1998年12号

気候変動枠組条約第4回締約国会議(COP4) について

11月2日から11月13日まで、アルゼンチン・ブエノスアイレスにおいて開催された気候変動枠組条約第4回締約国会議(COP4)の概要について以下に報告する。


会議の概要

 11月2日から13日まで(実際には14日朝まで)、アルゼンチンのブエノスアイレスにおいて、国連気候変動枠組条約第4回締約国会議(COP4)が開催された。会議は、2日午前の本会議で、アルソガライ・アルゼンチン環境庁長官を議長に選出後、検討を開始した。

 今回の会議の主要な論点は、(1)本会議から「京都メカニズム」と呼ぶようになった、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)、排出量 取引のいわゆる「柔軟性メカニズム」に関する今後の作業計画が作成できるか、(2)COP3において合意できなかった途上国の参加問題、(3)条約上の課題の検討、具体的には、先進国から途上国への技術移転の具体的なあり方、気候変動の悪影響または対応措置の実施により影響を受ける途上国への考慮など、であった。

 交渉は最終日である13日が終了しても難航し、フレンド・オブ・プレジデントなどの非公式折衝でようやく決着をみたのが、14日午前5時。引き続き行われた本会議が終了したのが午前7時であった。

 交渉の結果、「ブエノスアイレス行動計画」(Plan of Action)と呼ばれる作業計画が採択された。この計画は、条約の履行強化、京都議定書発効に向けた準備のための政治的なモメンタムを維持することを目的としている。行動計画は、それぞれ、今後のタイムフレームを伴う、以下に記した6項目の決定を束ねたものである。そのうち、京都メカニズムについては、2000年のCOP6において最終決定を行うことを目指す、こととなった。

 他の項目についても、タイムフレームに関してメカニズムと類似の決定(各国から意見の提出、ワークショップの開催、最終決定など)が行われた。

 今回のCCP4では、メカニズムの制度設計を早めたい先進国側と資金メカニズム、技術移転など条約上の課題が未解決であり、これらの議論を優先すべきとする途上国側が激しく対立したものであった。先進国の法的拘束力のある数値目標の設定に議論の焦点が当てられ、いわば蚊帳の外にいたCOP3と異なり、途上国が国際交渉における重要なプレーヤーとして登場したことが交渉をさらに困難なものにさせた。

<Plan of Actionの項目>

    (a) 資金メカニズム
    (b) 技術移転
    (c) 条約第4条8,9項および議定書第2条3項と3条14項(気候変動による悪影響及び対応策による影響への対処)
    (d) 共同実施活動(AIJ)
    (e) 京都メカニズム
    (f) 京都議定書の締約国会議の準備(遵守問題含む)

京都メカニズム

●交渉の経緯

 いわゆる柔軟性メカニズムに関する論点は、今後の議論の進め方についてのWork Program(作業計画)の作成、3つのメカニズムの中の優先順位付け、削減の「補完性」の数量 化(取引量に数量的上限を設けること)などであった。今会合のメカニズムの議論中、最大の論点であったWork Programの作成に関しては、未解決の課題について早期交渉進展を目指す先進国(EU,アンブレラ)グループと、メカニズムの詳細についてあまりにも不明瞭な点が多いので議論はstep by stepで進めるべき、よってWork Programの作成に難色を示す途上国グループ(G77+中国)が激しく対立した。ただし、途上国の中でも、中南米諸国の一部やアフリカグループは、CDMの早期議論進展を目的とする意見表明を行うなど、G77+中国の途上国全体とは異なる動きもあった。最終的には下記に示すWork Programが作成されることとなった。

 3つのメカニズムの中における議論の優先順位 について、G77+中国は、唯一途上国が関与するCDMの議論を優先させるべき、と主張した。これに対し、EUとアンブレラグループは、3つのメカニズムについて同時並行的に議論を行うべき、と述べ、激しい意見の対立をみた。最終的に、決議事項には、CDMを優先しつつ、COP6を目途に全てのメカニズムに関して最終的な結論を出す、と明記されるに至った。

 補完性の議論については、6月の補助機関会合時と同様に、EUは、削減の補完性の数量 化(取引量に数量的な上限を設けること)を主張。米国、日本などアンブレラグループの各国は、コスト効果 的な削減の阻害につながること、また、EUバブルにおいて取引量の分配に制限がないことに言及するなど上限の設定に反対意見を述べた。結論としては、取引量 制限に関する事項は決議には盛り込まれなかった。

●決議事項(Work Programに関する)

 交渉の結果、CDMに優先順位を置きつつ、全てのメカニズムに関して、COP6において最終決定を目指すこととなった(with a view toであり、shallではない)。

 当面の日程に関して、各国からの提案の提出、ワークショップの開催、それらを取りまとめたレポートを来年6月の補助機関会合における議論のたたき台にする、などが決定された。

条約第4条8、9項(適応措置と補償メカニズム)

 気候変動に脆弱な国の「適応」と先進国が気候変動対策を行うことによって外貨収入源の減少が予想される産油国への「補償」が論点であった。議論の焦点を柔軟性メカニズムに当てたい先進国に対して、サウジアラビアなどの産油国や島嶼諸国(AOSIA)は、柔軟性措置に関する議論は、途上国への悪影響の最小化に関する議論と並行で行われるべき、と主張し、多くの途上国の賛同を得た。

 決議は、途上国の懸念に考慮し、気候変動の悪影響などについてのニーズや懸念の検証を行い、資金などの具体的行動を検証、検討するなどとしている。COP5,COP6での決定に向け各国からの提案及びワークショップの開催などを行う。

共同実施活動(AIJ)

 共同実施活動のパイロットフェーズ継続の是非について議論。途上国から、共同実施活動の実施状況が不充分であり、実施の期限を延長すべし、との提案があった。結論として、パイロットフェーズを継続することとされた。

 今後の日程について、各国からの提案など決定。COP5でパイロットフェーズとその後に関する最終決定を行うこととなった。

技術移転

 G77+中国は、技術移転分野における、キャパシティービルディングの重要性を強調し、技術移転は民間部門よりも国際機関や政府などの公共部門によって推進されるべきと主張した。また、技術移転はCDMとは別 に行われるべき、として、新たに「技術移転メカニズム」の創設を提案した。

 他方、先進国は、これまで途上国と協力して行ってきた技術移転を評価し、技術移転における民間部門の重要性を説き、新たなメカニズムに対して反対意見を述べた。結論的に、「技術移転メカニズム」の創設は盛り込まれなかったが、キャパシティービルディングの重要性が強調された。

途上国の参加問題

 会議初日、議長国であるアルゼンチンが非付属書?国(途上国)の自発的約束に関する議題を提案した。ほとんどの途上国の反対により議題から削除された(チリ、韓国はアルゼンチン提案を支持)。会期中、COP4議長提案により、非公式な会合を先進国、途上国と分けて2回ずつ開催したもよう。

 今回の会合において途上国側から新たな動きもみられた。韓国は第3コミットメント期間からの参加を表明した。アルゼンチンは、第一次コミットメント期間(2008~2012)の数値目標設定についてCOP4で表明する旨発言した。また、G77+中国グループではないが、非付属書?国であるカザフスタンは、条約の付属書?国、また議定書の付属書B国への参加と第一次コミットメント期間からの数値目標設定の意思表示を行った。また、前述のようにCDMに関してアフリカグループや中南米の一部の諸国から、G77+中国の途上国グループ全体のメカニズムについての意見(step by stepで進めるべき)とは異なる、早期進展を望む意見が表明された。その一方で、条約第4条2項??「付属書I国の約束の2回目の見直し」のように途上国の新たな参加につながる可能性のある問題については、行動計画に盛り込まれなかったようにG77+中国グループの結束は固いと言えよう。

その他

●米国の動向

 11月12日に米国政府は京都議定書に署名。同日のハイレベルセグメントにおいて、米国アイゼンスタット国務次官よりその旨の表明があった。アルゼンチンとカザフスタンとの連携が示唆される。特に、アルゼンチンの自主参加は、米国に於ける批准の前提である「主要な途上国の意味のある参加」(上院バード決議)の第一歩として米国内に向けた政治的パフォーマンスと見る向きもある。

●COP5について

 COP5の開催地にヨルダンが立候補したが、資金その他の問題で最終的な決定は行われなかった。1998年12月11日までに決定されることになっている。

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