1999年2号

「アジア・太平洋の情報化が産業に与えるインパクト」 研究委員会報告


 第2回「アジア・太平洋の情報化が産業に与えるインパクト」研究委員会において、2000年問題(Y2K)について議論したので、その内容を報告する。なお、2000年問題は本研究会の主題とは直接関係しないが、緊急を要するテーマであるので、急遽、本研究会で取り上げることになったものである。


1.2000年問題(Y2K)の本質

 通し年号の1年目が今から1998年前であり、今年が1999年目であるという暦が定められたのは6世紀のことである。時の教皇がデ(オニシウスという修道士に命じて、キリストの生年を調べさせ、その年を「我らが主の年(A.D.)」と定めた。いわゆるグレゴリウス暦は16世紀に教皇グレゴリウス13世が制定したものであり、この時にうるう年などの決まりを作ったが、通 し年号はこの6世紀に定められたものをそのまま継承した。

 しかし、この時の修道士、どうやら計算を間違えたらしく、実はもう今年でキリストが生まれてから少なくとも2002年以上が経過しているというのが、今の定説のようである。ここ数年のコンピュータとネットワークの爆発的進歩を思うと、デ(オニシウスが正しく計算してくれていれば、1400年後の現代に生きる我々が、これほどまでには大騒ぎしなくても済んだのではないかという気がしてくる。

 2000年問題とは、コンピュータが西暦年を4桁ではなく下2桁で表現してきたために、西暦2000年を1900年と解釈してしまうために起こる誤動作のことをいう。しかし2000年まで残り340日を切った現在では、2000年問題の本質は「コンピュータの誤動作をどうやって防ぐか」という段階から、「どうやって危機管理をしていくか」という段階に移行した。

2.2000年問題の影響予測

 ワシントンDC在住のコンピュータ関係者、企業経営者、ジャーナリスト、官僚、軍人など約700人をメンバーとする2000年問題検討グループ(WDCY2K)が影響予測を行なった結果 を表1,表2に紹介する(http://wdcy2k.org/survey/)。表1は、2000年問題の影響度を「事実上影響なし」から「米国政府の崩壊」までの間で10段階に分けた内容を示したものであり、表2は、それらに従ってWDCY2Kの各界有識者が投票を行った結果 である。WDCY2Kのメンバー229人の予想を平均すると、「中程度の不況、局地的な供給不安・社会基盤問題、銀行取り付け騒ぎ」が発生するという結果 になる。

[ 表1]

影響度レベル 影響
0 事実上影響なし
1 一部の企業に局地的影響
2 多くの企業に多大な影響
3 大幅な市場調整(20%以上の落ち込み)、一部企業の倒産
4 経済低迷、失業率上昇、単発的な社会事件
5 中程度の不況、局地的な供給不安・社会基盤問題、銀行取り付け
6 強度の不況、局地的な社会の混乱、多くの企業が倒産
7 政治危機、一部地域の供給不安と社会基盤問題、社会の混乱
8 恐慌、社会基盤マヒ、市場崩壊、局地的な戒厳令発令
9 供給体制と社会基盤崩壊、広範囲の社会混乱、戒厳令発令
10 米国政府崩壊、飢餓の可能性

[ 表2]

影響度レベル 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 合計 平均
その他       1           1 2 4 8
法律関係者       2     6 5.3
教育関係者         3     5.9
研究機関     2 5 1 2 1 1   1   13 4.2
軍事関係者   1 4 2 4 7   2       20 4
Y2K業者     6 2 3 3 11   31 5.2
政府関係者   1 6 7 4 9 4 3 3 4 1 42 5
企業 1 3 8 11 3 12 3 7 1 2   51 4.3
コンサルタント 1 1 3 8 8 14 6 10 2 2   55 5
合計 2 7 27 42 22 50 20 35 8 13 3 229 4.8
比率(%) 1 3 12 18 10 22 9 15 3 6 1    
累積比率(%) 100 99 96 84 66 56 34 26 10 7 1    

 2000年問題の影響予測というものには、事実による根拠を附随させることができない。各企業、国から対策済みという情報はいくらでも集めることができるが、それらの報告がないものの中に、どれぐらいの比率でトラブルを起こすコンピュータが存在するかについては、根拠のあるデータは存在しない。また、いくつかの企業が既に認めているように、埋め込みチップについては、模擬テストを行うことが不可能なものもあり、対策を率先して推進している企業でも、爆弾を抱えていることになる。これらデータがない、あるいは取れないものについては、周辺情報から間接的に予測するしかなく、WDCY2Kのメンバーもそれら間接情報のプロの立場から予測をしているというだけの話である。

 日米欧の先進諸国ではかなり対策が進んだとしても、中東産油国の石油プラントや、旧ソ連諸国の原子力発電所や核弾頭など、疑いだせばきりがないものはいくらでもある。その一方、世界中のコンピュータのたかが2,3%がダウンしたとしてもたいしたことはないということも可能である。コンピュータがダウンしてもまた電源を入れなおせばいいだけだという説もある。こうなると、悲観論か楽観論かの違いしかなく、人によって「事実上影響なし」から「米国政府の崩壊」まで予測がばらつくことになる。

3.パニック

 2000年問題の影響予測を考える時に忘れてならないものにパニック問題がある。タイム/CNNの世論調査によると、銀行預金引き出し・食糧備蓄をすると答えている人がそれぞれ47%・33%も存在する。これらが一時期に集中すれば、パニックを起こすには充分である。コンピュータの誤動作に起因する異状事態が実際には発生しなかったとしても、パニックが起こることはありえる。が、これも正確な予測が可能な現象ではない。

 パニックは、防止するにしても増長するにしても、政府の施策に依存するところが大きい。今後の政府の慎重かつ的確な対応に期待する。

4.危機管理

 当然のことだが、危機管理計画を作る場合、どこまでの事態を想定するかによって、その計画の内容は全く異なる。食糧危機が予想されるのであれば、食糧備蓄が必要だが、一部の企業のシステムダウンだけであるなら、そこまでする必要はない。にもかかわらず前々節で述べたように、2000年にどこまでの事態が発生するかというのは本質的に予測不可能なのである。
しかし予測不可能だからといって何もしないわけにいかない。

 現実の企業や国の対応は、なんらかの予測の上にたって、危機管理対応策を決めているわけではなく、できる範囲でやれることをやっているというのが、実状であろう。しかし、それで充分かどうかは何の保証もない。逆にいうと、心配しすぎで金の無駄 遣いに過ぎなかったという可能性もありうる。大規模な予算を使って、インフラ混乱までを想定した危機管理体制をとるためには、企業であれ、国であれトップの決断力が不可欠となるが、そのトップの決断が英断か杞憂かは、2000年になるまでわからない。

 1月29日の日経新聞によると、NECは「在庫の積み増しや部品調達ルートの複数化を行う」としている。NECのように、自社起因ではない異常事態にも備えた危機管理を行おうとしている企業は少なく、大半の大企業は自社内コンピュータシステムダウン時のシステム復旧体制を整えるというレベルの危機管理にとどまっている。中小企業の中には、この不況で、自社のシステムチェックにも手が回らない会社が多数ある。

 企業レベルではなく国家レベルの危機管理はどうなっているかというと、日本政府は、インフラの混乱や銀行取り付け騒ぎなどの事態を想定した危機管理にはまだ着手していない。

 http://www.kantei.go.jp/jp/pc2000/index.html  

 確かに何が起こるかはわからない。しかし、このわからない状況の中で何がベストの行動かは、各企業%各政府のトップが決断するしかない。それが2000年問題の本質である。やれる範囲のことだけをやるのではなく、目的意識を持った行動を期待したい。

5.参考Web site

本研究委員会でご講演いただいた足立晋氏が主催しているWeb siteを紹介します。リンク集(特に米国)も充実していますので、ぜひ一度ご覧下さい。

 http://www.y2kjapan.com/jp/index.asp

〔文責 事務局 古見孝治〕

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