1994年10号

チャイナカウンシル 「科学・技術・訓練のWG」活動状況 -つくば会議開催される-

 チャイナカウンシル(中国の環境と開発に関する国際協力委員会)の6つのワーキンググループの一つである「科学・技術・訓練に関するWG」の会議が7月25、26日の二日間にわたってつくば市の工業技術院資源環境技術総合研究所で開催された。参加者はこのWGの委員全員を含む次のメンバーである(敬称略)。

 孫鴻烈議長(中国科学院前副院長)、銭易(清華大学)、劉淙斌(中国科学院大気物理研究所)、王毅(中国科学院生態環境研究中心)、陸亜洲(中国科学院)、趙永仁(同)、Ia Riviere(オランダInfrastructure Hydraulics Environment)、D.Norse(UK海外開発研究所)、A.Whyte(カナダ国際開発研究センター)、横山長之議長(資源環境技術総合研究所前所長)、田森行男(同大気圏環境保全部長)、水野建樹(同環境影響予測部長)。また地球産業文化研究所からは清木専務理事、地球環境対策部石田部長、矢口課長が参加した。

 昨年3月を第1回目として今回で第3回目となるWG会議は、中国の委員が日本の環境技術の現場を見る機会を作ることも兼ねて、議長国である日本で開催することになったものである。資源環境技術総合研究所の宇佐美所長による歓迎挨拶の後、さっそく孫、横山両議長のリードによる審議に入った。今回の目的は中国におけるクリーンプロダクション推進のための科学研究・技術開発および教育訓練をテーマとして、来る9月下旬に北京で開催されるチャイナカウンシル全体会議に提出する報告書をまとめることである。

 目を見張る速さで工業化を進めている中国では、ともすれば環境は後回しにされがちだが、すでに環境汚染が我慢できない状況になって来たこともよく認識されている。あとから環境対策を追加するいわゆるエンドオブパイプの対策法では環境には勿論のこと経済的にもあとあとまで大きな負担が残る。このため製品設計や生産課程にあらかじめ環境対策を盛り込んでおくクリーンプロダクションの考え方が、これから発展する国々にとっては特に大切である。

 今回の審議によるWG報告では、まずクリーンプロダクションを促す法的側面 として環境関連のあらゆる法規制にクリーンプロダクションの考えを入れること、外国との協力促進のための知的所有権制度の強化、住民参加のために環境の質や工場内での健康条件などに関して労働者や住民の知る権利を強化すること、などを勧告している。科学研究の面 では、1996年から第9次5か年計画でクリーンプロダクションを科学研究の優先的目標とすること、石炭の高効率転換、脱硫、風力・太陽・地熱などの再生可能エネルギー、オゾン層破壊物質の代替品、小規模な郷鎮企業に実用的な生産方法を見つけることが重要なテーマであることを説いている。またクリーンプロダクション促進の政策研究としては援助、罰金、税金、研究開発基金、天然資源の評価、環境影響評価、監査などに関する外国の経験を評価しつつ社会主義市場経済に適した経済的手法と規制的手法との最適なバランスの研究が必要であるとしている。

 教育訓練については、大学、工業学校、企業経営者、労働者などあらゆるレベルでのクリーンプロダクション技術教育、日本のような環境管理者制度の導入、さらには技術進歩や環境基準の強化に遅れをとらないためのレベルアップ教育の制度設立の勧告を盛り込んだ。成長が目ざましい中国では、専門家の養成がニーズを満たすために、第9次5か年計画に目標を掲げる必要があるとも述べている。

 クリーンプロダクション推進に欠かせないのは、国民の環境意識高揚である。これには民間の力が大切で、WGは具体的な方策として消費者権利の日(3月15日)の利用、製品紹介など親しみやすいテレビ番組の活用の他、産業と地域住民との連携による自主的な環境汚染防止活動のモデルプロジェクトを提案している。例えば北京大学、清華大学や多くの研究機関が集中している北京の海淀地区は、住民の意識も高く、モデル地区のよい候補である。モデル地区の住民は、環境実態や企業の環境活動を監視することにより、クリーンプロダクションの番人かつ推進者の役割を果 たす。

 WG報告は国際協力の重要性にも言及している。産業界、研究界のいずれにも密接な関係を持った情報制度を構築してクリーンプロダクション技術の国際情報の提供、外国資本、合弁企業が提案する新技術、新生産方式の中国への適用性に関する情報の提供を行うことの他、科学・技術の国際協力を環境基準、健康基準や規制などの分野まで拡張すること、エコラベルなどの協力によって国際競争力を確保することが勧告に盛り込まれた。

 異常な熱夏の中、汗をかきかき報告書をまとめた参加者達は、続く27日、28日の2日間を茨城県勿来の共同火力発電所とIGCC実験プラント、千葉県富津の東電発電所とエネルギーパークの見学に費やした。IGCC(石炭ガス化複合サイクル)発電は石炭王国の中国では大きな期待をかけている将来技術である。実験はあいにくガス化工程の問題で休止中であったが、石炭の救世主として期待するにははだ難しい技術であることを感じてもらえただろうか。商業運転中の石炭火力は猛暑による冷房需要でフル稼動中であったが、煙突の煙は殆ど見えなかった。中国の石炭に比べて硫黄分がはるかに少ない良質の石炭であるため、中国がこの水準に追いつくことは簡単ではないが、環境対策面 から急務であり、可能な道を必ず捜し出さなければならないことを全ての委員が実感したと思う。

 

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