2001年2号

デジタル・エコノミーの意外な影響 ―地球温暖化問題とIT―

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 弊所の「IT革命が地球温暖化問題に及ぼす影響調査研究委員会」(委員長:東京大学名誉教授 茅 陽一氏)の第2回会合を電通総研の協力のもと開催し、米国のWall Street Journal紙の創刊100周年記念特集で「1990年代のビジネスの行方を左右する世界の28人」の1人に選ばれた、世界的に有名なアメリカのエネルギーコンサルタント Dr. Amory B. Lovins氏にIT革命と温暖化という観点から講演いただいたので、以下概要を報告する。尚フルレポートはホームページ及び研究報告書に掲載する。

 


 

 アメリカのインターネットユーザー数は1999年半ばに一億人に達した。そして家庭からのインターネットによる注文は1999年で約20億件に上った。1998年の企業間の(B-to-B)商取引額は430億ドルであり、当時はこの勢いなら2003年に一兆ドルに達すると予測されたが、すでに今その数字に達しようとしている。

 ロイヤル・ダッチ・シェル社が1997年に発表したエネルギー長期シナリオでは、世界のGWPは2060年までは年率平均3%で成長が可能であり現状の約6倍の生産規模になるが、他方、エネルギー消費量は30%の伸びに止まるとしている。この理由は年率約2%でエネルギー原単位(エネルギー需要/GDP)が改善することや、経済の「脱物質化」の影響としている。

 ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)は、IT装置(コンピューター、モニター、プリンター、ハブ&ルーター、メインフレーム、ミニコンピューターなどの周辺機器)や、電話会社が所有していない全てのスイッチ装置を含めた消費電力は、最大でもアメリカの全電力需要の約2%であり、さらに電話交換機や、コピー機、ファクシミリのようなオフィス機器、またこれら全てを製造するためのエネルギーを含めたとしても、たかだか3%程度にしかならないとの研究結果を公表した。

 かつてロッキーマウンテン研究所(RMI)の同僚であったJoseph Rommは、ITは経済全体のエネルギー原単位を改善させると主張している。実際96年から99年のアメリカの実質GDP当たりの一次エネルギー消費量は、年平均3.2%の減少であった。またこの間に初めて電力需要とGDPの乖離が観測できた。環境保護庁とアルゴンヌ国立研究所によれば、この減少の約3分の1は、IT関連の構造変化から来ている可能性があるとしている。アメリカ政府は、こういった統計を無視した古いモデルを使っており、その結果、経済成長は過少に見積もり、2010年のアメリカのCO2排出量は5%過大に見積っている。

 エネルギー価格が記録的な安価で、しかも下がりつつあるこの1996-1999年の間、企業はなぜエネルギーの効率化を加速化しているだろうか。それは、競争の圧力と企業文化の流行があるように思う。エネルギーの効率改善の副次的利益が、効率改善自体よりも何十倍、何百倍もの価値があることである。例えば良く設計されたエネルギー効率の良いビルは、その優れた外見や、熱効率、防音上の快適さや、より良い空気の質のため、労働生産性約は6%から16%に向上することを経験している。

 また、前線に立つ企業やビジネスリーダーの一部は、利益のために、筋の通った気候戦略を作り上げ、また調整している。

 例えばDuPont社は、これから十年間、収益を年率6%で伸ばすが、エネルギー消費は増やさないと発表している。さらに同社は、そのエネルギーの10分の1、資材の4分の1は、再生可能資源にし、2010年には、同社の温室効果ガス排出を1990年比65%にする計画である。

 同様に、世界で8番目に大きい半導体メーカーであるSTMicroelectronics社は、2010年までに炭素排出をゼロとする目標を発表しており、RMIは、STMicroelectronics社とともに炭素排出をなくす方法を検討しているが、徐々に効果が表れ、利益に結びついている。

 大幅な改善の方が、小規模なものよりも費用がかからず、しかも利益も大きいことが多いという考えは、私の新しい本である「自然資本主義(Natural
Capitalism)」(2001年5月発刊予定:Paul HawkenとHunter Lovinsとの共著、日本経済新聞社)に掲載している。

 アメリカでは、気候システムの保護で先頭に立つことは、民間のほうが政府機関よりもはるかに先行しているといえる。ここ2年間は、小規模な会社の方があたかも上院が京都議定書を批准したかのような行動を既にとっている。この理由は、燃料を購入するより節約するほうがRストがかからないからである。

 インターネット経済がどのようにエネルギー原単位を改善するかについて、Joseph Rommは以下を挙げている。

(1)  ソフトウェアは、飛行機やトラックではなくネットを通して配送される。
(2) 

小売り店はヴァーチャルなものへ移行する。

アメリカでは2008年までに、商業部門の全専有面積が約5%(約3億平米)削減可能。
倉庫スペースが大きくなる可能性があるが、倉庫の方が単位面積当たりにおける商品の量が、小売店舗のそれよりもはるかに大きく、1平米当たりのエネルギーは、店舗の16分の1。
(3)  紙の代わりに電子を使うことで、2008年までに全米のエネルギーを0.5%以上削減可能。
(4)  インターネットに費やす時間は、車の運転や、テレビ、あるいはその他のエネルギーを消費する時間から置き換わり、エネルギーを消費しなくなる。
(5)  インターネットは、エネルギー管理努力やモニタリング、ビデオ会議、電子カタログなどのエネルギー消費削減につながる。


 1998年末、アメリカ商務省はIT産業がアメリカ経済の8%を占め、経済成長へは29%寄与していると発表した。
 アメリカは、光ファイバーをマッハ3の早さで敷設しており、無線(携帯)の方は、さらに早く伸びてきている。実際、光ファイバーにおける技術的、経済的な進歩は、モーアの法則よりも少なくとも10倍速い。利用者の2乗の速度で価値が倍化するネットワーク効果のおかげで、無線(携帯)の価値と技術は、光ファイバーのそれよりもさらに早い速度で伸びている。たとえば、ITに関する構造的なエネルギー改善が、アメリカでは、年1%程度であったとすると、改善の加速化を十分期待でき、数年後には倍になることさえ可能である。しかし公的なエネルギーや経済、気候のモデルにはこういった展開が一切盛り込まれていない。すでに1998年には、世界総生産が2.5%の伸びを示したのに対し、CO2排出は、0.5%少なくなっている。1999年では、まだデータがないが、これよりさらに良くなっているようである。しかし、こういった両者の乖離の大半は、ITではなく、燃料の転換やエネルギーの効率化によるものと考えられる。

 この3年ほど、アメリカ経済は、CO2排出の伸びよりも6倍の成長率を示してきた。グローバルにもGDPとCO2は、相互に離れる方向へとさらに移っていく可能性がある。1979-1986年の間、アメリカ経済は、20%伸びたがエネルギー利用は、5-6%縮小した。しかもこれはITの始まる以前のことである。今後ITが進展していくに伴いGDPとエネルギー消費が乖離していくことがより顕著になるであろう。

(以上講演より抜粋・文責 寺田隆)

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