1996年2号

AIJ-Japan Programmeの今後の展開について

1.AIJ-Japan Programmeの概要

 昨年3~4月にかけて開催された気候変動枠組条約第1回締約国会議(COPI)において、途上国の参加も可能な形態で共同実施*の道(これを''共同実施活動''と称している)が開かれた。

    「共同実施」とは、途上国を含めた地球全体での温室効果 ガス排出抑制対策への取り組みのことであり、主に以下の点で有効と考えられている。

  1. 温室効果ガス排出抑制の費用対効果

  2. 環境技術移転の促進

 これを受けて日本政府では、共同実施の国際ルールが確立されるまでのパイロット・フェーズの期間(2000年まで)において共同実施活動を推進することにより、国際ルールの早期確立に貢献し、世界全体での温室効果 ガスの排出抑制に積極的に取り組むべく、昨年11月から本年2月にかけてその枠組みについての検討を行ない、このほどその詳細が定まり、正式な公募が始められたところである。

 日本政府によるその目的、内容等は下記の通 りである。

I.目的

  1. 共同実施の本格化に備え、その国際的な枠組みの形成に係る検討作業に貢献するための経験を積むこと

  2. 共同実施(プロジェクトの実施)による正味の温室効果 ガスの削減・吸収量を総合的に判断するための手法を確立すること

  3. 共同実施への民間部門からの参加を促進するための方策を検討すること

II.内容

     プロジェクトの円滑な推進のため通 産省及び環境庁を共同議長とする「共同実施活動関係省庁連絡会議」を設置すると共に、プロジェクトの担当省庁はプロジェクトの評価・認定等を実施するものとする。
     その際、各プロジェクト担当省庁は当該プロジェクトについて、主として以下のことを確認する必要がある。

  1. プロジェクト実施の場合の温室効果 ガスの排出量(又は吸収量)が十分な根拠を持って予測されること

  2. プロジェクトを実施しない場合の温室効果 ガスの排出量(又は吸収量)が十分な根拠を持って予測されること

  3. 温室効果ガスの削減の累積効果 が、負にならないこと

  4. プロジェクト実施のための資金が現行のODAや同条約上の財政支援義務(GEFへの拠出)内のものでなく、追加的と見做されるものであること

  5. 手国政府が、当該プロジェクトを共同実施活動の一環であるとして認めること

III.今後のスケジュール

     3月~6月:プロジェクトの公募
       ~7月:プロジェクトの審査
    (審査期間は原則1か月程度で、個別審査後、逐次認定されるものとする。)
        7月:COP2へ日本の共同実施活動の取組状況について説明

2.AIJ-Japan Programmeの問題点と今後

 当研究所では一昨年以来、同問題についての研究委員会(メンバーは下記を参照)を設け、評価のためのクライテリア、民間部門からのプロジェクト提案の可能性・民間部門のメリット等につき意見交換と検討を重ねてきた。同委員会の議論では、『現状ではプロジェクト申請に際し民間にとっての実質的な誘導策(インセンティブ)が無い、またプロジェクト申請・実施によって受けるメリット(例えば、この温室効果 ガス削減のための民間としての努力を後々認めてくれる、と言うような約束の担保も一つのメリットと言える)も、現在のところは無いためにプロジェクト申請の可否は、民間を含む申請主体のボランティアベースに頼らざるを得ないですネ』という意見も出されている。今後このAIJ-Japan Programmeを軌道に乗せるためには、政府側あるいはそれに代わる機関からの強力なインセンティブ供与が不可欠の状況と見られる。

 一方、政府部内の考え方として、例えば『CO2の排出削減は、世界の趨勢であり、それは当然のことながら排出している主体が努力すべきで、もしその主体が努力しないのであれば規制を掛ければいいではないか、国として財政資金を出す必要がどこにあるのか?』という意見が出てくることは容易に想像できる。この主張を抑えるためには、もう少し「共同実施活動」そのものに対する議論を詰める、あるいは実績を積み重ねて『世界をリードしていくためには、パイロットフェーズ期間中の世界の枠組みを造る段階での経験・蓄積が重要であり、この段階で民間企業が自主的に参加するようになるためにはインセンティブが必要なんだ。民間企業側の自主努力は、これぐらいのポーションがあり世界の枠組みを造るための付加的部分(言い換えれば公的に負担すべき部分)はこれであり、これだけのコストが掛かるんだということを明らかにして、この部分は国として財政支援すべきだ。』との大義名分を打ち出せれば、その予算も編成作業の荒波に耐えられることとなるであろう。

 結局のところ、世界の中である程度の産業競争力を確保するために、さらには国民の生活の便利さを確保していくためには、低廉な化石エネルギーを相当量 使用せざるをえないという(これはある意味では国家としてのポリシーとも言えよう)ことと関連して、『温室効果 ガス排出の責任は誰にあるのか?』という議論が、SOxやNOxでの責任論のようには煮詰まっていないため、民間が温室効果 ガス削減のためにあまり努力をしないでいて、かつ国としての同ガスの一律の削減が国際的に決まってしまうような場合には、『民間の努力が足りないのだから排出規制を掛けなければいけませんナ』ということになる恐れが十分に予測され、そこは民間側からも適度な対応(削減努力)が望まれるところでもあり、また必要なことでもあろう。

共同実施研究委員会メンバー

     黒田昌裕:慶應義塾大学商学部長(委員長)
     藤崎成昭:アジア経済研究所主任研究員
     西岡秀三:国立環境研究所総括研究管理官
     伊藤良三:省エネルギーセンター調査部長
     岩渕 勲:新日鐵(株)環境管理部長
     河合秀喜:電気事業連合会立地環境部長
     濱 輝雄:電源開発(株)企画部副部長
     松尾直樹:日本エネルギー経済研究所主任研究員
     田中秀尚:(株)三菱総研部長代理
               以上

 

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