1997年3号

「気候変動緩和策の政策と措置に関する国際会議」

 去る1月28、29の両日、京王プラザホテルにて「気候変動緩和策の政策と措置に関する国際会議」が開催された。前月号でIPCC次期議長のワトソン博士の基調講演の概要を報告したので、今月号は引き続きセッション1「技術移転」、セッション2「排出権取引」、セッション3「各国の政策・措置」の概要を報告する。
なお参加者は以下の通り


オーストラリア:メグ・マクドナルド (一次産業エネルギー省環境及び南極部次長)

中国:ガン・シジュン (アジェンダ21リーディンググループ事務局長)

フランス:ピエール・シュミリエ (温室効果問題省庁間事務局長)

ドイツ:コルネリア・ケネット・ティーレン (連邦環境保護省国際協力法律課長)

インドネシア:アチャ・スガンディ (環境保護省次官)

タイ:スファビット・イアンフォンクサン (科学技術環境省監察官)

イギリス:マイケル・グラブ (王立国際問題研究所)

アメリカ:アブラハム・ハスペル (エネルギー省政策・国際問題担当次官補代理)

      リチャード・モス (IPCC(気候変動政府間パネル)ワーキンググループ2TSU
               ヘッド(事務局長))

日本:石海行雄 (通商産業省地球環境問題担当審議官)

    岩淵 勲 (新日本製鐵(株)環境管理部長)

    加納時男 (東京電力(株)常務取締役)

    倉重有幸 (新エネルギー産業技術総合開発機構環境技術開発室長)

    新澤秀則 (神戸商科大学経済研究所助教授)

議長:セッション1 佐々木修一 ((財)地球産業文化研究所理事)

    セッション2 石海 行雄 (通商産業省地球環境問題担当審議官)

    セッション3 清木 克男 ((財)地球産業文化研究所専務理事)


セッション1「技術移転」

 IPCCワーキンググループ2TSUヘッドのリチャード・モス博士が、1999年までに作成する特別 報告書(ドラフト)の骨子について説明した。ここでは、SAR(第二次評価報告書)を継承して、地球温暖化抑制のためには、エネルギー・インフラストラクチャーを環境保全型にすること、環境保全技術についてソフトウェア、プロセスの開発と移転を図ることの必要性を示し、さらに政府、NGO、政府間組織それぞれの役割を明確にすることを意図している。今後、政府間で合意に向けた議論が行われるが、ドラフトを以下に示す。

「政策手段についての特別 報告書の構成」(ドラフト)

1.導入

A.技術移転、協力の定義
B.技術協力の目的(生産、投資、イノベーション可能量)
C.新しい情報源
D.報告の権限

2.気候変動緩和のための技術協力

A.気候変動問題と技術協力の意味の特徴

  1. UNFCCC(気候変動枠組み条約)の内容と経済発展、大気環境安定化の2つのゴール

  2. 気候とエネルギーシステムにおける長期間の変動見通 し

  3. 経済、技術発展の包括的道筋に基づく気候変動緩和方策

  4. 広範な参加と全地球規模での協力

  5. 北―南、南―南協力

  6. 技術的飛躍機会設定の挑戦

  7. 民間セクター参加機会設定の挑戦

B.気候変動に係る技術区分(装置、インフラストラクチャー、プロセス)

  1. 適合技術

  2. エネルギー需要マネジメント技術

  3. エネルギー供給技術(化石燃料、再生可能他)

  4. 土地利用(農業、林業、廃棄物マネジメント)

  5. 成熟技術と非成熟技術

C.気候変動技術協力の主体と役割

  1. 主体:企業、資金提供者、企業家、大学、技術ブローカー、政府、政策決定者、政府間組織、NGO、地方コミュニティ、協同組合

  2. 役割:技術ソース、ユーザ、移転仲介者、支援者

 

3.気候変動技術協力のタイプと機能

民間企業の当該分野への参加を促す趣旨で記述。但し、政府、政府間組織の役割も記載。

  1. 技術発展、共同研究

  2. 情報、ノウハウの移転(技術者交換、技術普及者、実証)

  3. 民間企業活動(投資、補助)、対外援助その他の機能を通 じてのハード移転

  4. 主体間の共同実施(共同実施、排出権取引、生産受委託、マーケッティング/サービス契約、特許分与)

  5. 融資支援(取引コスト、保険、2国間多国間移転と対外援助、国際援助機関、民間、地域的、世界的等)

  6. 法的/制度的支援(知的財産権、貿易秘密事項保護のルール/ガイドラインの発展)

4.技術協力と応用の問題点

  1. 資金不足

  2. 発展途上国の民間等の主体の異なる期待

  3. 制度的/法的問題点(規制政策の違い、知的財産権、貿易秘密防衛の不適切なルール、輸出管理)

  4. マクロ経済の問題点(エネルギー、資源価格の転稼の発展途上国における資本コストの割高の問題点、民生、中小企業が技術と商業エネルギー利用に対する資金不足の問題点)

  5. プロジェクトレベルの問題点(インフラ能力の不足、訓練、メンテナンス、普及の問題点、目的認識の誤り、取引コスト)

  6. 情報の問題点(市場、供給者、投資家からの孤立、実証機会の欠如)

  7. 文化と行動規範の問題点

5.SAR(第2次評価報告書)の意義

 技術、政策及び方策に関する報告書で取り上げられた確実に導入できる技術リストを用いて、ケーススタディが、気候変動緩和技術の採用の選択肢として有効である。

6.将来についての解析とアセスメント

7.結論

 このモス博士からのプレゼンテーションを踏まえ、以下に示すように9ケ国の行政官、研究者、民間人が加わって活発な議論が行われた。その概要は次のとおり。

(オーストラリア)マクドナルド女史
 発展途上国において、技術の移転と移転された技術の普及を容易にするために、知的所有権保全制度を確立すべきであり、GEF(地球環境基金)のような多国間の融資制度の拡大が必要である。これらは、民間セクターによる移転を触媒的に活性化する。

(中国)ガン氏
 アジェンダ21に従って先進国から発展途上国に技術が移転されるべきであり、成熟技術等が協定に従って移転されることが効果 的である。中国では、インフラ整備、マネジメント、知的所有権保護を実行する。

(日本)倉重氏
 NEDOは、省エネルギーと代替エネルギーの移転プログラムとして、グリーンエイドプランを実行している。政策対話から始め、FS、研修、研究協力、実証に至る道筋を国内外の関係機関と連携して進めている。人的協力、適正技術の開発、実証、プロセス改善、既成と技術のマッチングが重要である。

(フランス)シュミリエ氏
 フランスは、農業技術、交通体系の整備等の移転に実績を有しており、今後もこれらの分野を重点的に扱う。原子力も東欧等へ、安全技術を中心に移転する。産業界が中心となる対応を基本に位 置づけたい。

(ドイツ) ケネット・ティーレン女史
 これまで、技術移転がうまくいかなかった原因は、受け入れサイドにあるケースが多い。ソフト、つまり技術移転と環境改善の双方を可能とするトレーニング、マネジメント、メンテナンスにより、可能性を増大できる。マクロレベルでの投資条件の改善、ミディアムレベルでの投資活性化機構の整備、ミクロレベルでの合弁、輸出競争力強化を図るべき。

(インドネシア)スガンディ氏
 人間の能力を最大限に活用することを国策としている。あらゆる分野で、現場の生産性の限界を打破することによって、環境改善、GHG排出抑制につなげたい。

(タイ)イアンフォンクサン氏
 CO2排出は、エネルギー、農業、木材利用の各セクターから排出されており、総合的な対策が必要である。化石燃料の燃焼改善、再生可能エネルギーの導入、木材利用、農業、工業等からのCO2排出抑制技術の移転を望む。

(イギリス)グラブ氏
 投資のルールを作るべきである。環境保全上好ましくない技術は移転しないという原則を決め、特に直接投資について早急にルール化すべき。ガンビアでの風力発電の例にならい、地域の実情に合った技術を移転すべき。

(アメリカ)ハスペル氏
 インドネシアにおいて共同実施としての認定案件が20あり、さらに、審査中、申請予定のものはそれ以上ある。経済的インセンティブを与えることによって移転を促進すべき。

(日本)岩淵氏
 コークス炉ドライクェンチングのように、日本、韓国で普及しているが、欧米での実行割合が少ないものの移転等、北同士の移転も心掛けるべきであろう。

(日本)石海氏
 CO2の排出削減等について、1990年に日本は地球再生計画を発表し、その実行を促しており、今後も、技術開発にも重点を置いた施策を講じて参りたい。技術移転も政策対話から始まるシステムを有効に活用したい。

これを受け、議長が次のようにポイントを集約した。

  1. ハードの援助に加えてソフトの援助をうまく組み合わせることが必要である。

  2. 情報を関係者で共通 に持ち、互いにその活用について意見交換する。

  3. ビジネス関係者同士での商的な移転と、公的セクターによるODAとの相互補完機能を頭脳的に活用する。

  4. GEFやCTI(気候技術イニシアティブ)のような国際的機関を活用する。

 また、重点課題は次のものである。

    1. エネルギー節減、再生可能エネルギーの移転や発展途上国への適用を図る。

    2. 融資に係る信用保証制度を構築する。また、発展途上国から、知的所有権について、地域において整備を図ることが表明されているので、関係者間で具体的な展開について議論を深める必要がある。
      信用保証に関しては、温室効果ガスの排出権売買等、様々な形態について提案され、議論が続けられているので、あらゆる機会を捉えて効率性、利害損得について解析し、意見の集約を図る必要がある。

    セッション2「排出権取引」

     このセッションでは、米エネルギー省アブラハム・ハスペル氏、イギリス王立国際問題研究所マイケル・グラブ博士からのプレセンテーション(セッション2A)、および両氏のプレゼンテーションに対する各国からのコメント(セッション2B)がなされた。以下にその概要を示す。

    セッション2A「排出権取引」

    「地球規模の問題に対する市場手法的解決策:アメリカの経験とアプローチ」

    アブラハム・ハスペル

    1. アメリカの経験とSO2の排出権取引

     SO2トレーディング・システムの主な点を紹介する。いわゆる許容量 あるいは、割当(allowance)というものを決定し、これに基づき排出は継続的かつ自動的に監視・報告され、割当を超過した場合には罰則が科せられる。このプログラムには割当制度とクレジット制度の二制度があり、割当制度ではバジェット(予定量 または配分)、あるいはどの程度の排出をしてもいいかという目標を決め、もし使われていない割当があればそれを取引することができる。割当は交換可能な一種の商品である。一方クレジット制度には、各プロジェクトについてのクレジットの割当がある。これは共同実施のようなものであり、クレジットは法的な要求事項に合わせてつくられる。例えば性能レベルが特定されている場合、それより良い性能で排出量 が下がれば、クレジットを得るという形で特典が与えられる。そしてSO2の排出がなければ、非常に大きな所作を得ることになり、より大きなクレジットが必要なところとそれを取引することも可能となる。

     では、どのようにして取引が行われるのだろうか。割当取引はとてもシンプルで、未使用の割当を誰にでも譲渡することができる。取引は政府は介入せず民間が行い、環境保護庁へ文書で取引内容を報告すればよい。このプロセスの最終ステップとして、年間の調整プロセスがある。これはSO2割当制度のポイントで、各割当排出量 に適合するように調整を行わなければならず、不適合となった場合には自動的に罰金が課される。毎年このようにして実際の排出と割当を照合し、その適合性を確認する。

     次に取引制度実施の影響だが、驚くべき成果 が生まれている。80年のSO2の排出量 約1090万トンに対し、95年に割り当てられたのが870万トンであった。しかし実際に必要な割当は530万トンにとどまった。最近はこの割当をはるかに下回る排出量 になっている。これには4つの理由がある。第一にこの制度に貯蓄制度が盛り込まれたこと、第二に技術的な革新が行われコストが下がったこと、第三に鉄道産業の規制緩和により石炭の輸送コストが大幅下がったこと、第四に低硫黄含有の炭坑の生産性向上である。

    2. 温室効果ガス排出バジェットと排出権取引

     排出バジェットや取引に関連して、いつ、どの様に柔軟性を持たせるのかは、大きな課題である。私共の提案は、数年間まとめて予算年とする複数年バジェットを用い、ビジネス・サイクルおよび気候変動といったものを数年間の中で消化し、柔軟性を創出するというものである。

     取引制度の条件だが、まず何年かに亘るバジェットが必要である。それから取引ユニットを何にするのか、取引ユニットの価格、実際の報告、取引の監視、会計報告、そして本当にこの取引システムに従って取引が行われているのかという準拠が必要である。それでは、どういった形でこの取引は行われるのだろうか。この取引は株とか債権、通 貨、他の商取引と同じような形で行われる。また、ブローカーなどを通しての取引も可能であり、先物市場での取引ということもあり得る。ただし、どの様な取引が行われているかを監視するための制度と機関が必要である。バジェットは数年間に亘るバジェットだが、報告は年次報告の形をとる。このような取引システムは、準拠のための枠組みが必要で、取引が適切に行われているかということ、取引ユニットの価格が適正かということを常に確認・検証していかなければならない。

    3. 結論

     私共の提案は、枠組条約の基本理念の上で成立するものである。排出バジェットは経済、天候等の不確定なものに対する柔軟性と弾性を創出する効果 があり、排出権取引は柔軟性と投資のインセンティブを創出する効果がある。共同実施によるクレジットは投資、技術移転、新エネルギー開発と環境政策に対するインセンティブ等の効果 がある。経済的手法は拘束力のある目標に同意する国々の安定性の増進につながり、ベルリンから京都への橋渡しとなると信じている。

    「気候変動交渉におけるCO2排出権取引」

    マイケル・グラブ

    1. 政府間取引

     「エミッション・パーミット」という言葉がよく使われるが、これは国の割当て、クォーターを考えている。つまり国レベルのトータルのエミッション、排出量 を決め割当をし、ある国から排出される炭素の量を決め、法的責任は政府がとるのである。これには国際的レベルの施行権威と管理が必要であり、国際機関による継続的な監視と定義付けが不可欠である。政府間取引とは何だろうか。これはアメリカの議定書の提案から出てきたものだが、ある特定の者がこの制度に参加している他の関係者に、割当を販売あるいは譲渡することが可能であるということを意味する。目標決定の際に各国が手段として何を選ぶかという柔軟性が取引によって生まれ、目標について交渉する際に自分たちが達成できる目標を決め、もし排出量 が多すぎても取引により対応するという柔軟性が出てくる。

     この割当の設定は非常に難しいが、ソフトターゲットよりも、CO2排出の経済的インセンティブと罰則の両方を持つ拘束力のある目標の方が有効であろう。ただ、全てのANNEXI国(OECD諸国、および旧ソ連、東欧圏の市場経済移行国)が京都までに本当に理解して、このようなコミットメントに対して署名をするということは疑問である。

    2. 取引制度と包括的アプローチの関係

     排出権取引と包括的アプローチを同時に行うことができるのだろうか。包括的アプローチとは様々な温室効果 ガスをそのプログラムの中に組み込むということであり、枠組条約ではあえて曖昧な、二酸化炭素とその他の温室効果 ガスという言葉が使われている。法的拘束力という観点から、包括的なアプローチには2つの問題点がある。1つは排出レベルを見極めるための監視が低コストで正確かつ立証性のあるものであるかということ、2つ目は比較の基準すなわち何に対して比較を行っているのかということである。

     では、どの様な温室効果 ガスを対象として検討すべきだろうか。化石燃料からのCO2、産業活動から排出されるフロンやハロン、そして様々な排出源からのメタン等が考えられるが、まず定量 化可能で比較可能な排出源を選別すべきであり、この比較および定量の基準は締約国会議によって承認されたものでなければならない。初期段階においては化石燃料およびセメント産業からのCO2にとどめるのが理想的である。但し他の重要な排出源についても比較・定量 化が可能なガスとは別に、ガイドライン程度は設ける必要がある。

    3. 国内での排出割当・取引

     一国の中での排出割当・取引の良い例が、アメリカの発電所のSO2排出権取引である。当然ながら、政府間の割当取引と国内での排出割当取引はかなり内容が異なる。国内での排出割当取引は、政府から関係団体にその義務を課し、実際の実施権限は政府ではなくて民間、つまり産業界に与えるものである。アメリカがこれに期待する理由の私なりの意見を述べたい。第一に古典的な経済性と環境面 での効率性、第二に世界的な市場の自由化、エネルギー市場の自由化、第三に税制措置より経済的にも政治的にも容易であること、第四に産業界の戦略の観点からは排出権取引と税制の間には大きな違いがあり、税制の場合は産業の富を削減するが、排出権取引の場合は産業内での富の蓄積につながること、そして最後に機関的な適切さが生まれること、すなわち炭素税では大蔵省等による管理制度が導入されるが、排出権取引では環境政策が中心となり、環境団体等が中心となり制度が実行されることである。

     一方、このモデルの欠点・限界だが、アメリカの場合は一定規模の発電所に対して適用されたモデルであり、EUの場合は50メガワット以上の容量 の燃焼プラントに限られているように、このモデルは発電所、そして重工業に限定されている。したがって対象外の者に対し、対象者から批判が出ることが予想され、非参加分野に対しても分野別 の目標や分野別の具体的政策・方策を講じる必要が生じる。またこのモデルの国際化に関して、当然ながらアメリカは国際化を期待しているが、スイスやスウェーデン、フランスは電力事業から排出される炭素の量 が非常に少ないため、これらの低炭素産業を保有する国々は、アメリカモデルの排出権取引に対して余り興味を持っていない。

    4. 結論

     私は、京都議定書は国別 の実施制度の定義をするのではなく、国際的な割当制度をまず理解し、次に国内の排出割当制度を理解し、そしてこれが国際的に十分に通 用し他国との食い違いがなく、また取引を適切に記録できることを理解するためのものだと考えている。排出を制限し、そして排出権取引を検証する、そのような基本的な理解を京都では期待すべきであろう。

    セッション2B「各国からのコメント」

     ハスペル氏、グラブ博士の「排出権取引」に関するプレゼンテーションに対し、各国から以下に記すコメントがあった。

    (オーストラリア)マクドナルド女史
     排出権取引はコスト効率は非常に高いが、最初の割当量決定、対象となる排出ガスそして対象国の範囲の選定が問題となる。また米国のSO2取引では電力業界に限定したため成功したのかもしれないが、温室効果 ガス全体を考えると、我が国および他の国々では電力業界の排出源に占める割合は少ない。したがって、この制度を構築していく上で市場が効果 的に機能するか疑問である。

    (中国)ガン氏
     排出権取引は比較的新しい概念であり、容易に制度が確立できるものではない。温室効果 ガスの排出権取引をどのように市場レベルで行い、締約国で一様にそれぞれの枠組みの中で実行できるのか、また対象を締約国に限るのか、移行国か、途上国までか、今後その方法・対象等の模索が必要であろう。

    (フランス)シュミリエ氏
     アメリカのSO2取引の経験をベースとして、気候変動枠組み条約の中で排出権取引を適用するという考え方にはいくつかの問題がある。(1)アメリカの排出権取引は、アメリカの経験でありSO2に限られている。(2)排出源として電力会社のみが対象。(3)環境保護庁が積極的に関与し、システムを管理した。(4)アメリカの取引市場参加者は、お互いよく知っていた。(5)測定技術がアメリカでは十分に確立していた。(6)法的管理者として環境保護庁があり、処罰体制も確立していた。我が国としては排出権取引に反対はしないが、さらなる経験と熟慮が必要であろう。

    (ドイツ)ケネット・ティーレン女史
     京都でのCOP3まであと10ヶ月程度しかない。AGBMの会合がCOP3まで3回あるが、討議されるべき未解決の問題が山積しており、排出権取引を京都で最終決定するには時間があまりにも短く、非常に困難である。ただし排出権取引は柔軟性・経済性が高い方策なので、ステップ・バイ・ステップのアプローチをとるべきである。

    (インドネシア)スガンディ氏
     排出権取引の対象とする温室効果ガスの明確な定義付けが必要であり、誰が、どの様な機関がこの取引制度を統括しモニターするのか決めなければならない。また取引制度を段階的に議定書の一部として盛り込むのかどうかという疑問もある。気候変動枠組み条約にの目標を達成するためには、様々な検討がなされるべきであり、社会・経済的な差異がANNEX I国とnon ANNEX I国との間には存在することを理解してもらいたい。したがって、non ANNEX I国には十分な時間的余裕を与えてほしい。

    (タイ)イアンフォンクサン氏
     排出権取引にはいくつかの難点がある。(1)タイにとっては新しい考え方で、情報を持っていない。(2)タイは気候変動緩和策の検討に時間を要しており、排出権取引を特別 扱いする余裕はない。(3)タイを含む途上国は気候変動枠組み条約において排出上限量 を定められてられていないのに、排出権取引では割当量が定められる。

    (日本)新澤氏
     排出許可証取引のポイントとして六つある。(1)地球規模の排出総量の目標に合意できないと、排出許可証取引は有効な政策手段とならない。(2)最初の割当量 、国別目標について合意が成立するかどうか。(3)国内市場をどうするか、企業に海外との直接取引を認めるのか否か。(4)政府は国際市場で実際に取引をするのかどうか。(5)途上国も含めて排出許可証取引を実施した場合、途上国はどの様な行動をとるのか。(6)騰貴によって排出許可証の価格変動が激しくなることはないか。

    (日本)加納氏
     排出権取引は、興味深く魅力ある制度だが、克服すべき課題があまりに大きい。したがって、十分に時間をかけ京都を超えてでも議論すべきではないか。CO2等温室効果 ガス削減については、SO2のケースと根本から異なる。SO2は地域公害すなわち地域的問題だが、CO2は地球規模の問題である。産業界だけでなく、民生部門・輸送部門の自主的活動がCO2削減には不可欠である。換言すれば、産業部門だけが加害者ではなく、地球上すべての人が加害者であり被害者でもある。

    (議長)石海氏
    (1)排出権取引は比較的新しい概念である。
    (2)議論すべき課題が多い。
    (3)最初の割当量の決定方法、モニタリング等実施にあたっての諸問題の検討が必用。
    (4)京都議定書において排出権取引が規定されるか否かにかかわらず、排出権取引という概念はホットなイシューであり続けるであろう。

    セッション3「各国の政策・措置」

     このセッションでは、本年12月に京都で開催されるCOP3において採択されるべき政策・措置を各国がどのように考えているかに重点を置いて議論が進められた。併せて、各国が温室効果 ガス削減に向けて国内的にどのような政策・措置を講じてきたか、あるいは講じようとしているかについてオーストラリア、中国、フランス、ドイツ、インドネシア、タイ、イギリス、アメリカの8か国からプレゼンテーションがあった。また日本側は通 産省石海審議官から、日本の政策・措置についてのスタンスについて説明とコメントがあった。

     ところでCOP3において採択されるべき政策・措置についての考え方、立場は発展途上国と先進国とで異なっている。また先進国の中でも必ずしも同一ではない。すなわち、EU案では加盟国共通 に実施すべき施策(ANNEX A) 、一定の基準のガイドラインを設定して実施すべき優先度の高いもの(ANNEX B) 、国のプログラムに採用すべきもの(ANNEX C) に分け、Aは強制、B,Cは勧告レベルで行うという3段階のガイドラインを設け、きめ細かく対応しようと提案している。反対に米国は政策・措置のニーズについては異存はないが、確実な結果 の得られる達成可能なターゲット、目標さえ決まれば、達成のための手段については各国の自主性に任すべきとの立場である。日本はその中間的立場で共通 の政策・措置の採用については賛成ではないが、再生可能エネルギーの開発については共通 の政策・措置でやろうと提案している。

     一方、発展途上国の意見としてはCOP3で採択されるべき政策・措置はANNEX I国の問題としながらも、温室効果ガス削減そのものの必要性を十分認識しており、それぞれに自国に合わせた削減計画を実施中もしくは計画していることが伺われる。

     以下に各国の政策・措置の要約を示す。

    (オーストラリア)マクドナルド女史

    • ナショナル・グリーンハウス・レスポンス・ストラトジー(連邦政府と州、地方政府)により、2000年までにGHGの14%の上昇率を7%に抑えるのが目標で活動している。また緑の回廊作りを実施中。

    • これから25年間での持続可能なエネルギー政策計画の立案やグリーンハウス・チャレンジプログラム(産業界の自主合意で95年10月からスタート)などを実施している。

    • 排出権取引については国内的に興味を持っている。

    (中国)ガン氏

    • 現在国連で議論されている排出削減数量 目標(QELROs)および,そのための政策・措置については、ANNEX I国が対象であり、途上国は対象外であることを強調している。 

    • ただし、温室効果 ガスの削減の必要性については十分認識しており、国内的にも「中国のアジェンダ21」に基づき削減対策を実施している。

    • 経済成長を考慮しながらエネルギー密度の高い産業についての省エネのルール作り、植林、森林管理などのプログラムも実施している。

    (フランス)シュミリエ氏

    • 気候変動枠組条約として、QELROsの明確な数値化とともに、具体的な政策・措置(例:新エネの導入とその補助金導入、交通 関係税制導入、化石燃料に対する助成金の廃止と環境税の導入、国際的な工業・産業セクターでの自主的協定など)をきめ細かく長期的に設定し、実施してゆくのが望ましい。したがって遵守すべき政策・措置をリストアップした共通 の政策・措置を設定すべきである。

    • QELROsは差別 化された目標値の設定が望ましい。(一人当たりの炭素排出量を指標にすべく提案)

    (ドイツ)ケネット・ティーレン女史

    • 政策・措置に関しては基本的な点はフランスとほぼ同じである。法的に強制力のある政策・措置(ANNEX A) と勧告ベースの政策・措置(ANNEX B,C) を採用すべき。

    • 航空機燃料は課税対象としての国際的な枠組みを作るべきである。

    • ドイツで2000年にCO2を25%減らす目標で対策を取っているが12.7%の削減の見込みである。2005年の予想は14-17%程度の削減であり、目標に達しない。そのため、新たな政策が必要であり、国レベルおよびEUレベルでの政策を取って行く必要がある。

    (インドネシア)スガンディ氏

    • 気候変動の影響は十分認識しており、現状では炭素排出量 は約5000万D]/年と先進国に比べ少ないが、国家アクションプランを作成中である。これと長期期な開発戦略とリンクさせて行きたい。A経済成長は7%程度と見ているが2010年には10%、2020年には20%のGHGの緩和策を計画している。緩和策の目玉 は省エネとエネルギーの有効利用で産業、運輸分野での対策に注力する。また代替エネルギーとしての太陽熱、風力やバイオマスも検討したい。

    • エネルギー分野では技術移転が重要であり、運輸分野でブルースカイキャンペーンを展開している。一方、林業分野では森林管理、年間100万本の植林計画、伐採管理などや森林のモニタリングの実施などが重要と考えている。

    • 農業国としてメタン排出削減のための水管理、水田管理、家畜産業管理など。

    (タイ)イアンフォンクサン氏

    • タイはANNEX I国には属していないが、EUの提案するANNEX Aについては全ての締約国が実施すべきであると考えている。発展途上国もANNEX Iに規定されていることを遂行すべきである。

    • 現在、タイでも90年レベルまでの削減を目標に適応技術を研究中である。大量 にGHGを排出しているのはエネルギー、林業、農業であり、エネルギー分野では天然ガスへの転換、省エネ、デマンドサイド管理などを、林業分野では森林の伐採の停止や植林の促進などを、農業分野では水田管理などを図って行く。これらを実施する上でノーリグレットオプションを採用し、市場原理が応用され、経済的にもコスト的にも効率のよい方法を取って行きたい。

    (イギリス)グラブ氏

    • イギリスとしては万国共通 の何らかの政策・措置はあると考えている。ただし、各国でそれぞれに目標を持つならば、他国の政策・措置に干渉する必要はない。また、全ての排出源に対し定量 化が出来るわけではない。ただし、航空機燃料、国際運輸燃料など国境を越えた問題については国際的な交渉が必要である。

    • 新工業国(韓国など)がANNEX I国に入らないとすれば、これらの国についても何らかの政策・措置の共通 運用は必要である。A技術移転は重要であるが、受入れ国、供与国双方の努力が必須であり、また受け入れ国の制度上の能力(キャパシティービルディング)が重要である。

    (アメリカ)ハスペル氏

    • アメリカでは政策・措置そのものに反対するものではないが、税制の導入など議会の反対で通 りそうにないものは批准ができないから意味がない。問題は確実に目標を達成することであり、どのように達成するかは各国にまかせるべきである。政府が企業の削減活動の邪魔をするべきでない。

    • 新エネルギーの開発は安くCO2を削減出来る可能性があるためこれを促進すべきである。

    • 自由化・規制緩和は効率改善を促進する一方、消費を喚起する結果 、ひょっとしたら環境に悪影響がでる可能性も考えられる。この点についてはまだ良く分からない。

    (日本)石海氏

    • 共通の政策・措置の採用は各国の国情を勘案すると難しい。ただし、省エネや再生可能エネルギー(新エネ)の導入のための政策・措置については共通 的に実施し、そのための指標を定めることを提案している。

    • 90年に日本政府は「地球再生計画」構想を国際的に提唱し、長期的な視野に立って発展途上国を含めた全世界的な取組が必要であり、技術によるブレークスルーが重要であることを提唱している。同年、国内的には「地球温暖化防止計画」を決定し2000年までに1990年レベルに戻すことを目標に定め努力している。

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