2008年5号

「社会文化の変化に対応する先進企業の社会的評価に関する調査」要約 平成20年度財団法人JKA補助事業

 平成20年度調査研究事業の「社会文化の変化に対応する先進企業の社会的評価に関する調査」につい て、5月に委託公募を行い株式会社電通に委託しました。この度、委託調査が完了しましたので要約を 掲載いたします。



 社会の課題がグローバル化しどの国も一国のみで解決できなくなりつつある中、企業が社会に果たす 役割は大きくなっている。本報告書は、企業に対する社会的な役割への期待が大きくなる中で、これか らの時代に求められる企業とはどのようなものかを明らかにし、消費者から選ばれるエクセレントカン パニーとはどのようなものかを明らかにするものである。

1.これからの時代に求められるエクセレントカンパニーとは
2.エクセレントカンパニーの6つの評価ポイント
3.消費者アンケートによる評価ポイントの実証
4.6つの評価ポイントによる選定企業の実態整理(データ一覧)
5.まとめ








1.これからの時代に求められるエクセレントカンパニーとは
 優れた企業についての議論は従来から様々になされている。そこで、80年代からの企業経営論の視点 、最近のCSR(企業の社会責任)論の中心にあるサステイナビリティーの視点、消費者のライフスタイ ルや価値観の変化、の3つの視点から、これからの時代に求められるエクセレントカンパニー像を組み 立ててみた。

1)80年代以降の経営論の視点
①80年代、日本企業の躍進のため、主に米国企業の中で直接的な利益追求一辺倒では産業競争力を保て ないという認識が広がった。
 → 利益志向に加え、従業員の尊重、顧客志向、柔軟性、確固たるビジョン、行動力などが競争力を高 める要素として注目された。
 → 日本的企業経営論、日本文化(勤勉性、経営者の利他的な倫理観など)が競争力を高めていること が注目された。
②90年代半ば、IT導入とグローバリゼーションの進展により、企業の競争力の条件が変わった。
 → 企業の経営環境が激変し、変化への対応、俊敏さが重要な要素になった。
 → ITによって発言力を増した消費者が企業に対してパワーを持つようになり、企業は消費者から選ば れることの価値が高まった。
③00年代、中国など新興国の発展を背景に、環境意識の高まりが加速している。
 → 消費者の地球環境改善への要求、LOHAS(ロハス)のような消費者の潮流や要望は、企業の考え 方や行動を変えるきっかけになっている。

2)サステイナビリティーの視点
 → 00年代以降、サステイナビリティー、企業の社会的責任(CSR)がキーワードに。
 → 企業が経済主体としてサステイナブルであるためには、地球環境レベル、社会レベルでもサステイ ナブルでなければならないという認識が企業側でも広がりつつある。

3)消費者の価値観の変化
 消費者はより個人志向が高まり、制約のない自由を楽しむ傾向にある。その一方で、他人とのつなが りや社会に貢献したい気持ちが高まり、他人との関わりを強めたい気持ちも高まっている。社会的なテ ーマへの関心は高めつつ、国や企業に要求はするが、まだ自分で行動するほどではなく、仕事で社会に 貢献するということが最大のリアリティとなっている。主な消費者のトレンドを以下の8つにまとめた 。
①世帯から個人単位の社会へ
  人口減少や世帯構造の変化を背景に単独世帯や少人数の家族が増加している。家族内で果たす家族 機能が縮小している。
②社会とのつながりの希薄化
  地域社会や職場の人とのつながりも低下傾向にある。強制的な人間関係を避け、気の合う仲間など 選択的な人間関係への傾斜が高まり、他人への無関心が強まっている。
③社会志向の高まり
  その一方で、「社会」「国」「未来」などの抽象的な社会概念には関心度が高まっており、社会貢 献意識や公共意識が特に2005年を境に高まる傾向にある。
④モノの豊かさよりココロの豊かさへ
  物より心の豊かさを求める傾向が基調となっている。親しい人とのふれあいと、自分の好きな世界 に没頭できることが心の豊かさを満たす要件となっている。
⑤自由で自発的な仕事志向
  自由で自発的な働き方を求める志向が強まるとともに、新しい多様な働き方が登場している。内発 的な動機を高められ、成長実感を得られる職場が求められている。
⑥グローバリゼーションと自己責任
  リスクや不確実性が高まり、その中で政府保証から自己責任へと社会の基盤が動いている。自己責 任に帰する選択を行うための情報開示に対するニーズが拡大している。
⑦個人の情報発信力の高まり
  インターネットの普及を背景に個々人の情報発信力が向上し、社会的影響力も強まっている。
⑧環境志向、シンプル志向
  地球環境問題に対する関心がますます高まる傾向にあるなかで、シンプルなライフスタイル志向が 強まっている。

4)3つの視点の統合
 エクセレントカンパニーの要素が時代の変化の中で、どのように変わってきたか、そこにサステイナ ビリティーの視点と、消費者の価値観変化の視点を加えてまとめる。
  • 大きく「利益重視」と「直接的な利益追求以外を重視」に分かれるが、「直接的な利益追求以外を 重視」も中長期的には利益を最大化するために必要な要素であり、根本的には利益重視とは相反しない 。
  • 近年の消費者の仕事志向の高まりを反映しての働き方を重視する。
  • IT化・グローバリゼーションなどの社会変化への対応と消費者の見えにくくなっているニーズに対 応することが重要である。
  • それに加えて、サステイナビリティーへの対応、現実には起きていないことへ対応する未来志向も 大切である。



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2.エクセレントカンパニーの6つの評価ポイント
 上記の3つの視点のそれぞれの潮流を受け、これからのエクセレントカンパニーのあり方として、以 下の6つのポイントを抽出した。
①経済 利益の追求という要素。利益をあげることに加え、株主への配当や、安定的な成長などを含む。
②環境 地球環境のサステイナビリティー。環境経営の体制、環境負荷削減のための取り組み、地球環境問 題を解決するような技術やアイデア開発などが含まれる。
③社会 社会のサステイナビリティー。法令遵守、高い倫理観をもつこと、企業市民として役割を果たすこ となど、多様な内容を含む。
④エンカレッジ 社員に働きがいや成長の実感を与えることで内発的な動機を高く持てる職場を提供すること。働く 人や社会に夢や活力を与える力であり、エンカレッジと名づけた。
⑤コミュニケーション 変化へ対応すること。社会で起きている問題に気づく細やかな注意力があり、それに本気で取り組 むことができる能力を指す。
⑥デザイン 新しいことを始める力。まだ起きていない社会の問題を発見し、それを取り組むべきアジェンダと して設定し、意識できるカタチにデザインし、その上で解決する考え方や仕組みをデザインできること 。



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3.消費者アンケートによる評価ポイントの実証
 最近の企業と社会の関係について、また、これからの企業が社会の中で果たすべき役割は何かを中心 に、全国1000サンプルでインターネット調査を実施した(実施時期は2008年9月)。インターネット調 査の結果は以下の通り。
企業が社会の中で果たしている役割を評価する人は60.1%と高い。
企業の環境問題への取り組みに関しては、53.5%が評価している。
日本企業の倫理観や品格は外国の企業よりも高いと感じている人は57.2%で、そのうちの96.7%は 、それは日本の価値観や日本文化の影響だと考えている。
これからのエクセレントカンパニーの6つのポイントの中では、特に「環境」、「社会」が注目さ れている。また「エンカレッジ」の中の「働くことのやりがいや夢」も強く求められている。
6つのポイントにちなんだ企業の取り組み事例の評価(「経済」を除く)では、5つについて、それ ぞれのポイントを表す具体的な取り組み事例を評価してもらったところ、「環境」に関する事例の評価 が高い。
評価する立場にある消費者を、クラスター分析により「ソーシャルマインド層」「エコ主婦/夫」 「ビジネス情報通」「仕事モード派」「低関与層」の5つに分類したところ、全体の10.3%にあたる「 ソーシャルマインド層」は、6つのポイントのいずれについても全体より高く評価している。この層の 評価意識が、今後他のクラスターにも波及していくことが考えられる。


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4.6つの評価ポイントによる選定企業の実態整理(データ一覧)
 既存の各種ランキング・調査・表彰制度などを参考に、社会文化の変化と企業経営の進化に関する研 究委員会」の中で選定した企業13社について、それぞれ6つの評価ポイントに関する定量データや定性 情報(取り組み事例など)を整理した。今回取り上げた13社についてのコメントは以下の通りである。
「経済」については、概ねエクセレントカンパニーといえる内容である。
「社会」では、リスク管理や、取引先(調達先)との公正な取引など基本的な部分については、ほ ぼ全ての企業が制度上での取り組みを行なっている。多様な人材の雇用については、障がい者と女性は 比較的どの企業も取り組んでいる。定年後の人材の活用については、技術の伝承が重要となるような企 業では再雇用をおこなっている。
「環境」については、どの企業も様々な取り組みを展開している。本業が環境負荷を出す業種では 、特に積極的に取り組まれている。
「エンカレッジ」では、特に女性が多い企業では先進的な取り組みがなされ、育児者や介護者など がワーク・ライフ・バランスを実現できるための制度を備えている企業がほとんどである。
「コミュニケーションとデザイン」に関しては、具体的な取り組みは、他のポイントに比べまだ少 ない。しかし、自動車会社の低環境負荷車開発への取り組みや、運輸会社による環境負荷の低いモーダ ルシフトなど、本業の中で課題をみつけ解決をデザインしている姿が目立っている。コミュニケーショ ン力については、消費者のニーズに気付くために声を聞く体制や制度を設けているところが多い。


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5.まとめ
 企業は消費者に認められているが、今後、グローバルに対応すべき社会的課題が深刻化する中で、企 業に対する消費者の要求はさらに高度になり、それに応えられる企業が競争優位を持つようになると考 えられる。
 今回事例として取り上げた日本企業は既に高い基準に達しており、日本企業としての倫理観の高さに 今後も期待したい。

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