2000年4号

IPCC部門別影響に関する専門家会合出張報告 2000年2月14-15日、ドイツ、アイゼナハ

 本会合は、各部門における緩和策による影響が非常に重要であり、多くの議論が必要であることから開催された。本会合は第三次評価報告書(TAR)の第三作業部会(WG3)の第9章”Sector Cost and Ancillary Benefit”に関連が深く、会合の内容は執筆プロセスにおいて反映されることとなっている。参加はWG3の代表執筆者6名含む、専門家総計約35人であった。日本からは筆者が参加した。


<内 容>

○炭素排出緩和(議長:9章CLA―Terry Barker)
 
まず、Oxford Institute for Energy StudiesのBartsch氏より、京都議定書と排出目標のエネルギー産業への影響の発表があった。続いて、石炭、原油、ガス産業に関して、それぞれWorld Coal Institute―Knapp氏、OPEC―Ghasemzadeh氏、RIIA―Stern氏から議論があった。
 エネルギー税導入よりも国際柔軟性メカニズム導入の方が歳入の点から優れているという結果 であった。例えば京都目標下でOPEC歳入は40%低下するが、排出権取引により低下分を20%-50%に削減可能である。
 CO2排出量緩和での公平さのバランスをどうとるか、非議定書国Bへの影響、産油国の歳入が減ることによる残りの国への影響についての研究が重要であるとのコメントがあった。


○再生可能エネルギー(議長:9章LA―Julio Torres Martinez)

 IEPE―のCriqui氏による再生可能エネルギーを使ったモデルシミュレーション結果 の発表が初めにあった。新発明・発見、Learning by doing, R&D investmentなどをモデルのファクターにいれることにより、技術の発達見込みを考慮した。続いてNequatt―Moreira氏による、ブラジルのエタノール生産の外部コスト試算などバイオマスに関して発表があった。
 将来的にはLearning by doing, R&D への投資が産業部門で期待される。また、技術変革の奨励金やデータベースが重要である。間接利益、外部コストとしての副次便益を考慮することで、投資のメリットが明確になる。
 議論は大半がCriqui氏のモデルの仮定、背景への質問(PVの設置コストや割引率、市場機会など)となった。また、大規模再生可能エネルギー技術導入、また途上国への技術移転の場合の困難性について(メンテナンスなどの能力育成など)コメントがあった。


○交通(議長:9章LA―Lenny Bernstein)

 TERI―Bose氏により発展途上国(インドを中心、一部メキシコの例)の交通 需要、エネルギー、CO2排出量の予測、各種施策のコストについて発表があった。続いてMoreira氏、GM―Whinihan氏、World Watch Institute―Dunn氏から代替燃料としてのエタノール利用、USAと他地域との燃料価格や効率の相違、Green Auto Racingや各国調査の結果などが示された。
 地域差、都市部における問題点、政策の枠組みや緩和戦略などが議論された。公共交通 機関への移行とシステム効率改善は重要である。
 交通部門が削減対象としての可能性が非常に大きいことが再認識された。また副次便益をみる場合、私的・公的交通 機関を分けて考えるべき、どの段階の何をみているのか(社会影響か、大気汚染かなど)明確にすることが必要であるとコメントがあった。


○エネルギー集約型産業(議長:9章LA―Steve Lennon)

 まず、MIT―Jacoby教授より、京都目標下で排出権取引の有無が各部門のコストに与える影響(USAの場合)についてのモデル試算結果 の発表があった。Statistics Norway―Arne Bye氏、IFIEC-World―Cicio氏が議論を続けた。
 Jacoby教授の発表では、1)フルトレードの場合、エネルギー集約型産業の輸入が増加する、2)電力部門のみ削減義務を課さない場合に一番厚生損失が大きい、3)ある部門だけ削減義務を課さない保護策は、むしろ他の部門に歪みを生じさせる、といった結果 が述べられた。これに対し、まずモデルの前提については、エネルギー集約産業についてもっと特徴付けをすべき、エネルギー効率向上と向上のきっかけなどの経緯(歴史)を含めるべきとの指摘があった。また結果 については、排出権取引についてもっと否定的な見解を述べている他の研究例と十分比較すべき、GHG排出抑制しつつ競合性を維持した推奨政策を挙げるべきといったコメントがあった。
 次にTERI―Bhattacharya氏から途上国でのコストの概観が発表された。エネルギー使用の6~7割を占める大規模産業(鉄鋼、セメント、繊維、製紙、アルミニウム)と比較し、小規模産業部門(鋳鉄、ガラス、陶器、煉瓦産業など)では生産高の5割、輸出の3割を占め、多くの雇用があり、国内の産業では重要な位 置にある。発表では特に製紙、セメント、小規模鋳鉄工業における緩和策の損益について詳細な検討があり、技術導入がコスト的にもGHG削減にも効果 が高いことが示された。


○民生部門(議長:3章LA―Ken Gregory)

 初めに、ESKOM―Roos女史により概観が述べられた。続いてUniv. of West Indies―Headley教授よりバルバドス及び周辺地域における、太陽熱利用デバイス、PV、風力など民生部門への再生可能エネルギー利用の現状が報告された。
 バルバドスでは海面上昇により脆弱であるという認識から、バイオマスを初め各種再生可能エネルギー利用が進んでおり、国の補助で住宅への利用が非常に盛んである。風力に関しては3年から6年でエネルギー回収できる。
 次にRhein Land―Zwirner氏により金融部門からの排出量、金融部門へのGHG緩和策の影響が発表された。銀行、保険会社からの排出は一人あたり3~6トン-CO2で大きく、多くは交通 によるものである。政策、緩和策によって、リスクが異なるために金融サービス提供者としての投資形態が異なる。(例えば機器の高効率化はリスクを軽減するが、建物への新規機器導入はリスクを増加させる。また、原油の使用量 の減少とガスの使用量増加はやはりリスクの減少と増加になる。)金融部門におけるリスマネジメントとクレームハンドリングが重要であるとのことであった。


○パネルディスカッション(議長:WG3 Co-chair―Ogun Davidson)
 
パネリストは、Dunn氏、Cicio氏、RIIA―Grubb氏、IEA―氏であった。不透明な影響が多い中、政策決定者はどうするべきか、再生可能エネルギー利用が増加したらどうなるか、OPEC歳入の損失と高い緩和策コストの問題をどうするか、といった観点から議論が進んだ。また、最後にTARWG3に副次便益をどう反映させるかの議論も行った。
 政策決定者は、気候変動によって影響があること、そして様々な影響が重なることで予測されることよりも、影響が大きいことを認識すべきである。
 また、IEA―Pershing氏から緩和策が化石燃料輸出国へ及ぼす影響についてのIEAの研究について紹介があった。気候変動政策を既存の市場から分離して考えながら、策の有無による需給を検討するのは困難である。近い将来の影響は少なくても長期でみると非常に大きいため、長期的影響の評価の重要性が示唆された。

 参加はIEA, OPEC, General Motors, World Coal Institute, the global modeling community, Oxford Institute for Energy Studies, Statistics Norway, MITと広範囲の団体に渡った。これが初めてのIPCC関連のイベント参加であるという専門家が多く、TARの執筆者が多く集まりやすいIPCC専門家会合としては非常に興味深い形態であった。本会合を通 じ、これら機関からIPCCによる部門別影響への努力が認識された。また、OPEC及び産油国の原油による歳入に対する気候変動緩和策の影響の理解が進んだ。

(田中加奈子)


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