引き続き厳しい状況が想定され、当面、制度改革より既存の法的枠組の中での制度間競争を促すとともに、制度選択・淘汰を可能とする仕組み作りを進めるべきである。
 非営利セクター分野の人材資源育成の重要性はかねてから指摘され、非営利セクターが公共サービスの供給者としての期待に応えるためには、大学とNPOが連携しNPO教育の充実を図るべきである。特に大学院レベルの実践的なマネジメント教育が戦略的自人材育成に必須であり、NPO専門家はじめ教育側陣容が手薄な現在、複数大学間での講議の相互供給といったネットワーク型NPO教育コースが検討されるべきである。
 一方、日本とは起原・発展過程の異なる米国の市民社会は、行政との関係が多様であり、既成概念に囚われぬ、柔軟で創造的な関係が志向されるべきであることを示している。より成熟した民主主義社会においては、行政もNPOも一つのツールとして位置付けられ、協働とは市民社会がこれらをコントロールし、「ツールの組み合わせ」をどのようにデザインするのかに帰結する。


2. 委員会名簿
  委員長   谷本寛治   一橋大学大学院商学研究科教授
  委 員   井出 勉  
今田克司 
岡部一明
菊地 健

小畑正比呂
杉田定大  
鈴木 均

高橋陽子
照井義則
山内直人
  ジャパンプラットフォーム事務局長
日米コミュニティエクスチェンジ代表
東邦学園大学経営学部助教授
松下電器産業株式会社
フィランソロピークリエイトチームチームリーダー
外務省経済協力局民間援助支援室長
経済産業省大臣官房政策企画室長
日本電気株式会社
コーポレートコミュニケーション部社会貢献部部長
日本フィランソロピー協会理事長
(財)地球産業文化研究所企画研究部長
大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授
  講 師   ケンジ・S・スズキ
杉山さかえ
冨田 洋
長沢恵美子
  デンマーク「かぜのがっこう」代表
北海道グリーンファンド理事長
人道目的の地雷除去支援の会常任理事・事務局長
(社)経済団体連合会社会本部
  陪 席   荒木一郎
井出亜夫
今井洋之
岡山茂人

柴田綾子 
関口訓央
  経済産業研究所研究調整ディレクター
慶応義塾大学3E研究院教授
外務省経済協力局民間援助支援室外務事務官
(社)日本青年会議所北海道地区協議会
社会起業家支援育成特別委員会委員長
青山学院大学
経済産業省大臣官房政策企画室企画主任補佐
      高柳大輔
中野宏和
浜邊哲也
原田勝広
福山光博
山内美紀子
山田政史
  経済産業研究所研究スタッフ/総括担当補佐
経済産業省大臣官房政策企画室企画主任補佐
経済産業省大臣官房政策企画室企画主任
日本経済新聞社編集局国際部編集委員
経済産業省通商政策局情報調査課経済産業事務官
経済産業研究所
松下電器産業(株)社会文化グループ
フィランソロピークリエイトチーム主事
  事務局担当   竹林忠夫   (財)地球産業文化研究所企画研究部次長
(五十音順,敬称略,所属・役職は委員会委員御就任時及び委員会御出席時のもの)


3.目次

  第I部 総論「NPO/NGOと政府・企業のコラボレーション」(谷本寛治委員長) 第II部 各論
1.NGO/NPOセクター
  第1章 ジャパン・プラットフォーム-実践型コラボレーションの経験-
          緊急人道支援活動における政府・企業・NGOの協働(井出勉委員)
第2章 市民社会組織による他セクターとの連携の諸課題(今田克司委員)
2.政府セクター
  第3章 NPO/NGOの役割及び求められる支援のあり方
                 ~『新しい公益』の実現に向けて~(杉田定大委員)
第4章 ODAにおけるNGOとの協力関係(小畑正比呂委員)
3.企業セクター
  第5章 NPOとの連携による企業市民活動が抱える課題とその対応
                        -NECのケース-(鈴木均委員)
第6章 企業が地球市民社会に向けて創造力を発揮するとき
    NPOとの協働(コラボレーション)の実践と考え方
                      -松下電器の場合-(菊地健委員)
4.インターミディアリー
  第7章 企業とNPOの協働におけるインタミディアリ組織の役割(高橋陽子委員)
5.大学
  第8章 NPOの人材育成と大学の役割(山内直人委員)
6.米国
  第9章 アメリカ:NPOとしての自治体
              ―どのような政府とのコラボレーションか―(岡部一明委員)
7.日本
  第10章 政府とNPO/NGOの新しい関係
                ―日本の公益法制をめぐる新しい動き―(照井義則委員) 

第III部 招聘講師講演要旨
  第1章 NPOを通じての国際貢献(冨田洋講師講演より)
第2章 デンマークの環境・エネルギー政策が生んだ産業―背景と事例紹介―
        日本はデンマークから学ぶものがあるか(ケンジ・ステファン・スズキ講師講演資料)
第3章 未来への投資
     -北海道発・市民風力発電の事例-(杉山さかえ講師講演より)
第4章 NPOと企業を繋ぐ~経団連が果たす役割~(長沢恵美子講師講演より)

第IV部 海外調査
  第1章 オランダ・スウェーデン調査
第2章 米国・カナダ調査

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