1996年10号

第27回地球環境問題懇談会から 「廃棄物処理・リサイクル政策の現状と今後の課題」

 平成8年7月12日、日本自転車会館3号館において標記懇談会を開催した。その中で通 商産業省環境立地局リサイクル推進課の野原詢課長補佐にご講演いただいたので、以下ににその概要を報告する。

 本日は「廃棄物処理・リサイクル政策の現状と今後の課題」ということで、主に容器包装リサイクル法の来年4月からのスタートに向けての準備の状況と、今年どういう方向性を打ち出すか、ということがテーマになっている産業廃棄物の問題についての検討状況をご説明申し上げたいと思います。最初に容器包装リサイクル法について、次に産業廃棄物の問題についてお話させていただこうと考えています。

1.容器包装リサイクル法

 容器包装リサイクル法は、家庭などから出るごみ、一般 廃棄物の中でかさベースで6割と非常に大きな部分を占める容器や包装のごみについて、関係者の役割分担を行うことによりリサイクルを進めていくことを目的とした法律です。市町村が分別 収集を行い、事業者が再商品化すなわちリサイクルをするという役割分担になっており、事業者には一定の場合にリサイクルの義務づけがなされます。この法律によって義務づけがされている事業者が特定事業者ですが、容器や包装の中身事業者と容器の場合は外身事業者、容器メーカーが義務者になっています。

 リサイクルの義務の履行については、3つの方法すなわち3つの選択肢があります。これから指定法人という義務履行の代行法人を設立することになっていますが、この法人にリサイクルを委託することにより義務を果 たすことが、まず第1の義務履行のルートとして考えています。そのほか、指定法人に委託をせずにご自分で自らリサイクルをする、ないしはご自分でリサイクル業者を見つけてリサイクルをするといった独自の第2のルートや、そもそも市町村にごみとして出さないようにご自分で回収をされる第3の自主回収のルートがあります。この3つの選択肢のいずれかを選択していただき、義務者の方々にリサイクルをしていただくという法体系になっています。

 この法律の対象ですが、金属であればアルミとスチール、ガラスであれば透明、茶、およびその他のガラス、紙であれば紙パック、段ボール、およびその他の紙、さらにプラスチックであれはPETボトルとその他のプラスチック、要するにこの10種類に分けられるものがこの法律の対象となります。また対象事業者でありますが、中身事業者については容器包装共通 で義務者となっており、外身事業者、外身のメーカーについては容器の場合だけ義務者となっています。

 一方、市町村でどれだけ分別 収集をするかは、まさに今、市町村サイドで分別収集計画が策定されているところであり、これから3年間のうちにこの法律を活用して分別 収集をするかどうかは、今年の10月半ばまでに明らかにするというスケジュールになっています。この計画は都道府県、厚生省に上げることになっており、全国ベースでの数字は今年の年末に公表される予定になっています。

 市町村が分別収集を行い、事業者がリサイクルを行うことになっておりますが、市町村と事業者の責任分担の境目がどこにあるのかという問題があります。責任分担の境目の第1として、市町村の分別 基準があります。これは厚生省令で昨年末に公表されておりますが、10トン車1台分程度の量 が集まっていること、洗浄されていること、適切に圧縮されていること等が要件として課されています。

 責任分担の境目の第2として、保管施設の設置基準があります。事業者は市町村が保管しているものを保管施設まで取りに行き、それから先の運搬のコストが事業者負担ということになっている関係から、どこへ取りに行くのかということを明らかにする必要があり、市町村の保管施設については主務大臣が指定するという法律上の整理になっています。保管施設の設置基準については、人口30万人未満の市町村においては1カ所、30万人以上であれば30万人ごとに1カ所を指定するといったルールになっており、今年末までに指定が順次行われる予定になっています。

 責任分担の境目の3点目として再商品化義務を免除する容器包装があります。市町村による分別 収集の後、経済ベースで引き取られている種類の容器包装、たとえばアルミ缶 、スチール缶、牛乳パック等の飲料用紙容器については事業者サイドにリサイクルのための引き取りの義務づけは行われておりません。

 事業者にどういうリサイクルの義務づけがなされているのか、その義務量 をどう考えるのかということですが、事業者の方々が容器や包装を使用されている量 ないしは容器を製造されている量掛けの分別収集率が、大体ご自分の義務量 になると考えていただければ良いかと思います。詳細には今年末までに必要な係数などを定めて計算式を明らかにすることになっており、その計算式に従って事業者の方々が自ら計算をしていただくことになっています。

 今後のスケジュールですが、昨年の6月に法律自体は成立しており、12月に定義関係の政省令を明らかにしました。今年に入りまして、基本方針、再商品化計画を明らかにしており、現時点では市町村サイドで分別 収集計画を作成しているところであり、分別収集計画自体は10月の半ばまでに策定していただくというスケジュールになっています。都道府県に上がってくるのが11月、都道府県が取りまとめた計画を策定するのが11月の半ば、厚生省が全体の総量 を公表するのが12月というスケジュールになっています。また、各義務者の方々がご自分の義務量 を計算していただく計算式については、今年内に公表するスケジュールになっています。

 来年の4月1日からこの法律自体の仕組みはスタートします。中小企業者及び一部適用が猶予されている物質がありますが、これについても平成12年の4月1日から適用が開始されるというスケジュールになっています。来年の4月からスタートする物質は7種類ありますが、このうちのアルミとスチールと紙パックについては、市町村が分別 収集するだけで事業者にはリサイクルの義務づけがないという体系になっており、来年の4月から事業者サイドで義務が発生するのは、PETボトルとガラス瓶の3色(透明・茶色・その他)という体系になっています。

 次に、現在何がこの法律の施行に関してテーマになっているかをご紹介申し上げたいと思います。3つほどございまして、まず第1のテーマは法律上義務の履行代行法人として位 置づけられている指定法人の設立、業務開始準備作業です。日本商工会議所と経団連を事務局にどのような法人にするのかという議論が続けられ、複数の素材を扱う財団法人として1つ法人を設立しようという方針が今年の4月半ばに決まりました。この法人がどのような業務のやり方をするのかは、この法律による仕組みに非常に密接な関係があるわけですが、その点については日本商工会議所と経団連を事務局にして検討されている指定法人設立準備会の中で、指定法人の設立後は同法人の理事会等の場で指定法人の業務の実施の方法などが議論されていくことになっています。

 現下のテーマの2つ目は、来年4月から義務づけがなされるPETボトルとガラス瓶について円滑にシステムが機能していく上で何が必要かということです。PETボトルの方は、リサイクル施設は、関係業界で設備投資をされて大規模な施設を関東では栃木県、関西では三重県に施設をつくっており、現段階での市町村サイドの分別 収集の見込みからすると十分な施設が整備される見通しであります。そのPETボトルのリサイクル施設でフレーク、ペレット等の化学原料になるわけですが、プラスチック成形品であるとか、繊維製品として利用するといった十分な需要のめどが立っており、その意味ではPETボトルについては、いかに市町村の分別 収集量を増やすかということが最大のポイントになっています。つまり市町村サイドの分別 収集量が一定以上大きくならないと、リサイクル施設の稼働効率がかなり下がってしまう面 があって、効率のよいリサイクルをするためには、PETボトルの分別収集が沢山量 が集まることがポイントといった状況にあります。関係の業界では地道に地方を歩いて、分別 収集を実施して下さいということを自治体サイドに働きかけをしているところであります。

 一方ガラス瓶の方はPETボトルとは逆に、分別 収集量の方は多分十分過ぎるほど集まるという状況にあり、ガラス瓶をガラスくずに戻す施設も能力も十分あります。ところが、その先の利用する方の需要が一番懸念をされておりまして、ガラス瓶自体の需要はほかの容器ないし素材との競合関係の中でどんどんシェアが下がり頭打ちという状況にあり、他用途利用の拡大が最大のポイントになっております。

 現下のテーマの3点目は、平成12年の4月1日からこの法律に従って分別 収集が始まる予定になっているPETボトル以外のプラスチックと紙箱等、その他紙製の容器包装といった分野についてであります。これらについては、既存の分別 収集システムとかリサイクルシステムが整備されていないといったことが理由で、3年間余計に時間を置いているわけですが、そういう意味では一からやらなければならないという状況にあり、まずリサイクルの手法を確定する必要があります。プラスチックについては、法律上マテリアルリサイクルないしは油化は既に認められておりますが、その他のリサイクル手法の取扱いをどうするのか、ということを今後議論していく必要があります。

 紙箱については、紙製原料に戻すことがなかなか難しい。何度もリサイクルして、一番質が劣化してものがこの層に来ているわけで、さらに利用するに当たって、また紙に戻すことができないのでどうしたものかといった話があります。

 そういう意味では、分別 収集とリサイクルとその後の需要の確保、3点それぞれシステムをつくっていかなければならないので、これからほとんど一からやるといった作業が待っている状況にあります。恐らく3年余計にあるといっても、PETボトルやガラス瓶に比べて発射台がその分低いわけでありまして、準備することが沢山ありますので、時間が十分あるというわけではない状況にあり、この部分についてどうするかが非常に大きなテーマとして残っています。

2.産業廃棄物問題

 産業廃棄物問題は今年の主要な検討テーマとなっていますが、問題検討の背景はほぼ2つです。第1の背景が最終処分場の残余年数という問題です。厚生省による最終処分場の残余容量 推移というデータの中で、住民の反対運動などにより最終処分場の新規立地件数が年々非常に減少する一方で、埋立処分にまわる廃棄物の量 は減量化・リサイクルにもかかわらず必ずしも目に見えて減少しているわけではないという状況にあり、このままのトレンドが続いた場合には、2008年すなわち、あと12年後には全国ベースで埋立処分場の残余年数がゼロになるという試算が出でおります。この試算のシナリオどおりにならないようにするために、まず最終処分量 を減らすという方策、もう1つは、そもそも処分場の新規立地件数の減少によりこのようなことになるわけですから、処分場の新規立地件数がこのトレンドのとおり減らないように進めていくという2つのアプローチが必要になってくるのではないかと思われます。

 第2の背景は不法投棄という問題です。これはもう大分時間のたった事件ですが、ご案内のとおり香川県の豊島でシュレッダーダストの大量 不法投棄事件がありました。平成3年に廃棄物処理法を改正した時も、その現状回復について議論になったのですが、何らかの不法投棄対策が必要だという意見があります。最終処分場不足の話と不法投棄の社会問題化という2つが検討の背景であり、これらを契機に産業廃棄物の問題を今年考えようという流れになっています。

 背景となっている最終処分場の不足と不法投棄に対応してそれぞれ論点があり、まず最終処分場不足の問題については2つの対応の方向があります。一つは、住民の反対運動により新規立地が進まないといった状況の中で、住民の反対運動の原因は何なのかということ、またその原因を可能な限りクリアするような対策が必要ではないかといったアプローチです。そうはいっても完全に環境汚染の心配のない処分場ができるのかといった御意見もある中で、処分場の立地を当面 ある程度進めなければならない面もあります。したがって社会的な理解を得るためにも減量 化、リサイクルの努力を可能な限り行うことは一方では必要ではないかと思われます。そういう意味では、まず減量 化・リサイクルを可能な限り進める観点からどういう施策を講じるのかといったことが、まず1番目のテーマとして上がってきます。

 努力してもすぐにごみがゼロになるわけではない、ゼロにするのはなかなか難しいといった面 がありますので、処分場を一定程度整備していくことはやはり必要になるわけです。しかし完全に安全な処分場が本当にできるのかといった御意見が一方にあることを考えると、片や減量 化・リサイクルの努力をしているという姿勢を示さないと、なかなか社会的な理解が得られるものではないと思われますから、減量 化・リサイクルについての数値目標を設定してターゲットを示して努力すべきではないかといった議論、ないしはそもそもそういう目標を掲げるだけでは不十分であって、経済的手法を導入すべきではないかといった議論もあります。

 処分場不足への対応の2つ目として、やはり住民の反対運動の原因に迫る対策をとり、可能な限りその原因をクリアして必要な処分場を建てていくことが必要なので、反対運動の主因をまずきちっと把握する必要があります。住民の反対運動の原因は大きく2つに分けられると思うのですが、1つは環境汚染に対する不安、それからもう1つは例えば最終処分場が近くにできると地価が下がるとか、迷惑施設が立地するだけで何もメリットがないということ、それから大都市圏ないし工業地帯のごみが田舎へ持ってこられるという地域間の不公平といったことです。

 不法投棄の問題についても対応が2つの方向で議論されるといった状況にあります。1つは、不法投棄が数多く起きているシステムやメカニズムには何かおかしいところがあるはずだから、不法投棄が起こりにくいようなルールないしはメカニズムをきちっと構築すべきではないかといった議論であり、もう1つはどうしても不法投棄は一部残るのだから、その場合の原状回復、環境汚染の除去について、何か制度的なルールを構築しなくても良いのだろうかという議論です。

 まず最初の不法投棄の未然防止システム構築の議論ですが、これは細かく分けると3つほど提起されています。まず罰則等の制裁措置が緩いのではないか、ないしは取り締まりが徹底していないのではないかという議論があります。

 未然防止の2点目として、廃棄物のフローを管理する仕組みをきちっと組むべきではないかという議論があります。今、一部の有害廃棄物、特別 管理産業廃棄物については、マニフェストという廃棄物の管理票制度が義務づけられておりますが、これを全産業廃棄物に拡大して、およそ産業廃棄物についてはすべてマニフェストを制度化すべきではないかという議論です。

 未然防止の3点目として、排出事業者責任が徹底されていないのではないかという議論があります。産業廃棄物の処理については、廃棄物処理法の中で排出事業者責任ときちっと書かれていますが、第三者に委託ができることになっており、違法に委託をすればその後は免責される、すなわち許可業者に渡せば免責されるというルールになっています。このためその後適正に処理されているかどうかを見るメカニズム、あるいは見る誘因がないのではないかといった議論が相当あります。

 最後に、未然防止を幾らやっても不法投棄は残るといった場合に、その原状回復をどう考えるのかという問題がありますが、現行制度では結局、不法投棄の原状回復について法律上どのような仕組みで対応するということは何も決まっていません。ごみが捨てられた自治体ないしは土地を持っている人が、たまたま自分のところへ捨てられたということで、環境汚染の心配があれば仕方なく自治体が住民の負担で環境汚染の除去の対応をする、ないしは土地の所有者がたまたま自分の土地に捨てられたということで原状回復をするといったことになっており、今のルールやシステムはおかしいという議論が相当あります。

 ただ、そういう議論になった場合に、その費用をだれが負担するのかという問題があります。税金で負担するという意見、あるいは税金ではなくて排出事業者が捨てた産廃がめぐりめぐって不法投棄されているのだから、排出事業者から費用を徴収すべきだという意見もありますが、そうした場合には一部の不真面 目な者の分を真面目な人まで費用負担をすることになり、そういうことで良いのかどうか、今日お話し申し上げている時点ではどのような展開になりどこに落ち着いていくのか見えませんが、今後相当議論になることはまず間違いないと考えています。

(文責 事務局)

 

▲先頭へ