1999年12号

チャイナカウンシル第2フェーズ 第3回本会議出席報告


 10月19日(火)~21日(木)に、中国・北京市にて「環境と開発に関する中国国際協力委員会(チャイナカウンシル:)」第2フェーズ・第3回本会議が開催され、事務局として参加したので以下の通 り報告する。
(注) 中国政府に対して環境と開発の統合に関する建設的な提案をするためのハイレベルの諮問機関であり、1992年4月に設立された。


1.概要

 本会議では、中国における経済発展と環境保護対策の調和、各作業部会(WG)及びタスクフォースからの活動報告と提言について討議を行い、中国政府による第10次5カ年計画(2001年~2005年)の策定に向けた提言を行った。尚、環境保護に配慮した第10次5カ年計画についての概要説明があったので、後述する。

○参加者:中国側及び福川伸次・地球研顧問を含む外国側カウンシル委員、井出亜夫・慶応義塾大学教授を含むWG共同議長、他合計約100名が参加。

○温家宝議長(副首相)冒頭挨拶のポイント:

  • 第9次5ヵ年計画(1996年~2000年)の中で、国内の環境汚染防止対策として、汚染管理と環境保全を行うため、98年に720億人民元(87億米ドル)を公害防止対策費として支出(対97年比43%増)し、汚染が深刻な代表的な河川、湖沼の水質改善を実施した。
  • 全国の工場排水の約65%と工場排出ガスの66%は、国の定めた基準に合致するようになった。今後とも、政府の政策として、水資源の保護、土壌流出対策、砂漠化防止、環境保全型農業の推進を図る。

2.提言内容

 以下の内容をとりまとめ、チャイナカウンシル委員団より朱鎔基首相へ説明を行った。

(1)経済的意思決定と環境保護の統合

  • 社会経済政策の策定にあたっては、環境保護の明確な目標を定め、計画の早期の段階より環境政策と統合されるべき。問題解決のためには関係各省庁間で協力し、地方レベル(省、市)でも政策決定が行われるべき。
  • 環境保護に対する一般 大衆の関心と支援を得るために、主要利害関係者、有識者、非政府組織も政策決定、実施、評価プロセスへ参加できるようにする。また、政策策定とその実施には、政府と産業界の間での効率的な協力が欠かせない。

(2)持続可能な発展の重要性

  • 「持続可能な発展」は、第10次5カ年計画の基本的なテーマで、エネルギー資源、土壌、水資源、その他資源の保全が必要であり、経済全体にわたるクリーナープロダクションの推進がその保全へ貢献する。
  • <国家環境保護総局(SEPA)の役割を強化し、政府機関、地方行政機関における政策決定においても環境保全の要素を含めるべき。

(3)その他

  • エネルギーは経済成長と環境の両面での中核であり、持続可能なエネルギー開発と利用の戦略が必要である。
  • <国内貯蓄を環境保全やエネルギー関連プロジェクトへ融資できるようにし、「グリーンファンド」や資金貸付時の環境保全適合基準を設ける。
  • <気候変動問題の国際交渉で採択された重要な新しい機会(クリーン開発メカニズム等)は、中国にとっても利益となる。このため中国は今からその新しい財源を活用できる準備を整えるべきである。

3.環境保護に配慮した第10次5カ年計画概要(祝光耀・SEPA副局長)

(1) 第10次5カ年計画期間中における挑戦と機会

A. 来るべき挑戦

  • 開発途上の大国である中国の経済開発レベルは、地域により異なる。第10次5カ年計画期間中の経済開発プロセスは、中程度の工業化水準で推移することになる。生産部門から発生する汚染は、基本的に変化しないとみられ、産業部門起源の汚染を管理することは非常に困難である。
  • 中国は、石炭消費量 、SO2排出量、そして煙霧・粉塵の排出量で、世界第1位である。21世紀中もエネルギー需要は引き続き増加するとみられる一方、エネルギー部門の構造変革は困難と思われる。SO2、NOx、CO2の排出により、SO2や酸性雨の汚染地域は拡大し、温暖化ガスも増大する恐れがある。
  • 中国中西部の生態環境は脆弱である。総合的な環境と開発政策を効果的に実施しない限り、また開発成長のパターンを変えない限り、中部や西部の更なる開発推進は、生態環境に新たなそして更なる被害を引き起こす可能性がある。
  • 都市人口の増加により、都市河川での有機物汚染が深刻化する。都市の大気環境は、煤煙による汚染と自動車の排気ガスの両方から影響を受ける。また都市でのゴミ処理の問題もより深刻になってくる。
  • 環境への投資額不足や管理能力水準の低さにより、環境保護活動の促進はかなり制約されてしまう。
  • 水不足や生物多様性の損失、オゾン層破壊、そして温暖化ガスの増加といった問題は、中国での国内環境保護対策へ新たな影響を与えている。

B. 主要な機会

  • 今後、持続可能性と集中的管理という2つの主要戦略がとられる。この2つの戦略は、経済発展上の基本戦略であるばかりでなく、環境保護の面 でも決定的な役割を果たすことになる。
  • 新しい技術やプロセスが促進され、エネルギーや物質の消費節減、よりクリーンな生産、環境産業の展開が一層奨励される。これら全ては、中国でのエコ産業システム構築に最高の機会を提供することとなる。
  • 市場メカニズムが完全なものとなることで、政府による大気汚染者監視機能や環境保護活動の基礎的な作業が容易になる。完璧な市場メカニズムは、「汚染者負担原則」や「便益者負担原則」を十分に機能させる。市場メカニズムに沿って生産システムが改善され、環境産業システムや持続可能な消費パターンが構築され、環境開発面 にゆとりを生み出す。
  • 環境関係の投資が増大し、中央管理型都市暖房システムや、ガス化設備、下水道や固形廃棄物処理施設の建設が推進され、都市環境の質が向上する。
  • 公共の環境に対する意識を向上させることは、政府の管理作業集約化を進めることにもなる。また、相互のモニタリングが可能となり、市民側も環境保護活動に自主参加できる。

(2)第10次5カ年計画期間中での環境保護に関する指針、目標及び主要対象地域

A. 指針

 経済構築を中心としつつ、環境の質の改善を目標とする。汚染管理と生態系保全の両方が等しく重要であるとされ、主な部門や地域に重点が置かれる。総合的な調整努力や、細分化された行政指導が強化される。環境保護活動は、法規制に沿った形で執り行われ、持続可能な開発戦略が実施される。調和のとれた開発により、社会、経済、環境上の発展が促進される。

B. 目標

 2005年までには、社会主義市場メカニズムとも対応する環境保護規制システムが、暫定的に導入される。これにより汚染状況は改善の方向へ向かい、生態系の破壊も緩和され、主要都市や地域の環境の質も改善される。

C. 主要対象地域

 優先的に環境保護活動を行う地域や流域としては、揚子江、淮河、海河、遼河流域、太湖、巣湖、ティエンチー湖が、酸性雨とSO2規制区域としては、北京、渤海湾などが上げられる。さらに国内の主要環境保護都市も、47カ所から100カ所に増やされる。

(3)目標達成のための施策

  • 総合的な政策決定メカニズムを確立し、環境と社会そして経済の調和のとれた発展を確かなものとする。環境影響評価法を策定し、施行する。重要な国内経済政策、規制、そして計画の全てを、この法律の対象とする。総合的な政策決定メカニズムを、政府のあらゆるレベルで策定する。
  • グリーンなエンジニアリングプログラムを、継続的に実施し、環境への投資を大きく増加させる。世紀をまたがるグリーンなプロジェクトプログラムの第2フェーズを策定し、実施する。国内需要を喚起する機会を逃すことなく、また社会基盤整備への投資増大の機会を捉え、セントラルヒーティングシステムや、下水処理施設、固形廃棄物処理施設を、速やかに建設し、都市部での大気および水質の向上を図る。環境に関する全投資額は、GDPの1.5%とする。
  • 環境に関する研究開発を促進し、科学技術の発展によって、環境保護活動の基礎を築く。政策決定に資する、環境と開発、政策、規制、そして重要な環境問題での戦略研究を行う。また、より科学的な方法で政策決定が行われるようにし、環境保護は科学の進歩や技術革新の進展に基づいて行う。
  • 環境保護活動は、法規制の道筋に沿って行う。法規制に基づいた行政とすることで、その施行効果 の強化が図られるべきである。環境管理業務を強化し、それによって行動の規制と検証を行う。また行政による処罰にも力点が置かれる。
  • 経済的手法を十分活用することで、環境コストの内因化をはかる。「汚染者負担と被害者補償の原則」に従い、環境への投資を奨励する政策を策定する。排出と汚染に対する課徴金制度を更に改善し、全ての汚染に対する排出規制と共に実施する。これらにより、課徴金の水準が実際の環境対策コストに近づき、汚染削減目標が達成できる。
  • 持続可能な消費を奨励し、環境型市民社会の構築を図る。適正消費という理念を普及させ、1回限りの物品の消費を削減する。環境ラベル製品や、グリーンな食品、有機食品の普及を積極的に促進する。新しい世代の廃棄物である自動車や家電製品、コンピューター等の廃棄物循環システムを作り、拡大する。また、グリーンなパッケージを奨励し、「白い」汚染を管理下におく。
  • 環境教育の強化と一般 大衆の参加を奨励し、「国内環境教育行動指針」を全面的に施行する。マスメディアを十分に活用して、政策決定者や一般 大衆に対して法規制の理念を浸透させる。また、環境政策決定や汚染監視のプロセスにNGOが積極的に参加することを奨励し、政策決定や管理面 でのNGOの科学的で民主的な特性を生かす。

4.次回本会議の予定

 次回の第2フェーズ・第4回チャイナカウンシル本会議は、2000年10月31日(火)~11月2日(木)に中国・北京市で開催される予定である。

(伊藤 裕之)

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